店舗での長考の後、中古プラモデル スコープドックメタルスペックバージョンを購入致しました。
帰宅後、封印されていて中が確認できなかったテープをカットして開封する。
どれどれ?
まさか!
組立て説明書が無い!
がーん
説明書無しで組み上げるのは無理だ。
説明書が入手できなければただのばらばらの部品確定だ。
どうする。
古いカメラの場合、取扱い説明書がネット上にpdfファイルとしてよく見受けられる。
たのむ誰かこのスコープドッグの説明書を上げていてくれ。
一縷の望みをたくしてネットをサーフィンする。
ない。
ガーン。
頼みの綱はバンダイ様。
バンダイ様に「組立説明書が無くて困っています」メールを送りました。
「あるよ」との返事をいただき早速、注文いたしました。
今回はやばかった。
帰宅後、封印されていて中が確認できなかったテープをカットして開封する。
どれどれ?
まさか!
組立て説明書が無い!
がーん
説明書無しで組み上げるのは無理だ。
説明書が入手できなければただのばらばらの部品確定だ。
どうする。
古いカメラの場合、取扱い説明書がネット上にpdfファイルとしてよく見受けられる。
たのむ誰かこのスコープドッグの説明書を上げていてくれ。
一縷の望みをたくしてネットをサーフィンする。
ない。
ガーン。
頼みの綱はバンダイ様。
バンダイ様に「組立説明書が無くて困っています」メールを送りました。
「あるよ」との返事をいただき早速、注文いたしました。
今回はやばかった。
義男は移動中の電車の中で頭を抱えていた。フリーのライターとなり原稿用紙の升目を一文字ずつうめる作業で生計を立てる暮らしもはや十年となる。元々は地方新聞社の記者だった。
今回ばかりは絶対絶命だと義男自身が感じていた。膝の上にある、スケジュール手帳を確認する必要は無いのだが、薄目をあけて手帳を見た。本日の締め切りの原稿が一つ。明日が締め切りの原稿が三つ。しかもこれからインタビューの仕事が一つ。間違いない。そしてその五つの原稿はどれも絶望的に白紙だった。
義男は待ち合わせ場所に向かっている。平日の午後、車両に乗り合わせた乗客達は義男の極限状態とは真逆ののんびりしたものだ。うたた寝をするおじさん。スマホを凝視する学生。子供の話に興じるママ友。義男はその人々を恨めしげに観察していた。しばしの現実逃避の後、頭をふって義男はぶつぶつと独り言をお経のように唱えた。
「とりあえず、インタビューに集中しよう」
インタビュー相手は売り出し中の芸人。芸名は「きゅう」といった。年齢は若いが、落ち着いた口調で話す内容は、単語一つとっても一切の無駄が無い。この若者の目には未来が見えているのではないかとSNS等でカリスマ視されている。
「未来が見えるカリスマ芸人か……」
義男の口元が笑みを浮かべた。義男は新聞記者からフリーに転身した当時を思い出していた。原稿の締め切りまであと三十分を切った深夜。冬だというのに編集室で冷や汗が吹き出していた。添付する写真のデータを見るためにデジカメをさわっていた。義男の手からデジカメはつるりと回転しながら床に落ちた。フラッシュが光る。あわてて拾い上げた義男はデータが無事かを確認した。データは無事だった。しかし最後の一枚は撮影した覚えの無いものだった。その一枚を義男はデジカメの液晶画面で凝視した。プレビュー画面をアップにして確認した。
新聞の写真だった。しかも義男が今書いている原稿が記事として新聞にのっている。日付は明日だ。
義男は無我夢中で画面の文章を原稿に写しなおして入稿した。ぎりぎり間に合った。
後日締め切りに迫られた瞬間、あの状況を藁にもすがる思いで再現した。未来の原稿を呼び出すことに成功した。義男はフリーライターへの転身を決意した。
車内は空いている。七人掛けのソファーの真ん中にどっかりと座った義男は鞄からデジカメを取り出した。何個デジカメを壊したのか。義男は自分でも把握していなかった。手の中にある耐衝撃モデルのデジカメはやはり頑丈だった。三年以上は壊れていない。義男は手に握ったデジカメをやさしく、でも大胆に落とした。のんびりした車内の空気が落下音で一瞬固まる。義男が何事もなく拾い上げたのを確認した乗客達はまた無関心の状態に安定た。
義男は画像を確認する。
そこには発売された雑誌のインタビュー記事が収められていた。デジカメを操作する。アップにして読み進める。我ながら的確な問いに対して「きゅう」の的確な返答が帰っている。コール・アンド・レスポンスばっちりだ。義男は安堵の息をもらした。これで大丈夫。
「はいラストです。きゅうさんありがとうございました!」
きゅうは拍手にお辞儀で返礼した。
モデルとしても活躍するきゅうは義男のインタビューの後、紙面をかざる撮影をした。義男は開いているデスクで本日のインタビューの原稿を書いていた。原稿事態は先ほど完成記事を見たのでするすると出来上がった。ただ一つ腑に落ちないことがあった。それはきゅうとの別れ際の出来事だ。
義男の描いたシナリオどおりインタビューは終了した。
「本日はありがとうございました」義男が握手を求めて右手を差し出した。
さっきまで穏やかに話していたきゅうは握手と言うには強すぎる力で義男の手を握りかえした。びっくりする義男にきゅうは耳元でささやいた。
「あの、抽象的で申し訳ないけれど……」
「は、はい」義男は耳元でささやくきゅうから出来るだけ逃げるように体を離したが、きゅうは逃れようとする義男に迫る。再び耳元で先ほどよりもっと小声でつぶやいた。
「パンクスに気をつけて」
体を離したきゅうの目が赤くうるんでいるようにも見えた。
(あれは何だったのだろう)
義男は事務所として借りているオフィスに戻った。デジカメをわざとらしく落とす。義男は本日が締め切りの原稿の画面をアップにして読み込んでいた。さすが俺だ。おもしろい。データに起こしなおしてメールで編集部に送信した。はいイッチョ上がりだ。タバコに火をつけようとしたが、さきほど最後の一本を煙に変えたことを思い出した。
義男は引き続き明日が締め切りの原稿三つのデータを得るため、デジカメを床に落とした。三回フラッシュが光る。
デジカメを拾い上げた義男はどれどれと画像を確認する。
するとどうだろう、いつもなら掲載された媒体の画像が記事としてそこにあるはずなのだが……。見慣れない若者がイスに座って眠っている写真が三枚。何度やっても未来の原稿は現れない。義男は焦った。しかし、まだ二十四時間あると考えた義男は自力で原稿をあげると決めた。冷静になるためにタバコをまず仕入れようと思った。近所にコンビニがある。
エレベーターで一階に降りる。都会のオフィス街は深夜でもちらほらと人影があった。義男の思考はぐるぐると回る。なぜ未来の原稿が見えないのか。これからどうなるのか?あの若者は誰なのか。横断歩道の信号が青になり、義男は一歩足を踏み出した。
義男はクルリと一回転していた。
信号無視の車が義男につっこんだ。
義男は回転しながら運転席に座る人物をスローモーションで見ていた。
眠っている若者。
居眠り運転の若者。
鼻ピアスでモヒカンの眠っている若者。
間違いなくパンクスだ。
義男はそう思った。
今回ばかりは絶対絶命だと義男自身が感じていた。膝の上にある、スケジュール手帳を確認する必要は無いのだが、薄目をあけて手帳を見た。本日の締め切りの原稿が一つ。明日が締め切りの原稿が三つ。しかもこれからインタビューの仕事が一つ。間違いない。そしてその五つの原稿はどれも絶望的に白紙だった。
義男は待ち合わせ場所に向かっている。平日の午後、車両に乗り合わせた乗客達は義男の極限状態とは真逆ののんびりしたものだ。うたた寝をするおじさん。スマホを凝視する学生。子供の話に興じるママ友。義男はその人々を恨めしげに観察していた。しばしの現実逃避の後、頭をふって義男はぶつぶつと独り言をお経のように唱えた。
「とりあえず、インタビューに集中しよう」
インタビュー相手は売り出し中の芸人。芸名は「きゅう」といった。年齢は若いが、落ち着いた口調で話す内容は、単語一つとっても一切の無駄が無い。この若者の目には未来が見えているのではないかとSNS等でカリスマ視されている。
「未来が見えるカリスマ芸人か……」
義男の口元が笑みを浮かべた。義男は新聞記者からフリーに転身した当時を思い出していた。原稿の締め切りまであと三十分を切った深夜。冬だというのに編集室で冷や汗が吹き出していた。添付する写真のデータを見るためにデジカメをさわっていた。義男の手からデジカメはつるりと回転しながら床に落ちた。フラッシュが光る。あわてて拾い上げた義男はデータが無事かを確認した。データは無事だった。しかし最後の一枚は撮影した覚えの無いものだった。その一枚を義男はデジカメの液晶画面で凝視した。プレビュー画面をアップにして確認した。
新聞の写真だった。しかも義男が今書いている原稿が記事として新聞にのっている。日付は明日だ。
義男は無我夢中で画面の文章を原稿に写しなおして入稿した。ぎりぎり間に合った。
後日締め切りに迫られた瞬間、あの状況を藁にもすがる思いで再現した。未来の原稿を呼び出すことに成功した。義男はフリーライターへの転身を決意した。
車内は空いている。七人掛けのソファーの真ん中にどっかりと座った義男は鞄からデジカメを取り出した。何個デジカメを壊したのか。義男は自分でも把握していなかった。手の中にある耐衝撃モデルのデジカメはやはり頑丈だった。三年以上は壊れていない。義男は手に握ったデジカメをやさしく、でも大胆に落とした。のんびりした車内の空気が落下音で一瞬固まる。義男が何事もなく拾い上げたのを確認した乗客達はまた無関心の状態に安定た。
義男は画像を確認する。
そこには発売された雑誌のインタビュー記事が収められていた。デジカメを操作する。アップにして読み進める。我ながら的確な問いに対して「きゅう」の的確な返答が帰っている。コール・アンド・レスポンスばっちりだ。義男は安堵の息をもらした。これで大丈夫。
「はいラストです。きゅうさんありがとうございました!」
きゅうは拍手にお辞儀で返礼した。
モデルとしても活躍するきゅうは義男のインタビューの後、紙面をかざる撮影をした。義男は開いているデスクで本日のインタビューの原稿を書いていた。原稿事態は先ほど完成記事を見たのでするすると出来上がった。ただ一つ腑に落ちないことがあった。それはきゅうとの別れ際の出来事だ。
義男の描いたシナリオどおりインタビューは終了した。
「本日はありがとうございました」義男が握手を求めて右手を差し出した。
さっきまで穏やかに話していたきゅうは握手と言うには強すぎる力で義男の手を握りかえした。びっくりする義男にきゅうは耳元でささやいた。
「あの、抽象的で申し訳ないけれど……」
「は、はい」義男は耳元でささやくきゅうから出来るだけ逃げるように体を離したが、きゅうは逃れようとする義男に迫る。再び耳元で先ほどよりもっと小声でつぶやいた。
「パンクスに気をつけて」
体を離したきゅうの目が赤くうるんでいるようにも見えた。
(あれは何だったのだろう)
義男は事務所として借りているオフィスに戻った。デジカメをわざとらしく落とす。義男は本日が締め切りの原稿の画面をアップにして読み込んでいた。さすが俺だ。おもしろい。データに起こしなおしてメールで編集部に送信した。はいイッチョ上がりだ。タバコに火をつけようとしたが、さきほど最後の一本を煙に変えたことを思い出した。
義男は引き続き明日が締め切りの原稿三つのデータを得るため、デジカメを床に落とした。三回フラッシュが光る。
デジカメを拾い上げた義男はどれどれと画像を確認する。
するとどうだろう、いつもなら掲載された媒体の画像が記事としてそこにあるはずなのだが……。見慣れない若者がイスに座って眠っている写真が三枚。何度やっても未来の原稿は現れない。義男は焦った。しかし、まだ二十四時間あると考えた義男は自力で原稿をあげると決めた。冷静になるためにタバコをまず仕入れようと思った。近所にコンビニがある。
エレベーターで一階に降りる。都会のオフィス街は深夜でもちらほらと人影があった。義男の思考はぐるぐると回る。なぜ未来の原稿が見えないのか。これからどうなるのか?あの若者は誰なのか。横断歩道の信号が青になり、義男は一歩足を踏み出した。
義男はクルリと一回転していた。
信号無視の車が義男につっこんだ。
義男は回転しながら運転席に座る人物をスローモーションで見ていた。
眠っている若者。
居眠り運転の若者。
鼻ピアスでモヒカンの眠っている若者。
間違いなくパンクスだ。
義男はそう思った。
ペンタックス645のボディのみをゲットする。
撮影するためには部品をデアゴスティーニの分冊百科方式でそろえる必要があります。
まず驚いたのはストラップの固定金具が見た事のないキノコみたいな形の金属なのでした。
これはストラップはどうやってつけるの?
案の上、ストラップ問題は中判カメラあるあるらしいのです。
一眼レフ用ストラップの流用不可。
専用のものが必要なのでした。
しばしネット検索すると、ペンタックス645用ストラップの中古はほぼ見当たらず、新品も限られたものしかない様子なのです。
しかも米国からの輸入品となります。
ストラップは来月ゲットする。
あとレンズはそのまた次月。
フィルムもそのまた次月。
分冊百科方式でシステムを揃えます。
ああ、夢の中判カメラ。
撮影するためには部品をデアゴスティーニの分冊百科方式でそろえる必要があります。
まず驚いたのはストラップの固定金具が見た事のないキノコみたいな形の金属なのでした。
これはストラップはどうやってつけるの?
案の上、ストラップ問題は中判カメラあるあるらしいのです。
一眼レフ用ストラップの流用不可。
専用のものが必要なのでした。
しばしネット検索すると、ペンタックス645用ストラップの中古はほぼ見当たらず、新品も限られたものしかない様子なのです。
しかも米国からの輸入品となります。
ストラップは来月ゲットする。
あとレンズはそのまた次月。
フィルムもそのまた次月。
分冊百科方式でシステムを揃えます。
ああ、夢の中判カメラ。
サクラクレパス ラムネ 色と味が不思議な関係になっております。
現在判明したのは……
青色→ピーチ味
黄色→メロン味
茶色→マンゴー味
となっております。
残りの色は緑色、白色、赤色
残りの味はバナナ、イチゴ、パイン
現在判明したのは……
青色→ピーチ味
黄色→メロン味
茶色→マンゴー味
となっております。
残りの色は緑色、白色、赤色
残りの味はバナナ、イチゴ、パイン
深夜零時。記録的寒波の襲ったその夜、アキラは車を運転していた。この時間帯では併走して走る車はほとんどいなかった。アキラは今夜の出来事を思い出しながら漫然とハンドルを握っていた。
「部長のあの一言さえなければ、定時で帰れたのに」
アキラは独り言をつぶやいていた。出来の悪い上司あるあるの王道だ。九割方決まっている決定事項を白紙に戻す指示を平気で言う。本人にただの思いつきであるという自覚が無い事に腹がたつ。例えるならいろいろな色の積み木が三角なら三角、四角なら四角の形で分類されているものを色で分け直せと言われるようなものだった。分類分けという行為においては色であろうと形であろういとどちらでも良い話しだと同僚たちは当然感じていた。上司の指示にハイとうなずきアキラは部下を帰した。一人で愚にもつかない仕事に取りかかり現在にいたっていた。
目の前の信号が赤になり、アキラはため息をついて停車させた。遅れてアキラの右隣に真っ赤なセダンが滑り込んできた。完全に停止する前にアキラは何となく運転席を見た。短髪の若い女が運転席に座っていた。じろじろ見るのも気が引けたのであわててアキラは正面を見た。カーラジオからながれるFM波の単調なリズムだけが車中の空間を漂っていた。信号が青に変わり、アキラは車を発車させた。女のセダンとスピードが同じだったのか二台はしばらく併走する形になった。併走を嫌ったアキラはアクセルをゆるめて女を先に行かそうとした。だが女も車速を緩めたため併走状態を解消できなかった。ならばとアキラはアクセルを多めに踏み足した。エンジンの回転数が上がり、車は加速した。するとどうだろう女のセダンも加速しだした。(どういうつもりだ)
アキラは思わず女を見た。女もこちらを見た。二枚のガラスを隔てて二人は目があった。アキラが感じた女の視線には何の感情も見とれなかった。
アキラはどうすれば良いのかパニックに陥りだしていた。この先で二車線は一車線になってしまう。通勤で利用しているアキラは道路状況を完全に理解している。なおも併走を続ける二台。アキラは仕方なくブレーキを踏んだ。女のセダンもブレーキを踏んだ。併走状態のまま車線減少ポイントにつっこむ形となり、アキラは停車寸前までブレーキを踏んだ。タイヤがロックする音が静まりかえる闇に響きわたる。セダンも五メートルほど先で停車した。接触は逃れたがアキラは体の震えが止まらなかった。そして大きく息を吐き出しハンドルに突っ伏した。ドスンという音と共に車が大きく沈み込んだ。アキラはヒャッと言いながら前方を見た。そこにはボンネットにうつ伏せでアキラにむかって滑り込んでくるセダンの女がいた。両手には一眼レフカメラを持っている。強烈なフラッシュが連続で光る。女はフロントグラスまで到達すると横に回転した後、アスファルトに転がり落ちた。素早く立ち上がり自分の車で逃走した。アキラは途方に暮れながらも、自分を撮影してなんの得があるのかと首を傾げながら帰路についた。玄関を開ける。妻と娘は当然のように眠っていた。アキラは先ほどの不思議な出来事を妻にグチる機会を失いがっかりしながら眠りについた。
アキラは一人ぼやいていた。誰かがミスをする。ある時は部下、はたまた上司のミスの後始末に翻弄されながら週末を迎えようとしていた。アキラが自宅のアパートに帰り着くと、妻の幸子が無言で広げた週刊誌をアキラの目の前に差し出しながら言った。
「これどうゆうこと」
幸子の手は怒りでふるえている。アキラは週刊誌の記事を凝視する。「あのアキラが深夜の密会」(あのってどのだよ)「お相手は一般女性A子さん二十五歳」(誰だよ)写真はフラッシュを避けるアキラだ。後部座席には驚いた表情の女性が写っている。(この女は誰だ。こんな合成写真をでたらめ記事の為にねつ造するなんて)普通の暮らしをしているサラリーマンのねつ造記事を商業誌にのせる意味が全く分からない。
「こんなのウソだよ。ゴシップ週刊誌の記事になる事がまずおかしいと思わないのか」
「テレビつけてみなよ。ワイドショーあんたの事で持ちきりよ。しばらく実家に帰るわ」
幸子と幸子に手を引かれた娘ははそのまま大きな荷物をもって出て行ってしまった。アキラは呆然としばらくの間、玄関立ち尽くしていた。リビングのテレビをつけると全面モザイクがかかっているがアキラの住むマンションの前で何人もの芸能リポーターが怒りを込めたリポートをしていた。玄関の扉を薄く開けるとフラッシュとマイクの嵐に襲われた。「あの女性とはどういうご関係でしょうか」
「奥様はなんと言っておられますか」
「お仕事への影響は?」
アキラはカメラマンとリポーターを押し退け駐車場に向かった。
テレビ関係者がまるでアキラを犯罪者のような扱いで追いすがる。アキラは運転席に滑り込み、車を出した。どうして身に覚えの無いことで追いかけられなくてはならないのか。アキラは全く分からなかった。
バックミラーには多数の二人乗りのバイクが当然のように追いかけてくる。無理に追い越そうとしたバイクがアキラの車の側面に激突する。転倒したバイクにまた別のバイクが避けきれずに激突する。アキラは完全にパニックになった。
(俺はもう終わりだ)
アキラは実は不倫していた。相手はあのゴシップ記事とはぜんぜん関係の無い同僚の後輩だ。
(後輩とはもう別れよう。幸子と娘にはあやまろう)
「奥様これでよろしかったですか?」
幸子が有名コメンテーターと話していた。
「はい、これで夫も目をさますと思います」
「旦那様を許しますか?」
「いえ、許し難いですが、娘の為に心を入れ替えるのなら許します」
「では、このあとアキラさんにネタバラシを行います。改心する事を期待します。ではまた来週この時間このチャンネルでお会いしましょう。悩める奥様の悩みをズビット解決。エイットビートでズビット解決ではまた」
「部長のあの一言さえなければ、定時で帰れたのに」
アキラは独り言をつぶやいていた。出来の悪い上司あるあるの王道だ。九割方決まっている決定事項を白紙に戻す指示を平気で言う。本人にただの思いつきであるという自覚が無い事に腹がたつ。例えるならいろいろな色の積み木が三角なら三角、四角なら四角の形で分類されているものを色で分け直せと言われるようなものだった。分類分けという行為においては色であろうと形であろういとどちらでも良い話しだと同僚たちは当然感じていた。上司の指示にハイとうなずきアキラは部下を帰した。一人で愚にもつかない仕事に取りかかり現在にいたっていた。
目の前の信号が赤になり、アキラはため息をついて停車させた。遅れてアキラの右隣に真っ赤なセダンが滑り込んできた。完全に停止する前にアキラは何となく運転席を見た。短髪の若い女が運転席に座っていた。じろじろ見るのも気が引けたのであわててアキラは正面を見た。カーラジオからながれるFM波の単調なリズムだけが車中の空間を漂っていた。信号が青に変わり、アキラは車を発車させた。女のセダンとスピードが同じだったのか二台はしばらく併走する形になった。併走を嫌ったアキラはアクセルをゆるめて女を先に行かそうとした。だが女も車速を緩めたため併走状態を解消できなかった。ならばとアキラはアクセルを多めに踏み足した。エンジンの回転数が上がり、車は加速した。するとどうだろう女のセダンも加速しだした。(どういうつもりだ)
アキラは思わず女を見た。女もこちらを見た。二枚のガラスを隔てて二人は目があった。アキラが感じた女の視線には何の感情も見とれなかった。
アキラはどうすれば良いのかパニックに陥りだしていた。この先で二車線は一車線になってしまう。通勤で利用しているアキラは道路状況を完全に理解している。なおも併走を続ける二台。アキラは仕方なくブレーキを踏んだ。女のセダンもブレーキを踏んだ。併走状態のまま車線減少ポイントにつっこむ形となり、アキラは停車寸前までブレーキを踏んだ。タイヤがロックする音が静まりかえる闇に響きわたる。セダンも五メートルほど先で停車した。接触は逃れたがアキラは体の震えが止まらなかった。そして大きく息を吐き出しハンドルに突っ伏した。ドスンという音と共に車が大きく沈み込んだ。アキラはヒャッと言いながら前方を見た。そこにはボンネットにうつ伏せでアキラにむかって滑り込んでくるセダンの女がいた。両手には一眼レフカメラを持っている。強烈なフラッシュが連続で光る。女はフロントグラスまで到達すると横に回転した後、アスファルトに転がり落ちた。素早く立ち上がり自分の車で逃走した。アキラは途方に暮れながらも、自分を撮影してなんの得があるのかと首を傾げながら帰路についた。玄関を開ける。妻と娘は当然のように眠っていた。アキラは先ほどの不思議な出来事を妻にグチる機会を失いがっかりしながら眠りについた。
アキラは一人ぼやいていた。誰かがミスをする。ある時は部下、はたまた上司のミスの後始末に翻弄されながら週末を迎えようとしていた。アキラが自宅のアパートに帰り着くと、妻の幸子が無言で広げた週刊誌をアキラの目の前に差し出しながら言った。
「これどうゆうこと」
幸子の手は怒りでふるえている。アキラは週刊誌の記事を凝視する。「あのアキラが深夜の密会」(あのってどのだよ)「お相手は一般女性A子さん二十五歳」(誰だよ)写真はフラッシュを避けるアキラだ。後部座席には驚いた表情の女性が写っている。(この女は誰だ。こんな合成写真をでたらめ記事の為にねつ造するなんて)普通の暮らしをしているサラリーマンのねつ造記事を商業誌にのせる意味が全く分からない。
「こんなのウソだよ。ゴシップ週刊誌の記事になる事がまずおかしいと思わないのか」
「テレビつけてみなよ。ワイドショーあんたの事で持ちきりよ。しばらく実家に帰るわ」
幸子と幸子に手を引かれた娘ははそのまま大きな荷物をもって出て行ってしまった。アキラは呆然としばらくの間、玄関立ち尽くしていた。リビングのテレビをつけると全面モザイクがかかっているがアキラの住むマンションの前で何人もの芸能リポーターが怒りを込めたリポートをしていた。玄関の扉を薄く開けるとフラッシュとマイクの嵐に襲われた。「あの女性とはどういうご関係でしょうか」
「奥様はなんと言っておられますか」
「お仕事への影響は?」
アキラはカメラマンとリポーターを押し退け駐車場に向かった。
テレビ関係者がまるでアキラを犯罪者のような扱いで追いすがる。アキラは運転席に滑り込み、車を出した。どうして身に覚えの無いことで追いかけられなくてはならないのか。アキラは全く分からなかった。
バックミラーには多数の二人乗りのバイクが当然のように追いかけてくる。無理に追い越そうとしたバイクがアキラの車の側面に激突する。転倒したバイクにまた別のバイクが避けきれずに激突する。アキラは完全にパニックになった。
(俺はもう終わりだ)
アキラは実は不倫していた。相手はあのゴシップ記事とはぜんぜん関係の無い同僚の後輩だ。
(後輩とはもう別れよう。幸子と娘にはあやまろう)
「奥様これでよろしかったですか?」
幸子が有名コメンテーターと話していた。
「はい、これで夫も目をさますと思います」
「旦那様を許しますか?」
「いえ、許し難いですが、娘の為に心を入れ替えるのなら許します」
「では、このあとアキラさんにネタバラシを行います。改心する事を期待します。ではまた来週この時間このチャンネルでお会いしましょう。悩める奥様の悩みをズビット解決。エイットビートでズビット解決ではまた」