その日も俺は同僚と居酒屋で安酒を飲んでいた。
「そういえばあの女の子はどうしたの?昭子ちゃん。まだつきあってるの」
目の前の同僚は俺に聞いた。
「とっくに別れた。もともと二股かけてたし。ちょっとばれたらぎゃーぎゃー騒ぐから部屋から放り出した。それっきり」
「いいよなお前はイケメンだもんな。でも何やっても許されるわけじゃあないぞ」
「いいんだよ。イケメンは何やっても許されんだよ」
そういって俺はグラスの酒をあおった。
背後からハイヒールの足音が聞こえた。
振り返ったが誰も歩いていない。
なおハイヒールの音は聞こえ続けている。
「おい、なんか聞こえる?」
「別に」
「女ものの靴音聞こえない?」
「いいや。なんか聞こえるの。お前だけ?それって歴々の振った女の呪いじゃねえの」
「変な事、言うなよ」
俺の顔は強ばった。
ネットの時代だぞ今は。呪いなんてばかばかしい。俺は信じないぞ。
しかし、事実、ハイヒールの足音は鳴りやまない。
平静を装いながら、早めのお開きとした。
いくら酒を飲んでも酔いやしない。
相変わらず聞こえているのだ。
しかも、最初はすごくゆっくりだった歩調だった。
今や完全に全力で走っているのだ。
俺は今や気が狂わんばかりだ。
店を出て最寄り駅に向かった。電車に乗っている。
ずっとだ。
ずっと足音がついてきている。
これ、このまま家に帰っても大丈夫なのか?
部屋の中に一緒に入ってきて姿を現すってオチじゃあないの。
電車は停車した。
降りる駅じゃあないがだまって電車に乗っていられる心境ではない。
ドアが開ききるのも待ちきれず、開いている最中のドアの隙間に体を斜めにねじ込みながら降りる。
ホームを走る。
階段を上る。
改札を出る。
聞こえる。
全力疾走のハイヒールの靴音が追いかけてくる。
階段を下る。
そのとき、つまずいた。
普段、運動の「う」の字もしていない。
足がもつれた。
体は宙に投げ出された。
踊り場までまっさかさまだ。
顔面をしたたか打ちつけた。
鉄の味が口の中にひろがる。
起きあがれない。
体のどこをどう痛めたのか、見るのも怖い。
俺を見下すいろいろの人の顔が視界に入る。
あれっ、昭子。
なんでここにいる……
「これが超指向性スピーカーになります。一見スマホ風の外観に仕立てました。この指向性スピーカーは向けた相手にだけ音が聞こえるように出来ています。これが現代の呪いです。さあ、昭子さん。存分に恨みを晴らしてください。ああ、お代は結構です。ただし、実行の日時を教えてください。私、人が苦しむのを観察するの事が大好物なんです」
こういったやりとりが新宿の喫茶店であった事をイケメンは知らない。
「そういえばあの女の子はどうしたの?昭子ちゃん。まだつきあってるの」
目の前の同僚は俺に聞いた。
「とっくに別れた。もともと二股かけてたし。ちょっとばれたらぎゃーぎゃー騒ぐから部屋から放り出した。それっきり」
「いいよなお前はイケメンだもんな。でも何やっても許されるわけじゃあないぞ」
「いいんだよ。イケメンは何やっても許されんだよ」
そういって俺はグラスの酒をあおった。
背後からハイヒールの足音が聞こえた。
振り返ったが誰も歩いていない。
なおハイヒールの音は聞こえ続けている。
「おい、なんか聞こえる?」
「別に」
「女ものの靴音聞こえない?」
「いいや。なんか聞こえるの。お前だけ?それって歴々の振った女の呪いじゃねえの」
「変な事、言うなよ」
俺の顔は強ばった。
ネットの時代だぞ今は。呪いなんてばかばかしい。俺は信じないぞ。
しかし、事実、ハイヒールの足音は鳴りやまない。
平静を装いながら、早めのお開きとした。
いくら酒を飲んでも酔いやしない。
相変わらず聞こえているのだ。
しかも、最初はすごくゆっくりだった歩調だった。
今や完全に全力で走っているのだ。
俺は今や気が狂わんばかりだ。
店を出て最寄り駅に向かった。電車に乗っている。
ずっとだ。
ずっと足音がついてきている。
これ、このまま家に帰っても大丈夫なのか?
部屋の中に一緒に入ってきて姿を現すってオチじゃあないの。
電車は停車した。
降りる駅じゃあないがだまって電車に乗っていられる心境ではない。
ドアが開ききるのも待ちきれず、開いている最中のドアの隙間に体を斜めにねじ込みながら降りる。
ホームを走る。
階段を上る。
改札を出る。
聞こえる。
全力疾走のハイヒールの靴音が追いかけてくる。
階段を下る。
そのとき、つまずいた。
普段、運動の「う」の字もしていない。
足がもつれた。
体は宙に投げ出された。
踊り場までまっさかさまだ。
顔面をしたたか打ちつけた。
鉄の味が口の中にひろがる。
起きあがれない。
体のどこをどう痛めたのか、見るのも怖い。
俺を見下すいろいろの人の顔が視界に入る。
あれっ、昭子。
なんでここにいる……
「これが超指向性スピーカーになります。一見スマホ風の外観に仕立てました。この指向性スピーカーは向けた相手にだけ音が聞こえるように出来ています。これが現代の呪いです。さあ、昭子さん。存分に恨みを晴らしてください。ああ、お代は結構です。ただし、実行の日時を教えてください。私、人が苦しむのを観察するの事が大好物なんです」
こういったやりとりが新宿の喫茶店であった事をイケメンは知らない。