ミツオとエリーが取調室から解放されるたのは十時間後だった。
「あいかわらず、お前は面倒をおこす」
「相沢さん、いつもすみません」
何度も警察ざたになっているミツオには知り合いの警部がいた。相沢は定年間近の老警部、人生と人間の酸いも甘いも分かっている男だった。相沢ははげ上がった頭とせりだしたお腹の両方をなでながらミツオとエリーに話を続ける。
「今回の件は世間を騒がす、一大スキャンダルとなっている。表には大勢のマスコミがお待ちかねだ。分かっているだろうが、余計な事は言うな」
「須田はどうなりましたか」
相沢は言うかどうか、一瞬の逡巡を経て口を開いた。
「お前達を宇宙に送り込むための偽装手配、天空のシステム乗っ取り、博士への脅迫、その他もろもろ罪に問われている。しかし、情状酌量の余地もあると我々はみている」
相沢警部は裏口へと二人を誘った。「穏便に処理していただいてありがとうございました」
ミツオが頭を下げる。
相沢は二人を静かにおくりだした。 門の外には道明寺と佐々木が二人を待っていた。
「巻き込んで悪かったな。あの場で倒れているお前達を見たときは心臓が止まるかと思ったよ。完全に悪ふざけだったな」
「あれは佐々木が悪い」
道明寺が佐々木をにらむ。
「脱出ポッドが近づく音がしたとたんバタリと倒れこんで、お前もやれって……」
「いや、おもしろいかなと思ってな、思いついた直後には、もう体が動いていた」
「ご家族の様子はどう?」
エリーが道明寺に聞いた。
「取り調べを終えた博士は奥さんと娘さんのもとにすぐに帰ってきた。民間のスキャンダルであって、刑事事件ではないから良かったね」
佐々木が思い出したように口を挟む。
「博士が言っていた。事後処理の後も地球にいようかと思うって。あんた達によろしく伝えてくれとも言われた」
誰が誘うでも無く、四人の足は道明寺のバーへと向かっている。
おしまい
「あいかわらず、お前は面倒をおこす」
「相沢さん、いつもすみません」
何度も警察ざたになっているミツオには知り合いの警部がいた。相沢は定年間近の老警部、人生と人間の酸いも甘いも分かっている男だった。相沢ははげ上がった頭とせりだしたお腹の両方をなでながらミツオとエリーに話を続ける。
「今回の件は世間を騒がす、一大スキャンダルとなっている。表には大勢のマスコミがお待ちかねだ。分かっているだろうが、余計な事は言うな」
「須田はどうなりましたか」
相沢は言うかどうか、一瞬の逡巡を経て口を開いた。
「お前達を宇宙に送り込むための偽装手配、天空のシステム乗っ取り、博士への脅迫、その他もろもろ罪に問われている。しかし、情状酌量の余地もあると我々はみている」
相沢警部は裏口へと二人を誘った。「穏便に処理していただいてありがとうございました」
ミツオが頭を下げる。
相沢は二人を静かにおくりだした。 門の外には道明寺と佐々木が二人を待っていた。
「巻き込んで悪かったな。あの場で倒れているお前達を見たときは心臓が止まるかと思ったよ。完全に悪ふざけだったな」
「あれは佐々木が悪い」
道明寺が佐々木をにらむ。
「脱出ポッドが近づく音がしたとたんバタリと倒れこんで、お前もやれって……」
「いや、おもしろいかなと思ってな、思いついた直後には、もう体が動いていた」
「ご家族の様子はどう?」
エリーが道明寺に聞いた。
「取り調べを終えた博士は奥さんと娘さんのもとにすぐに帰ってきた。民間のスキャンダルであって、刑事事件ではないから良かったね」
佐々木が思い出したように口を挟む。
「博士が言っていた。事後処理の後も地球にいようかと思うって。あんた達によろしく伝えてくれとも言われた」
誰が誘うでも無く、四人の足は道明寺のバーへと向かっている。
おしまい
「さち子、それはどういうことだ」
博士は妻の名を呼ぶ。
「須田さんとはずいぶん前から面識はありました。研究所を去ったと聞いていて、どうしたのかなと思っていました」
博士はさち子から視線を外す。
そのタイミングで倒れていた道明寺と佐々木が上半身を起こした。
その場にいた一同が息を飲んだ。
「お前達、大丈夫なのか」
ミツオが二人のそばに座り込む。 須田以外の全員が床に座り込む格好になった。道明寺が口を開く。
「軌道エレベータの点滅が、モールス信号なのだと、すぐに分かりました。信号の発信者がミツオとエリーという著名もありましたので、殺人事件を未然に防ぐ義務感にかられて博士の家に駆けつけました」
佐々木も説明を始めた。
「さち子さんと、娘さんが一人の男と玄関先で立ち話をしているのが見えました」
落ち着きを取り戻した、さち子が続ける。
「にわかには信じられない話を、須田さんから突然言われて、困惑していました。そんな時に、研究を無断で利用したという発表を読み下した人物が現れたので、おそらく事実なのだなと思いました」
道明寺が結論を言った。
「私たちは博士の口から事実を聞き出すために、一芝居うつと決めたのです」
突然、奥の扉が開いて娘が走り出てきた。そのままの勢いで床に座っている博士に抱きつく。久しぶりに父と再会するうれしさもあったであろう、泣きじゃくる娘の頭をなでながらやさしく話しかける。
「お父さんはやってはいけないことをした。でも事実なんだ」
大気圏を突き抜けてきた脱出ポッドのせいなのだろう、周囲が騒がしくなってきた。いくつものサイレンが鳴り響きだした。
「須田よ、私はどうすればいい」
「博士、公式な発表を関係各所にお願いします」
「わかった」
地域住人からの目撃証言から得た情報で、多数の警察関係者が家に踏み込んできた。
ミツオ達は事情聴取のため、警察車両にいざなわれる。
博士は妻の名を呼ぶ。
「須田さんとはずいぶん前から面識はありました。研究所を去ったと聞いていて、どうしたのかなと思っていました」
博士はさち子から視線を外す。
そのタイミングで倒れていた道明寺と佐々木が上半身を起こした。
その場にいた一同が息を飲んだ。
「お前達、大丈夫なのか」
ミツオが二人のそばに座り込む。 須田以外の全員が床に座り込む格好になった。道明寺が口を開く。
「軌道エレベータの点滅が、モールス信号なのだと、すぐに分かりました。信号の発信者がミツオとエリーという著名もありましたので、殺人事件を未然に防ぐ義務感にかられて博士の家に駆けつけました」
佐々木も説明を始めた。
「さち子さんと、娘さんが一人の男と玄関先で立ち話をしているのが見えました」
落ち着きを取り戻した、さち子が続ける。
「にわかには信じられない話を、須田さんから突然言われて、困惑していました。そんな時に、研究を無断で利用したという発表を読み下した人物が現れたので、おそらく事実なのだなと思いました」
道明寺が結論を言った。
「私たちは博士の口から事実を聞き出すために、一芝居うつと決めたのです」
突然、奥の扉が開いて娘が走り出てきた。そのままの勢いで床に座っている博士に抱きつく。久しぶりに父と再会するうれしさもあったであろう、泣きじゃくる娘の頭をなでながらやさしく話しかける。
「お父さんはやってはいけないことをした。でも事実なんだ」
大気圏を突き抜けてきた脱出ポッドのせいなのだろう、周囲が騒がしくなってきた。いくつものサイレンが鳴り響きだした。
「須田よ、私はどうすればいい」
「博士、公式な発表を関係各所にお願いします」
「わかった」
地域住人からの目撃証言から得た情報で、多数の警察関係者が家に踏み込んできた。
ミツオ達は事情聴取のため、警察車両にいざなわれる。
須田は、博士の言っている意味が理解できずに困惑している。
そのとき、エリーは床に倒れている二人の看病をしていた。二人の生体反応をスキャンしていたエリーは、どうやら命には別状が無い状況であると判断する。
エリーは静かに自分の手を壁にかざす。手のひらから、プロジェクターの光があふれる。壁にライブ映像が映し出された。化学界の一大スキャンダルを女性キャスターが声高に報じている。須田は驚きの表情でニュースを見ている。同じ情報が連呼されているのを見て、エリーが説明を始めた。
「行きの軌道エレベーターの中で、ミツオと私はどうしたら良いのかを考えた。須田さんを止めるには、一刻も早く公表するしかないと博士を説得しました。公表するにしても、すぐには地球に戻れない。通信も遮断されている。だから地表から宇宙へと続く軌道エレベータのライトを使って、洗いざらいの情報を流しました。モールス信号です。さすがに世の中の人が気づくのには難問だったようですが」
「すまなかった」
やっと上半身をおこした博士が、口をひらく。
「研究費の打ち切りが決まっていて、どうしても結果が欲しかったのだ。君の命ともいえる研究発見を盗んでしまって、今更だが申し訳ないと思っている」
須田はだまって博士を見ている。須田は奥さんに向けた刃を下ろした。呪縛の解かれた妻は、博士に駆け寄った。座り込んでいる博士のすぐそばに同じように倒れ込んだ。
「今回の発表は私も加担しているのです」
妻の目には涙があふれていた。
そのとき、エリーは床に倒れている二人の看病をしていた。二人の生体反応をスキャンしていたエリーは、どうやら命には別状が無い状況であると判断する。
エリーは静かに自分の手を壁にかざす。手のひらから、プロジェクターの光があふれる。壁にライブ映像が映し出された。化学界の一大スキャンダルを女性キャスターが声高に報じている。須田は驚きの表情でニュースを見ている。同じ情報が連呼されているのを見て、エリーが説明を始めた。
「行きの軌道エレベーターの中で、ミツオと私はどうしたら良いのかを考えた。須田さんを止めるには、一刻も早く公表するしかないと博士を説得しました。公表するにしても、すぐには地球に戻れない。通信も遮断されている。だから地表から宇宙へと続く軌道エレベータのライトを使って、洗いざらいの情報を流しました。モールス信号です。さすがに世の中の人が気づくのには難問だったようですが」
「すまなかった」
やっと上半身をおこした博士が、口をひらく。
「研究費の打ち切りが決まっていて、どうしても結果が欲しかったのだ。君の命ともいえる研究発見を盗んでしまって、今更だが申し訳ないと思っている」
須田はだまって博士を見ている。須田は奥さんに向けた刃を下ろした。呪縛の解かれた妻は、博士に駆け寄った。座り込んでいる博士のすぐそばに同じように倒れ込んだ。
「今回の発表は私も加担しているのです」
妻の目には涙があふれていた。