つぼみな日々

いろんな花の蕾をもっていたい。たくさんの花を咲かせたい。
言葉を紡ぎたい私のブログです。

バケーションなう

2013-01-03 20:36:12 | 日記
持って行った五冊の本を開くこともなく、機内の飛行機の映画を観ることもなく、ブログを書きたいと思うこともなく、音楽だけはやっぱり時々求めて、一週間の旅を終えようとしている。
閉められた飛行機の窓を開けると、満点の星空。
地上を見下ろすとオレンジ色の光の塊。
あの街はどこだろう。

珍しくここまで、旅中に何かを書きたくなることがなかった。

飛行機に乗って海外へ行くと、時差と空を飛んでいるという不思議さと、こんな小さな檻の中に閉じ込められても遠くへ行きたい人間のことをよく考える。
海外のすべてが真新しいわけではないけれど、面倒を買って足を伸ばした分、経験や知見は広がる。
それが自分の何かになるかならないかもまた別のことだけれど、やはり新しいものは外にしかなくて、‘違う’ということは可能性を秘めていて、自らの行動によって自分の地層を厚くできるような気がして海外へ行く。

と、それも本当ではあるけれど、今回はそんな大層なものでは全然なかった。
友人からタイミング良く誘われ、プランもチケットもほぼ人任せ、旅中の地下鉄の乗り換え駅も目的地ですら把握していないという怠慢ぶりであった。
行き先のロンドンも行きたいと願ったことは一度もなかったことも正直なところだ。

心に残っていないものはそれほどの経験でなかったと思うが、それでも未来の少しの懐かしさのために書き留めようかと思う。

出発日の前日、私は仕事が終わらなくて重たい頭で目をしぱしぱさせながら、マウスを動かす右手がもう上がらなくなるのを覚えた。
結局単純なオーバーワークの疲れで泣きそうになりながら午前2時に仕事を無理やり切り上げて、凍てつく風が吹く表参道でタクシーを拾って帰宅した。
こうなることは予測できていたからほぼ完璧に荷物のパッキングは済ませていた。

シャワーを浴びて、1時間半後にし直すコンタクトレンズや化粧を落として、携帯でアラームをセットする。
午前4時半に鳴ったアラーム音がなんの音なのかなかなか認識できなくて、ギリギリになってしまった。
ピンク色のスーツケースを引きずってまたもタクシーに飛び乗り、6時の始発の新幹線にて名古屋に移動、ルフトハンザ航空でフランクフルトを経由して無事ロンドン、ヒースロー空港に到着した。

友人の友人たちとパディントン駅で落ち合い、非常な疲れのためにすぐにホテルに向かいシャワーを浴びて眠りに落ちた。

朝、ホテルの近くの選択の余地はないお店でイングリッシュマフィンとベーコンエッグとコーヒーで朝食。
小川洋子の小説に出てきそうなくぐもったアンティーク感のあるカフェ。

ロンドンの中心部で兵隊の戴冠式を見に行く。
赤い服を着て長い毛の帽子をかぶった兵隊さんたちが馬に跨って、ポストカードの絵柄みたいに目の前を通り過ぎる。
とてもたくさんの人が集まっていたけれど、結局この日戴冠式はないらしかった。
告知の看板やアナウンスがどうしてないのだろう。

街並みを見ながら、友人の友人はロンドン駐在のため日本食が食べたいと言ったので私たちも是非、ということでさくらという日本食レストランへ。
イギリスのごはんは美味しくないとよく言われるものだが、私も実際にそう思った。
元々味付けはあまりしないらしく、ケチャップやマヨネーズといったソースで食べるものが多いとのことで、そうかと思えばとても塩辛かったりと、ちょうど良い塩梅ということがない。
この旅を通して、一番美味しかったものはと聞かれたら、わたしはさくらの天丼だと答えざるを得ない。
次はイタリアンレストランだ。
フィッシュアンドチップスも最初は美味しいけれど、早々に飽きてしまう。

友人たちが組んでくれたスケジュールに乗っかって、地下鉄で移動を繰り返して有名なビッグベンやマダムタッソーという蝋人形館やロンドンブリッジなどをまわる。
現地に慣れている人がいるのは本当に心強いし楽だ。
年末のロンドンは観光地は混雑していたけれど、少し外れると閑散としている。

さすがに緯度が高く、8時頃ようやく陽が昇り始め、16時には陽は沈んでしまう。
イメージの通り基本が分厚い雲に覆われた曇天。
しかし気温は日本より高いくらい。
日本では寒くても使わないホッカイロを持ってきていたのでせっかくだからとお腹と背中の両面に貼ると、当たり前に少し汗ばんで暑い。

友人のメインであったプレミアムリーグのサッカー観戦にも行く。
私はサッカーはワールドカップやオリンピックでさえも見ないし、ルールも細かくはわからない。
それでも、アーセナルとどこかのこの試合は合計で10点もゴールして、友人の大好きなアーセナルの完全勝利というド素人目に見ても楽しめる試合であった。
点が入る度に、隣りに座っていたアメリカ人のおじさんは熱狂してハイタッチやら握手やらをし、挙げ句私をハグしてキスまでした。
まあでも、人が熱狂するということは尊いことだと私も思うようになったから、こういうことも軽い祝福のような心持ちでいられる。

ロンドン駐在の友人たちとは二日間で別れ、そこからセブンシスターズという崖やポーツマス、ストーンヘンジなどへ移動する。
電車で一時半程度の各移動も、美しい丘陵地やかわいらしいレンガの家を見ながら、ハイロウズを聴きながら眠ったりしているとあっという間だ。

私は歴史的建造物よりも自然の方が興味がある。
とにか壮大、絶景•奇景、といったものが見たい。
そういう点においては、ストーンヘンジは思ったより小さくて、セブンシスターズが圧巻だった。
何より吹いている風が圧巻だった。
崖まで向かう道は白鳥やらがいる湿地になっていて、30分をかけないと崖までたどり着かない。
途中、ぬかるみは水溜りに変わり、何の準備もしていなかったムートンブーツは少し埋れてしまったが酷く汚れただけで何とか染みずに済んだ。

ともすれば吹き飛ばされてしまうくらいの突風で、高い崖の下はその崖に打ち付ける波が白く泡を立てながら砕けている。
小さな子連れの観光客もいたが、崖に柵などあるはずもなく、警備員や案内人もおらず、この地での事故はそれほどないものなのだろうか。
写真を何枚か撮ったが、カメラが飛ばされてしまいそうでいいショットを収めることができなかった。

イギリス人はこちらの応えに「lovely」や「perfect」という言葉をよく使う。
メニューの注文やそれが美味しいかどうかを尋ねたり、ホテルのチェックアウトなどの簡単なやりとりで。
相槌程度の返答であることはわかっているのだが、ラブリー、パーフェクトとは日本人的発想の下、直訳で考えてしまうと必ずしもそうではないので、それが面白くて私たちは最後まで会話に取り入れて遊んでいた。

メインイベントの一つでもあったロンドン市内での年越しの花火を、私たちはあえなく寝過ごしてしまった。
友人のかけた目覚ましがAMとPMが間違っていたらしい。
しかし私はいくら海外に来ているからと言って頑張って疲れ過ぎるということが嫌なので、どちらにしてもものすごく混雑している場に行ったかどうかはわからない状態だった。
日本の9時間遅れのハッピーニューイヤーは花火の音も聞こえないくらいの熟睡中だった。

曇天、陽が短い、食べ物が美味しくない、と結構な悪条件だが総じて楽しかった。
私自身の余裕がさっぱりなかった12月の気忙しさを、旅の疲れの中にも思い出さずに済んだのは一緒に行った友人のおかげだ。
思慮に耽ることはなかったのは、私の旅では珍しいがそれがとてもよかった。
よく笑った、よく食べた、よく寝た。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。