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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

総理任命は、学校の「生徒会役員任命式」みたいに「箔付け」のようなもので実質的な拒否権はない

2020年10月07日 | 平和憲法
  《尾形修一の紫陽花(あじさい)通信》
 ◆ 内閣の任命拒否は「違法」であるー学術会議問題①

(質問に答えない菅首相)

 菅義偉内閣による日本学術会議の会員任命拒否問題は、その重大な問題性がますます明らかになってきた。ノンビリと本や映画の話を書いてるわけにも行かなくなって、数回この問題について考えたいと思う。
 そもそも「学術会議をどう考えるか」や「任命拒否の本質は何か」という問題もあるが、それはちょっと置いといて、「任命拒否は違法である」という主張がある。その問題を考えた結果、僕も明文規定はないけれど「違法」、少なくとも「脱法」だと考えるに至った。
 憲法、あるいは法律、政令等によって、多くの公職の任命方法が定められている。例えば最高裁裁判官は裁判所法で「内閣が任命」する。(その後天皇が「認証」する。そのような職種を「認証官」と呼ぶ。)
 今まで弁護士出身の最高裁裁判官が退官するときは、日弁連が推薦する候補を内閣が任命することが慣例になっていた。安倍政権ではそれが崩されて、政権が独自に選んだ候補(大学教授を退職して弁護士登録したばかりの人物)を任命するという事態が起きた。それは不当なことだと思うけれど、直ちに「違法」とは言えないだろう。
 学術会議の問題に関して、「任命権」があるんだから「拒否権」もあるのは当然だといったことを言う人がいる。しかし、それは早計な結論だ。
 そもそも「任命する」としか書かれていない場合は、内閣総理大臣が気に入らない人は初めから任命対象にならないんだから、拒否権を論じるまでもない。
 問題は「任命」と「指名」あるいは「推薦」などが別々に規定されている場合である。その場合は「何のために分けているのか」を立法趣旨に遡って考えないといけない。
 日本学術会議は、「日本学術会議法」で設置されている。(法律で設置されている団体は非常に少なく、日本学術会議の重要性が判る。)
 当初は学者による公選制だったわけだが、現行法では「会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」とされている。
 では第十七条とは何だろうと見てみると、「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。」とある。
 この「推薦に基づいて」をどう読むかである。
 「優れた研究又は業績がある科学者」を選考することは、日本学術会議にしか出来ない。実質的には内閣でも出来るかもしれないが、法律の条文上で見る限り「推薦権」は日本学術会議にしかない。
 その場合、内閣総理大臣に「拒否権がある」とするならば、極端に言えば「全員を任命しない」ことも理論上出来ることになる。それでは学術会議廃止法を通さずに学術会議を廃止できることになってしまう。法の制定趣旨から考えて、内閣総理大臣は推薦に基づいて任命することが前提になっているとみなすべきだ。
 そう解釈しないと、憲法以下のすべての法体系がおかしくなってくる。
 例えば総理大臣自身が憲法第六条で、「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。」とある。「推薦に基づいて」と「指名に基いて」は同じ構造になっている。(ちなみに「づ」の有無は、条文通り。)
 従って、学術会議の推薦を内閣が拒否出来るなら、同じように国会の指名を天皇が拒否出来ることになってしまう。これがおかしな憲法解釈だということは誰でも判る。
 もちろん天皇個人が総理大臣を拒否出来るわけではない
 「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ」わけだから。
 しかし、憲法には「総辞職後の職務続行」という項目があり、第七十一条で「前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ」とされる。
 前二条とは内閣が総辞職した場合である。その場合でも、次の総理大臣が任命されるまでは前内閣が職務を行うというのである。それでは政権交代が起こった場合、他党に政権を渡したくないと考えた前首相が天皇に対して、「国会で指名された総理大臣を拒否するべきだ」と「助言」していいのか。
 最近の学校では「生徒会役員任命式」なんてのをやることがある。自分の生徒時代はなかったことだ。
 生徒会長選をやって、選挙管理委員会が当選者を決定すれば、それで終わりだった。まあ「生徒会役員」なんてものは、どうも役立たない存在になりがちで、重要だからしっかりやってくれという意味で「校長名による任命」なんてのが始まったんだろう。「箔付け」である。
 僕はそれを授業に応用して、総理大臣の天皇任命規定は「箔を付ける」ようなもので、生徒会役員を校長が任命するみたいなもんだと教えていた。
 学術会議会員を総理大臣が任命するという規定も、それだけ重要な任務なのだと「箔付け」するということだと思う。実質的な拒否権はないと考えられる。
 学術会議会員は「特別公務員」だから、一般的な公務員の欠格規定に当てはまる場合はなれないだろう。(禁錮以上の確定判決が出た場合など。)
 しかし、もともと会員候補は皆大学教授なんだから、大学で働けている以上問題はないはずだ。形式的に内閣府で確認作業をするかもしれないが、問題が見つかったら事前に連絡して「候補の差し替え」を求めるべきだ
 検察官定年延長問題の時もそうだったけれど、明文で禁止されてない以上、内閣は何でも出来るんだというのはヘリクツ以外の何物でもない。
 憲法、法律には「制定趣旨」というものがあり、何のためにその法律を作ったのかを考えて解釈しなくてはいけない。そうでないと、法律が趣旨と違った運用をされ、何のためにあるのかが判らなくなる。
 今回は特に「基づいて」の解釈である。他に特段の規定がない以上、推薦された人を任命するというのが、他の憲法・法律との整合性を考えて常識的な解釈だと思う。
『尾形修一の紫陽花(あじさい)通信』(2020年10月04日)
https://blog.goo.ne.jp/kurukuru2180/e/5df014e56cf41ac7bc1fd6029b196f5f
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