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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

韓国で国民儀礼を拒否した研究者が解雇撤回を勝ち取った裁判

2017年11月05日 | 日の丸・君が代関連ニュース
  『労働を弁護する』(耕文社)から
 ◎ 韓国労働研究院の無謀な解雇
   政府研究機関における一般任用拒否事件


 依頼人である原告は、韓国で経済学修士の学位を取得し、アメリカで経済学博士の学位を取った直後の2007年9月17日に韓国労働研究院(以下「研究院」)に就職した。
 被告である研究院の関連規定で、研究職は採用後最初の2年は特殊任用とし、任用期間終了の30日前に人事委員会の審議を経て特殊任用を延長または契約を終了することができ、研究実績や勤務成績が優秀だと認められれば一般任用で発令することとされていた。それまでは、博士級の研究員として特殊任用された後に一般任用されずに契約が終了したケースはなかった
 研究院の人事委員会は、2009年7月30日に原告の一般任用に関する案件を審議したが、一般任用するかどうかについての決定を留保して、1年以内に2009年度の評価結果が出た時点でこれを再度審議することで出席委員全員が同意し、これを院長に報告した。
 院長は8月6日に、原告が組織構成員として基本的に備えているべき資格要件を備えていないという理由で、人事委員会に再議を要求した。
 院長は依頼人の資格未達事由として、
 ①原告が2009年1月12日に院長の業務上の指示を特別な理由なしに2度にわたって断固として拒否した点、
 ②毎月1回開催される経営説明会と事務職等の公式行事に1年以上無断で参加せず、2009年2月からは経営説明会に出席しながらも国民儀礼(公共団体などで公式行事の際に行われる国旗敬礼・国歌斉唱等)を拒否した点(依頼人は2008年2月頃、研究院内の掲示板サイトを通じて、国民儀礼が国家主義や全体主義を連想させるという理由で経営説明会での国民儀礼を省略しようと提案し、2008年4月から2009年1月まで経営説明会に出席しなかった。2009年1月頃に院長と面談した後は経営説明会には出席しながらも、国民儀礼をする時には着席したままだった)をあげた。
 人事委員会は8月12日に原告の一般任用に関する案件を再度審議したが、8名の委員のうち、院長が直接決定すべきだという意見が5名と多数を占め、それ以外に、一般任用をすべきだという意見が2名、任用終了という意見が1名で、これを院長に報告した。
 8月14日、院長は依頼人に、同年9月16日付で特殊任用契約が終了することを通知した。
 ◎ 国民儀礼拒否が解雇事由
 依頼人は通知を受けた後に訴訟委任の意思を明らかにし、解雇の効力が発生した9月17日以降に私の事務所を訪ねてきた。
 契約した後に準備し、9月28日に解雇無効確認原職復職時までの賃金支給を要求する訴状を提出した。
 被告側である研究院の形式的な答弁書だけが提出された後、2010年1月22日に裁判が開かれることになった。
 法廷に行ってはじめて被告側が提出した正式な準備書面を受け取ることができた。
 大型法律事務所が担当した被告代理人たちは、準備書面をギリギリに提出することで原告側の防御準備を手こずらせる戦術を取ってきたのだ。同業者精神はどこに行ってしまったのかとさびしい気持ちになった。
 この事件での争点は、
 ①原告と被告との間の特殊任用契約は特別な事情がない限り一般任用に転換することを予定したものであり、原告には所定の手続に従って一般任用されるだろうという正当な期待権が認定されるかどうか、そして解雇に正当な理由があるかどうか、
 ②原告が院長の特定研究遂行の指示を拒否したことを院長の正当な業務指示に対する拒否であると判断して、勤務実績が優秀ではないと評価する根拠とすることができるかどうか
 ③原告が被告の経営説明会に欠席したり、出席しても国民儀礼を拒否したことを、勤務実績が優秀ではないと評価する根拠とすることができるかどうか
 ④原告に対する2008年の人事考課の結果を、勤務実績が優秀ではないと評価する根拠とすることができるかどうかなどであった。
 依頼人を解雇した院長は、国会の公開の場で憲法の労働三権条項を削除しなければならないという所信を明らかにして物議を醸し、任期途中に院長職を退任した。長期間ストライキをしていた労働組合は、院長退任後にストライキを解いて業務に復帰した。
 被告側は院長職務代行を証人として申請し、同年4月16日に証人尋問をした。

 ◎ 良心の自由の問題
 5月14日に一審判決が宣告されたが、原告の全部勝訴であった。
 原告に一般任用に対する正当な期待権が認定されるかどうかについて、被告の人事規程等には一般任用手続と要件に関する根拠規定が置かれており、原告がアメリカの大学で経済学博士の学位を取得した後に研究院に任用された点、任用当時の研究院の人事規程に定められていた要件に関して人事委員会の審議を経ていた点、研究院の設立以来、博士学位所持者以上を対象とした研究員の中に一般任用されなかった事例がなかった点等を考慮し、原告には、特殊任用契約期間が終了した後に、研究実績や勤務実績が優秀だと認定される場合には一般任用されるという正当な期待権が認定されると判断した。
 そして、原告が経営説明会に欠席したり、出席しても国民儀礼を拒否したことを勤務実績が優秀ではないと評価する根拠とすることはできないと判断した。この国民儀礼の拒否に対する判断部分に意味があった。
 大韓民国国旗法と国旗掲揚・管理および国民儀礼についての指針等を考慮するならば、国旗に対する敬礼や誓約は国旗を尊重し愛国精神を鼓吹するためのものであり、国家が関係法令を通じて国民に要望している行為ではあるが、これを厳密な意味の法的義務であると考えるのは困難であり、大韓民国の国民が国旗に対する敬礼や誓約を拒否したとしても、一般的にこれを理由としてその人に何らかの制裁を加えたり不利益を与えることはできないと判断したのである。
 国旗に対する敬礼や誓約文のすべてが、国家を愛し国家に献身しようという内面の良心を国旗を媒介にして敬礼や誓約文の言葉の朗読という行為を通じて外部に表現するものであり、その拒否を理由として制裁を加えたり不利益を与えることは結果的に良心の自由を侵害する余地が大きいからだということであった。
 博士級の研究員である依頼人に対して院長が一方的に研究課題を課すことが正当かどうかに関しては、博士級の研究員が遂行する研究が他人によって強制されてはその効率性と研究結果の妥当性を担保することが難しいという点を認定し、依頼人が合理的な理由で拒否の意思を明らかにしているのにさらにその課題の遂行を要求することは研究の専門性と自律性を侵害するとして、院長の一方的な研究遂行要求は正当な業務指示に該当するとみなすことは困難だと判断した。
 ◎ 控訴審と上告審の進行
 解雇は院長が無理に行ったものであり、この点が一審判決によってあまりにも明確に確認されたため、研究院が控訴を諦めて依頼人を原職に復職させて事態を円満に解決してくれることを期待していた。
 研究院は労働関連の政府外郭研究機関である。解雇事件に対する法院の判決を研究院も十分に予想しているだろうから、その体面を考えても控訴をしないことを期待した。
 ところがそのような期待を見事に裏切って研究院は控訴を提起した。一審判決の中で、大勢には何の支障もないが、事実関係を曖昧に認定した部分に食い下がってきたのだ。
 一審判決は、賃金支払に対して仮執行宣告をつけてくれた。控訴審裁判が長引き、依頼人が賃金の仮執行を要請した。執行文を付与された後、研究院のメインバンクの口座に対する差押えおよび取立決定が送達されると、研究院はそれまでの給与をすぐに支給してくれた。
 控訴審では2度ずつ準備書面をやりとりした後、2010年10月15日に弁論が開かれ、11月5日にもう一度弁論を行った後、12月10日に判決が宣告された。
 二審判決は、一審判決を認容した後に、控訴審で被告が追加で主張した部分について非常に詳細な理由を付して被告研究院の控訴を棄却した。
 ここまでされれば上告を諦めるだろうと思っていたが、あろうことか研究院は代理人を別の大型法律事務所に替えて上告してきた。単なる責任逃れか?新たに画期的な上告理由が出るわけがなかった。
 私たちは一・二審の判決理由を根拠として答弁書を整理して提出し、審理不続行棄却判決宣告を待っていた。答弁書を提出したのが2011年2月11日で、期待通りに4月14日付で審理不続行棄却判決が宣告された。
 この事件では審理不続行棄却判決がありがたかったが、20名を超える人員が整理解雇されて熾烈な闘いをして上告した事件も同じ日に審理不続行で棄却され、私たちが敗訴した。判決理由も到底受け入れられないものであり、胸が詰まるようだった。
 解雇されてから1年7か月で大法院まですべて終わった。裁判がとても速く進められた。大法院で審理不続行になったことが期間短縮に大きく寄与したのだ。
 審理不続行制度は諸刃の剣である。迅速なスピードで進めながら理由を説示し、不信を克服する妙手はないものだろうか?
 被告の韓国労働研究院は、李明博(イミョンバク)政権下で予算が削られ、労働部からの委託事業がほとんどなくなったため厳しい財政状況に陥っていた。職員に対する給与も減額するなど、非常措置を取らなければならなかった。
 ところが原告の場合には、判決によって解雇期間中の給与を全額支給された。非常識な機関の長によって不当に解雇された原告が味わうことになった精神的・経済的苦痛はもちろん、労働に関する政府の外郭研究機関の対外的なイメージ失墜と内部的な混乱に対して、誰がどのような方法で補償してくれるのだろうか?
『労働を弁護する-弁護士金善洙(キムソンス)の労働弁論記』(耕文社)
訳者 山口恵美子 金玉染

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