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お百度詣り  ( その9 )

2009-08-06 08:07:07 | ある被爆者の 記憶
合格発表の日、降りしきる粉雪の中を、襟巻を頭から冠り、母と姉は、中学に私の名を見に行った。既に小学校の担任から合格と知らされていたのに、わざ ゝ、雪を冒して出かけて行った。私は、それを笑った。母や姉の情の愚かしさと思ったのである。
 この日の嬉しさを、当の本人より、母と姉は何度も語った。襟巻の中から目だけ出して、私の名を見た瞬間、と言い差しては、母と姉とは、その時もそうであったように目頭を熱くした。私はそのたびに、口にこそ出さなかったが、馬鹿々々しい、中学ぐらい受からなくて、どうするんだと思った。
 ところが、私の判断が全くの誤りであったことを知った。父の釈放時に、母と姉は、やっぱりこの話を報告した。私ははっとした。母と姉が、わざと雪の降る中を出かけたのは、襟巻で顔が隠せるという利点があったからであること、そんなにまでしても出かけるというのは、彼女たちにしてみれば、二月以来の世間からの白眼視に対する雪辱として、合格者発表の名前の中に私の名を我が目で確認したかった、という。
 父が警察に拘留されてから、私自体の生活に影響があったわけではなかった。公金横領の罪をかぶるということが、どういう意味を持つことかもはっきり知らなかった。だから、私の中学進学と、父の嫌疑とが絡みあうなど、夢にも思わぬことであった。
 私はこの時、世間様という、しつこくて、それでいてわびしい単語を習った。私は身のまわりにある世間様に油断なく身構えることにした。すると、篠山とうところは、何から何までが、世間様のように見えた。
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