日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「黒霧」

2014年03月29日 | ◎これまでの「OM君」
霊感は昔からあった。
予感とも言うべきものか。
あれは中学の時だったろうか…
友人の右手に霧がかかったようにぼやけて見えた。
その夜、友人は家でカップラーメンを作っている時にお湯をこぼし、重度の火傷を負った。
いつからか未来が見えるようになった。
しかも、悪い未来。

町の中を歩くとあちこちで体に霧がかかっている。
あたま、体、手足。
近しい未来に起こる悪い出来事の予兆。

ある時、遠足でやってきた園児の一団を見かけた。
園児全員に真っ黒い霧がかかっていた。
付き添いの先生にも霧がかかっている。
(これはただ事ではない)
そう直感した。
何とかしなければ…
駐車場から出てきたのでチャーターバスでここまで来たのだろう。
駐車場に走る。
観光バスが一台停まっていた。
運転手がバスの横でタイヤを見ていた。
くたびれた格好の小太りの男性。
真っ黒な霧が全身を覆っている。
奴がこの現象に大きく関与しているはずだ。
そう確信した僕は、運転手のすぐそばを横切った。
プンと酒のにおいがした。
怒りが僕に行動を起こさせた。
「おい、あんた、どういうつもりだ。飲んでいるだろう。ここまで運転してきたのか。大事故になるぞ」
「なに!俺は飲んでいない」
バスの運転手を観察した。
目がうつろだ。
「あんたから酒のにおいがプンプンするぞ。このまま見過ごせない」
ポケットから携帯電話を取り出し、警察に電話した。
「ああ、すみません警察ですか。実は…」
後頭部に激痛がはしる。
携帯電話が吹っ飛ぶ。
奴に後ろから殴られた。
前方に倒れ込む。
「おい、あんた、僕を殴ったという事は酒を飲んでここまでバスを運転したのは事実だと言うことだな」
「それがどうした」
「それがどうしたって…」
(もうだめだ。こいつと言い争っていてもしょうがない。早く公平な第三者を呼んで、しかるべき人物が運転しないと大変な事になる。)
転がっている携帯電話をダッシュし、拾い上げた。
もういちど警察に電話する。
今度は奴と対峙しながらコールする。
呼び出し音が1度、鳴っている最中。
奴は猛然と殴りかかってきた。
電話を切り、ポケットに仕舞いながら、今度は迎え撃つ。
右フックが飛んできた。
しゃがみながら、こちらはアッパー気味の左フックをわき腹にたたきこむ。
ぐう
カエルをふんずけた様な音が奴の、のどから漏れる。
それでも負けじと、奴は右ストレートを放った。
向かってくる拳の軌道をよけながら前進、間合いをつめる。
体をねじるように、奴の腰めがけてタックルをかけ、後ろに押し倒した。
そのまま馬乗りになり、あごを殴りつける。
勝負有り。
ぐったりする。
自分のスニーカーの靴ひもを両足分ほどいた。
ズボンのベルトやベルトループも利用してやつの手足を後ろ手に固定した。
改めて警察に電話し、事の次第を伝えたあと、その場から姿を消す。
園児たち姿を確認しに行った。
黒い霧はすっきりとなくなっていた。
子供たちは笑っている。

その日はいい天気だった。
前日はしこたま仕事仲間と酒を飲み、終電で帰った。
午前中の遅い時間に目が覚める。
いい天気だが、気分は最悪。
昨夜の事を思い出した。
あれは何だったんだろうか。
その店は二次会だった。
もう何時間飲んでいるのか分からない。
いつからその女がいたのかも定かでは無い。
へんな女だった。
気付くと女がいた。
隣の席で一人、女が飲んでいた。
全身黒い。
長髪の髪の毛はぺっとりと額に張り付いていた。
それでいて真っ赤な口紅。
「あなた先日、いいことをしたでしょう。私知ってます」
「ちょっと分からない。人違いじゃないですか」
酔ってもいたし、逃げた後ろめたさもありとぼけた。
「まあ、いいわ。とにかく言うだけ言うわ。真っ黒になったら48時間、一歩も外に出てはだめ。仕事も休む。言ったからね」
そう言うと女はすごい勢いで立ち上がり、くるりと店から出ていった。
「なんだい、ありゃあ。知り合いかい?」
同僚に聞かれた。
無言で首を傾げた。

水を飲み、もう一度横になった。
次に起きたのは午後2時。
気分はすっきりしている。
空腹も感じる。
いい天気だ。
寝間着の上にジャンパーを羽織り、コンビニに出かけた。
管理人にエントランスで出会った。
世間話くらいはする関係だ。
ぎょっとした。
全身に黒い「もや」がかかっている。
基本的にこの事に気付いても僕自身なにも出来ない。
「こんにちはーいい天気ですね」
ぎこちなくそう言うのが精一杯だ。
「ああ、そうだね」
すこし離れて振り返った。
掃除をしている管理人さんの後ろ姿は真っ黒。
ああ…

外に出た。
向こうから女子高生が歩いていた。
全身黒い。
散歩しているおばさん。
散歩させられているチワワ。
新聞配達しているおじさん。
ジョギングしている青年。
スーツ姿のお姉さん。
ありとあらゆる人々が真っ黒だった。
これだ。
あの女が言ってたのはこれだ。
その場で立ち尽くす。
そして考えた。
家に帰らなくては。
外に出てはいけない。
食料はどうだ。
うん、4日分くらいなら、カップラーメンなんかの食料もある。
急いで部屋に戻る。
心拍数があがる。
階段を駆け上がり、部屋の扉を開ける。
急げ。
鍵をかけ、チェーンをかける。
その場にへたり込む。
あの女は言っていた。
48時間、部屋にいろと。
明後日は仕事だ。
同僚に電話をかけ、休む段取りをつける。
どういう現象なのだろう。
まあ、時間はたっぷりある。
考えよう。

その日の夜。
酒を飲んで、むりやり眠った。
しかし眠れるわけもなく、寝返りばかりうつ。
明け方近く、意識がトロトロした。
公園からボールが飛び出す。
あぶない。
少年が飛び出してくる。
営業車のフロアを踏み抜く勢いでブレーキを踏む。
間に合わない。
ハンドルをきり電柱にぶつける。
運転席、すぐ脇につきささる支柱。
俺の胴体に突き刺さる。
うあっ
夢だ。

その時、すべてを理解した。
世の中すべてが真っ黒になったのは、僕の未来が無くなる、死亡するという意味なのだと。

3日後、僕は元気で仕事をしている。
僕は気づいていないが、あの女が遠くからこちらをみていた。
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◎本日の想像話「依頼人」

2014年03月23日 | ◎これまでの「OM君」
特別なトレーニングは、自分に課していない。
こちらには道具とチャンスがある。

人目を避けて生きてきた。
トランク3つにぎっちり入った全財産。
それさえ手元に置いておけば、十分だ。
定期的に住処は変えている。
持ち主不明の携帯電話。
これだけが、連絡を取る方法だ。
最後に仕事をしてから、もう4年経つ。
久しぶりに携帯電話の電源を入れた。
人恋しいのか…
メールが届いていた。
「依頼有り」
その後には、TEL番号が続いていた。

その夜、俺は都会の喧噪の中にいた。
公衆電話の受話器を上げ、番号を打ち込む。
呼び出し音。
一度
二度
三度目の呼び出し音で相手が出た。
覚悟と戸惑いの回数だ。
「はい」
「Aだ。あんたの名は?」
「安藤です」
「誰からあのアドレスを聞いた」
「シドから聞きました」
(シドは長年の相棒だ。教えたのならシドから連絡があっても良さそうなものだ)
「シドとはどういう関係だ」
「半年前に仕事をしました。その縁であなたのアドレスも聞きました」
「そうか…一度電話を切る。シドに確認する」
電話を切った。
シド。
車のブローカーだ。
足の着かない車を用意してもらっている。
シドと俺は同い年。
奴は車をいじる仕事柄、ワークウエアのオーバーオールをいつも着ていた。
色は青。
(ブルーカラーはやっぱりブルーを着なくちゃあな!)
そんな事を言いながら、シケモクを灰皿から拾い出し火を付ける。
さっぱりした奴だ。
ちょい上目線で物を言う。
こちらは真っ黒な人生を歩んでいる。
あいつはグレーゾーンの住人を気取っていた。
でも完全なカタギというわけではない。
本人はいたって真っ当な人生を歩んでいるつもりらしい。

「Aよ。老後の事は考えてるのか?」
「さあな。先の事を考えているのならこんな人生は送っていない」
「まあ、そうだな。
金は持っているのか?金さえ持っててくれりゃあ、俺がお前の面倒みてやるぞ」
「考えとくよ…」
苦笑いしながらそう答えた。
最後に会ったのは、4年前。
前回の仕事の時が奴にあった最後だ。
シドの番号を押す。
「はい」
女がでた。
「シドは?」
「Aですね。シドは2ヶ月前に死にました」
俺の人生で人が死ぬのは珍しい事ではない。
そうなのだが、思いがけず思考は停止した。
「死因は?」
「刺されました。一人オフィスに残って仕事をしているところに賊が押し入りそのまま」
「そうか…残念だ。君にちょっと聞くが、安藤という男は知っているか?」
「安藤…私は直接存じかねます。シドとは懇意にしていたみたいです」
「そうか…ありがとう」

振り返ると飲み屋があった。
いつも思う。
夜の町で見る飲み屋はどうしてこんなに美しく見えるのか。
酔ってふらふらになると電飾の美しさはさらに増す。
右に左に黄色、青、赤色が尾を引いてRを描く。
とにかく今はキツイ、アルコールが飲みたい。

いらっしゃっい!
威勢のいい店の若者の歓迎を聞きながらカウンターに座る。
「銘柄は何でもいい・ウイスキーをストレート、ダブルでくれるか」
出てきた酒を一気にあおる。
のど、胃に熱い刺激を感じる。
あいつが死んだのなら、もうどうでもいいか。
もう一杯、同じ物を飲み、外に出る。
先ほどと同じ公衆電話の受話器を持ち上げる。
安藤の携帯番号を押した。
「あんたの依頼、受けるよ。
俺の流儀は知っているか。
イヤならやめろ。今から言う私書箱に依頼内容の詳細をまとめたファイルと金を送れ。1件につき300だ、わかったか」
私書箱を伝え、電話を切った。
そのまま夜の町に足を向けた。
どうでもいい気分はさらに加速した。

後日、ファイルを取りに行った。
春先、なんだか人々は浮かれていた。
食事はコンビニですべて買い込んだ。
いい一日をなんて気軽に話しかけられる。
チェックインしたホテルでファイルを開封する。
100万の束3つ。
乱暴にテーブルに放り出す。
アルコールを飲み、チーズをかじりながらファイルを読む。
「利道(りどう)純一(じゅんいち)50歳」
殺す相手だ。
スキンヘッドの恰幅のいい男の顔写真と全身写真が入っていた。
住まい:板橋区
職業:無職
(特許にかかる不労所得を多数保持しており、働く必要の無い状態)
特許申請時、アイデアを盗まれた恨みによる殺害の依頼。
行動パターン:ほとんど外出しない。
なるほど。
明日、現場を確認する算段を考える。

利道(りどう)の住むアパートの見える位置に車を止める。
今日は作業員のユニホームを着ている。
電信柱に小型定点カメラを固定する。
自動販売機のコンセントから分岐させた電源をつなぐ。
その時、ネットスーパーの車が止まった。
独り身で、ほとんど外出しないとなれば生活必需品の調達はどうしているのか。
もしかして奴の注文かもしれない。
台車に乗せ終わった配達員と同じエレベーターに乗る。
奴の住まいは2階。
先に「2」のボタンを押す。
「何階ですか?」
「同じです」
配達員はそう答えた。
エレベーターが目的階に到着した。
「開ける」ボタンを押して、配達員を先に出した。
降りた方向と逆に足を向ける。
さりげなく振り返る。
スキンヘッドの男の顔がちらりと見えた。
奴だ。

2週間後、定点カメラを回収した。
特にトラブルは無かったようだ。
ホテルに戻り、動画を解析する。
別のコンビニで「いい一日を」と声をかけられる。
その挨拶は流行っているのか…そんな事を思いながら再生ボタンを押す。
週に2回、あのネットスーパーが配達にやって来ていた。
火曜日と金曜日の夕方5時。
これを利用するか…
安藤に電話する。
ほとんど外出しないこと、ネットスーパーを利用すること。

火曜日pm3:30
それらしい格好をしつらえエレベーターに乗る。
奴の住まいは201号室。
オートロック外のインターホンを押す。
「はい」
利道(りどう)が出た。
「ネットスーパーです。配達に参りました」
「…」
(やばい、注文してなかったか)
「どうぞ」
(なんだ今の沈黙は…)
ガチャリとオートロックのドアが解錠された。
2階につく。
エレベーターから降り、ドアの前のベルをもう一度鳴らす。
ドアチェーンのはずす音と鍵を開ける音の後、ドアが開いた。
ドアの隙間から体をねじ込み、室内に侵入する。
ナイフを抜く。
利道(りどう)に突き刺すため、ナイフを真後ろに引く。
刺す。
しかし、利道(りどう)の方が速かった。
すでに金属バットは振り上げられていた。
俺の後頭部めがけて振り下ろされた。
ヒットするポイントをずらすのが精一杯。
肩口に打ち下ろされる。
痛みが走る。
二度、三度とバットが振り下ろされる。
意識が遠のく。
俺は失敗したのか…

気付くと水槽が目の前にあった。
見慣れない魚。
肺魚かな…。
うしろ手に縛られ、さらに自分の足と結ばれて、床に転がされている。
見慣れない部屋。
ここはどこだ。
裸足の足が見えた。
見上げると、スキンヘッドの利道(りどう)が見下ろしていた。
「どうして分かった」
「ん~、どうしてかな」
生返事で返される。
「ところで、お前、車で来たのか」
「いや、この服の下はトレーニングウエアだ。そのまま走って逃げるつもりだった」
「そうか…そいつはいいや。車を移動させる手間が減った」
(やばい…時間を稼がなくては…)
「どうして分かった」
「ん~、まあ、巻き込まれたあんたの不運だな」
「巻き込まれたとはどういう意味だ?」
「ん~、安藤から頼まれたんだろうあんた」
「安藤?知らないな」
「とぼけるなよ。安藤が言ったんだろう。アイデアを盗まれたって…」
「……」
「安藤は存在しないんだよ。いや存在するのか。いやしないのか。まあ、どっちでもいいや。安藤も俺だ」
「なに?」
「アルジャーノンだよ。もう一人の俺。別人格だ。
安藤はよっぽど俺を殺したかったんだな。殺し屋をやとう為にある人物に近づきやがった。それまでは別人格なんて気がつかなかったんだ。でも俺が気付いたときにはあんたの連絡先を手に入れていやがった。仕方ないから口封じにそいつは殺した」
(シドのことか…)
「俺はどうなる」
「ん~、どうしようかな。殺人の事もしゃべっちゃたしな。さくっと殺す」
(やばい)

そのとき利道(りどう)の動きが止まった。
白目をむいて立ったまま固まっている。
数秒のフリーズ。
その後の動きはすばやかった。
落ちていた俺のナイフを取り上げまっすぐ俺めがけて刃先が動く。
(やばい、死ぬ)
手首と足首のロープを切った。
「逃げてください。あとはこちらでなんとかします。お金はとっておいてください」
「あんた安藤か」
そう聞いた。
「はい、もうだいたい事情は分かっていただけたでしょう。逃げてください」
(そう、わるいね)
とは言わずその場を後にした。

ジョギングを装い走る。
後ろから爆発音。
「なんだ、なんだ」
通行人が騒ぐ。
やつらの自殺騒ぎに俺たちは巻き込まれた。
アンドゥ、リドゥ。
ふざけた名前だ。

後日、シドの事務所を訪れた。
封筒を女に渡す。
あの金、300万が入っている。
俺にはシドの敵は討てなかった。
無言でその場を後にした。
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◎本日の想像話「ブレーキング」

2014年03月20日 | ◎これまでの「OM君」
バイクにまたがっている。
春先、ツーリングにはちょうどいい季節。
今夜は温泉場近くのキャンプサイトにテントを設営する予定なのだが…
だんだん暗くなってきて心細い。
昼寝したのがいけなかった。
いや、いけない事は無かったのだが、寝すぎだ。
3時間たっぷりと眠りこけてしまった。
あわてて飛び起きて、出発したのはいいが、今度は道に迷ったらしい。
山道に入ってしまって、どっちに走っていいのかも自信がない。
だから、これは完全に迷っている状態だ。
どうするかな。
人に道を聞こうにも、人がいない。
ただただ、決定の先送り、惰性でバイクを走らせている。
そのとき、右手に駐車場が現れ、バイクが一台止まっていた。
人影も見える。
(ああ、あの人に聞いてみよう)
あわてて減速し、ウインカーを出し、駐車場にたどたどしく入れた。
車一台分あけてバイクの隣に止める。
エンジンを切る。
「あの、すいません。道に迷っちゃって、ちょっと教えてもらってもいいですか?」
長身、青色の皮つなぎを着た青年に声をかける。
「ああ、そこなら知ってますよ。この道を上って、右に曲がって、つきあたりを…まあ、口で言っててもあれなんで、ついてきてもらっていいですか、どうせ帰り道なんで」
「ええ!いいんですか。助かります」
「ただね、決して後ろは振り向かないでくださいね。サイドミラーは見てもいいですけど。理由は聞かないで」
「はあ…」
(変わったことをいう人だなあ、この人)
そう思いながらも、道案内をお願いした。
青年のバイクは最速を謳う、青色の大型バイク。
「じゃあ、着いてきてください」
青色のフルフェイスをかぶりながら青年は言った。
「ゆっくりめでお願いしますね」
こちらは旧車に片足をつっこんでいるオフロードバイクだ。
滑るように青年のバイクが走り出す。
(彼は全体が青色だな)
山道のカーブを上る。
スロットルは7割方開けている。
(うそつきー、めちゃくちゃ速い)
下りにさしかかる。
青年のバイクはさらに加速した。
かなり先で青年のバイクのハザードランプが点灯した。
二度、三度。
一度、後ろを振り返り、すっとカーブの先に消えた。
(なに、なに、あのハザードランプはなんか意味があるの?というか、彼、振り返ったし)
そう思った瞬間、サイドミラー右に何かチカッ光った。
こんどは左。
(おいおい、なんだよ。絶対に後ろは振り向くなって言っていたな…怖すぎる)
長い下りの直線、アクセルを開ける。
サイドミラーに光が映り込む。
右、右、左、左
カーブが近づく。
左カーブ。
ブレーキをぎりぎりまで遅らせる。
センターラインいっぱいに膨れて、カーブを曲がる。
曲がった先は直線。
おそるおそる…
サイドミラーを見る。

最速の青色バイクが真後ろで走っている。
後方からの気配はまるでない。
エンジン音も、ヘッドライトの明るさも感じない。

サイドミラーには青色のフルフェイスをかぶった青色の大型バイクが映っている。
ただ…
前は見ていない。
フルフェイスは真下をむいたまま、真後ろにくっついている。
青色の物体が真後ろから離れない。
怖い、怖い。

どこをどう走ったのか、オートキャンプ場の明かりが見えた。
受付に座っていた店のおやじに言った。
「そこの峠で見ちゃったんですよ。道案内してくれたおにいさんも逃げちゃうし」
一瞬ぎくりとした沈黙の後、おやじは言った。
「道案内のおにいさんって、青いバイクに青つなぎ、青いヘルメットだった?」
「そうそう。感じのいい青年でしたよ」
「その子ねえ、2年前にバイク事故で死んじゃったんですよ。すぐそこの左カーブ。ここにも一人でよくキャンプを張ってましたよ。いたずら好きでねえ」
「いたずら好きねえ…」
(現世の人間に仕掛ける「いたずら」にしては度がすぎるようだ)
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◎本日の想像話「洗濯の程度」

2014年03月17日 | ◎これまでの「OM君」
部屋でうとうとしていた。
ゴトンゴトン。
まただ。
木造モルタル。
キッチン一部屋、リビング一部屋の部屋。
駅にも近い。
家賃も安い。
建物が古い事を除くと割と気に入っていた。
過去形だ。
お隣が空室だったころの話。
つい2ヶ月前に隣人が越してきた。

異変を感じたのは彼がやって来て2週間後。
休日の朝、いつまでも布団から出ずにゴロゴロしていた。
ゴトンゴトン
お隣の洗濯機の音だ。
水が入った。
洗っている。
水が抜かれた。
脱水。
すすぎ、脱水、終了。
40分程度で洗濯は終わった。
ああ終わった。
夢うつつで聞いた。

ゴトンゴトン。
また洗濯が始まった。
何回も
これが夕方まで続いた。

こちらは仕事があるので平日の彼の行動は分かりかねる。
翌週もその次の週も彼は朝9時くらいから夕方5時くらいまで洗濯し続けていた。
人間とは不思議な生き物だ。
気になり出すとそればかりの事しか考えられなくなってくる。
何を洗っているのか。
大量の衣服を洗っているのか。
それにしてはベランダに何か干してあるわけでもない。

そんなある日の夜。
飲み過ぎたのか尿意で目が覚めた。
ちっ、損した気分。
布団から出ようかどうしようか迷っていると…
ずるずる…ずる。
何かをひきずるような音が玄関の方からした。
隣の玄関が開く。
ずる…ずる…
何かを引きずりながら部屋の中に入っていった。
なんだ?
そう思いつつ、うつらうつらと眠ってしまった。

2日後。
新聞に女子大生失踪の記事が載った。
これで二人目の失踪事件だ。
二件とも近所で発生しているので薄ら寒いものを感じる。
隣人が重い物を引きずりながら帰宅した同じ夜に女子大生は失踪している。
もしかして犯人は…隣人か…
小さく切り分けた肉片を洗濯機で洗う。
洗濯機の稼働音は骨を砕く糸鋸の音を消す。
血抜きの終わった肉片は薄くスライスされ家庭ゴミで出される…まさかな。

隣人は相変わらず洗濯を続けている。
管理人に相談しようか。
でも相談したところで、早朝、深夜に洗濯しているわけでもないのに、こんなことでクレームをねじこむのは神経質か。
どちらかというと何をしているのか知りたい。
それさえ分かればある程度の怒りはおさまる。

仕事から帰った。
玄関の前で鍵束を鞄から出す。
そのとき
ずる…ずる…
何かを引きずりながら階段を上がってくる音がする。
お隣さんの顔がまず見えた。
しまったという表情を浮かべる。
なんだ…
「こんばんわ」
かろうじてそう言った。
お隣さんは 上ってきて隣の部屋の玄関をあけるしかない。
肩が見え、腰が見え、手に持って引きずっている物が見えた。
大きな布袋。
「それ、何が入ってるんですか?」
思わず聞いた。
「ああ、これ、こんにゃく芋なんです。実はこんにゃくを作ってまして、ここで下洗いしてるんです」

なるほど、彼はここには住んでいないらしい。
こんにゃく芋をここで洗うバイト。

失踪事件の犯人は捕まった。
犯人は隣人ではなかった。

あいかわらず洗濯機は回っている。
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◎とうとう手に入れた「現場監督」

2014年03月16日 | ◎これまでの「OM君」
現場監督とうとうゲットしてしまった。
カメラの台数は無限に増える運命。
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◎本日の想像話「借りた車」

2014年03月15日 | ◎これまでの「OM君」
「あなた、コーヒー飲む?」
妻が聞く。
「ああ、頼むよ」
ある冬の休日の朝。
仕事に行くために鳴らす目覚まし時計は昨夜切ってある。
いいかげんな時間に目覚めた朝。
いつもの休日。

結婚して今年で10年になる。
子供はいない。
僕自体、根無し草的なところもあり、もともと子供を望んでいなかった。
妻もそれは同じだった。
ただ、結婚当初、子供の話を相談すると、妻の表情がくもる瞬間もあったような気がする。
子供が欲しい、欲しくない、その議論の内容とは、何か関係の無いところでの葛藤。
当時、妻はそんな複雑な表情をうかべたような気がした。
胸騒ぎを感じなかった訳ではないが、日々の暮らしのなかで、忘れていった。

「今日、車を使ってもいいかい?」
妻に聞いた。
我が家にはセダンタイプ、オールモーターの車がある。
妻の車だ。
結婚前から妻が乗っていた。
妻の職業は、整備士。
この車のメンテナンスは誰にも触らせない。
すべて自分でやってのける。

この車の欠点は、トランクが開かない。
出会った当初から開かなかった。
いつか直すわ。
妻の口癖になってしまっていた。
荷物は後部座席に放り込む。

もう一台、自分の車を持っている。
この車を妻は整備しない。
ディラーまかせになっている。
修理に出していて今日はない。
急な用事が出来て、どうしても出かけなくてはならなくなった。
妻の車はほとんど運転したことはない。
いや、したことが無いというか、妻がハンドルを僕に握らせない。

ギクッ
妻がイヤな沈黙を一瞬、残した。
「だめよ」
「なんで?」
「え・・・なんでって」
なんだか、すっきりしない。
目的地、行程を根ほり葉ほり聞かれた。
少し興奮気味だ。
何故だろう。

朝食を軽くすませ、靴を履く。
妻が後ろから離れない。
家の外にも付いてくる。
車のキーを押し、解錠する。
妻は相変わらず付いてくる。
「本当に気をつけてね」
事故の心配以上の、何か、うまくいえないが恐怖をいだいているかの様に感じた。
「どうしたの?そんなに心配かい。大丈夫だよ。運転には自信があるから。じゃあ行ってくる。帰りは夕方になる」
運転席に座り、シートベルトをつけながら言った。
イグニッションボタンを押し、車を前進させる。
ハイブリッドではないのでエンジンは無い。
車内はモーター音の静かなうなりと振動だけだ。
妻はどうしてこの車を選んだのかな。
いつも不思議だった。
駐車場に止めている間は常にコンセントを車体に差し、充電している。
経年劣化で電池の消耗も激しい。
トランクの中は一度も見たことがない。
直せばいいのに。

峠を越えた先の友人の家に用事がある。
一つ、二つ、三つ。
慎重に峠のカーブを曲がっていく。
雪が所々残っている。
先の見えない左カーブを曲がる。
タヌキらしい動物が急に飛び出した。

驚いてハンドルを切る。
あっ。
日陰で雪が押し固められ、氷状の路面にタイヤが乗る。
滑る。
カウンターを当てる。
一度、二度。
右に左に、ふれ幅がだんだん大きくなり、三度目のカウンター時には完全に車は制御不能になっていた。
スピン。
空き地があり、その部分に車は後ろから飛び込む。
車の後部が木に突っ込み、止まった。
ああ、やってしまった。
怒るだろうな。

しばらく動けなかった。
車から降りて後部を確認する。
幸い慎重に走っていたおかげで、バンパーとトランクのドアがへこんだ程度ですんでいる。
自走して帰る事は出来そうだ。
念のためトランクが開くかどうかためしてみる。
バクン。
開いた。
(おっ、開いたよ。)
そんな事を思いながらドアを上方向に引き上げる。
段ボール大の金属性の箱が一つトランクの大部分を占めている。
よく聞くとかすかに何かが稼働している音がする。
衝突の衝撃で箱その箱は壊れてしまっている。
隙間に手をかざすと冷たい冷気を感じた。
(冷蔵庫か、これは…なにか入っているのか)
グローブボックスからLEDライトを取り出し箱の中を照らす。
丸と四本の曲がった棒、それがひとつの固まりに連結している。
まるで赤子のような…

妻に電話した。
数回の呼び出し音が聞こえた後、妻が電話にでた。
「ごめん、やっちゃった。スピンして後ろから木につっこんだ」
「ええ!車は大丈夫?」
「やっぱり車の事を聞くんだな。トランクが開いたよ。中の箱も壊れて開いたよ。あれは本物か?」
「……」
「おまえの子供なのか…」
「……」
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◎本日の想像話「部屋 2」

2014年03月05日 | ◎これまでの「OM君」
金属の扉をあける。
そこは黄色の壁、黄色の床、黄色の天井。
黄色い部屋だった。
(なんだここは)
家具は1ドアの冷蔵庫らしきもの。
その上に電子レンジがのっている。
白い部屋から黄色い部屋におそるおそるすすむ。
ドアは向こうの壁のど真ん中に1個。
手を出してドアノブを回す。
ガチャ
施錠された手応えが返ってくる。
(また鍵を探せってのか)
窓は無い。
周囲を見回す。
大きな、平たく丸い照明が一つ天井で光っている。
手がかりは無い。
仕方なく冷蔵庫をあける。
そこにはラップがかかったカレーライスがぽつねんとあった。
黄色いメモが張り付けてある。
メモをはがして見ると、そこには「温める、食べるしかない。」と書かれてある。
(たしかに空腹だ。しかしこれを食べるのか。電子レンジもご丁寧に置いてある。どんな目にあわされるのか分からない恐怖はある)
食べるかどうか決めかねる。
冷蔵庫のドアを開けたまま考えた。
庫内はもう一つドアがある事に気づいた。
冷凍庫だ。
開けるとティーカップ大のカップに入った氷。
それだけ。
(カレー、食べようかどうしようか…決めかねる。しかし、現状このままではラチがあかないのも事実だ。)
カレーライスの皿を冷蔵庫から出した。
ラップを一部はがし、スプーンをつまみだす。
電子レンジの扉をあけ、中に入れる。
「温め」スイッチを押す。
ゴーという音と共にライトに照らされたカレーはゆっくりと回転しだす。
スプーンを握りしめたまま待つ。
チーン
こちらの気持ちとは関係なく、拍子抜けする陽気なベルの音色が響く。
電子レンジを開けるとおいしそうなカレーの匂いがこぼれでる。
テーブルが無いので皿の縁を持って慎重にラップを剥がす。
剥がしたラップを電子レンジの上の置く。
スプーンで一口分すくう。
えいっと気合いを入れて食べる。
ん…んん…

うまい。
高速のサービスエリアで食するあの味だ。
なんだか懐かしい。
一気に食べる。
おっと、思わず食べたが大丈夫だろうか…
しばらく様子をみる。
どうやら体調の変化はないらしい。
よかった。
なぜ、カレーを食べさせたのか。
電子レンジと何か関係があるのか。
残るヒントは氷。
器を冷凍庫から取り出し、電子レンジに入れ、解氷ボタンを押した。
何度もボタンを押す。
そのうちに氷が溶けだした。
器の底に光る物を見つけた。
鍵だ。
取り出して観察する。
半透明のアクリルで出来ている。
見えないはずだ。

鍵を差し込み、ひねる。
ガチャ。
開いた。
ドアを引く。
次の部屋に両足で立ったとたん、体が宙にういた。
えっ、えっ
この瞬間にすべてを思い出した。

「なんだよ、あのカレー。あれ一緒に行ったサービスエリアのお土産だろう。どうしてここにあるんだよ」
同じく浮かんでいる同僚に声をかける。
「ああ、わかったかい。あれは俺が地球から、この為だけに持ち込んだ隠し玉だ。で、今回はどうだった?」
「ああ、おもしろかったよ」
ここは有人木星探査機ホマレ5号の中。
往復7年の時間がかかる。
コールドスリープの技術はまだ確立されていない。
7年の時間をかけて往復するしか方法は無い。
退屈を緩和するため導入されたテクノロジーは3つ。
一時的に記憶を消す手錠型端末。
壁、床、天井は自由にテクスチャーをプロジェクターより投影できる。
そして重力発生装置。
この3つを駆使してお互い脱出ゲームに興じているのだ。
同じネタでもよさそうなものだが、二人は頭を絞りながら一路、地球に向かっている。
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◎本日の想像話「部屋 1」

2014年03月02日 | ◎これまでの「OM君」
頭がチクチクと痛む。
血流のリズムと対になった痛みではない。
今まで体験したことのない痛み。
目を開ける。
見たことのない真っ白い部屋。
真っ白いベッドで目覚めた。
(どうしてここに俺はいる)
思い出せない。
昨日、俺は何をしていたのか。
昨日は休日だった。
いつもより少し遅く起きて、すぐにパソコンを起動した。
ネットとメールのチェックをした。
そういえば、送り主が「yuki tamago」という心当たりのないところからのメールがきていた。
件名は「ご招待」。
意味が分からず、内容は確認せずに消去した。
もしかして、これはあれなのか…。
もう消去した以上、メールの事を考えても仕方がない。

休日のその後の行動は、郊外のカフェでモーニングを食べた。
そのままパチンコのモーニングに突入した。
2万円の投資で9万円勝った。
なんていい日なんだ。
夜、パチンコ屋から飛び出し、一人焼き肉でグルメ欲を満たした。
深夜、ドンキに行き、欲望のまま買い物を楽しんだ。
その後の記憶が無い。
店内で家電コーナーを物色したあと、ブツンと記憶がない。
ちょうどこの部屋のように真っ白だ。

とにかくベットから半身をおこす。
立ち上がろうとして右足首が引っ張られた。
ガチャ
つんのめりそうになった。
ベッドの柱から延びた鎖が右足首にまかれた皮の帯と南京錠で繋がれている。
(くそっ)
いよいよこれはトラブルに巻き込まれた、そう思った。
右足がつながれたままどこまで移動出来るかを確認する。
横になったまま、ベットの下に手を突きながら転げ落ちた。
そのまま手に取れる物が無いかゴロゴロと転がる。壁には手が届く。
しかし、それだけで何の進展も無い。
(これはまいった)
ベット自体動かせないか鎖をしっかり持って渾身の力でベットを引く。
奥歯をかみしめ目眩がするほど引いた。
しかし、ベットの脚は床から生えていてピクリとも動かない。
(クソッ)
恐怖で首筋の裏がゾクゾクする。
無力感からゴロリと仰向けになる。
真っ白の天井にはシーリングライトの丸い灯りだけが灯っている。
どれだけの時間そうしていたのか。
何も考えていない自分に気づく。
(イカンイカン、現実逃避している場合か)
あわてて立ち上がり、改めて部屋のつくりを観察する。
窓の無い4.5畳程度の広さ。
扉が一つ、ベットの頭側にある。
部屋の真ん中にはベット。
それだけの部屋。

ドアの下に何か落ちている。
鍵だ。
右足首の鎖のために鍵には届かない。
上に着ている長袖トレーナーを脱ぐ。
脱いだトレーナーを網代わりに投げ、引き寄せる。
(うまくいけ)そう願いながらたぐり寄せる。
しかし鍵はそのままだった。
粘着テープで固定されている。
どうしても手で取らなければならない。
この鎖が憎々しい。
そう思い、睨みつける。
あっ
その時気づいた。
ベットの足に固定されていると思っていた鎖はベットの別フレームとつながっており、ベット一周、鎖はまわるようだ。
(近所に飼われていた犬小屋みたいだな)
その犬は一年中走っていた。
犬小屋の屋根にぐるりと丸くカーテンレールがつけてあった。
レールに通されたリード。
そのリードの長さ分だけ犬小屋の外側を丸く走り回っていた。
そんなことを思い出しながら鎖をジグザグになっているフレームに滑らす。
鍵に手が届く。
床から鍵をはがす。
(たのむ、この足かせの鍵であってくれ)
そう願いながら黄金色の南京錠に鍵を差し込む。
するりと鍵はあいた。


ドアノブには鍵穴があいていた。
(この鍵で開くとうれしい)
鍵を差し込む。
ガチャリ
鍵の開く手応えと、音に喜ぶ。
ドアを開ける。


怒りを通り越し絶望を感じる。
そこは…
黄色い部屋だった。


続く。
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