毎朝電車に乗り、仕事をする。
同じ仕事をして電車に乗り、帰る。
同じ事の繰り返し。
ある休日の朝、メールが届いた。
プライベートでメールをやりとりする相手などいない。
昨夜は録りためたビデオを見て、違うハードのゲームを渡り歩き、明け方眠った。
なので、現時刻は朝といっても、ほぼ昼だ。
タイトルは「いつも見ています」
まったく思い当たる事がなかった。
あわてて本文を開く。
「突然のメール驚かせてすみません。
毎朝電車で見ています。
同じ駅で降りるので、職場は近いのかもしれません。
このメールアドレスは職場の近くのお店で、レジに並ぶあなたを見かけたんです。
その時、真後ろに並んだんです。
あなたが出したポイントカードのメールアドレスが見えたの。
メールを出すか出さないかで今まで悩んだの。
よろしければおつきあいしたい。
またメールします。」
文面はそんなかんじだった。
見当がつかない。
雲をつかむような話だった。
でも何だかうれしかった。
月曜日。
いつもと同じ一週間の始まり。
憂鬱な気分のはずが、あのメールのおかげでいつもの通勤電車も楽しい気分だった。
(誰かが僕を見ている)
金曜日の仕事終わり、夜、メールが来た。
駅の建物に入る前に携帯を確認した。
この5日間、メールはこなかった。
今週初めてのメールだった。
「今夜、予定どうですか?」
あわてて本文を開く
「今、駅にいます。
あなたの後ろにいます。
私は携帯を見ています。
声をかけて。
でも、私は恥ずかしがり屋だから、びっくりした顔をすると思うの。
でもがんばって誘ってみて。
今夜、駅前の「ビモーダ」っていうイタリヤ料理屋に連絡してあるの。
要領えない顔をするけど、照れ隠しの裏返しなの。
だからがんばって誘って」
後ろを振り返る。
壁にもたれて髪の長い女の子がスマホを見ていた。
おとなしそうなかわいい女の子。
(よし・・・)
意を決して近づき声をかける。
「あの、すみません」
彼女は顔を上げ、びっくりした様な表情を浮かべる。
「あの、僕、好きなんです。「ビモーダ」のリゾット。ごいっしょにどうですか」
「・・・」
要領得ない表情の彼女。
「あの、これから、少し、時間ありませんか」
もう少しがんばってみる。
彼女の表情に今の状況を理解した表情が浮かんだ。
「これはナンパですね。いつも声かけてるんですか?」
「・・・いえ、初めてです。声をかけるなんてとてもとても」
汗をハンカチでふきつつ答えた。
彼女はじーっとしばらく黙ってこちらを見た。
そして言った。
「いいですよ。友達にもドタキャンされたし、私もビモーダのリゾット好きだし」
僕は単純にうれしかった。
ここは「ビモーダ」の事務所。
深夜、パソコンに向かう男あり。
経営者の男だ。
パソコンの画面には膨大な数のメールリストが表示されていた。
ドラッグしてメール送信。
内容はあの文面だ。
「いつも見ています」
どうとでもとれる内容。
携帯を見ている女の子は振り返ればたくさんいる。
メール受信者がちょっと勇気を出して、うちのお店に来てほしい。
まあ、違法行為だ。
まあ、当事者達が結果オーライの場合もあるのかな。
結果オーライ、オーライ。
そう男はつぶやいた。
同じ仕事をして電車に乗り、帰る。
同じ事の繰り返し。
ある休日の朝、メールが届いた。
プライベートでメールをやりとりする相手などいない。
昨夜は録りためたビデオを見て、違うハードのゲームを渡り歩き、明け方眠った。
なので、現時刻は朝といっても、ほぼ昼だ。
タイトルは「いつも見ています」
まったく思い当たる事がなかった。
あわてて本文を開く。
「突然のメール驚かせてすみません。
毎朝電車で見ています。
同じ駅で降りるので、職場は近いのかもしれません。
このメールアドレスは職場の近くのお店で、レジに並ぶあなたを見かけたんです。
その時、真後ろに並んだんです。
あなたが出したポイントカードのメールアドレスが見えたの。
メールを出すか出さないかで今まで悩んだの。
よろしければおつきあいしたい。
またメールします。」
文面はそんなかんじだった。
見当がつかない。
雲をつかむような話だった。
でも何だかうれしかった。
月曜日。
いつもと同じ一週間の始まり。
憂鬱な気分のはずが、あのメールのおかげでいつもの通勤電車も楽しい気分だった。
(誰かが僕を見ている)
金曜日の仕事終わり、夜、メールが来た。
駅の建物に入る前に携帯を確認した。
この5日間、メールはこなかった。
今週初めてのメールだった。
「今夜、予定どうですか?」
あわてて本文を開く
「今、駅にいます。
あなたの後ろにいます。
私は携帯を見ています。
声をかけて。
でも、私は恥ずかしがり屋だから、びっくりした顔をすると思うの。
でもがんばって誘ってみて。
今夜、駅前の「ビモーダ」っていうイタリヤ料理屋に連絡してあるの。
要領えない顔をするけど、照れ隠しの裏返しなの。
だからがんばって誘って」
後ろを振り返る。
壁にもたれて髪の長い女の子がスマホを見ていた。
おとなしそうなかわいい女の子。
(よし・・・)
意を決して近づき声をかける。
「あの、すみません」
彼女は顔を上げ、びっくりした様な表情を浮かべる。
「あの、僕、好きなんです。「ビモーダ」のリゾット。ごいっしょにどうですか」
「・・・」
要領得ない表情の彼女。
「あの、これから、少し、時間ありませんか」
もう少しがんばってみる。
彼女の表情に今の状況を理解した表情が浮かんだ。
「これはナンパですね。いつも声かけてるんですか?」
「・・・いえ、初めてです。声をかけるなんてとてもとても」
汗をハンカチでふきつつ答えた。
彼女はじーっとしばらく黙ってこちらを見た。
そして言った。
「いいですよ。友達にもドタキャンされたし、私もビモーダのリゾット好きだし」
僕は単純にうれしかった。
ここは「ビモーダ」の事務所。
深夜、パソコンに向かう男あり。
経営者の男だ。
パソコンの画面には膨大な数のメールリストが表示されていた。
ドラッグしてメール送信。
内容はあの文面だ。
「いつも見ています」
どうとでもとれる内容。
携帯を見ている女の子は振り返ればたくさんいる。
メール受信者がちょっと勇気を出して、うちのお店に来てほしい。
まあ、違法行為だ。
まあ、当事者達が結果オーライの場合もあるのかな。
結果オーライ、オーライ。
そう男はつぶやいた。