霊感は昔からあった。
予感とも言うべきものか。
あれは中学の時だったろうか…
友人の右手に霧がかかったようにぼやけて見えた。
その夜、友人は家でカップラーメンを作っている時にお湯をこぼし、重度の火傷を負った。
いつからか未来が見えるようになった。
しかも、悪い未来。
町の中を歩くとあちこちで体に霧がかかっている。
あたま、体、手足。
近しい未来に起こる悪い出来事の予兆。
ある時、遠足でやってきた園児の一団を見かけた。
園児全員に真っ黒い霧がかかっていた。
付き添いの先生にも霧がかかっている。
(これはただ事ではない)
そう直感した。
何とかしなければ…
駐車場から出てきたのでチャーターバスでここまで来たのだろう。
駐車場に走る。
観光バスが一台停まっていた。
運転手がバスの横でタイヤを見ていた。
くたびれた格好の小太りの男性。
真っ黒な霧が全身を覆っている。
奴がこの現象に大きく関与しているはずだ。
そう確信した僕は、運転手のすぐそばを横切った。
プンと酒のにおいがした。
怒りが僕に行動を起こさせた。
「おい、あんた、どういうつもりだ。飲んでいるだろう。ここまで運転してきたのか。大事故になるぞ」
「なに!俺は飲んでいない」
バスの運転手を観察した。
目がうつろだ。
「あんたから酒のにおいがプンプンするぞ。このまま見過ごせない」
ポケットから携帯電話を取り出し、警察に電話した。
「ああ、すみません警察ですか。実は…」
後頭部に激痛がはしる。
携帯電話が吹っ飛ぶ。
奴に後ろから殴られた。
前方に倒れ込む。
「おい、あんた、僕を殴ったという事は酒を飲んでここまでバスを運転したのは事実だと言うことだな」
「それがどうした」
「それがどうしたって…」
(もうだめだ。こいつと言い争っていてもしょうがない。早く公平な第三者を呼んで、しかるべき人物が運転しないと大変な事になる。)
転がっている携帯電話をダッシュし、拾い上げた。
もういちど警察に電話する。
今度は奴と対峙しながらコールする。
呼び出し音が1度、鳴っている最中。
奴は猛然と殴りかかってきた。
電話を切り、ポケットに仕舞いながら、今度は迎え撃つ。
右フックが飛んできた。
しゃがみながら、こちらはアッパー気味の左フックをわき腹にたたきこむ。
ぐう
カエルをふんずけた様な音が奴の、のどから漏れる。
それでも負けじと、奴は右ストレートを放った。
向かってくる拳の軌道をよけながら前進、間合いをつめる。
体をねじるように、奴の腰めがけてタックルをかけ、後ろに押し倒した。
そのまま馬乗りになり、あごを殴りつける。
勝負有り。
ぐったりする。
自分のスニーカーの靴ひもを両足分ほどいた。
ズボンのベルトやベルトループも利用してやつの手足を後ろ手に固定した。
改めて警察に電話し、事の次第を伝えたあと、その場から姿を消す。
園児たち姿を確認しに行った。
黒い霧はすっきりとなくなっていた。
子供たちは笑っている。
その日はいい天気だった。
前日はしこたま仕事仲間と酒を飲み、終電で帰った。
午前中の遅い時間に目が覚める。
いい天気だが、気分は最悪。
昨夜の事を思い出した。
あれは何だったんだろうか。
その店は二次会だった。
もう何時間飲んでいるのか分からない。
いつからその女がいたのかも定かでは無い。
へんな女だった。
気付くと女がいた。
隣の席で一人、女が飲んでいた。
全身黒い。
長髪の髪の毛はぺっとりと額に張り付いていた。
それでいて真っ赤な口紅。
「あなた先日、いいことをしたでしょう。私知ってます」
「ちょっと分からない。人違いじゃないですか」
酔ってもいたし、逃げた後ろめたさもありとぼけた。
「まあ、いいわ。とにかく言うだけ言うわ。真っ黒になったら48時間、一歩も外に出てはだめ。仕事も休む。言ったからね」
そう言うと女はすごい勢いで立ち上がり、くるりと店から出ていった。
「なんだい、ありゃあ。知り合いかい?」
同僚に聞かれた。
無言で首を傾げた。
水を飲み、もう一度横になった。
次に起きたのは午後2時。
気分はすっきりしている。
空腹も感じる。
いい天気だ。
寝間着の上にジャンパーを羽織り、コンビニに出かけた。
管理人にエントランスで出会った。
世間話くらいはする関係だ。
ぎょっとした。
全身に黒い「もや」がかかっている。
基本的にこの事に気付いても僕自身なにも出来ない。
「こんにちはーいい天気ですね」
ぎこちなくそう言うのが精一杯だ。
「ああ、そうだね」
すこし離れて振り返った。
掃除をしている管理人さんの後ろ姿は真っ黒。
ああ…
外に出た。
向こうから女子高生が歩いていた。
全身黒い。
散歩しているおばさん。
散歩させられているチワワ。
新聞配達しているおじさん。
ジョギングしている青年。
スーツ姿のお姉さん。
ありとあらゆる人々が真っ黒だった。
これだ。
あの女が言ってたのはこれだ。
その場で立ち尽くす。
そして考えた。
家に帰らなくては。
外に出てはいけない。
食料はどうだ。
うん、4日分くらいなら、カップラーメンなんかの食料もある。
急いで部屋に戻る。
心拍数があがる。
階段を駆け上がり、部屋の扉を開ける。
急げ。
鍵をかけ、チェーンをかける。
その場にへたり込む。
あの女は言っていた。
48時間、部屋にいろと。
明後日は仕事だ。
同僚に電話をかけ、休む段取りをつける。
どういう現象なのだろう。
まあ、時間はたっぷりある。
考えよう。
その日の夜。
酒を飲んで、むりやり眠った。
しかし眠れるわけもなく、寝返りばかりうつ。
明け方近く、意識がトロトロした。
公園からボールが飛び出す。
あぶない。
少年が飛び出してくる。
営業車のフロアを踏み抜く勢いでブレーキを踏む。
間に合わない。
ハンドルをきり電柱にぶつける。
運転席、すぐ脇につきささる支柱。
俺の胴体に突き刺さる。
うあっ
夢だ。
その時、すべてを理解した。
世の中すべてが真っ黒になったのは、僕の未来が無くなる、死亡するという意味なのだと。
3日後、僕は元気で仕事をしている。
僕は気づいていないが、あの女が遠くからこちらをみていた。
予感とも言うべきものか。
あれは中学の時だったろうか…
友人の右手に霧がかかったようにぼやけて見えた。
その夜、友人は家でカップラーメンを作っている時にお湯をこぼし、重度の火傷を負った。
いつからか未来が見えるようになった。
しかも、悪い未来。
町の中を歩くとあちこちで体に霧がかかっている。
あたま、体、手足。
近しい未来に起こる悪い出来事の予兆。
ある時、遠足でやってきた園児の一団を見かけた。
園児全員に真っ黒い霧がかかっていた。
付き添いの先生にも霧がかかっている。
(これはただ事ではない)
そう直感した。
何とかしなければ…
駐車場から出てきたのでチャーターバスでここまで来たのだろう。
駐車場に走る。
観光バスが一台停まっていた。
運転手がバスの横でタイヤを見ていた。
くたびれた格好の小太りの男性。
真っ黒な霧が全身を覆っている。
奴がこの現象に大きく関与しているはずだ。
そう確信した僕は、運転手のすぐそばを横切った。
プンと酒のにおいがした。
怒りが僕に行動を起こさせた。
「おい、あんた、どういうつもりだ。飲んでいるだろう。ここまで運転してきたのか。大事故になるぞ」
「なに!俺は飲んでいない」
バスの運転手を観察した。
目がうつろだ。
「あんたから酒のにおいがプンプンするぞ。このまま見過ごせない」
ポケットから携帯電話を取り出し、警察に電話した。
「ああ、すみません警察ですか。実は…」
後頭部に激痛がはしる。
携帯電話が吹っ飛ぶ。
奴に後ろから殴られた。
前方に倒れ込む。
「おい、あんた、僕を殴ったという事は酒を飲んでここまでバスを運転したのは事実だと言うことだな」
「それがどうした」
「それがどうしたって…」
(もうだめだ。こいつと言い争っていてもしょうがない。早く公平な第三者を呼んで、しかるべき人物が運転しないと大変な事になる。)
転がっている携帯電話をダッシュし、拾い上げた。
もういちど警察に電話する。
今度は奴と対峙しながらコールする。
呼び出し音が1度、鳴っている最中。
奴は猛然と殴りかかってきた。
電話を切り、ポケットに仕舞いながら、今度は迎え撃つ。
右フックが飛んできた。
しゃがみながら、こちらはアッパー気味の左フックをわき腹にたたきこむ。
ぐう
カエルをふんずけた様な音が奴の、のどから漏れる。
それでも負けじと、奴は右ストレートを放った。
向かってくる拳の軌道をよけながら前進、間合いをつめる。
体をねじるように、奴の腰めがけてタックルをかけ、後ろに押し倒した。
そのまま馬乗りになり、あごを殴りつける。
勝負有り。
ぐったりする。
自分のスニーカーの靴ひもを両足分ほどいた。
ズボンのベルトやベルトループも利用してやつの手足を後ろ手に固定した。
改めて警察に電話し、事の次第を伝えたあと、その場から姿を消す。
園児たち姿を確認しに行った。
黒い霧はすっきりとなくなっていた。
子供たちは笑っている。
その日はいい天気だった。
前日はしこたま仕事仲間と酒を飲み、終電で帰った。
午前中の遅い時間に目が覚める。
いい天気だが、気分は最悪。
昨夜の事を思い出した。
あれは何だったんだろうか。
その店は二次会だった。
もう何時間飲んでいるのか分からない。
いつからその女がいたのかも定かでは無い。
へんな女だった。
気付くと女がいた。
隣の席で一人、女が飲んでいた。
全身黒い。
長髪の髪の毛はぺっとりと額に張り付いていた。
それでいて真っ赤な口紅。
「あなた先日、いいことをしたでしょう。私知ってます」
「ちょっと分からない。人違いじゃないですか」
酔ってもいたし、逃げた後ろめたさもありとぼけた。
「まあ、いいわ。とにかく言うだけ言うわ。真っ黒になったら48時間、一歩も外に出てはだめ。仕事も休む。言ったからね」
そう言うと女はすごい勢いで立ち上がり、くるりと店から出ていった。
「なんだい、ありゃあ。知り合いかい?」
同僚に聞かれた。
無言で首を傾げた。
水を飲み、もう一度横になった。
次に起きたのは午後2時。
気分はすっきりしている。
空腹も感じる。
いい天気だ。
寝間着の上にジャンパーを羽織り、コンビニに出かけた。
管理人にエントランスで出会った。
世間話くらいはする関係だ。
ぎょっとした。
全身に黒い「もや」がかかっている。
基本的にこの事に気付いても僕自身なにも出来ない。
「こんにちはーいい天気ですね」
ぎこちなくそう言うのが精一杯だ。
「ああ、そうだね」
すこし離れて振り返った。
掃除をしている管理人さんの後ろ姿は真っ黒。
ああ…
外に出た。
向こうから女子高生が歩いていた。
全身黒い。
散歩しているおばさん。
散歩させられているチワワ。
新聞配達しているおじさん。
ジョギングしている青年。
スーツ姿のお姉さん。
ありとあらゆる人々が真っ黒だった。
これだ。
あの女が言ってたのはこれだ。
その場で立ち尽くす。
そして考えた。
家に帰らなくては。
外に出てはいけない。
食料はどうだ。
うん、4日分くらいなら、カップラーメンなんかの食料もある。
急いで部屋に戻る。
心拍数があがる。
階段を駆け上がり、部屋の扉を開ける。
急げ。
鍵をかけ、チェーンをかける。
その場にへたり込む。
あの女は言っていた。
48時間、部屋にいろと。
明後日は仕事だ。
同僚に電話をかけ、休む段取りをつける。
どういう現象なのだろう。
まあ、時間はたっぷりある。
考えよう。
その日の夜。
酒を飲んで、むりやり眠った。
しかし眠れるわけもなく、寝返りばかりうつ。
明け方近く、意識がトロトロした。
公園からボールが飛び出す。
あぶない。
少年が飛び出してくる。
営業車のフロアを踏み抜く勢いでブレーキを踏む。
間に合わない。
ハンドルをきり電柱にぶつける。
運転席、すぐ脇につきささる支柱。
俺の胴体に突き刺さる。
うあっ
夢だ。
その時、すべてを理解した。
世の中すべてが真っ黒になったのは、僕の未来が無くなる、死亡するという意味なのだと。
3日後、僕は元気で仕事をしている。
僕は気づいていないが、あの女が遠くからこちらをみていた。