2016(平成28)年4月11日
◎ 意 見 書
東京都教育委員会代表者教育長 中井 敬三 殿
東京中央法律事務所
被控訴人(第一審原告)◎◎◎◎代理人
弁護士 加藤 文也
同 金井 知明
同 佐藤 香代
被控訴人(第一審原告)◎◎◎◎代理人
弁護士 加藤 文也
同 金井 知明
同 佐藤 香代
被控訴人(第一審原告)◎◎◎◎(以下、「◎◎◎◎教諭」と言います。)の懲戒免職処分取消請求事件が確定し、◎◎◎◎教諭の職場(都立高校)復帰が明らかになったことを踏まえ、◎◎◎◎教諭の代理人として、◎◎◎◎教諭の今後の処遇に関し、次の通り、意見を述べてさせていただきます。
記
貴教育委員会は、◎◎◎◎教諭の懲戒免職処分取消等請求控訴事件について、東京高等裁判所第4民事部(綿引万里子裁判長)の懲戒免職処分を取り消す判決に対し上告手続きをとることなく平成28(2016)年4月7日をもって確定させました。その上で、貴教育委員会は、翌4月8日、◎◎教諭を都庁に呼び出し、再処分を前提としたと考えられる事情聴取を行っております。
しかしながら、貴教育委員会も上告手続きを取ることなく確定させた東京高等裁判所第4民事部(綿引万里子裁判長)の判決内容とその趣旨からすれば、
第1に、◎◎教諭の懲戒免職処分事由とされた事実を基に、再度、その問題とされた事実を非違行為として懲戒処分に付すことは出来ない。
第2に、◎◎教諭は、既に6ケ月に渡って再発防止の研修を受け、研修課題をすべてやり終え、その後、元の職場(都立高校)で仕事をしていることからも、再処分は出来ない。
と考えられます。
以下、この点について、上記東京高等裁判所第4民事部(綿引万里子裁判長)の判決内容を引用し、敷衍して意見を述べます。
第1 本件事案については、再処分をすることはできないと考えられること。
1. 問題とされたメールは、家庭で親から虐待を受けていた生徒Aの求めに応じて出されたものであること
平成28年3月24日に言い渡された東京高等裁判所第4民事部(綿引万里子裁判長)の判決(確定した事実認定の内容)は、この点について、次のように述べております。
① 「生徒Aは、◎◎高校に入学した頃から、実の母親の再々婚の相手である3人目の父親によって、その両者の間に生まれた幼い2人の弟たち(平成21年1月生及び平成22年3月生)の世話を押しつけられ、父親からは、弟たちの世話がおろさかになると、高校で勉学に励むことを否定され、経済的にも困窮し、日々渡される500円の現金によってみずからの昼食代と弟たちの1日の食費をまかなわなければならず、精神的に逃げ場のない生活を送っていた。被控訴人は、生徒Aのこうした窮状に心を痛め、放課後の面談を行うなどして相談に応じ、精神面で支援した。(甲6 証人生徒A)」(判決 3頁)
② 「生徒Aは、被控訴人からメールアドレスを教えてもらっていた男子生徒からこれを聞きだし、平成23年1月頃から被控訴人にメールを送信するようになり、被控訴人も、これに応える形でメールを送受信するようになった。生徒Aは、自らが送信するメールに被控訴人が応えてくれることに対し、救いを見いだしていた。」(甲6 証人生徒A)」(判決 3頁)
③ 問題とされたメールは、「その大半の829通は、同年10月20日から同年11月14日までの3週間に集中しており、その7割は、生徒Aからの問いかけに応えるようなもので、他愛のない会話や単なる挨拶、返事にとどまるものであって、一つ一つのメールが独立した長文のものでなく、一言二言のやりとりが繰り返されるものが多かったこと、しかも、同日以降、被控訴人が生徒Aとメールのやり取りをしたことを認めるに足りる証拠がない。」(判決 11頁)
④ 「さらに、被控訴人は、生徒Aが、父親から、弟たちの世話がおろそかになるからと、高校で勉学を励むことを否定され、経済的にも困窮し、精神的に逃げ場のない生活を送っていることに心を痛め、精神的に支援したいという気持ちから生徒Aに声を掛け、メールのやり取りに応じるようになったものであり、生徒Aは、被控訴人の上記のような対応に救いを見出し、現在も感謝の念を抱いており、被控訴人が懲戒処分を受けることを望んでおらず、被控訴人が生徒Aに多数の不適切なメールを送信したことで◎◎高校に苦情を申し立てた生徒Aの父親でさえ、被控訴人を辞めさせたいとは思っていないと述べている。」(判決 12ないし13頁)
⑤ 生徒Aは、◎◎高校を卒業した後、親からDVを受けた子が避難する施設で暮らした後、成人後は同施設をでて自立した生活を送っており、そのような状況のなかで、その陳述書においても、また、原審で証人として出頭して証言した際にも、◎◎高校在校中の被控訴人の活動に感謝し、被控訴人が懲戒処分を受けることを望まないとの意思を明確にしている。」(判決 7ないし8頁)
◎◎◎◎◎校長も、「家庭環境に恵まれないひとりの本校生徒を親身になって支援し、卒業までさせた事実は、学校長としても大変喜ばしい教育実践だと考えています。」(甲32号証 7頁)と述べ、◎◎教諭を評価しているところである。(判決 17頁)。
2. 以上の認定事実を前提とすれば、本件事案は、そもそも、懲戒処分事由がないと言わざるを得ません。したがって、再度の懲戒処分に付すことはできないと考えます。
第2 ◎◎教諭は、既に6ケ月に渡って再発防止の研修を受け、研修課題をすべてやり終え、その後、元の職場(都立高校)で仕事をしていることからも、再処分は出来ないと考えられること。
1. ◎◎教諭は、本件非違行為が問題とされた以降、既に長期間の研修を受け終え、◎◎高校に戻って仕事をしていること
(1) 平成28年3月24日に言い渡された東京高等裁判所第4民事部(綿引万里子裁判長)の判決は、この点について、次のように述べております。
「証拠(甲59,61)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、生徒の指導を熱心に行うとともに、コンピュータ関係に精通していたので、IT管理者として他の教員の業務を支援し、◎◎校長及び同僚の教員から感謝され、その働きを評価されていたことが認められる。また、被控訴人は、本件非違行為が発覚した後、本件経緯報告書を作成したり、都教委や◎◎校長の事情聴取に応じており、本件研修命令が発せられた後は、実施計画に従い、多数のレポートを作成していることは前記認定のとおりであって、被控訴人は、本件研修に熱心に取り組んだといえるのであり、逆に、本件証拠上、被控訴人に対する研修の成果が上がらなかったなどの事情は認めることができない。そして、証人相賀の証言によれば、本件研修が実施されたのも、本件非違行為を行った被控訴人をそのままでは教壇に立たさせるわけにいかなかったからであると認められ、研修は、通常、職場への復帰を念頭において実施されるものであるのに、前記認定のとおり、都教委は、被控訴人に対し、平成26年7月31日まで命じられていた本件研修の終了前である同月14日に本件免職処分をしているから、本件免職処分に当たって、本件研修の成果が適切に考慮されているか疑いが残る。」(判決 14頁)。
(2) ◎◎教諭は、平成27年1月22日懲戒免職処分の執行停止決定を得た後、再発防止のため、平成27年2月9日から同年6月22日まで東部学校経営支援センター及び元の勤務校である都立◎◎高校において長期研修を受け、東部学校経営支援センターから課された大量の研修課題を全てやり終えている。
◎◎教諭が研修を受けた期間は、延べ183日間にも及び実際上6ケ月間にも及ぶ。原告は、この長期に及ぶ研修を誠実に行い、研修課題をすべてやり遂げている。
◎◎◎◎教諭は、平成27年6月23日以降は(第一審判決後、再度の執行停止決定が出るまでの間を除いて)、同じ都立◎◎高校で、授業以外の他の教員からの依頼のあった仕事や入試に関わる業務等を行っており、原告の体調も順調に回復してきている。元の職場での他の教職員との人間関係も良好な状態を保っている。
以上の経過で、原告は既に職場に復帰している状況であり(授業だけ行っていない)、体調も回復してきており、◎◎教諭が元の職場で勤務するのに何ら混乱ないし不都合が生じるおそれはない状況にある。
2. したがって、◎◎教諭は、既に長期間にわたる研修をすべて受け終え、さらに、◎◎高校に戻って、何ら問題なく仕事をしている状況にあることからしても、再処分をする事由はないと言わざるを得ません。
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