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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

沖縄の民意が正義を貫き通した、帝国書院『新現代社会』の記述再訂正

2016年09月04日 | こども危機
 ★ <コメント・1>帝国書院『新現代社会』再訂正申請の意味
   皆さま     高嶋伸欣です


 1.昨日(1日)に沖縄から東京に戻り、帝国書院『新現代社会』の記述再訂正の件が、『日経』以外の全国紙4紙でも報道されていることを、確認しました。
 2.全国紙でも揃って報道されたことはそれなりに評価できます。けれどもその内容は、事実を淡々と伝えているだけで、まるで全国紙は揃って文科省のスポークスマンになり下がっているかのような記事です。
 そのことについての私見(批判)を述べつつ、今回の再訂正が沖縄おける教科書問題での沖縄側の粘り強い取り組みで、「本土」側の歪みをただしたことを、説明したいと思います。
 3.各紙記事では「検定済みの教科書で使用前に同じ個所を2回訂正するのは異例」(読売)という文科省側の説明に言及していますが、それだけです。
 4 今回の再訂正で、同じ個所の訂正を2度も実行したということは、発行者の帝国書院の不手際であると同時に、その部分についての検定そのものが杜撰だった、ということを文科省も認めたことをも意味しているはずです。
 5 そのことを示しているのが、1回目の訂正でも書き換えていなかった沖縄の「振興資金」という用語を、今回は「振興予算」という用語に変えている点です。
 6 「振興資金」という用語は、「沖縄が本来の他府県と同様の政府予算とは別に基地負担の埋め合わせとして毎年3000億円もの特別の支出による優遇策を受けているのに、沖縄はまだごねている」という”沖縄よあまえるな!””沖縄はごね得の名人!”などという沖縄バッシングや「基地負担の埋め合わせはしている」とするために「本土」側差別者たちが考案した造語です。
 7 ちなみに、本来の沖縄関連の政府予算(沖縄振興予算)以外に、上記のような沖縄優遇の別枠での政府支出は一切なく、もちろん「振興資金」なるものは存在していません、
 それをいかにも存在しているかのように見せかけ、沖縄バッシングにこの造語がしきりと使用されてきていたのです。
 そして、それを露骨にまとめたのが『新潮45』2012年6月号の特集「復帰40年『沖縄の不都合な真実』」所載の「補助金要求の名人たちが作る『公務員の帝国』」という論考です。執筆者は、自称・評論家の篠原章氏です。
 8 やがて、この篠原氏の論考は『日経』の元那覇支局員の大久保潤氏との共著『沖縄の不都合な真実』(新潮新書・601、2015年1月)にも収録されます。
 同書の篠原氏の記述部分では、「移設の見返りに配分されてきた政府からの振興資金」「現実の沖縄経済は、基地と基地負担の見返りである振興資金に支えられています」「基地の見返りとして沖縄に配分された巨額の振興資金」「基地負担の見返りに投入されている振興資金」等々、まるで壊れたレコーダーのように、歪曲表現を繰り返しています。
 9 そして、この2015年1月に出版された新潮新書『沖縄の不都合な事実』に基づいて、帝国書院の『新現代社会』の問題のコラム「沖縄とアメリカ軍基地」が執筆されたのです。
 この事実を、帝国書院自身が沖縄のメディアからの電話取材で認めています(『琉球新報』3月19日)。
 10 結果として、2015年4月に検定申請された『新現代社会』のコラムには「事実上基地の存続と引きかえに、ばくだいな振興資金を沖縄に支出しており、県内の経済が基地に依存している割合きわめて高い」という記述が、臆面もなく掲載されたのです。
 11 ところで、沖縄県にはこのところ毎年3000億円以上の政府予算「振興予算」が支出されていますが、これは沖縄を1952年の「本土」の独立回復以後も、アメリカ軍による異民族の支配下に20年間放置してきた「本土」社会からの償い政策の効果的な実施を定めた「沖縄開発振興特別措置法(2002年からは沖縄振興特別措置法)」に基づき、内閣府が各省庁の沖縄関連予算を統括一本化して「沖縄振興予算」と称しているものです。
 従って、毎年3000億円に達していても、他府県が各省庁予算で得ている政府支出の府県別合計で比較した場合には、他府県よりも突出しているものでもありません
 にもかかわらず、他府県よりも突出しているとか、別枠の「振興資金」で優遇しているかのように思い込ませているのが『沖縄の不都合な真実』の記述です。
 12 当然のこととして、2015年度検定において、文科省上記の記述は事実を歪曲し、沖縄の実態を誤解させるものであるとして、書き換えを指示すべきでした
 けれども、検定では書き換えが指示されませんでした。

 13 いかにも安倍政権であればこそのできごとです。辺野古問題で安倍首相や菅官房長官が苛立っていることは、周知のことです。その苛立ちに同調した事実歪曲の教科書記述を、事実に即したものに是正させる度胸や見識のある人物は検定官や検定審議会委員には任命されていない。それが現在の検定制度と運用の実態である、というわけです。
 14 かくして、上記10の『新現代社会』の歪曲記述は、検定申請本(白表紙本)のまま検定に合格とされてしまいました。
 このままでは、この歪曲表現の見本本が全国の高校に送られることになりかねませんでした
 15 けれどもそうはなりませんでした。検定結果が報道解禁になった3月18日午後、まず沖縄の民放TV局が、この記述を問題視したニュースを流し、よく19日には『琉球新報』と『沖縄タイムス』(朝刊のみ)が、大きく取り上げたのです。
 特に『琉球新報』は第1面、第1・2社会面と特集紙面でもこの記述の不当性を多角的に追及するという力の入れようでした。
 16 この沖縄側の反応で、帝国書院は見本本作成前の訂正申請を覚悟するに追い込まれていたと考えられます。国会でも問題にされ、文科省は首相官邸から叱責されたことでしょう。
 帝国書院と文科省の思惑は一致していたはずです。その証拠に、検定終了から2週間後の4月4日に1回目の訂正申請手続きをし、文科省は申請通りの書き換えを承認しています。
 17 この段階で、沖縄の世論(民意)は検定の不手際、政治的思惑による事実歪曲の教科書記述を認めないという正義を貫き、文科省と発行者の落ち度を明白にしたことになります。
 18 ところで、この1回目の訂正申請によって改変された新たな記述も、きわめて不十分なものでした。
 県民所得に占める基地関連の「収入の割合は約5%である」と渋々認めながら、「沖縄のアメリカ統治が続いたことや、広大な多数の離島が点在していること、亜熱帯地域にあること、そしてアメリカ軍施設が沖縄県に集中していることなど、さまざまな特殊事情を考慮して、毎年約3000億円振興資金を沖縄県に支出し、公共事業などを実施している」
 という具合で、相変わらず別枠の政府支出で優遇されている、と誤解させるものだったのです。
 19 これに沖縄側がなっとくするはずがありませんでした。
 再度の訂正申請を求める怒りの声が噴出します。
 その怒りの激しさを示したのが、『琉球新報』の社説(4月29日)です。そこには、
  「学校教育で事実に基づかない教科書を使わせることを放置することは許されない」
  「訂正申請をしないならば、全国の教育委員会に帝国書院の『新現代社会』を使用しないよう呼びかけるしかない」
 と、ありました。

 20 このような厳しい声があがることになったのも、帝国書院はともかく文科省国会でこれ以上の訂正申請は必要がないという答弁(4月26日、堂故茂文科政務官・当時)をしたためでした。
 同じ部分で再度の訂正申請を認めたのでは、検定が不十分だったためということになるので、そのように答弁して切り抜けようとしていたのは、明らかです。
 21 検定担当の教科書課の係長たちも同様でした。4月中旬、文科省教科書課と沖縄の「9・29県民大会決議を実現させる会(実現させる会)」の東京要請団が交渉した際のことです。
 沖縄側が上記18の記述は「事実を誤解させる」ので訂正すべきだと主張したところ、担当係は「でもこれは沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興基本方針にある表現なのですよ」と、切り返したのです。
 この一言で、訂正申請は帝国書院と教科書課の合作であることが分かりました。

 22 教科書検定で検定官が要求する表記の基準の一つが、官庁用語・官庁流表記の使用です。
 有名な事例に「米軍基地」という表現を変更させた件があります。日米安保条約には「基地」という表現がなく「施設及び区域」と表現されているためでした。
 これはさすがに行き過ぎだとして現在では「基地」表示が認められていますが、そうなるには家永裁判などで裁判所から検定官が叱られるのを待ったように、私は記憶しています。
 また、地理の場合に方位を表現する際は、東北・西南はだめで。北東・南西など北・南が上にくるように指示されます。これが官庁の表示方式であるためです。確かに外務省や経済産業省には北東アジア課・南東アジア課はありますが、東北アジア課・東南アジア課はありません。
 なお「都の西北、早稲田の杜に~」「東北地方」など慣用化されているものはOKでした。
 23 ともあれ、21のやりとりで今も検定官側が、官庁表現や官庁文書などを検定の判断基準にしていることが分かりました。
 そこで「それなら、政治的な歪曲表現の造語の『振興資金』という記述を検定の時からなぜ許容しているのか。約3000億という金額をあげているのは政府・官庁の用語でいう『振興予算』のはずだ」と、こちらから指摘しました。
 教科書課側は「えっ」といったまま沈黙し、係同士で顔を見合わせていました。3月末の人事で担当者が交代したとのことで、新旧の担当者が同席していたのですが、さぞかし「誰のミスだ?」と目で交わしていたのではないかと思われます。
24 このような経過があったので、私たち沖縄側の「実現させる会」などでは、帝国書院の再訂正を教科書課も望んでいるはずで、その時期は夏の採択が終わって、4月に生徒に渡す供給本の印刷に着手する9月以後ではないかと、予想していました。
 25 それが予想よりも早く、8月末に実行されたことを明らかにしたのが、9月1日の全国紙各紙の報道というわけです。
 26 長い説明になりましたが、今回の帝国書院『新現代社会』の再訂正騒ぎは、出版社だけの責任ではなく、文科省の責任も厳しく問うべきものであることを、指摘したつもりです。
 27 にもかかわらず、9月1日の全国紙の記事にはその観点がまるでありません
 繰り返しますが、これでは全国紙は文科省のスポークスマンの役を演じているのとほとんど同じです。
 「再度の訂正は異例」というところまで文科省が素直に説明しているということは、文科省内ではこれ以上の内部批判ができないので、どこかのメディアが問題視してくれないだろうかという期待を秘めたものであった可能性もあります。
 28 当の全国紙は、3月18・19日の報道解禁の際に帝国書院のこのコラムが政治的な歪曲記述である、ということにまるで言及していませんでした。沖縄問題についての認識が相変わらず「本土」社会の一員でしかないということで、この記述を問題視することさえなかったとも考えられます。
 もしそうであれば、9月1日の味気ない記事の書き方も当然ということになりそうです。
29 ともあれ、帝国書院版『新現代社会』の不都合なコラム記述について、沖縄の民意が「本土」社会に一矢を報い、教科書問題で何度目かの正義を貫き通したできごと、ということができそうです。
   *今回の再訂正ではもう一件、沖縄の民意が貫かれた事柄があります。
    これも経過説明をすると長くなるので、別途<コメント・2>とし
    てまとめるようにいたします。

  上記の文責は高嶋です      拡散・転送は自由です

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