居酒屋にて
客「一人なんだけど空いてる」
店員「いらっしゃいませ。ご予約はありますか」
客「え、この店、千円でベロベロのせんべろのお店でしょう」
店員「そうでございます。立食パーティー専門店でございます」
客「立食パーティーって立ち飲みでしょう」
店員「そうともいいます」
客「予約はしてないけど、見たところお客さん居てないようだけど?」
店員「ではこういたしましょう。今、私がこの場でご予約承ります。そしてスマホに予約票を送信しますので、お客様のスマホに表示されたバーコードを読み込ませてもらって、それから百個ほどアンケートに答えてもらって、それから指紋登録させてもらって、それから静脈認証させてもらって、それから声紋認証もさせてもらって…」
客「ペンタゴンに就職する時にいるヤツよそれ。もういい、他の店に行く」
店員「いや、お待ちください本日は大サービス。予約システムは結構です。どうぞご入店ください」
客「めんどくさいな。最初からだまって飲ましゃあいいんだよレモンサワー」
店員「私、目黒と申します。レモンサワーという名前ではございません」
客「おう、それは悪かったな目黒さん。じゃあ、目黒さん、あらためてレモンサワーを一杯いただけますか」
店員「レモンサワーございません」
客「無いの?じゃあ、生ビール」
店員「生ビールもございません。そもそもアルコールございません」
客「千円でベロベロに酔っぱらう「せんべろ」じゃないの」
店員「違います。おいジョン行け」
客「うわ!ゴールデンレトリバーがべろべろなめてきたよ」
店員「そうです。当店おすすめのレトリバー・ジョンが千円でお客様の心を癒すおもてなしをする。そういうお店でございます」
客「ジョン・ベロの店だったか」
コンビニにて
買い物かごを持ってレジに向かう。
店員「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうには制服を着た店員がいる。のれんが掛かっていて店員の手元しか見えない。
客は不審に感じながらものれんの隙間に買い物かごを押し込む。かごを受け取った店員が会計を始める。
商品のバーコードを読み込む音と商品名を読み上げる声が聞こえてきた。
単調に読み上げていた声は次第にリズムと音階をきざみだす。旋律は曲となり店員が本格的に歌いだした。
店員「♪お弁当は暖めますか~」
客「はい、お願いします」
店員「はい?らららー」
客「暖めてください」
店員「ちょっとうるさくてよく聞こえないんです」
客「いや、うるさいのは大声で歌っているからですよ。歌うのをやめたらいいのでは」
店員「僕から歌を取ったら何も残りません」
客「そんな大事な提案をしているわけではありません。とりあえず弁当を温めてください」
店員「熱燗でいいですか」
客「お湯を使用して温めるのはだめです」
店員「湯せんもだめ?」
客「だめです」
店員「超能力では」
客「超能力で温めるなんて、すごい事言いますね」
店員「ええ、すごいでしょう。ただし食べ頃温度に到達するにはきっちり三十八時間かかりますがよろしいですか」
客「よろしくないです。でも超能力は見てみたい気がしますが、どんな感じで温めますか」
店員「こうシャツの中に弁当を入れて素肌に弁当を密着させて…」
客「それ人肌やね」