=東京「君が代」裁判・第五次訴訟第一回ロ頭弁論(2021年7月29日)=
原告の一人で、東京都立久我山青光学園で教員をしている田中聡史です。私は、教員という仕事を通じて、差別のない社会を作りたい、誰もが平和に生きることのできる社会を作りたい、と願ってきました。
そのような私にとって、2003年に発出された「10・23通達」に基づく校長からの職務命令は、耐えがたいものがありました。卒業式・入学式において、「日の丸」に向かって起立し、「君が代」を斉唱せよ、という職務命令です。
「日の丸」や「君が代」は、かつての日本政府によるアジアに対する侵略戦争や植民地支配のシンボルです。「君が代」斉唱時に、「日の丸」に向かって起立し、それらに敬意を表すという所作は、私にとっては、平和に生きる権利を否定し民族差別を肯定する行為なのです。
そんな中で、私も原告となった「国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟」では、2006年9月の東京地裁判決が、「起立斉唱の職務命令は違憲・違法である。」と判示しました。
私はこの判決文を読み、起立斉唱の職務命令に従う必要はないのだ、と確信しました。それ以降、私は、卒業式・入学式に.参列した際、私自身の歴史観と良心とに照らして、どうしても「君が代」斉唱時に起立斉唱することはできませんでした。その結果、職務命令に違反したとして、繰り返し処分を受けることになりました。
東京都教育委員会は「教師が生徒に対して起立斉唱する姿を見せること、範を示すことが大切である。」と言います。
しかし、私が決して敬意を抱けないと考えている「日の丸」や「君が代」に対して、私自身が起立斉唱することで敬意を表す姿を生徒に見せることは、私の良心が痛むのです。
私は、2014年3月に、それまで受けた戒告処分3件と減給処分2件の撤回を求めて「東京『君が代』裁判第四次訴訟」を提訴しました。そして、その後も、2014年に2件、2015年に2件、2016年に1件、の減給処分を受けました。
2012年の1月、「東京『君が代』裁判第一次訴訟」の最高裁判決で「減給処分は裁量権の逸脱乱用」との判決が出たにもかかわらず、東京都教育委員会は、私に対して減給処分を出し続けました。
また、処分を受けた年度は、何度も再発防止研修を受講させられました。
私が、自らの思想及び良心を守るために、止むに止まれぬ気持ちで不起立をしたことが、再発防止研修では「非違行為」と呼ばれ、繰り返し反省することを求められ、大変な苦痛を味わいました。
さらに、処分が発令される前には、毎回「事情聴取」を行う、として都庁に呼び出されました。この「事情聴取」は、「処分を行う前に弁明の機会を与える」との名目でしたが、毎回、私が代理人弁護士の立ち合いを求めても、東京都教育委員会はこれを認めず、代理人弁護士不在の「事情聴取」を強行しました。
これは、1966年のILO/UNESCO「教員の地位に関する勧告」に示された「教員が弁護準備に十分な時間を与えられ、自らを弁護し、または自己の選択する代理人によって弁護を受ける権利」を侵害し、「すべての教員は、一切の懲戒手続の各段階で公平な保護を受けなければならない。」との勧告内容を無視したものです。
また、これらの再発防止研修や事情聴取の時には、東京都教育委員会は、現場で働く私たち教員の実情を顧みず、児童・生徒の在校時問中に「事情聴取」に呼び出したり再発防止研修を実施したりしたので、生徒指導に支障を来たしました。
昨年、2020年12月、私は、さらに戒告処分を2件受けました。
この戒告処分は2013年3月と4月の卒業式・入学式での不起立に対して発令されたものです。
2019年3月に「東京『君が代』裁判第四次訴訟」の最高裁決定で、それらの不起立に対して科された減給処分が取り消された後、1年9ヶ月後に改めて発令された、いわゆる「再処分」です。
この再処分の前にも、私が「事情聴取を行う際は代理人弁護士を同席させて欲しい」と要請していたにもかかわらず、結局、東京都教育委員会は「事情聴取」すら行わず、再処分を発令しました。
この戒告処分により、2021年4月の定期昇給は、4号昇給されるべきところを2号昇給に減らされました。
さらに、6月の勤勉手当は36%の減額とされ、およそ17万円が減額されました。
戒告処分は、懲戒処分の中で最も軽いものとされていますが、実態としては、このように多額の賃金が減額されています。これでは減給処分との本質的な違いはありません。
上述のように、「10・23通達」に基づいた起立・斉唱の職務命令から、私自身の思想及び良心を守る為に不起立をしたことが、「非違行為」であるとされ、私は処分を受け、数々の不利益を被りました。
これは、思想・信条によって差別的取り扱いがなされた、ということです。
私は、教育行政が卒業式・入学式で「日の丸」や「君が代」を押し付けるべきではない、と考えます。
また、個人の良心の自由を奪うような職務命令を出すべきではない、起立斉唱の職務命令に反したからといって懲戒処分をしてはいけない、と考えます。
裁判官の皆様におかれましては、以上のことをふまえ、公正な審判を下していただきたい、と心から願っております。
◎ 陳 述 書
原告 田中聡史
原告の一人で、東京都立久我山青光学園で教員をしている田中聡史です。私は、教員という仕事を通じて、差別のない社会を作りたい、誰もが平和に生きることのできる社会を作りたい、と願ってきました。
そのような私にとって、2003年に発出された「10・23通達」に基づく校長からの職務命令は、耐えがたいものがありました。卒業式・入学式において、「日の丸」に向かって起立し、「君が代」を斉唱せよ、という職務命令です。
「日の丸」や「君が代」は、かつての日本政府によるアジアに対する侵略戦争や植民地支配のシンボルです。「君が代」斉唱時に、「日の丸」に向かって起立し、それらに敬意を表すという所作は、私にとっては、平和に生きる権利を否定し民族差別を肯定する行為なのです。
そんな中で、私も原告となった「国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟」では、2006年9月の東京地裁判決が、「起立斉唱の職務命令は違憲・違法である。」と判示しました。
私はこの判決文を読み、起立斉唱の職務命令に従う必要はないのだ、と確信しました。それ以降、私は、卒業式・入学式に.参列した際、私自身の歴史観と良心とに照らして、どうしても「君が代」斉唱時に起立斉唱することはできませんでした。その結果、職務命令に違反したとして、繰り返し処分を受けることになりました。
東京都教育委員会は「教師が生徒に対して起立斉唱する姿を見せること、範を示すことが大切である。」と言います。
しかし、私が決して敬意を抱けないと考えている「日の丸」や「君が代」に対して、私自身が起立斉唱することで敬意を表す姿を生徒に見せることは、私の良心が痛むのです。
私は、2014年3月に、それまで受けた戒告処分3件と減給処分2件の撤回を求めて「東京『君が代』裁判第四次訴訟」を提訴しました。そして、その後も、2014年に2件、2015年に2件、2016年に1件、の減給処分を受けました。
2012年の1月、「東京『君が代』裁判第一次訴訟」の最高裁判決で「減給処分は裁量権の逸脱乱用」との判決が出たにもかかわらず、東京都教育委員会は、私に対して減給処分を出し続けました。
また、処分を受けた年度は、何度も再発防止研修を受講させられました。
私が、自らの思想及び良心を守るために、止むに止まれぬ気持ちで不起立をしたことが、再発防止研修では「非違行為」と呼ばれ、繰り返し反省することを求められ、大変な苦痛を味わいました。
さらに、処分が発令される前には、毎回「事情聴取」を行う、として都庁に呼び出されました。この「事情聴取」は、「処分を行う前に弁明の機会を与える」との名目でしたが、毎回、私が代理人弁護士の立ち合いを求めても、東京都教育委員会はこれを認めず、代理人弁護士不在の「事情聴取」を強行しました。
これは、1966年のILO/UNESCO「教員の地位に関する勧告」に示された「教員が弁護準備に十分な時間を与えられ、自らを弁護し、または自己の選択する代理人によって弁護を受ける権利」を侵害し、「すべての教員は、一切の懲戒手続の各段階で公平な保護を受けなければならない。」との勧告内容を無視したものです。
また、これらの再発防止研修や事情聴取の時には、東京都教育委員会は、現場で働く私たち教員の実情を顧みず、児童・生徒の在校時問中に「事情聴取」に呼び出したり再発防止研修を実施したりしたので、生徒指導に支障を来たしました。
昨年、2020年12月、私は、さらに戒告処分を2件受けました。
この戒告処分は2013年3月と4月の卒業式・入学式での不起立に対して発令されたものです。
2019年3月に「東京『君が代』裁判第四次訴訟」の最高裁決定で、それらの不起立に対して科された減給処分が取り消された後、1年9ヶ月後に改めて発令された、いわゆる「再処分」です。
この再処分の前にも、私が「事情聴取を行う際は代理人弁護士を同席させて欲しい」と要請していたにもかかわらず、結局、東京都教育委員会は「事情聴取」すら行わず、再処分を発令しました。
この戒告処分により、2021年4月の定期昇給は、4号昇給されるべきところを2号昇給に減らされました。
さらに、6月の勤勉手当は36%の減額とされ、およそ17万円が減額されました。
戒告処分は、懲戒処分の中で最も軽いものとされていますが、実態としては、このように多額の賃金が減額されています。これでは減給処分との本質的な違いはありません。
上述のように、「10・23通達」に基づいた起立・斉唱の職務命令から、私自身の思想及び良心を守る為に不起立をしたことが、「非違行為」であるとされ、私は処分を受け、数々の不利益を被りました。
これは、思想・信条によって差別的取り扱いがなされた、ということです。
私は、教育行政が卒業式・入学式で「日の丸」や「君が代」を押し付けるべきではない、と考えます。
また、個人の良心の自由を奪うような職務命令を出すべきではない、起立斉唱の職務命令に反したからといって懲戒処分をしてはいけない、と考えます。
裁判官の皆様におかれましては、以上のことをふまえ、公正な審判を下していただきたい、と心から願っております。
2021年7月29日 東京地方裁判所にて
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