折々の写真＆雑感 241

2019年10月27日 | エッセイ

　ヤバイ、モク、ベシャる等々は隠語、所謂裏の社会の単語であった。だが、現在では一般社会の言葉になってしまったようだ。庶民の会話の中だけではなく、マスコミでも堂々と使われている。だが、「ベシャる」に関しては意味合いが違っている。本来は敵対する相手に味方の情報を流すとか、脅されて秘密を話してしまう事を指した。現在では単に「おシャベリ」の意のようだ。余談だが、「ベシャる」がいつの間にか、誰がそれをやったか警察に通報することを「チクる」と変化したようだ。

　私が最初に知った隠語は警官を指す「ガチャ公」だった。昔の警察官は拳銃ではなくサーベルを腰から下げていた。それが歩くたびにガチャ、ガチャと音を立てることからそのように呼ばれるようになったと聞いた。それが現在では「マッポ」と云われている。私の学生時代には、指で丸を作って額に充てた。警官の制帽の記章を指したものであろう。

　江戸時代、あるいはそれ以前には夫々の属する社会の服装、言葉遣いなどがその社会に依ってかなりの違いがあった。人に依っては差別されていたと云うかもしれないが、きちんと区別と云うか住み分けがされていた。現在はその垣根が完全に取り払われ、ヤクザさんとも共通の言葉を使っているようだ。だが、残念なことに完全に共通とは云えず、服装と目つきが多少違っているようだ。

　アメリカの空軍に勤めていた時に、かなりの隠語がある事を知った。而し、ここでは書き辛い単語が殆どだった。その他にも、手榴弾のことをパイナップルと呼んでいた。その形状が似ていたからであろう。また、ハワイの二世の蔑称としてもパイナップルが使われていた。軍人の間でよく使われていた、成り立ちが日本とは多少違っている単語にも接した。それは隠語と云うより簡略語と云った方が正しい。それを軍隊が最初に使い、次いで一般社会でも使われるようになった単語である。代表的な例がＯＪＴ（On the Job Training）とＴＤＹ（Temporary Duty）である。前者は部下が仕事に就く前に基本的なことを上官が教える事を指し、後者は仮の任務、即ち出張を意味する。この言葉は現代のアメリカの一般社会でも通常の言葉として使われている。そして、この簡略語は軍隊だけではなく、航空会社でも使われているＥＴＡ（Estimated Time of Arrival、予定到着時間）とかＥＴＤ（Estimated Time of Departure、予定出発時間）、或いは写真家の間では被写界深度をＤＯＦ（Depth of Field）と云っている。

　写真仲間と昭和記念公園に行った。目的は「ホトトギス」を撮ることにあった。以前に所属していた写真クラブの先輩がメールで送ってきてくれたホトトギスの写真に感動し、それ以来何とか、先輩のようにいい写真を撮りたいと願っているが非常に難しい。
　ダリアやケイトウ、コスモス等々の写真を撮りながらホトトギスの咲く「こもれびの丘」方面に向かった。途中に何度か園内放送で「イノシシ」と云う言葉を聞いたが、昭和記念公園ではイノシシなど飼っておらず、聞き間違えであろうと気にもしなかった。「こもれびの丘」に着くころ、やっと聞き間違えではないことに気づいた。その放送では出来る限り早く園内から出てくれと云っていた。折角来たのだから、少しでもホトトギスを撮りたいと考えたが、「こもれびの丘」では園の職員が警戒に当たっており、我々に直ぐに園から出るように促された。西立川門の近くまで、汽車ポッポに無料で乗せてくれた。

　後で聞いた話だが、イノシシの目撃情報が三度も寄せられたそうだ。イノシシは痩せており、空腹で非常に危険な存在であるとのことだった。園内にいた大勢の幼稚園児はお昼のお弁当の前に臨時閉園のために、可哀そうに外に出されてしまった。だが、本当に可哀そうなのは園児ではなく、食料もなく、人間に追い立てられているイノシシだろうと私は思う。