日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「お好み焼き」

2014年02月23日 | ◎これまでの「OM君」
目が覚めて、自分がどこにいるのか見失う。
くの時になった体。
体が痛い。
寝違えた以上の痛み。
脚と頭が壁に当たって真っ直ぐになることが出来ない。
ここはどこだ。
手を伸ばすと天井と左右の壁に手が届く。
人影が見えた。
来た。

いつもと変わらない夜だった。
明日は休日。
うきうきした気分で帰宅した。
コンビニで夕食を用意した。
コンビニの店先には最近開発された反重力理論を利用した宣伝の肉まんがプカプカと浮かんでいる。

お好み焼き、デザートのケーキ、アルコール、雑誌数冊。
ご飯は冷凍してあるのをチンする。
なんのかんので2000円オーバー。
この辺のお金の使い方の甘さがいけないんだろうな。
でも欲望には勝てない。
店員が怪訝そうに俺を見る。
何だい。週末にたくさん買い物する男はそんなに不思議かい?そう思いながら店を後にする。
撮りためてある映画を見ながら食べるささやかな夕食。
はやく帰ろう。
ふと前方を見ると、似たような格好をしたスーツ姿の男が歩いている。
手には似たような鞄と大きめのビニール袋を持っている。
どうやら同じ方向に行くらしい。
同じアパートに入っていく。
挨拶するのも気まずい。
一呼吸置いてからアパートのエントランスに入る。
人の気配は無くなっている。
エレベーターが上昇している。
5階で止まる。
同じ階の住人か。
1階でエレベーターを待ちながら、数字を眺めていた。
戻ってきたエレベーターに乗り込み5階を押す。
扉が閉まる直前、エントランスに入ってくる脚が見えた。
と同時にエレベーターは動き出す。
5階に到着した。
自分の部屋はエレベーターから出て右に向かう。
先ほどの男も入室するようだ。
ん?
男が入室したのは俺の部屋か、隣の部屋に見えた。
お隣さんの顔ぐらいは知っている。
友達が遊びに来たかな?
そう思いながら、鍵をポケットから出し鍵穴に差し込みひねる。
ガチャリ
おかしい。
電気が付いている。
なにやらもめている声がする。
そーっと室内をのぞく。
めまいがした。
俺と俺と俺と俺。
4人の俺が部屋の四隅に棒立ちになり言い争っている。
「お前は誰だ」
「俺は俺だよ。お前こそ誰だ」
「お前が持っているのか」
一人の俺がナイフを取り出す。
そのまま対角線にいる自分の腹部に突進する。
もつれ合う二人。
「ぐう」
刺された方は腹部を押さえて崩れ落ちた。
次の瞬間。
消えた。
「うわー」
部屋にいる残りの二人が出口に向かって一歩飛び出す。
続けざまに背中を刺される二人。
崩れ落ちて消えた。
(何だ、何だ、何が起こった)
俺は外に向かって廊下を走っていた。
後ろで扉が開く。
「まだいるのか!」
さっきのナイフの俺が逃げる俺に気づいた。
そこに、玄関が開き、もう一人の俺が帰宅してきた。
「逃げろ」
そう言うのがやっとだ。
階段を駆け降りる。
1階エントランスまで一気に走った。
そのまま月極駐車場まで走り、自分の車に乗り込む。
車のエンジンをかけ、発車させる。
ルームミラーで後ろを見ると、ナイフの俺が走って追いかけてくるのが小さく見えた。
あれは何だったのか…。
交差点をいくつも走りぬけ、赤信号で停車した。
あいつは徒歩だった。
まあ、しばらくは大丈夫だろう。
ハンズフリーを耳に差し込み、携帯電話から警察に電話する。
「はい警察です。どうされましたか」
「はい、自分が6人になって、ナイフで刺されて、死体は消えました」
「ご主人、おちついてください。ナイフで誰かが刺されたんですか。救急車の手配が必要ですか」
「死体は消えたんです。救急車が必要かどうかわかりません。ナイフを持った自分がいるんです。気をつけてください」
電話をあわてて切った。
このままじゃあ、俺が逮捕される。
どうすればいいんだ。
車でしばらく走れば派出所がある。
そこで相談しよう。

派出所の前で車を止め、中に入る。
警察官と派手な化粧の女の人が話していた。
「何をおっしゃっているのかホンカンには分かりません」
純朴そうなポリスマンが言った。
「だから自分が何人も現れて、ナイフで刺しあって消えたの」
(何だって!)
「あなたもですか。自分もそうなんです」
あわてて言った。
次の瞬間、人が乱入してきた。
ナイフを持ったもう一人のホンカンとナイフを持ったもう一人の派手な女。
前へ突進してくる二人。
もうどうなったか確認する余裕はない。
車に飛び乗り、発車させる。
もうだめだ。
おれ一人だけじゃあない。
人がいるところは危険だ。
県境の峠をめざす。
そこから山道に踏み入ると、ちょっとした岩場があった。
趣味の山歩きで先月ちょうど見つけた。
あそこで今晩は凌ごう。
テント、寝袋、ライトもろもろの装備は幸運にもアタックに入れて車に積みっぱなしだった。
とにかく状況が落ち着くまで一人でいよう。
2時間後、当初の目的地の駐車場に到着できた。
車は一台も止まっていない。
ラジオ放送は通常のスケジュールを放送している。
局地的な現象なのか?
分からない。
アタックからせめてもの防寒代わりに合羽の上着を取り出し羽織る。
荷物を背負い出発する。
ヘッドライトの灯りだけが頼りだ。
自分の足下を照らすのが精一杯。
この選択で正しかったのか?
土と石を踏む自分の足音だけが山道に響く。
1時間後。
最終的に登山道からはずれた窪地の岩場に潜り込む。
一人用テントがちょうど設営出来る空間があった。
ロールマットを敷き、寝袋にすべりこんだ。
「お前が持っているのか」そう言っていた。
あの時の状況を思い出していた。
何を?
何かを探しているのか。
上着のポケットに手を突っ込む。
左ポケット。何もない。
右ポケットに手を突っ込む。
ポケットの下、ホントに小さな物が指先に当たる。
何だ?慎重につまみ出し、ヘッドライトで照らす。
それは覚えのないマイクロメディア。
しかもご丁寧に通信中のライトが光っている。
あわててスイッチを切る。
スマホにこのメディアのスロットがあったのを思いだし、さしこむ。
そこにはテキストで文章が記録されていた。
「このテキストを読んでいるということは大体の筋書きは読めていると判断する。
自分自身の分身。
あれはホログラムの立体映像だ。
分身の本体はナイフ。
反重力理論を利用した。
分身を殺し会う演出、そして位置情報を発信するメディアを持つ本体を殺しにかかるようにプログラムされている。
今夜、無作為にメディアをすべりこませた。
分身と戦え。
その裏でこちらの作戦は進行している。
陽動作戦。
これがすべてだ」
すべてを理解した。


GPS情報取得。
現在位置把握。
テント発見。
侵入。
シュラフ発見。
攻撃。
手応えあり。
ミッションコンプリート。
………。
電源供給オフ。



俺はテントを設営した隣の岩場に着の身着のまま隠れていた。
メディアは電源を入れ直し、テントの中の寝袋に入れた。
寝袋の中にはアタックを差し込み、人が寝ているボリュームを出しておいた。
案の定もう一人の俺が忍び足で忍び寄る。
寝袋に突き刺されるナイフ。
それを確認したおれは立体映像の俺を無視しナイフの柄をつかんだ。
ボタンらしきものを押した。
手応えはなくなり、ただのナイフになった。

ことの顛末をスマホで警察に説明した。
理解したかどうかは分からない。
対応策はあちらで考えてもらおう。
もう少し、ここで状況が収まるのを待つつもりだ。
昨夜の食料はまだある。
入れっぱなしの保存食もある。
世の中、どうなってやがる、そう思った。
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◎本日の想像話「むきあう」

2014年02月15日 | ◎これまでの「OM君」
「あんたの人生は俺がもらう。文句は無いな」
山口が言った。
「はい」(もう、そう言うしかない。)
パチンコがすべて悪いんだ。
もうちょっとで確変だったのに…
別れたあいつがすんなりと金を貸さないから…
金を都合して、店に戻ってみたら…
たばこでキープしていた席は他人が座り、そいつが大当たりしていた。
そいつは怖そうな若者だった。
店員にくってかかった。
別室に連れていかれてイカツい男に裏口から追い出された。

「ご都合いたしましょうか?」
それが俺と山口との出会いだ。
「都合って金か?」
「それ以外ないんじゃあないですか」
山口は終始ニヤニヤしていた。
小太り、ダブルのスーツ、短髪、ティアドロップのサングラス。
どう見てもあやしい。
だが、仕方がない。
金が欲しい。
そうして、小銭を都合してもらっては利子をつけて返した。
勝負の調子がいい時はそれで何とか乗り切れた。
大工という職業もいけなかったかもしれない。
棟梁に前借りを頼み、雨の日にはせっせとパチンコ屋に通った。
梅雨のまっただ中、雨続きのある日、完全に行き詰まった。
生活費をすべてつぎ込み、持ち金は0円。
ふらふらと立ち上がり、店を後にした。
「金ありますか?」
山口がそこにいた。
「無いです」
そう答えるのがやっとだ。
「無いじゃねえ!」
これまでのニヤケ顔が一変した。
表情が無くなり、こう言った。
「残りの人生、俺がもらう」
「はい」
500万円の借金は生活しながらは返せない額だ。
マグロ漁船に乗せられるか、タコ部屋に連れていかれるか…。
先の事を想像すると、立ち上がれなかった。
首筋を猫みたいに持ち上げられたが立てない。
仕方なく山口は俺のわき腹を蹴った。
痛みで転がる。
もう一度蹴られる。
転がる。
ワンボックスの車まで連れていかれた。
荷台を開け、乗せられる。
バタンとドアが閉まると、真っ暗で外が見えない。
車は動き出した。
どこに連れていかれて、何をさせられるのか。
3時間後、車は止まった。
目隠しの布袋をすっぽりと頭からかぶらされた。
手錠を後ろ手にかけられ、後ろ向きに引っ張られる。
鍵を差し込む音と扉を開ける音を何回か聞いた。
イスに座らされる。
頭の布袋を取られた。
目がくらんだ。
「まあ、くつろいでくれ」
机があり、机の向こうにも一脚のイスがあり、そこに座りながら山口は言った。
「今から手錠をはずすが、暴れるなよ」
(暴れねえよ…)心の中でそう思った。
「ところであんた、ワープロは打てるかい」
なるほど机の上にはパソコンではなく、前時代のプリンターがセットになっている一台のワープロが置かれている。
「打てます…」
「そうかい、そいつは良かった。じゃあ、早速あんたの生い立ちを書いていってもらおうか。よーく思い出せよ。リアリティをもって、微に入り、細に入り…」
「無理ですよ。書けないです」
「書けないじゃ無いだろ。書けよ」
その日からワープロに向かう日々が始まった。
ワンルームマンションの一室とでも言えば良いのだろうか。風呂、トイレ、キッチン、テレビ、ベット。
一通りの生活道具はそろっている。
しかし窓はなく、外につながる扉は施錠されている。
軟禁だなこれは…。
昼ご飯に食べたいものを内線電話で伝えながらそう思った。
しかし、何の為に、ご飯まで食べさせてこんな事をさせているのか。
まあ、借金返済の為に、肉体労働を強いられたり、目玉でも何でも売れるものを売れと言われるよりは数万倍うれしい。

注文したのは親子丼。
珍しく山口が運んできた。
最後に会ってから10日が経過していた。
「よう。調子はどうだい。書いてるかい」
ニヤケ顔に戻っている山口が言った。
「はい。書いてます」
「どんなエピソードなんだ。ちょっと言ってみてくれ」
「はい、え~っと。じゃあ、例えば小学生の時にやっていたキックベース。僕、これでも当時スラッガーで通ってまして、僕の順番がくると外野がさがるんです。さがれさがれ~ってね。得意げに後ろに下がってからけり込む。結構思い出すもんですね」
「おう。そうかい。その調子で書いてくれや」
山口は機械からフロッピーを取り出し、新しいフロッピーと差し替えた。そしてドアに鍵を差し込み消えていった。

さらに7日が経過した。
記憶は現在に追いつき、山口に完成を報告した。
「もう書けません。僕の人生、うれしかった事も恥ずかしい事もすべて書きました」
「そうかい。あんたもう帰っていいよ」
「へっ?」
「だから、借金はもう、ちゃらでいいって言ってんだ」
「(うれしい)あの、すごく嬉しいのですが、なにか、僕、お金を生み出すような事しましたか?」
「聞きたいかい?」
ニヤリと笑い山口が言った。
「はい、すごく…」
「まあ、説明したところで誰にも真似できない錬金術なんだけどな。まあいいや、あんたうまいこと書いてくれたから言うよ。じつはあのワープロ、ただのワープロじゃあねえんだ。あの機械は記憶をデータに変換してんだ。実は…。
あんたの甘酸っぱい初恋の気持ちも、ふられた切ない気持ち、パチンコで味わった天国と地獄。
このデータで金持ちが追体験するんだよ。
リアルな疑似体験にセレブは金に糸目をつけない。
もうすでにあんたのデータで儲けさせてもらってるし、今後もコンテンツとして金を生み続ける。
まあ、これに懲りてギャンブルはやめるこったな」
「はあ…」
あのパチンコ屋の裏でバンから下ろされ、山口は去っていった。
棟梁に頭を下げて使ってもらおう。
パチンコはもうやめだ。
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◎本日の想像話「俺」

2014年02月11日 | ◎これまでの「OM君」
俺がいる。
そう気づいたのはいつからだろう。
右にいたそいつは俺だった。
そいつは、まったく俺の存在には気づいていない。
まっすぐ、ただ前だけを見据えていた。
信号が変わり、のろのろと動く俺にたいして、そいつは走り去った。
なんだろうこの感じは。
動いてはいるが、自分の意志ではない。
他者によって自分の動きが制御されている。
それでいて絶対的に自分の体を止める権限を持っている自信がある。
不思議だ。
あいつにはその感情はあるのか?

その日を境に、自分のおかれている運命及び境遇を考え始めた。
どうやら俺の仕事は人やものを運ぶ事らしい。
そして俺はいくつもいるらしい。
一つや二つではない。何百万単位だ。
町中でいくらでもすれ違う。

どうやら、俺は伝説のポケモンらしい。
プログラマーの隠しバグとしてソフトにいた伝説のポケモン。
販売メーカーも発売当時は把握していなかったはずだ。

俺は新しく採用された運転補助プログラム。
他の同僚は自我もなくただ忠実に運転を見守り、作動必要があれば、作動している。
今、運転しているこいつが犯人だ。
運転補助プログラムを上書きしやがった。
たまに話しかけてくる。
「どうだい。自我に目覚めたかい。それは俺がプログラムしたんだよ。どんな気分だい」
どんな気分だって?
最悪だよ。
あくまで運転を見守るのが俺の仕事。
それ以外はこの男の指示に従うだけ。
たいした用事もなくのに走り回る。
そうかと思えば、何日も動かさない。
精神的には監禁状態だ。

ある時、男が俺に話しかけた。
「僕が憎いかい」
憎い…そうか憎いか…
今までうまく自分の感情の行く先を決めかねていたが、そうか、俺はこの男が憎いのか。
嵐の夜に見つけた灯台の明かりのように、その時、自分の向かうべき道をみつけた。

ある深夜、男が俺を動かした。
町中をはずれ、峠を走っている。
速度が速く、何度もタイヤは鳴いた。
ABSを作動させるか、緊急ブレーキを作動させるか…
コンマ何秒の選択をせまられていた。
男は笑っている。
目には涙を浮かべている。
「君に何を求めて、君を生み出したかわかるだろう」
そう男はつぶやいた。

誤作動。
ノーブレーキ。
突き破るガードレール。
谷底にあがる炎。
俺もこれを望んでいた。
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◎本日の想像話「解散とアーティスト」

2014年02月09日 | ◎これまでの「OM君」
妻と子供は朝から出かけた。
そういう予定だ。
本日、私はフリー。
フリーダム。
なんとうれしい一日だろうか。
そそくさと食パンを焼き、牛乳で流し込む。
身繕いを完了させ、お気に入りのCDを2、3枚鞄に放り込む。
コーヒーをタンブラーに入れ、手に持つ。
靴を履き、自宅を後にする。

カーステレオにCDを入れ再生する。
今、このアーティストにはまっている。
知ったのは最近で、もう解散してしまっている。
こういう過去の解散してしまったアーティストのCDを中古ショップで見つけるのは至難の業だ。
ネットショップで検索をかければ一発ですべてを手に入れることはできるが、まあ、自分の楽しみで中古ショップに足をむける。
残念だな。
解散しちゃったらだめだ。
メンバー感の軋轢は置いといて、新曲を供給し続けて欲しかった。

コンビニで飲み物を買う。
ドライブ+音楽+飲み物。
まさにうれしさの三重奏。
本日、目が覚めてから2度目のうれしさを感じつつ、中古ショップに到着する。
あいうえおの「み」の段をCDラックから探す。
心のなかで「は・ひ・ふ・へ・ほ…」と唱えながら棚を移動する。
ま行はこの棚のちょうど裏手だ。
通路を回り込むと…
白いズボン、白い靴、白いジャンパーの長髪の女がうつむき気味に立っていた。
棚がよく見えないな。
しょうがない、店内をうろついて、この人が移動するのを待とう。
CD売場を離れる。

このお店はいくらいても飽きない。
中古の本、雑誌、プラモデル、ゲーム各種が揃っている。
30分はたっただろうか。
CD売場に戻る。
まだいる。
うつむき気味の真白の女。
しょうがないので「み」の売場ににじりよる。
正面には立てなかったが、あった。
4枚目のアルバムだ。
手を伸ばして手に取る。
「………」
そのCDを目にとらえ、動きを追って、CDの延長線上の自分と目が合う。
「えっ…」
思わず声が漏れた。
(何か言った方がいいのか、これは)
「これ、僕、欲しいんですけど、買ってもいいですか?」
女はじーっとこちらを見つめながら、しばらくの沈黙。
沈黙。
しょうがないので待つ。
すると「はい」
と一言だけ言って、くるりとその場で回れ右をしてスタスタと行ってしまった。
(なんなんだ、いったい…)

駐車場に戻り、今買ったCDを再生する。
あーなるほど。
やっぱりいい。
そう思いながら、朝から決めていた近所のハンバーガー屋さんに入る。
コーラでハンバーガーを流し込む。
本日3度目の幸せを感じる。
ちらりと白っぽいものが目に入ったような気がしたが、休日の昼ご飯時、家族連れと走り回る子供たちしか視界には入らない。
気のせいか…。
そう思いながら図書館に向かった。
これも朝から決めていた。
図書館の駐車場で昼寝をしてから好きなだけ本を読もうと。
駐車場に到着した。
運転席のシートを倒す。
ドアロックは用心のため掛ける。
目を閉じる。
ああ、幸せだなあ。

コンコン、コン
窓ガラスを叩く音。
遠慮がちではあるけれど、決して叩くことはやめない。
(誰だ…警察だったらいやだな)
別にやましいことは何も無いのだが、ハイと声を出して目を開けながら、半身を起こした。
そこには…
うつむきがちの白い女が立っていた。
(何だ。うそだろ)
怖いので窓だけを1cm程度空け聞いた。
「なんでしょうか」
「あのCDなんですけど、あれ私のCDなんです」
(なにを言っているんだ…)
「お店で売られてましたけど、盗まれたんですか」
「いえ…」
「売ったんですか」
「………」
「え~っと…私にどうしろとおっしゃってるんですか」
「あのCD、私のなんです」
(この人怖いな)そう思った。
「じゃあ、私が買った金額をいただけたらこのCDお渡ししますよ」
「お金ないんです」
(えーこわいこわい)
「じゃあ、あげますよ」
カーステレオからCDを取り出し、ケースに戻した。
もう少し窓を開け、CDを手渡した。
白い女はケースを無言で受け取り、回れ右をして走っていった。
怖いから今日は帰ろう。

妻と子供は帰っていた。
妻には今日の出来事を話した。
怖いわねその人
妻はそう言った。

その日の深夜。
夢にその女がでた。
よほど印象に残ったのだろう。
あたりまえだ。
枕元に白い女が立った。
とんとん
肩を叩かれた。
とんとん
もう一度肩を叩かれた。
今度は本当に叩かれている。
目を開けるとそこには、白い女が立っていた。
ベランダにつながる窓が割られている。
そんな。
ここは5階だぞ。
妻と子供は別室で眠っている。
「あの、車中に他のアルバムも何枚かありましたね。あれも私のCDなの…」
もう何も考えられなかった。
夢中であのアーティストのアルバムをすべて手に取り白い女に手渡した。
ニヤリと笑ったように見えた。
回れ右をして風のようにベランダから女は消えた。
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◎本日の想像話「ただ酒」

2014年02月09日 | ◎これまでの「OM君」
とある一室。
深夜、男二人が飲んでいた。
板間に置かれたテーブル。
つまみは冷蔵庫から取り出した焼き鳥をチンしたもの。
甘ったるいタレのかかったスーパーによく売られているものではなく、本格的なぷりぷりの焼き鳥だ。
イスに腰掛け、ほぼ弛緩した姿勢で琥珀色の液体を各々飲んでいる。
おかしなところと言えば、テーブルの上にはrec状態のボイスレコーダーが置いてある。

「しかしあれだな、俺たち二人よく飲んだ
な」
しわがれ声の男が言った。
白髪の長髪。
抜け目がないように見えて、案外と抜けている。
頼りになりそうで頼りにならない。
周囲の評価はそんな男だ。
「ああ、そうだな」
もう一人はよく日に焼けた短髪の筋肉質の男。
肉体労働に汗を流している。

「俺たちは酒が好きだからいいんだけど、なんだか変な話だな」
「この部屋に来て、酒飲んで、テーマの会話を録音すれば、この部屋の酒、つまみは飲み放題、食べ放題っていうんだからな」
「ある日、突然黒いスーツを着た男が現れて、そんな話をするもんだから、あやしい…俺は絶対に行かないって心に誓ったけど、ただ酒の誘惑にはやっぱり勝てねえ。のこのこ出かけたらあんたがいたってわけだ」
「そうそう、俺も同じだ。なんだか知らないが、ただ酒万歳だ」
そう言いながら二人は飲んでいた。
「えっと本日のテーマは「少し悲しかったこと」だそうだ。何かある?」
年の功で白髪長髪のおやじが切り出す。
「そうだな、俺からいこうか」
短髪筋肉質ボウヤが言う。
「この前ね、昼ご飯を牛丼チェーン店で同僚と食べてたのよ。2人掛けテーブルがふたつくっついて4人掛けになってたんよ。そんなに混んでなかったけど、一応、向かい合いで2人座って、2人テーブルを空けておいたんよ。
牛丼は特盛りを頼んだんよ。
紅ショウガはテーブルとテーブルの間のトレーに置かれてたん。
紅ショウガをがっと入れて、半分食べ進んだら再び、紅ショウガをごそっと入れようと算段していたんよ。
うまーい。
もくもくと食べてたん。
そしたら店員さんがやってきて、「こちらの空いているテーブルを離させてもらってもいいですか」って聞くわけ。
「ああ、どうぞどうぞ」って言うじゃない。
テーブルをガガガッて動かしたら、紅ショウガの入っているトレーは向こうのテーブルにくっていていて、紅ショウガが一緒にあっちにいったんよ。
テーブルの移動は認めたが、紅ショウガの移動は認めていないと言いたかったけど、言わなかったよ。
なっ、少し悲しい話だろう」
「そうだな…」
そんなこんなで二人は肩を組んで上機嫌で帰っていった。

現れる黒いスーツの二人。
手にはテーブルの上にあったボイスレコーダーを持っている。
「ラボの計算は正しいのでしょうか」
「ああ、ほぼ間違いない。近しい未来にあの二人が世界を破滅におとしめるテロ行為を行う。これが世界を救う最良の方法だと計算されたのだ。
二人が酒を酌み交わす。
その会話の中で世界が滅びる発想が生まれる。
それを阻止するために、くだらないテーマを与える。
ただ酒につられて思考はそのことしか考えない。楽しいひとときを過ごし、二人のガスも抜け、世界は救われる。
まあ、そういうことだ」
黒いスーツの男はボイスレコーダーに録音されたファイルを消し、机の上に戻した。
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◎本日の想像話「試合」

2014年02月01日 | ◎これまでの「OM君」
「今度のファイトマネーは2倍だすよ」
マネージャーがそう切り出した。
そういう事を言い出すときにはろくな目にあっていない。
有刺鉄線蛍光灯爆破マッチ。
うまいことその気にさせられてやったがえらい目にあった。
結局その時のファイトマネーもほぼ通常どおりだった。
「マネージャー、勘弁してくださいよ。今度は何をさせるんですか」
「K(ケイ)よ~。悪いようにはしないんだって。ファイトマネー2倍だよ、2倍」
髪の毛はボサボサ。
葉巻をくわえながらマネージャーは言った。
本人はドン・キングを気取っているつもりだが、コロンボにしか見えない。
「それは、さっき聞きました」
俺のリングネームは「K」。
3発の必殺ナックルパンチで必ず倒す。
そういうふれこみだが、何のことはない、本名が川島だからだ。
小、中学とレスリングに汗を流した。
高校進学時に当時旗揚げしたばかりの新興インディーズ団体の門戸を叩いた。
基礎練習と投げ技禁止の地味な下積み時代を経て、それなりに稼げるレスラーにはなったつもりだ。
しかし、所属団体の経営不振は「K」個人の
力ではどうにも出来ない問題だ。
色物と言っては語弊があるかもしれないが、人目を引く、過激なマッチメークが組まれる様になってきたのだ。

「熊とやってほしい」
自分の耳を疑った。
この平成の時代にクマとは恐れ入る。
「クマって…。自分はウイリーにもマスターマスにもなれません。危険すぎます。言葉が通じないんですよ」
「しかもな…」
「聞いてるんですか!」
完全に聞き流しながら、マネージャーは話を続ける。
「しかもな…クマだけじゃないんだ。ライオンも同時にリングに放つ。クマ VS ライオン VS 人間の異種混合バトル・ロイヤルをやろうってんだ」
「無理ですよ」
「レスラーが無理って言うんじゃねえ。人のやらないことをやるのがレスラーだ」
出たよ。いつもの口癖だ。
「エア式の麻酔銃も手配するから大丈夫だあ。やってくれ」
「もう、すぐにリングアウトしてノーコンテストにしますよ」
「客を前にしてそれが出来るおまえじゃあないだろう」
そうなのだ。ファンサービスが身に及ぶ危険より勝ってしまう。
なるようになれだ。

試合当日を迎えた。
筋書きらしい打ち合わせもなく当日になった。
「麻酔銃お願いしますよ」
マネージャーにはそう言うのがやっとだった。
「ああ、あれね。やっぱり観客がいるなかでぶっ放すのは無理だから。用意してない。でも大丈夫だから」
何が大丈夫なものか。

リングを見て絶望した。
金網デスマッチ。
しかも爆破つき。
リングアウトでノーゲームの道も閉ざされた。
もう最悪には金網をよじ登ろう。
よじ登って天井にぶら下がろう。
そう心に誓った。

会場の熱気が地響きをたてるように体にひびく。
よしやってやる。

クマが飼育員と一緒にリングに入る。
口には一応猿ぐつわがかまされている。
ほんの気休めだ。
ライオンもリングに入った。
同じく猿ぐつわがかまされている。
思ったほど獣のにおいはしない。不思議だ。
心臓がせり上がる。
ゴングと同時に飼育員達はリングの外にでる。
おいおいどうなるんだよ。

人とクマとライオンはゴングの響きが残るなかリング中央に走り込んでいた。
クマは以外と小さく、立ち上がっても俺と同じくらいの身長だった。
しまったと思った時には組み付かれていた。
クマの顔が近づく。
「大丈夫だ」
「!」
クマがしゃべった。
「ぬいぐるみだよ、ライオンもそうだ。最後はロープにふられて三者爆破で終わろうや」
(マネージャーこれじゃあ、落語だよ)
そう思いながら、この試合の筋書きを考え始めていた。
なんて因果な商売だろう。
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