日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日のお話「絶体絶命の遅刻に現れる天使」

2015年12月29日 | ◎これまでの「OM君」
やばいー
彼女と会う約束の時間はとっくにすぎている。
そんな時にかぎってどの駐車場も満車だった。
彼女の携帯に電話してもでない。
これは完全に怒っている。
やばい
やっとみつけた空きの駐車場は立体駐車場。
1階満車。
2階満車。
3階満車。
ぐるぐる回りながら車は上る。
俺の人生いつもこうだな。
焦っているのか冷静なのか分からなかったが思考は現実逃避を求めて迷走した。
もともと無計画な俺が悪いのだが、焦れば焦るほど状況が悪化していった。
無言で去っていく彼女の後ろ姿を想像してしまった。
目がまわったのか、スピードの出し過ぎか。
やっと空きを見つけたのは8階。
慌てて車から飛び出す。
エレベーターの降下ボタンを連打する。
連打したところでエレベーターが早く動くわけではない。
のろのろと1階からやってくる。
チーン。
涼しげな音がして沈黙の後ドアが開く。
「本日はご利用ありがとうございまーす」
サンダーバードのような帽子をかぶったスーツの女性がそう言った。
(エ、エレベーターガール…)
そうなのだ。エレベーターガールが乗っていたのだ。
「ご利用階数は何回ですか~」
そう脳天気に聞いてくる。普通に考えて、上から下に降りる人は1階に行くだろう。そう思いながら「1階でお願いします」
「はいかしこまりました~」
手袋をつけた指は1階のボタンを素早くおした。
エレベーターは降下を始める。
(待ち合わせ場所まで、ここから10分以上走らないとだめだ。どうしよう、どうしよう)
「次のご利用場所はどちらですか~」
「えっ?」
「ですから1階の次にお客様が向かわれる目的地はどこですかとお聞きしております。」
この人は、はたして何をいっているのか。
焦っている俺の様子を見て、世間話でもしようというのか。
エレベーターはまだ降下している。
「彼女とレストラン「しおさい」で待ち合わせなんですけど、実はすでに遅刻…」
言い終わらないうちにエレベーターガールは言った。
「かしこまりました~。カルボナーラのおいしいレストラン「しおさい」にご案内いたします~。」
「え、何言ってるの」
エレベーターは降下を止めた。
そして前進した。
まるでジェットコースターか、ジェット戦闘機のような強烈な加速。
壁にたたきつけられる。
転ぶ。
そして転んだまま彼女を見た。
涼しげな表情で彼女は立っている。
何事もないかのように。

右に左にエレベーターの箱はシェイクされる。
俺の体もごろごろと転ぶ。
どういうことなんだ。
急停車する箱。
チーン
「レストラン「しおさい」に到着いたしました。さあ急いで。」
エレベーターガールは俺の手をとり、ふわりとお姫様だっこした。
そのまま、レストランのドアを開け、店員の問いかけにも答えず凄いスピードで店の奥まった席に向かった。
彼女はいた。
爆音を発しながら近づく俺たちに彼女と目が合う。
そして急停止。
「遅れてごめん」
お姫様だっこされたまま俺は言った。
彼女は言った。
「その女は何なのよ」
俺が聞きたいよ。
そしてこれからの展開を思うと憂鬱になった。
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◎本日のお話(ミスター・ホーコーの野望)

2015年12月05日 | ◎これまでの「OM君」
むかしむかしあるところに最強の矛があった。
最強であることを矛自体が望んでいた。
そのため持ち主は次々と変わっていった。
あるものは戦いに敗れ、あるものは老いに負けた。
現在の持ち主はミスターホーコー。
ホーコーは生まれついての武人であり、鍛錬も怠らなかった。
手元に矛を永遠に置いておきたかった。
ホーコーは考えた。
どうすれば矛は俺の手元にあり続けるのか。
来る日も来る日も考えた。
ある時気づいた。
それはトイレで用を足しているとき。
電流がはしった。
古来、矛盾という言い伝えがある。
最強の矛と最強の盾。
論理の整合性はとれない。

「そうか!」
ホーコーは感じた。
そして最強の矛を城の際深部に位置する道場に飾り、戦うことをやめた。

それからすぐに戦乱の世は終わった。

ホーコーの望み通り、矛は死ぬまでホーコーの手元にあった。

ホーコーの死後、最強の矛は門下生最強の男の手元に渡った。
そこに最強の盾をもった男が現れた。
その男は武人と言うより研究者のように見えた。
手合わせを望んだ。
ホーコーの弟子は言った。
「あなた死ぬかもしれませんよ。よろしいのですか?」
「いいえ死にません。そしてあなたも死にません。ただ私の発明した盾が最強であることを証明したいのです。」

勝負が始まった。
かまえる矛。
迎える盾は畳半畳ほどの平らな板状をしていた。
盾を構える男は隙だらけだ。
どこからでも致命傷を与えられるようにホーコーの弟子は感じた。
勝負は勝負だが、手足の一本で勘弁してやる。命までは取るまい。

そう決心し、一撃をはなった。
盾は半畳が一畳、一畳が二畳と広がり、六畳となった。
六枚の盾が男を囲む立方体となった。

ガツン
重い音。
矛の刃先だけが盾を貫通した。
しかし、それ以上刃が進まない。
ぐっ
驚愕の息をもらし、矛を抜く。
穴はじんわりとふさがり、キューブがそこにただ、あった。

あとは同じ攻防の繰り返しだった。
刺そうが突こうが中の男まで刃が到達しない。
盾は傷つくが自己修復する。
ホーコーの弟子は、徒労感に襲われた。
そしてホーコーの弟子の弟子達にキューブを城外まで担ぎ出させた。
そしてホーコーの弟子もまた、戦うことをやめた。
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