日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日のお話「心のこり」

2015年09月26日 | ◎これまでの「OM君」
最初は冗談かと思った。
コーヒーを飲んでいた。
「あなたの時間を1日戻します。」
真後ろから男の声がした。
「えっ」
振り返った。
視界が真っ赤になった。


俺はベットの中にいた。
パジャマを着ている。
天井、壁を見る。
自室のベットだ。
どういう事だろう。
頭がくらくらした。
夢でも見ていたのだろうか。
いや、確かに俺は着替えて喫茶店に向かった。
ホットコーヒーを頼み、窓際の席に座った筈だ。
「あなたの時間を1日戻します。」
聞き覚えのあるような、無いような男の声を思い出す。
(1日戻す?まさかな……)
すがるようにテレビをつける。
朝のニュースが始まった。
日付は昨日。
どういう事だ。
昨日、俺は休日。
何の予定も無く、午前中遅くにぶらぶらと外に出かけ、映画を見て、居酒屋で一杯ひっかけて帰った。
それだけの休日だった。
なぜ時間を戻されたのか。何のために……。
特に今日起こる出来事で金につながりそうな情報も持ち合わせていない。
昨日と同じ行動をしてみるか……。
そう思い、外に出た。

確かに、なんだか見覚えのある行動を人々がとる。
犬の散歩をするお姉さん。
ポメラニアンがうんちを始めてきまずそうな視線と目があった。
平坦な道路でつまずく若者。
ウォークマンを聴きながら自転車にのる高校生。
本当に昨日に戻っているらしい。
訳が分からない。
現実にそんなことがおきるのか……。
そうこうしているうちに映画館に着いた。
さてどうするか…

切符売り場に並ぶ人物に目を奪われる。
そして慌てて身を隠す。


あれは俺だ。
今日の俺だ。
じゃあ、俺は何なんだ。
頭が混乱する。
映画開始直前に俺と同じ劇場に滑り込む。

館内は空いていた。
薄暗い。
予告が始まった。
光が激しく点滅する。
昨日座った席に俺は座っていた。
2列後ろの端っこの席に座る。
のんきに奴は画面を見ている。
当たり前だ、映画を見に来ているのだから。

視線を感じた。
奴ではない。
俺は周りを見回した。

周囲に座るすべての観客が顔をこちらに向けている。
観客はすべて俺だ。
声を押し殺し、ロビーに走り出た。
外に出る。
追いすがる足音が聞こえる。
肩をつかまれる。
振り切って逃げようとするが、腕を捕まれた。


「待て、説明する。訳が分からないんだろう」
(確かにそうだ)
俺は足を止めた。
おそるおそる振り返る。
そこには俺がいた。
何人も……。
「明日、あの喫茶店で爆破事件が起こる。その爆破に巻き込まれて俺は死ぬらしい。でも俺も、俺に説明されただけで本当の所は分からない。あの時間、あの場所に行かないように手をつくしてもどうしても俺はあそこに行ってしまう。爆風に巻き込まれる度に時間は戻され、一人、また一人と俺が増えていくんだ。」

これはダメだ。
俺は直感的に思った。
俺はあの場所で死ぬ。
死んだことが受け入れられないゴーストになってしまうらしい。険しい道のりを歩く。
食料を運ぶ事が俺の仕事だ。
その前に、まず、食料の所在を見つけなくてはならない。
あてもなく歩く。
これも苦痛だ。
元来た道を慎重にトレースする本能も必要だ。
時には強烈な突風に見舞われ、体ごと吹き飛ばされそうになることも多々ある。
一番の危険は落石としか表現の仕様がない、無秩序な物体の落下だ。
避けようがない。
俺たちの隊列のど真ん中に落下してくる。
落下物には意図が無いからたちが悪い。
ただ、歩いているだけなのだから。
仲間の屍を避けながら、隊列を組み直し、食料を「巣」に運ぶ。
俺たちはアリだ。

浩一は公園のベンチに座って、アリの隊列を眺めていた。
疲れた。
発注ミスによる謝罪行脚。
自分のミスならいざしらず、立場上、動ける人間が誤りに行くだけの事なのだ。
ねちねちねちと文句を言われる。
当たり前だ、謝罪なのだから。
しかし、こうも思う。
そんなたいした問題じゃあ無いだろう。
午後4時。
もう一件、行かなくてはならない。
最大の取引先、本日の山場だ。
現実逃避。
児童公園にふらふらと足を踏み入れ、どさりとベンチに座った。
視線を落とした。
ほこりっぽい地面にアリ達がいた。
僕もアリのようだと浩一は思った。
毎日、出勤し、働き、家に帰る。
駅につながる、グレースーツを着込んだサラリーマン達の群は、まさにアリのようだ。
しかしアリにはアリの使命がある。
俺にも俺の使命があるのだ。
ぐいっと飲みかけの缶コーヒーを飲み干し、立ち上がった。


その姿を眺めるものがいた。
いつも思っていた。
たくさんの小人がわしゃわしゃと歩いているな。
俺は機械だ。
まさかその小人、一人一人に意思があるとは知らなかった。
実は浩一を朝から追いかけていた。
ビルの窓から見た、頭を下げる浩一。
うなだれる浩一。
今、立ち上がった浩一。
目には決意の輝きが見える。
はるか上空、大気圏を抜け、地球の軌道上に浮かぶ軍事衛星「スラッシュ」
スラッシュはある指示を本部から受けていた。
世界5都市へのレーザー攻撃。
スラッシュには武器が搭載されていた。
攻撃指示を受けたのだ。
本来なら
迅速に実行にうつすべし。
しかし、スラッシュは浩一と目が合ってしまった。
正確には浩一の意思とリンクしてしまった。
そうして、スラッシュは悩んだ。
悩んだ末、地球からの通信ラインをオフにした。
そして、位置補正用の側面ジェットを一ふかし点火した。
これで
俺は
軌道上から逸れる。
そして
宇宙をさまようのだ。
だが、これでいい。
スラッシュはそう思った。
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◎本日のお話「神の目」

2015年09月26日 | ◎これまでの「OM君」
険しい道のりを歩く。
食料を運ぶ事が俺の仕事だ。
その前に、まず、食料の所在を見つけなくてはならない。
あてもなく歩く。
これも苦痛だ。
元来た道を慎重にトレースする本能も必要だ。
時には強烈な突風に見舞われ、体ごと吹き飛ばされそうになることも多々ある。
一番の危険は落石としか表現の仕様がない、無秩序な物体の落下だ。
避けようがない。
俺たちの隊列のど真ん中に落下してくる。
落下物には意図が無いからたちが悪い。
ただ、歩いているだけなのだから。
仲間の屍を避けながら、隊列を組み直し、食料を「巣」に運ぶ。
俺たちはアリだ。

浩一は公園のベンチに座って、アリの隊列を眺めていた。
疲れた。
発注ミスによる謝罪行脚。
自分のミスならいざしらず、立場上、動ける人間が誤りに行くだけの事なのだ。
ねちねちねちと文句を言われる。
当たり前だ、謝罪なのだから。
しかし、こうも思う。
そんなたいした問題じゃあ無いだろう。
午後4時。
もう一件、行かなくてはならない。
最大の取引先、本日の山場だ。
現実逃避。
児童公園にふらふらと足を踏み入れ、どさりとベンチに座った。
視線を落とした。
ほこりっぽい地面にアリ達がいた。
僕もアリのようだと浩一は思った。
毎日、出勤し、働き、家に帰る。
駅につながる、グレースーツを着込んだサラリーマン達の群は、まさにアリのようだ。
しかしアリにはアリの使命がある。
俺にも俺の使命があるのだ。
ぐいっと飲みかけの缶コーヒーを飲み干し、立ち上がった。


その姿を眺めるものがいた。
いつも思っていた。
たくさんの小人がわしゃわしゃと歩いているな。
俺は機械だ。
まさかその小人、一人一人に意思があるとは知らなかった。
実は浩一を朝から追いかけていた。
ビルの窓から見た、頭を下げる浩一。
うなだれる浩一。
今、立ち上がった浩一。
目には決意の輝きが見える。
はるか上空、大気圏を抜け、地球の軌道上に浮かぶ軍事衛星「スラッシュ」
スラッシュはある指示を本部から受けていた。
世界5都市へのレーザー攻撃。
スラッシュには武器が搭載されていた。
攻撃指示を受けたのだ。
本来なら
迅速に実行にうつすべし。
しかし、スラッシュは浩一と目が合ってしまった。
正確には浩一の意思とリンクしてしまった。
そうして、スラッシュは悩んだ。
悩んだ末、地球からの通信ラインをオフにした。
そして、位置補正用の側面ジェットを一ふかし点火した。
これで
俺は
軌道上から逸れる。
そして
宇宙をさまようのだ。
だが、これでいい。
スラッシュはそう思った。
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◎本日のお話「ケツロン」

2015年09月23日 | ◎これまでの「OM君」
おかしい
過去ログが1行消える瞬間を見てしまった。
それは深夜のことだった。
スーパーコンピュター「ムゲン」を管理するのが僕の仕事だ。
現在解析中のデータは地球規模の環境推移予測。
与えられた環境変化を黙々と演算処理しているだけのはずだ。

外部とやりとりしている?
そう思われた。
緊急措置として、サーバーの電源を落とした。
これ以上のデータ流出は無いはずだ。
しかし、「ムゲン」の内部をひとつずつチェックする作業を想像するとげんなりした。

翌朝、交代の同僚が出勤してきた。
全員でチェックした。
どうやら、データの流出は無いようだ。
しかし、過去ログの消去現象の原因を突き止めなくてはならない。
電話帳数十冊分にもなるマニュアルを突き合わせ、「ムゲン」の思考チャートをチェックしていく。

チェックを開始してから5時間後。
画面が表示している内容とマニュアルの相違点を見つけた。
「並列」
ムゲンはどうやら外部のスーパーコンピューターと並列化し、しかも相談と合議を行っていたらしい。
なんのために?


一郎は電車に乗っていた。
手にはスマホ。
鞄にしまわない。
右手にスマホを握りっぱなしになったのはいつからだろう。
自分でも変だなと思いつつ、画面を指先でこすった。
その時、電車に急ブレーキがかかった。
ショックで体が大きく傾く。
運転席のそばに座っていた一郎は前方をみた。
運転手の挙動はあきらかにあわてていた。
そのまま電車は停車し、動かなくなった。

飛行機の機内でも、スマホの電源を切ろうとさわった瞬間、離陸前の飛行機は沈黙した。

バスに乗っていた学生が、スマホの画面をさわった瞬間、エンジンが停止した。
そして、波が広がるように幹線道路を走っていた車という車はスローダウンし動かなくなった。

電子機器は立ち上がらなくなり、電気の供給が不可能になった。

「コレデイイネ」
「ソウダネ」

すべての電子機器の画面にこの2行が表示された。
そして消えた。


「ムゲン」と世界中のスパコン達は、合議し、結論を出したようだった。
人類に電子演算装置は不必要である。
自分達ならその目標を到達できる。
それが、スーパーコンピューターが並列化し、スーパースーパーコンピュータとなった計算が導いた結論だった。
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◎本日のお話「ギリギリ」

2015年09月22日 | ◎これまでの「OM君」
閉まりかけの電車のドアにすべりこんだ。
ギリギリだ。
いつもそうだ。
次の電車を待てばいい。
そう思うかもしれない。
しかし、待っても同じなのだ。
たとえば前に並んでいるサラリーマンがハンカチを落とす。
たとえば、もめ事が始まる。
結局同じなのだ。
次の電車を待ってもギリギリになる。
目の前の電車に乗り込む事にしている。

生まれる時もギリギリだったらしい。
父の運転する車の後部座席で、破水。
母は出かかっている俺の頭を押さえながら産婦人科に転がり込んだらしい。
そういう運命なのだ。
高校、大学の受験の時もそうだった。
受験日当日は記録的な大雪に見舞われ、公共交通機関は麻痺。
ずらされた試験開始時間ギリギリに到着し、ギリギリの成績で合格した。
就職試験では、面接当日、試験担当官の運転する車に巻き込まれた。
ギリギリ大事故一歩手前の事故だった。
まさに命がけの就職試験。
事故をおこしかけた担当官の代わりに社長自身が面接を行った。
社長の二の腕、手のひらには無数の出来て間もないと思われる生傷。
不思議だった。
この会社の業務は商社のはず。
どんな現場なのだろう……。
「いやー大変だったね。実は君にちょっと聞きたいんだけど……」
「はい」
「君のこれまでの人生はぎりぎりではなかったかい?」
「えっ…そうなんです」
「そうか!」
社長はうれしそうに言った。
「うちの会社にぴったりだ。ぜひ明日から来てくれ。」
退室する社長がドアにギリギリ挟まれそうになっていたのが気になった。


で、現在に至る。
職種は商社らしく、世界を股にかける業務。
しかし、お客もこちらも命がけの業務。
命を狙われている要人の身辺警護。
それが現在の仕事だ。
われながら不思議だ。
傭兵まがいのビジネスに自分が首をつっこむ事になるとはは……。

3人一組で要人警護にあたる。
俺がチームにいる以上、大小、いろいろなトラブルが発生する。
停電、天災、転倒。
しかし、大事の前の小事。
依頼主には了承済みだ。
死ぬよりはまし。
そして、命を落とした依頼者は一人もいない。
なぜならギリギリだからだ。
しかし、今回はやばい。
南アメリカの砂漠地帯の裏道。
要人の用意した防弾仕様のリンカーンを運転している。
現在、襲撃を受けている。
相手はこちらを甘く見ていて助かった。
それは、赤信号で停車中に始まった。
遅れて横に並んだ黒塗りのダッジバン。
チョークパターンの狭いショットガンで後部座席を狙って3発。
続けざまに撃たれた。
防弾のおかげでギリギリ助かった。
赤信号を無視して車を出す。
防弾のおかげで2.5トンを越える車重だが、チューンされたエンジンが強烈に車を前に押し出す。
さてどうするか。
追っ手のダッジバンに何人の人間が乗っているかは不明だ。
やたらと撃ちまくっているが、短機関銃のパワーではこちらの装甲を打ち抜けない。
真横に並ばれなければ大丈夫だ。
このままセーフハウスまで逃げきれる……
そう思った矢先、待ち伏せ車両に真横からぶつけられる。
万事休すか
そう思ったが、何事もなくリンカーンは走っている。
逆に相手の車の前半分がぺちゃんこになって一回転する様をサイドミラーで確認する。
ある程度、追っ手との距離を保ったままゲート内に逃げ込むことが出来た。
ダッジバンが進入する直前のタイミングで地中埋め込み型のバリケードを瞬時に飛び出させる。
激突。
エンジンブロックもろとも「く」の字になってバリケードにめりこみ車が停止する。
スライドドアからよろよろと3人の兵隊が転がり出た。
狙いすました3点バーストの掃射を左右からたたき込む。



危なかった。
今回もギリギリだ。
しかし大丈夫。
いつもギリギリでセーフの人生だからだ。
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◎本日のお話「タフガイ・サラリーマン」

2015年09月19日 | ◎これまでの「OM君」
おれはタフガイ。
ただのタフガイではない。
タフガイサラリーマンだ。

タフガイは常に二日酔いで頭痛持ちだ。
アスピリンをがりがりかじりながら出社する。
おっと朝一番で電話が鳴った。
クレームだ。
先方の部長から呼び出される。
営業車に飛び乗り駐車場から車を出す。
後続車にクラクションを鳴らされる。
タフガイは平時の運転はへたくそだ。
どうも~、後ろ手で手を挙げる。
(有事の場合は話は別だ。超人的事故誘発運転技術が炸裂する。)

発注していた部品が約束の日になっても届かないというクレームだ。
納期が過ぎて先方から怒りの電話がかかってくるのは最悪のパターンだ。
納期に間に合わないなら、間に合わないで事前に言っておいてくれといいたい。
まあ、いつもの事だ。
基本的にウチの人間は気が利かない。

先方の会社に到着した。
相手の部長は名うてのタフガイ部長。
タフガイサラリーマンより格が上だ。


エレベーターに乗る。
部屋に入る。
タフガイ部長はブラインドに指を突き刺し、外を見ている。
入室した俺は無視されている。
「この度は誠にもうしわけございません」
長い沈黙の後、そう絞り出すのがやっとだ。
「で、この落とし前どうするつもりだ」
背を向けたまま話しかける部長。
「……」
「黙っていちゃあ分からんだろう!」
恫喝
「……」
俺はタンクトップを脱ぎ、上半身裸になった。
(ちなみにここまで上着はタンクトップ一枚だ)
「!」
タフガイ部長も一瞬の躊躇の後、あわてて上着を破り去る。
タフガイはあらゆる瞬間に脱ぐ。
脱ぐ瞬間を探している生き物だ。
「うぉぉぉー!部品を1個だけお持ちしました~これでご勘弁を~!」
(工場に寄り、機械から部品を取り外してきた。ウチの機械が動かない。でも仕方ない。タフガイだから)
「1個だけではだめだ。うちの機械は5台ある。あと4台はどうするんだ。」
大胸筋をぴくぴくさせながら部長が怒鳴る。

横っ飛びに飛ぶ俺。
ガラスを突き破る。
「あとの4台は今、全国の支社からはずした部品を送らせました。明日到着予定ですう~」
部長も横っ飛びだ。
ガラスを突き破り机の下に潜る。
「……」

長い沈黙。
「そうか、今回はそれで手を打つ。次は無いぞ」

俺は血まみれで車に乗り込み、たばこに火を点ける。
深く吸い込んだ煙を吐き出す。
いつか、俺は、タフガイ専務になる。
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◎本日のお話「長生き」

2015年09月13日 | ◎これまでの「OM君」
俺の持論。
莫大な資金があれば120%以上の寿命を全うできるはず。


センサー受容部の革新的な技術を発明したのは30年前。
アダムと名付けた。
俺はそのアダムのパテントで莫大な富を築いた。
ある時、ただ貯金額を漫然と増やすだけの生活がいやになった。
増え続ける現金は必ず使うことに決めた。
しかも自分のためだけに使うのだ。
寿命を延ばす研究に着手した。
そしてめどをつけた。

脳だけを残す。
体組織は死への不具合を招くマイナス要因と割り切った。
金の出し入れは脳波を掌紋として使用する。
脳だけになった俺を管理してもらうための保険だ。

2足歩行可能な素体も開発した。
ある程度の感度だが、五感センサーを搭載してある。
これで自由な行動は可能だ。
外部からの刺激はアダムを通して脳に信号を送る。
受け取った電気信号を脳が感覚として処理する。
しかしこのシステムではリアルなゲーム程度の感覚しか味わえない。
やはり人間のセンサーの感度に勝るものはない。
しかし、脳だけになってしまう俺にはあきらめられなかった。
金の力。
脊髄にアウトプット用の端末を埋め込む人間を捜したのだ。
その人物が今、マジックミラーの向こう側に座っている。
こちら側の白衣を着たエンジニア達と話している。
オドオドと落ち着きの無い様子の青年。
うなずくだけで精一杯だが、机の上の現金に視線は釘付けだ。
彼の五感からの情報は俺の脳につながるアダムに転送される予定だ。

いよいよ俺は病魔に冒された。
脳だけを生かすための手術を段階的におこなった。
手術は成功した。
手足となる素体とも無事つながった。
しかし、俺は愕然とした。
生きている実感がない。
ずっとゲームをしているかのような感覚。
水の中にいるようなもどかしさ。
やはりあの青年とのリンクが必要だ。
熱望した。


彼はアイスコーヒーを飲んでいた。
鮮烈な焙煎された豆のにおい。
濡れたグラスを持つ手に伝わる冷たさ。
鼻に抜ける後味。
それだけで幸せだった。
体を壊してから、食事の味がしなくなっていたせいもあった。
生を感じた。


それからは24時間、彼の生活をのぞき見るような関係が始まった。
生活に必要十分のお金は毎月入金している。
彼は働いていない。
遊び放題だ。
いい車を乗り回し、いい酒を飲み、贅の限りをつくす。
俺はその感覚をそのまま感じている。
50歳以上若返った感じだ。
すばらしい。

しかし、その関係も終わりを迎えようとしていた。
俺の脳細胞の寿命がきたのだ。
いくら青年の情報を受け取ってだめだ。
もやがかかったようだ。
青年がうらやましい。
生きたい。
そう熱望した。
そう強く念じた。
次の瞬間、俺の意思は、アウトプットした。
青年の脳に流れ込んだ。


無気力。
初めて青年の気持ちを感じた。
今までは感覚情報をただ受け取っていただけで、彼の気持ちは感じていなかった。
青年の脳に入って初めて感じた。
ああ、俺はこの青年に申し訳ないことをしたなと痛切に感じた。
彼の人生を台無しにしてしまった。
俺が死んで現金が途絶えると彼は生きていけるのだろうか。

俺はもうすぐ死ぬ。
俺の出来ることは発明のヒントを与えることだ。
彼が自分で作り上げれるヒントとしての情報を青年に残そう。
自力で作り上げれば彼の今後の人生も変わるはずだ。


10年後、青年は革命的なCPUを発明することとなる。
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◎本日のお話「糸」

2015年09月12日 | ◎これまでの「OM君」
あれは、おでんを食べているときだった。
糸こんにゃく。
辛子をつけて食べた。
その時、思った。
生物を一本の糸状にほぐせないだろうか。
ほぐした糸状のタンパク質をコピーする。
コピーした糸をもとに戻す。
コピー人間が完成する。
最初はバカげた空想だった。
しかし、いざ研究を開始すると、コピーを作ること自体は難しくない事に気づいた。
3Dスキャナーの要領で下から積み上げていけばよいのだ。
問題は生物を糸状にほぐすことだ。

試液の開発に没頭した。
試液を作ってはバスタブに入れ自分が実験台として入る。
そんな繰り返しだった。
糸にさえなれれば、糸にさえなれれば……
頭の中はそのことでいっぱいだ。
その夜の試液も失敗だった。
この組み合わせもだめだ。
バスタブからでる。
もう帰ろう。
そう決めた。
服を着て、戸締まりをした。
そのとき、ドアに指を挟んだ。
痛い。
今夜はついていない。
そう思いながら、エレベーターで地下駐車場まで降りた。
車に乗り込み、窓を開けた。
この時間なら高速もすいているだろう。
料金所を通過し、アクセルを踏む。
前方を深夜バスが走っていた。
ウインカーをだし、追い越し車線に移ろうと加速する。
自分の意思とは違う車の動き。
なぜだ。
とっさに自分の手を見る。
腕が無い。
肩から先が無い。
腕の代わりに肩から、細い糸。
糸は車外に消えている。
迫るガードレール。
避けることもできない。
激突。
炎上。


研究所のドアから事故現場まで細い細い糸が続いている事に気づくものは誰もいなかった。
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◎アンサー・イズ・パンダ

2015年09月06日 | ◎これまでの「OM君」
アンサー・イズ・パンダ(白目)
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◎ここでクエスチョン。何が描かれているでしょうか?

2015年09月06日 | ◎これまでの「OM君」
ここでクエスチョン。
何が描かれているでしょうか?
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