過剰な男の独白
髭を剃る道具はT字シェイバーが最強と思っている。しかも刃の枚数は多ければ多い方が良い。電気ひげ剃りでは私の要求を満足するカスタマイズが出来ないからだ。首振りヘッドに装着される刃の枚数は改良に改良を重ねて、とうとう七十七枚に到達した。七十七枚刃ともなると替え刃の厚さは七センチを越えるビッグヘッドとなる。恐ろしい深剃りを予防するにはシェイビングクリームを特盛りで顔面に盛りつける。視界不良になるぐらいが丁度いい。今となってはほぼ目をつむって剃り上げる技術を拾得している。
朝食で飲むのはブラックコーヒー。特注のマグカップに入れる。私のマグカップはバケツぐらいの大きさを想像するとちょうど良い。世の中に流通するマグカップにはバケツ大のものがなかったので自分で作り上げた。ドリップするのも一苦労となる。マグカップがセット出来るドリッパーが存在しないので、一から作る事となった。なんだかんだで、ドリッパーの大きさは冷蔵庫ほどになってしまった。
朝食は目玉焼きとパンと決めている。卵の数は十二個。これまた特注のフライパンで一気につくる。十二個のくぼみが花形に配置されている美しいフライパンだ。重さは十キロある。焼き上がった十二個の目玉焼きを垂直に積み上げて皿に盛る。
食パンは一斤まるまるをトーストする。これも立方体のパンをを上手に焼き上げるトースターは無いので自作した。遠赤外線を併用したもので、外はカリッと、中はモッチリした絶妙の焼き上がりとなる。
十リットルのコーヒーで一気に流し込むと食事は一瞬で終わる。
愛車で通勤しているが、これまた世の中の車では私の好みの車が存在しなかった為に、自作した。車幅三メートル、長さ六メートル、高さ二メートルの装甲車と同等の性能を出すことに成功した。地雷を踏んでも自走出来ると自負している。ただし、この車を駐車出来る場所は限られているので、会社に行くためには最寄りの駐車場に車を止めてから、さらに徒歩で一時間歩いている。
私の仕事は金属を中心に素材を買い取っている。くず鉄を溶かして精製する小規模の炉も所有している。私は精製した鉄を板状に延ばせば、あとはハンマー一つでどうとでも形を成形できるのだ。家も自作した。車も自作した。今作っているのは自分の棺桶と、墓。おっと、私としたことが、棺桶は燃えないから鉄製は不可だ。
髭を剃る道具はT字シェイバーが最強と思っている。しかも刃の枚数は多ければ多い方が良い。電気ひげ剃りでは私の要求を満足するカスタマイズが出来ないからだ。首振りヘッドに装着される刃の枚数は改良に改良を重ねて、とうとう七十七枚に到達した。七十七枚刃ともなると替え刃の厚さは七センチを越えるビッグヘッドとなる。恐ろしい深剃りを予防するにはシェイビングクリームを特盛りで顔面に盛りつける。視界不良になるぐらいが丁度いい。今となってはほぼ目をつむって剃り上げる技術を拾得している。
朝食で飲むのはブラックコーヒー。特注のマグカップに入れる。私のマグカップはバケツぐらいの大きさを想像するとちょうど良い。世の中に流通するマグカップにはバケツ大のものがなかったので自分で作り上げた。ドリップするのも一苦労となる。マグカップがセット出来るドリッパーが存在しないので、一から作る事となった。なんだかんだで、ドリッパーの大きさは冷蔵庫ほどになってしまった。
朝食は目玉焼きとパンと決めている。卵の数は十二個。これまた特注のフライパンで一気につくる。十二個のくぼみが花形に配置されている美しいフライパンだ。重さは十キロある。焼き上がった十二個の目玉焼きを垂直に積み上げて皿に盛る。
食パンは一斤まるまるをトーストする。これも立方体のパンをを上手に焼き上げるトースターは無いので自作した。遠赤外線を併用したもので、外はカリッと、中はモッチリした絶妙の焼き上がりとなる。
十リットルのコーヒーで一気に流し込むと食事は一瞬で終わる。
愛車で通勤しているが、これまた世の中の車では私の好みの車が存在しなかった為に、自作した。車幅三メートル、長さ六メートル、高さ二メートルの装甲車と同等の性能を出すことに成功した。地雷を踏んでも自走出来ると自負している。ただし、この車を駐車出来る場所は限られているので、会社に行くためには最寄りの駐車場に車を止めてから、さらに徒歩で一時間歩いている。
私の仕事は金属を中心に素材を買い取っている。くず鉄を溶かして精製する小規模の炉も所有している。私は精製した鉄を板状に延ばせば、あとはハンマー一つでどうとでも形を成形できるのだ。家も自作した。車も自作した。今作っているのは自分の棺桶と、墓。おっと、私としたことが、棺桶は燃えないから鉄製は不可だ。
ゼンマイのある暮らし
私は目覚めると、枕元にあるハンドルを数回まわす。ゼンマイが巻かれて、今日一日分の家で使う動力が蓄えられる。手を離すと、巻かれたゼンマイがほどけて、ハンドルは逆に回る。目で見ても分からないほどゆっくりした回転だが、私は、ゼンマイの力を微少な音で感じながら出勤の準備を始める。
ゼンマイがすべてのテクノロジーの動力になったのはいつからだろう。ある時から地球上の酸素濃度が極端に減り、火がつかなくなった。その結果、燃えないガソリンに存在意義が無くなった。
科学者達は動力を得る方法を模索し、ゼンマイに着目する。私もその一人だった。
ある日、私はひらめいた。そのひらめきは一つのゼンマイの渦が、二つになり、三つになり、無限の渦が並列で並ぶイメージだった。
そうして現在のシステムが出来上がる。私が寝室で回したハンドルは歯車を介して地中にある何億ものゼンマイと連結して、力を蓄える。すべての人類がちょっとずつゼンマイを回し、力を取り出せるシステムが出来上がった。
出勤の準備がすんだ私は、愛車のそばに立っている。運転席のドアを開ける。地中のゼンマイから切り離される動力はどうするか。私は今でも頭を悩ます。一人、苦笑いしながら、ギアをニュートラルに入れる。
「よいしょ」
押しがけの要領でドアを開けたまま、車を二メートルほどバックさせる。これで距離にして百キロメートルほど走る力がゼンマイに蓄えられる。運転席に座る私の息は少し上がっている。ゼンマイエクササイズという本を書こうかと私は考えている。
私は目覚めると、枕元にあるハンドルを数回まわす。ゼンマイが巻かれて、今日一日分の家で使う動力が蓄えられる。手を離すと、巻かれたゼンマイがほどけて、ハンドルは逆に回る。目で見ても分からないほどゆっくりした回転だが、私は、ゼンマイの力を微少な音で感じながら出勤の準備を始める。
ゼンマイがすべてのテクノロジーの動力になったのはいつからだろう。ある時から地球上の酸素濃度が極端に減り、火がつかなくなった。その結果、燃えないガソリンに存在意義が無くなった。
科学者達は動力を得る方法を模索し、ゼンマイに着目する。私もその一人だった。
ある日、私はひらめいた。そのひらめきは一つのゼンマイの渦が、二つになり、三つになり、無限の渦が並列で並ぶイメージだった。
そうして現在のシステムが出来上がる。私が寝室で回したハンドルは歯車を介して地中にある何億ものゼンマイと連結して、力を蓄える。すべての人類がちょっとずつゼンマイを回し、力を取り出せるシステムが出来上がった。
出勤の準備がすんだ私は、愛車のそばに立っている。運転席のドアを開ける。地中のゼンマイから切り離される動力はどうするか。私は今でも頭を悩ます。一人、苦笑いしながら、ギアをニュートラルに入れる。
「よいしょ」
押しがけの要領でドアを開けたまま、車を二メートルほどバックさせる。これで距離にして百キロメートルほど走る力がゼンマイに蓄えられる。運転席に座る私の息は少し上がっている。ゼンマイエクササイズという本を書こうかと私は考えている。
とある寿司屋にて
小腹の空いた私は、本日のランチを考える。ラーメンはどうだろう。豚骨、味噌、醤油、つけ麺。どれも捨てがたい。しかし、この辺りのラーメン屋は人気店ばかりで大抵のお店では行列が出来ている。列に並ぶのも億劫な気分だった。
私は自分の中の欲望と、現状の妥協点を探る。そのとき、路地の奥に見慣れない店が出来ている事に気づいた。私は誘われるようにその店へと歩を進める。
「回転寿司ギャラリー」
のれんにはそう書かれていた。寿司も悪くない。しかし「ギャラリー」というのは変わった名前だ。そう思いながら店内に入る。
「いらっしゃい。こちらにどうぞ」白髪まじりの短髪の大将が威勢のいい声で私をカウンター席に促す。不思議なことに寿司の流れるレールが店内に存在しない。私はカウンター席に座りながら寿司職人に聞いた。
「回転寿司では無いのですか?」
「いえ、回転寿司で間違いありません」
「寿司がレールに乗って流れてくるのが回転寿司ですよね」
「うちは、そっちの回転寿司じゃあ無いんですよね。注文をお聞きしてから寿司を回転させます」
「はあ、そうですか」
「何を握りやしょう」
「じゃあイカください」
「イカいただきました」
職人が寿司桶に手を入れて、手際よく寿司を握り、私の前のカウンターに透き通るイカ二貫が置かれる。
「ではご賞味ください」
職人がぱんぱんと手を二度打つと、店内が暗くなり、ディスコミュージックが流れる。ストロボフラッシュがたかれる。
「大将、これはいったい」
「しっ!お静かに願います。どうぞ、お静かに賞味ください」
イカ二貫が静かにその場で回転を始める。どうやらカウンターの一部がターンテーブルになっているようだ。数回転、イカの寿司が回るのを黙って私は見た。これ以上の展開は無いと思って聞く。
「もう食べてもいいですか」
「だめです。回転寿司ギャラリーは名前の通り、ギャラリーとなっております。目で愛でる。これぞ寿司ラブ」
「食べないの」
「食べない。美術館に飾られている絵画は絶対に食べないでしょう。それと同じです」
小腹の空いた私は、本日のランチを考える。ラーメンはどうだろう。豚骨、味噌、醤油、つけ麺。どれも捨てがたい。しかし、この辺りのラーメン屋は人気店ばかりで大抵のお店では行列が出来ている。列に並ぶのも億劫な気分だった。
私は自分の中の欲望と、現状の妥協点を探る。そのとき、路地の奥に見慣れない店が出来ている事に気づいた。私は誘われるようにその店へと歩を進める。
「回転寿司ギャラリー」
のれんにはそう書かれていた。寿司も悪くない。しかし「ギャラリー」というのは変わった名前だ。そう思いながら店内に入る。
「いらっしゃい。こちらにどうぞ」白髪まじりの短髪の大将が威勢のいい声で私をカウンター席に促す。不思議なことに寿司の流れるレールが店内に存在しない。私はカウンター席に座りながら寿司職人に聞いた。
「回転寿司では無いのですか?」
「いえ、回転寿司で間違いありません」
「寿司がレールに乗って流れてくるのが回転寿司ですよね」
「うちは、そっちの回転寿司じゃあ無いんですよね。注文をお聞きしてから寿司を回転させます」
「はあ、そうですか」
「何を握りやしょう」
「じゃあイカください」
「イカいただきました」
職人が寿司桶に手を入れて、手際よく寿司を握り、私の前のカウンターに透き通るイカ二貫が置かれる。
「ではご賞味ください」
職人がぱんぱんと手を二度打つと、店内が暗くなり、ディスコミュージックが流れる。ストロボフラッシュがたかれる。
「大将、これはいったい」
「しっ!お静かに願います。どうぞ、お静かに賞味ください」
イカ二貫が静かにその場で回転を始める。どうやらカウンターの一部がターンテーブルになっているようだ。数回転、イカの寿司が回るのを黙って私は見た。これ以上の展開は無いと思って聞く。
「もう食べてもいいですか」
「だめです。回転寿司ギャラリーは名前の通り、ギャラリーとなっております。目で愛でる。これぞ寿司ラブ」
「食べないの」
「食べない。美術館に飾られている絵画は絶対に食べないでしょう。それと同じです」
頭が回っていない時に口走ったログ・シリーズ
頭が回っていないのに、話を総括しようとした結果、急速に説得力をなくす。
「結局的に、〇〇ということでしょ」
「あそこにあった店って何だっけ?」に対して答えようとした瞬間、思考を他の事に削られた時の返答。
「ツタ・ツタヤでしょ」