仕留めることの出来なかった腕はすばやく元に戻る。当然、次弾が放たれた。ミツオは自分に向かって飛翔する院長の腕をかいくぐる。伸びきった腕が元に戻る瞬間、ミツオは院長めがけて飛びこみ、足をなぎ払う。声をあげて転倒する院長を確認しながら、ミツオは作業台の上のゲージを確認する。ぐったりしているサンシローの至る所にケーブル状の管が刺さっているのが見える。この状態のサンシローを動かすのはよろしくない。そう感じたミツオはドアめがけて逃げ出す。
「エリーだめだ。今夜は撤収する」
ミツオは頭上に跳ね上げたゴーグルを目の位置に下ろしながら伝える。
「了解」
直後、室内が漆黒の闇となる。
エリーの手により電源は消失した。 動物病院の建物を含む1ブロック分の電源を落とした。
運転席に移動したエリーがエンジンに火を入れる。
暗視ゴーグルを装着したミツオが正面のドアを開けて逃げ出してきた。「だせ」
ミツオは助手席に転がり込む。
運転席に座るエリーに指示を出すのが今のミツオには精一杯だった。
「エリーだめだ。今夜は撤収する」
ミツオは頭上に跳ね上げたゴーグルを目の位置に下ろしながら伝える。
「了解」
直後、室内が漆黒の闇となる。
エリーの手により電源は消失した。 動物病院の建物を含む1ブロック分の電源を落とした。
運転席に移動したエリーがエンジンに火を入れる。
暗視ゴーグルを装着したミツオが正面のドアを開けて逃げ出してきた。「だせ」
ミツオは助手席に転がり込む。
運転席に座るエリーに指示を出すのが今のミツオには精一杯だった。
院長は部屋の明かりを点けた。まぶしさに目がくらみながらもミツオは作業台を振り返る。ぐったりと目を閉じるサンシローがゲージの扉越しに見えた。
「サンシローに何の治療をしている」
ミツオは院長の問いかけを無視して自分の疑問を投げかけた。
「治療?どうやら君は何も知らないようだね。何も分からない君のことは部外者として理解させてもらう。速やかにお帰り願おうか」
院長はゆっくりとした動きで両手をミツオに向けた。手のひらが水平になった瞬間、爆音と共に何かが飛んできた。ミツオはかろうじて身をかがめながら右に飛んだ。自分が居た場所には院長から伸びる腕が壁に突き刺さっている。
「メカ置換してやがる」
ミツオは思わず口走った。メカ置換とは生体と機械を融合させる最新の技術だ。健康な腕を切り離す必要がある手術を行った狂気にミツオはぞっとする。
仕留めることの出来なかった腕はすばやく元に戻る。当然、次弾が放たれた。
「サンシローに何の治療をしている」
ミツオは院長の問いかけを無視して自分の疑問を投げかけた。
「治療?どうやら君は何も知らないようだね。何も分からない君のことは部外者として理解させてもらう。速やかにお帰り願おうか」
院長はゆっくりとした動きで両手をミツオに向けた。手のひらが水平になった瞬間、爆音と共に何かが飛んできた。ミツオはかろうじて身をかがめながら右に飛んだ。自分が居た場所には院長から伸びる腕が壁に突き刺さっている。
「メカ置換してやがる」
ミツオは思わず口走った。メカ置換とは生体と機械を融合させる最新の技術だ。健康な腕を切り離す必要がある手術を行った狂気にミツオはぞっとする。
仕留めることの出来なかった腕はすばやく元に戻る。当然、次弾が放たれた。
「どうだ、異常ないか」
時刻は深夜二時。準備を整えて病院が見える位置に再び車を止めた。ミツオ一人が車外に降りた。
覆面をかぶり、静かに建物にミツオは近づいた。
病院への侵入経路をエリーに告げる。
「エリー、トイレの窓が旧式の電磁ロックだ。いけるか」
「こちらでも確認しました。ロック解除できそうです」
車内に残ったエリーが手元の端末を操作すると、ミツオの目の前で鍵が開いた。
「よし、入るぞ」
「気をつけて」
建物の中に入ったミツオは静かに足を進める。サンシローにつけたGPSは生きている。めぼしい部屋に到着したミツオはドアノブを静かにまわして扉を開けた。
目の前の光景にミツオは小さな声をもらす。
ステンレスの作業台の上にゲージが一つだけ乗っている状態。ミツオが感じた異常は、ゲージにつながる管とケーブルの量の多さだった。ほぼゲージをうめつくしている。
「これはいったいどういうことだろう」
ミツオはもっとよく見ようと一歩部屋の中に足を踏み入れた。
「君はいったい何の用でここに来たのかね」
背後からの声でミツオは素早く振り返る。
そこにいたのは院長だった。
時刻は深夜二時。準備を整えて病院が見える位置に再び車を止めた。ミツオ一人が車外に降りた。
覆面をかぶり、静かに建物にミツオは近づいた。
病院への侵入経路をエリーに告げる。
「エリー、トイレの窓が旧式の電磁ロックだ。いけるか」
「こちらでも確認しました。ロック解除できそうです」
車内に残ったエリーが手元の端末を操作すると、ミツオの目の前で鍵が開いた。
「よし、入るぞ」
「気をつけて」
建物の中に入ったミツオは静かに足を進める。サンシローにつけたGPSは生きている。めぼしい部屋に到着したミツオはドアノブを静かにまわして扉を開けた。
目の前の光景にミツオは小さな声をもらす。
ステンレスの作業台の上にゲージが一つだけ乗っている状態。ミツオが感じた異常は、ゲージにつながる管とケーブルの量の多さだった。ほぼゲージをうめつくしている。
「これはいったいどういうことだろう」
ミツオはもっとよく見ようと一歩部屋の中に足を踏み入れた。
「君はいったい何の用でここに来たのかね」
背後からの声でミツオは素早く振り返る。
そこにいたのは院長だった。
手下たちが車からばらばらと飛び出てきた。
後部座席から現れる人物が雨に濡れないように傘を広げ、ドアを開ける。
現れた男の身長はそれほど高くはない。しかし、体躯の横幅が異常というほど広くがっしりとしている。身にまとう和服は内から膨張する筋肉を押さえられない。
眼光するどい眼差しが周囲をうかがっている。サンシローは男の腕のなかにいた。
一行は建物のなかに消えていく。
看板には「篠田動物病院」と書かれている。
ミツオは山岡誠一に見つかりそうな気がして思わず、ダッシュボードの陰に隠れるように首をすくめる。エリーも同じ動きをしている。
「動物病院ね」
「あそこは、ただの動物病院じゃあない」
ミツオの口元には笑みが浮かんでいる。
「何か知っているの」
「ああ。なんだか、きな臭いにおいがしてきたな」
ミツオは鼻をひくつかせながら、山岡達の後ろ姿を見送った。
ミツオが五本目のタバコを消した時、病院の扉が開いた。
山岡を見送る白衣の男がおそらく篠田医院長だろう。ひょろ長い背丈。老人といってもいい見かけの男が、山岡と談笑している。山岡は握手をしながら紙幣の束を医院長に渡している。
「ずいぶん、必死にお願いするものね」
「どうやらただの猫ではないらしい」
ミツオはのんきに言いながら大事なことに気がついた。
「エリー、猫がいないぞ」
山岡の腕の中に猫の姿はない。
「今夜は動物病院にお泊まりするらしい。病院にはあらためて道明寺に連れて行ってもらうことしよう」
「まさか……」
「そう、今夜サンシローをこの病院から奪還する」
ミツオはエリーにそう告げた。
後部座席から現れる人物が雨に濡れないように傘を広げ、ドアを開ける。
現れた男の身長はそれほど高くはない。しかし、体躯の横幅が異常というほど広くがっしりとしている。身にまとう和服は内から膨張する筋肉を押さえられない。
眼光するどい眼差しが周囲をうかがっている。サンシローは男の腕のなかにいた。
一行は建物のなかに消えていく。
看板には「篠田動物病院」と書かれている。
ミツオは山岡誠一に見つかりそうな気がして思わず、ダッシュボードの陰に隠れるように首をすくめる。エリーも同じ動きをしている。
「動物病院ね」
「あそこは、ただの動物病院じゃあない」
ミツオの口元には笑みが浮かんでいる。
「何か知っているの」
「ああ。なんだか、きな臭いにおいがしてきたな」
ミツオは鼻をひくつかせながら、山岡達の後ろ姿を見送った。
ミツオが五本目のタバコを消した時、病院の扉が開いた。
山岡を見送る白衣の男がおそらく篠田医院長だろう。ひょろ長い背丈。老人といってもいい見かけの男が、山岡と談笑している。山岡は握手をしながら紙幣の束を医院長に渡している。
「ずいぶん、必死にお願いするものね」
「どうやらただの猫ではないらしい」
ミツオはのんきに言いながら大事なことに気がついた。
「エリー、猫がいないぞ」
山岡の腕の中に猫の姿はない。
「今夜は動物病院にお泊まりするらしい。病院にはあらためて道明寺に連れて行ってもらうことしよう」
「まさか……」
「そう、今夜サンシローをこの病院から奪還する」
ミツオはエリーにそう告げた。