日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「いつも見ています」

2013年12月22日 | ◎これまでの「OM君」
毎朝電車に乗り、仕事をする。
同じ仕事をして電車に乗り、帰る。
同じ事の繰り返し。

ある休日の朝、メールが届いた。
プライベートでメールをやりとりする相手などいない。
昨夜は録りためたビデオを見て、違うハードのゲームを渡り歩き、明け方眠った。
なので、現時刻は朝といっても、ほぼ昼だ。

タイトルは「いつも見ています」
まったく思い当たる事がなかった。
あわてて本文を開く。
「突然のメール驚かせてすみません。
毎朝電車で見ています。
同じ駅で降りるので、職場は近いのかもしれません。
このメールアドレスは職場の近くのお店で、レジに並ぶあなたを見かけたんです。
その時、真後ろに並んだんです。
あなたが出したポイントカードのメールアドレスが見えたの。
メールを出すか出さないかで今まで悩んだの。
よろしければおつきあいしたい。
またメールします。」
文面はそんなかんじだった。
見当がつかない。
雲をつかむような話だった。
でも何だかうれしかった。

月曜日。
いつもと同じ一週間の始まり。
憂鬱な気分のはずが、あのメールのおかげでいつもの通勤電車も楽しい気分だった。
(誰かが僕を見ている)

金曜日の仕事終わり、夜、メールが来た。
駅の建物に入る前に携帯を確認した。
この5日間、メールはこなかった。
今週初めてのメールだった。
「今夜、予定どうですか?」
あわてて本文を開く
「今、駅にいます。
あなたの後ろにいます。
私は携帯を見ています。
声をかけて。
でも、私は恥ずかしがり屋だから、びっくりした顔をすると思うの。
でもがんばって誘ってみて。
今夜、駅前の「ビモーダ」っていうイタリヤ料理屋に連絡してあるの。
要領えない顔をするけど、照れ隠しの裏返しなの。
だからがんばって誘って」

後ろを振り返る。
壁にもたれて髪の長い女の子がスマホを見ていた。
おとなしそうなかわいい女の子。
(よし・・・)
意を決して近づき声をかける。
「あの、すみません」
彼女は顔を上げ、びっくりした様な表情を浮かべる。
「あの、僕、好きなんです。「ビモーダ」のリゾット。ごいっしょにどうですか」
「・・・」
要領得ない表情の彼女。
「あの、これから、少し、時間ありませんか」
もう少しがんばってみる。
彼女の表情に今の状況を理解した表情が浮かんだ。
「これはナンパですね。いつも声かけてるんですか?」
「・・・いえ、初めてです。声をかけるなんてとてもとても」
汗をハンカチでふきつつ答えた。
彼女はじーっとしばらく黙ってこちらを見た。
そして言った。
「いいですよ。友達にもドタキャンされたし、私もビモーダのリゾット好きだし」
僕は単純にうれしかった。

ここは「ビモーダ」の事務所。
深夜、パソコンに向かう男あり。
経営者の男だ。
パソコンの画面には膨大な数のメールリストが表示されていた。
ドラッグしてメール送信。
内容はあの文面だ。
「いつも見ています」
どうとでもとれる内容。
携帯を見ている女の子は振り返ればたくさんいる。
メール受信者がちょっと勇気を出して、うちのお店に来てほしい。
まあ、違法行為だ。
まあ、当事者達が結果オーライの場合もあるのかな。
結果オーライ、オーライ。
そう男はつぶやいた。
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◎本日の想像話「がっぽり」

2013年12月21日 | ◎これまでの「OM君」
今バイト中。
無音の部屋にいる。
先輩から聞いたバイトだ。

今年、音大の3年生になる。
小さい頃からピアノを習っていて、ゆくゆくは国際的なピアニストになるという野望がある。
しかし、現在は遺伝子上の才能というものを恨んでいる。
どうやら僕には人を感動させる才能が無いらしい。
出来るのは、だれかの表現した手癖の寄せ集め。
いずれ表現者としての道をあきらめる日が来るのだろう。
そんな予感にも似た確信が頭から離れない。
そんな時、先輩からバイトの紹介を受けた。
絶対音感が特に必要らしい。
「僕、自信ありますよ」

指定された場所は郊外だった。
電車とバスを乗り継ぎ、やっと到着した。
5階立ての真四角なビル。
窓は全く無く、ガラスのドアが一つだけあった。

外から中は見えない。
インターホンを鳴らした。
ドアは音もなくスライドして玄関ホールが見えた。
「どうぞこちらへ」
玄関ホール奥よりあまり日に当たっていない感じの色白なおじさまが現れた。
薄茶色のレイバンサングラスをかけていた。

案内された部屋には机、ソファー、ベッドが置かれていた。
12畳ほどの部屋。
床は板張り。
さまざまな本、雑誌、ゲーム、そしてドリンクバー、スナックなども置かれていた。
「ここで契約された時間をすごしてください。
基本的に何をしていただいてもかまいません。
唯一、音楽は御法度です。
ゲームも消音でおたのしみください
では失礼します」
レイバンの男はそう言うとあっさり退室した。

この部屋の最も特徴的な点。
それは壁だ。
壁は規則的な山で一面が覆われている。
この構造は、まるで無音室だ。

最初の一時間はその場にある雑誌を読んだ。
シーンという音が聞こえてきそうなほど静かだ。

不意に・・・
曲のイメージがわいてきた。
あわててコードを書き留める。
何だろう。
不思議と、無音のこの部屋にいるとアイデアが浮かぶ。
早く帰ってピアノにさわりたい。
次々と曲が沸き上がってくる。
これは・・・
音楽の世界で生きていけるのかもしれない。
喜びにふるえる自分がいた。

「部長、うちのレコードスタジオは変わってますねえ。
へんなバイトを呼んできては、あの部屋に入れてますねえ。
あれは何なんです?」
薄茶色のレイバンをかけたさきほどの色白男が聞いた。
「ふふふふ。このCD不況の今、うちだけが一人勝ちしてるのはどうしてだと思う。
あのバイト君たちのおかげというか、ゲンカツギというか・・・」
ミラーグラスのレイバンをかけた色黒部長が言った。
「あのバイト君の部屋は無音だろう」
「はい」
「実は無音じゃあないんだよ。
マスター音源からCDデータを作るときにカットされる周波数の音源を流しているんだ。
人間には聞こえない周波数だからカットされてもOKって事になっているけどそういうもんじゃあないんだなあ。
やっぱり耳のいい人に聞いてもらって成仏してもらわないと。
ほらあのバイト君見てみぃ。
わかってるよあの子は。
アーティストに触発されて作曲をはじめるなんてな。
デモテープ提出してもらおうか。
いい音だったら、ウチからデビューでガッポリ儲けさせてもらおう」
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◎本日の想像話「展開図」

2013年12月15日 | ◎これまでの「OM君」
いつからだろう自分の能力に気づいたのは。
一番古い記憶は3歳ぐらいの時のものだろうか。
木製のおもちゃの押し車。
押すと、押し車の前方で「ひよこ」がぴょこぴょこと飛び跳ねる。
突然、バラバラになった展開図が頭に浮かんだ。
押し車を中心にぐるりと回ると、頭の中の展開図も同じアングルで回転した。
それからは、ありとあらゆるものの部品と配置、組立順序が詳細にイメージ出来るようになった。
成長するにつれ、物理的な部品構成だけではなく、LSIのプログラムもイメージ出来るようになった。
その経験の積み重ねにより、現在、軌道エレベーターの設計に携わっている。

ある雨の朝。
通勤には駅からエヤバスに乗り換える。
道路と歩道は完全に分けられ、電磁リニヤと車両のホバーとの組み合わせにより、バスは滑るように進んでいく。
傘を差して人々が行き交っている。
目で追いながら物の展開図を読んでいく。
傘、ソリッドオーディオ、スマホ。
町中には最新機種があふれていて退屈しない。
一瞬の事だった。
「!」
展開図が開かない。
雨だというのに傘も差していない。
顔はよく見えなかった。
服でも靴でも傘でも、部品によって構成されている。
その人物は黒っぽい上下の服を着ていた。
それさえも展開図が開かなかった。

あわてて次の停留所で降りた。
傘を差し、来た道を走って戻る。
いない。

その日は一日中その男の事を考えていた。
何も見えない。
そんな事は今まで一度も無かった。
帰りの駅までのエヤバスの車中。
「!」
今度は女性。
またしても展開図が何一つ開かない。
停留所であわてて降りる。
走る。
いた。
今度は見つけた。
その女は公園の中に入っていく。

雨はやんでいた。
湿った土の地面をふみしめ後に続く。

後ろに人の気配。
おそるおそる振り返る。
約10人の人々。
どの人の展開図も見えない。

あまりのことに立ち尽くす。
人々は追い抜いていった。
その後にもぞくぞくと人が続く。
どの人にも展開図が見えなかった。

意味が分かったような気がした。
公園の中央。
巨大なタワーが見えた。
見えたというのはプログラムの構成が見える展開図的な見え方だった。
ふつうの人には見えないはずだ。
そして、そのタワーの構成部品は・・・
「人」だった。
正確には人型をした人ならず何か。
展開図が見えない人々は、一人一人が一つの部品だったからだ。
そのタワーは天空まで延び、突端は見えない。
思った。
まるで軌道エレベーターだ・・・
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◎本日の想像話「バー「ep」の魅惑」

2013年12月11日 | ◎これまでの「OM君」
同僚と二人で飲んでいた。
今夜は金曜日。
予定もない二人は行きつけの居酒屋で夕ご飯
代わりに飲んでいた。
話す内容は仕事のグチと相場が決まっている。
共通の上司の悪口。
男二人で飲んでいるのもなんだか味気ないが仕方がない。
何といっても二人には予定がないのだ。

「バー「ep」がすごいんだって」
先ほどから真向かいで飲んでいる女子会が気になってしょうがなかった。
「あー知ってる知ってる。何でも夢が見れるらしいよ」
どうやらその場にいる女子は全員、知っているらしい。

「夢か・・・俺たちも夢見がちだよな」
「そうそう、宝クジ当たんねーかなーとかな・・・」
「行ってみる、そのお店?」
「そうねー、彼女達ともお話したいし、お店の場所聞いてくるよ」
あわよくば今夜の新たな展開も期待しつつ話しかける。

撃沈した。
見事な撃沈。
近年まれにみる撃沈。
バー「ep」の場所は聞けた。
歩いて行ける距離だった。

雑居ビルの5F。
ビル自体も裏路地のさらに裏に立っている。もう一度行ける自信がない。
エレベーターは無く、げんなりしながら階段を二人上る。
廊下の奥、木製のドア。
かろうじて読める「ep」の文字。
確個たる目的無き人間は到底このドアは開けないなと思いつつ二人は目を一度合わせ、ドアを引き開けた。
静かなピアノトリオの曲が店内には流れていた。
外観からは想像できない明るく、真っ白の内装。
受付には一人の老紳士がスリーピースを着こなし、こちら向きに座っていた。
「いらっしゃいませ。初めてですね」
何でもお見通しのような口元の笑み。
「はい」
二人はあわてて返答した。
「ご自分のお好きな夢を見る事が目的ですね」
単刀直入に老紳士は言った。
「はい」
「はい」
「ではこちらに・・・」
店内奥の扉を開け、老紳士はすたすたと歩いていく。
あわてて二人は何だかよく分からないまま付いていく。
次の空間は前室とは真逆、薄青く、足下だけがほのかに光る廊下。
個室のドアが並んでいた。
老紳士は二つのドアを開け、二人を別々に促した。
「御代は終わってからで結構です。なーにびっくりするような金額ではありませんよ。ご安心ください。どうぞごゆっくり」
押し込めるように二人の背中を押し、ドアは閉められた。
壁際にカウンターと椅子。
カウンターの上にはシガーセット一式、ウイスキーとグラスが置かれていた。
(やれやれ何だよ、説明無しかよ)
そう思いつつも、暗にストレートウイスキーを飲み、シガーに火を付けろという意味なのだろう。
そう思いストレートでウイスキーを一口飲む。
体内の管がカッと熱くなる。
シガーの先端をカットして長いマッチで火を付ける。
吸い、口の中でころがした煙を吐き出す。
一口吸っただけの煙なのに、吐き出された煙は生き物のように螺旋を描き、室内を旋回していった。

ウイスキーはよく冷えたマティーニに代わっていた。
隣には美女。
自身は高級そうなスーツを着ていた。
「!」
「ハイ・・・」
そう言うと美女はマティーニのグラスを俺の
口元に持ち上げた。
ゴクリと飲む。
(うまい)
そう思った瞬間、背後で爆発音。
体は勝手に動いていた。
美女の手を取り、破壊された窓からジャンプ。
外に止めてあるアストンに飛び乗り、エンジンをスタートさせた。
背中を押される加速。
後ろには追跡車両が2台。
しばしの逃走の後、敵意を確認した。
コンソールのボタンをポチッと押した。
真後ろに水平発射された2発のロケット。
正確に熱源を捕らえてエンジンが破壊された。
火柱が2本立ち上る。
隠れ家に無事到着し、盗んだ秘密データを本部に送信する。
これで任務は終了。
後は大人の時間だ。

「つれは?」
「お連れ様は先に帰られました」
「そう」
夢見ごちで老紳士に会計をし、家に帰って眠ってしまった。

月曜日、同僚が無断欠勤した。
電話しても出ない。
火曜日、二日目の無断欠勤。
やはり電話には誰も出ない。
仕事が終わってから、アパートを訪ねてみた。
部屋の灯りは付いていない。
インターホンを鳴らしても反応は無かった。
あの金曜日の夜、何かあったのか?
自分自身、雲の上を歩くようなおぼつかない足取りで帰るのがやっとだった。
話を聞いてみよう。


どうしてもバー「ep」にたどり着けなかった。
それらしい建物は見つけたが、5階の廊下の突き当たりには部屋が無かった。


老紳士と女子達が話していた。
「これでシガーが沢山作れたね」
「ああ、ざっと10年は楽しめる」
「もう一人、生かして帰しても良かったの」
「10年後にもう一度、罠をはって、次の10年分のシガーの原料にする」
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◎本日の想像話「美しき記憶」

2013年12月07日 | ◎これまでの「OM君」
毎朝の散歩が日課だ
これを日課というのか、我が愛犬「サマンサ」のおつきあいで近くの公園までの道のりを往復する。
私は公園のベンチに座り、たばこを一本。
サマンサはハムを食べるのが日課。
サマンサが家にやってきて14年になる。
ひゃんひゃん鳴く子犬だったが今ではすっかりおばあちゃんだ。
耳も遠くなり、足腰もふらふらだ。

その日の朝、サマンサの様子がおかしかった。
いつもなら自分でリードをくわえて散歩の催促におぼつかない足取りでやってくるのだが、ぐったり横になったまま動かない。
すぐに毛布にくるんで動物病院に連れていった。
「いよいよお迎えが近づいています。
今夜が山です。
いっしょにいてあげてください」
先生にはそう言われた。
「はい・・・」
胸がしめつけられる感覚に襲われながら、ゲージにサマンサを寝かせ、そのまま自分の研究室に連れていった。
「まだ逝くなよサマンサ」
ゲージから抱き抱え、レーザーが何重にも交差するスキャナのなかに寝かした。
少し瞼が開き、目があった。
涙を浮かべていた。
私はスイッチを押した。
棒状の光がサマンサの頭から、胴体、しっぽへと動いていった。
私の研究は記憶をデジタルデータに保存する事。
電極を脳につながずに、記憶を読みとり、データを記憶する。
サマンサの14年の記憶はほんの数分で読みとられ、100ギガほどのハードディスクに保存された。
作業終了直後にサマンサは逝った。

あの日から5年の月日が流れた。
悲しくて体が動かなかったあの日の記憶もうすれていった。
救ってくれたのはやはり愛犬だった。
サマンサと同じ犬種の子犬を知り合いから譲り受けた。
雌犬だった。
「リリー」と名付けた。
今では4歳になる。

5年前、サマンサの記憶の取り出し自体は失敗に終わった。
断片的なイメージだけがブツブツと記憶されていた。
自身の研究の底上げのため、断片的イメージを再構築するプログラムを組み立てていた。
このプログラムが完成すれば、人間の記憶の保存にも応用出来るはずだ。
いよいよ完成の手応えを感じながら、最後のエンターキーを押した。
モニター上に再起動のフラッシュが瞬いた。


「散歩に連れてって。ご主人様」
カーソルの点滅するだけの画面が音声を出力してきた。
(これは、もしかして・・・)
「リードが見つからないけど、いつもの公園でハムをちょうだい」
(サマンサなのか)
「サマンサ!」
「ご主人様!」
「おまえ、話せるのか。はじめて話したな」
「そうですね、ご主人様」

犬としての記憶がコンピューターの助けをえて、感情と言語をつないだらしい。

その後、サマンサとはいろいろな事を話した。
ちょうど3歳くらいの子供と話しているような、たわいもない内容だが、やはり楽しかった。

それから数ヶ月がすぎた。
私の周囲で穏やかではない出来事が多発していた。
私自身というより、リリーだ。
深夜、リリーの犬小屋の後ろの電柱に設置してあるトランスが過電圧によりショートし落下した。
あわや下敷きになるところだった。
おそろしい事にトランスの落下は一度ではなかった。
合計4度。

私にはピンときていた。
先日、サマンサがおかしな事を言っていたのだ。
「ご主人様、新しいメス犬を飼っていますね」
(ギクッ、黙っていたのに何故知っているのだ。)
「そうだよ。さみしくてね」
「そうですか・・・」

私は想像し、確信した。
サマンサはパソコンと融合し、ネットにとけ込み、町の防犯カメラから私たちの姿を追跡したに違いない。
電流を過剰に流し、トランスの落下を仕組んだのもサマンサだろう。

(さよならサマンサ。これまで本当にありがとう)
心のなかでそう思い、私はサマンサのハードディスクをパソコンから取り外し、ハンマーで破壊した。
もう遅いかも知れない。
ネットにとけ込んだ以上、自身の複製、コピーはいくつも、この瞬間にも存在するのかもしれない。
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◎本日の想像話「予告」

2013年12月04日 | ◎これまでの「OM君」
死神を見た。
夜のスクランブル交差点。
雨が降っていた。
傘をさして信号を待っていた。
ドキリと心臓をつかまれたような気がした。
道路の向こう側に奴が立っている。
人の顔と顔の間に奴が見えた。
目が合ってニヤリと笑ったような気がした。
ピースサインを裏返しにして骨の手をこちらに見せた。
信号が青に変わり人々が動き出す。
傘と傘、人と人の間に奴は消えていった。

キキー
その時、車がこちらにまっすぐ突っ込んできた。
そのまますぐ脇の電柱に車は突っ込み、止まった。
パーッ!
鳴りやまないクラクションが響いた。
雨が降りしきる中、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。
(急がねばならない・・・)
そう思った。

奴と会うのは二度目だ。
一度目は半年前に入院した病院。
ガンだった。
生死の際をさまよった。
深夜、ベッド脇の隙間に死神が立っていた。
見下ろしていた。
人差し指をピンと立てた手を見せながら奴は言った。
「三度目が最後だ。
これで一度目。
まだ死なないよ。
俺が三度現れた時があんたの寿命だ」
そういって死神は消えた。

あれから半年。
自宅の寝室のベッドで眠っていた。
顔に生気は無い。
死神が枕元に現れた。
「三度目だな」
「そうだ。これで三度目だ。寿命だよ」
「そうか」
俺はゆっくりと目を閉じた。
「・・・」
死神は無言のまま俺の右手をぐっと握った。
左手に握っていたスイッチを俺は押した。
数度、体がのけぞる。
少し驚いた表情を死神は浮かべたが、そのまま俺の右手をぐいっとひっぱり、俺の魂と一緒に消えた。

寝室の奥。
タンス状の箱の扉が押し開かれた。
プシュー
エア式ダンパーが稼働し一定のスピードで扉は開き続ける。
現れたのは私。
正確には頭脳は私だが、私の姿をしたアンドロイド。
死神が現れたあの時、アンドロイドの人工知能と私の頭脳をいれかえた。
死神が連れていったのはAI。
どうしても入れ替えるスイッチをあの瞬間まで押すことは出来なかった。
私は計らざるに、永遠の命を手に入れてしまった。
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◎本日の想像話「ミッドナイト冬」

2013年12月01日 | ◎これまでの「OM君」

メールが来た。
「今からそっちにいってもいいか?」
メールがきた。
送り主は不明。
またか、暇な奴だ・・・
以前もそんなことがあった。
同級生の悪ふざけ。
送り主不明で送られるメール。
無料メールのアカウントを取得してのイタズラ。
試験期間中の今、明日も試験。
共闘戦線を張るか、もしくは足のひっぱりあいか・・・
たいがい、いつも後者になる。
「いいよ」
まあ、明日の試験はどうにでもなれ。
そんな気持ちで返信した。

自分の分のコーヒーが出来上がり、どんぶりに注ぐ。
マグカップは一つしかない。
ブーン、ブーン
メールの着信。
「今、駐輪場についた」

あいつのためにコーヒーをつくる。
アルコールランプに火をともす。
沸騰がはじまり、水はお湯になり、液体は上のガラス玉に上り、琥珀色になり、下のガラス玉に落ちる。
ノックノック。
扉をたたく音。
マグカップにコーヒーを注ぐ。
マグカップから湯気が上る。

ガチャ
「よう」
挨拶しながらドアを開けた。

誰もいない。
首をだして廊下の左右を確認する。
無人。
無音。
(おかしいな・・・)
そう思いながらドアを閉め、室内にもどる。
こたつの上にはコーヒーの入ったどんぶりと、空のマグカップ。
(えっ、空になっている)
ブーン、ブーン
メールが届く。
震える手でボタンを操作する。
「ごちそうさま。また行きます。あの世より」
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