ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

パン三都物語

2010-08-26 | つれづれなるままに


日本に帰ってきて何が嬉しいってパンが美味しいこと。
「アメリカはパンが主食なのに美味しくないの?」
と思われるでしょうか。

美味しくないんですよ。
探せばあるんでしょうが、アメリカ人の考える「美味しいパン」がそもそも日本人やフランス人とはどこか違う。

砂糖を加えてふわふわにしたパンは元々アメリカから来たものだそうです。

アメリカでも「白い食べ物は太る」という概念が浸透してきて、白いパンよりは胚芽や全粒粉のパンを健康のために食する傾向にあるとはいえ、アメリカ人曰く
「全粒粉やライ麦のパンは美味しくない」
体に良くても美味しくない、というんですね。

アメリカ人はホットドッグもハンバーガーも白いふわふわのパンで作りますから、どうしてもそれが主流。
そもそも具をはさむ緩衝材扱いで、パンそのもののおいしさなんてあまり期待されていません。
日本の菓子パンとはまた全然違うんですね。

アメリカ人もフランスのパンには一目置いています。

サンフランシスコには「ポーク・ブーランジェリ」というフランス人がやっている有名なパン屋があって、フランス式のバゲットやクロワッサンが食べられ人気。
朝どんぶりで出すカフェオレとターキー・クランベリーのタルティーヌ(バゲットに乗せたもの)をよく楽しんだものですが、去年あまりの人気に広い店に移転していて、今年は味が残念なことに落ちていました。

ホールフーズではいつも全粒粉マフィンを買っていました。
いろいろ試しましたが、美味しいバケットやクロワッサンは期待できないことが分かったため。
これはこれで美味しいのでアメリカではお気に入りでした。

そう、エリス中尉、パン選手権に出てもいいくらい、パンにはうるさいです。

パリに短期間住んだことがありますが、家族が朝寝ているとき、焼きたてのクロワッサンを食べに数ブロック歩いてポール(今は日本にもありますね)やポワラーヌ、エリックカイザーに通ったという執念のパン好き。

ポワラーヌのマダムは、ただならぬエリス中尉の執念に感じいってくれたのか、「地下で今パン焼いてるんだけど、窯を見せてあげましょうか」
と言ってくれました。

エリス中尉、フランス語が喋れるのか?って?

うぃ、じゅぷーぱーるふらんせ、め、あんぷちぷー。

まあ、フランスで買い物するには困らないくらい、と言いたいところですが、ラデュレの生意気な黒人ウェイトレスには
「ジュヌコンプランパ」(わからへんわ)
と言われましたな。


さて、地下に降りると昔ながらのパンがまの前で、上半身裸で作業するパン焼き職人。
何か今途轍もなく貴重なものを見ている!
と感動しつつも、
「?」
という顔でこちらを見る職人さんに
「ぼんじゅー」
「ぼんじゅー」
「いるふぇしょー?」(暑い?)
「うぃ、とれしょー」(おおーむちゃ暑いで)

という、初級フランス語会話しかできなかったあの日のエリス中尉でした。
フランス人って大阪弁でしゃべってる気がするんですよね。

話が大幅にそれましたが、何しろ、フランスは別格。
言わせてもらえばパンの聖地です。

しかし、わが日本も負けてはおりません。
あなた、東京のミシュランの星持ちレストランの数はいまや世界一。
探せば美味しいものは何でもあります。


美味しいパンといっても、ア○デルセンやポ○パドールのじゃありませんよ。
本日画像のパンはミッドタウンに入っているメゾン・カイザーのバケット。
北海道のウインザー洞爺に泊ったとき美味しいなあと思ったのですが、その後東京にもできました!

このバゲットは、そのへんのスーパーの真っ白でバターをつけないと何の味もないパンと違って、うっすら全粒粉の色が残り、噛みしめると実に粉が味わい深い。

ピクサーの「ラタトゥイユ」という映画でコレットという女性料理人がバゲットをパリパリさせて「美味しいものには音があるの」と言っていましたが、焼きたてはまさに外パリパリ、中しっとり。
買ってその日のうちに食べないと駄目だけどね。

(またまた寄り道ですが、この映画、邦題「レミーのおいしいレストラン」ですって?
センスのなさ極まれり。
原題の「 Ratatouille」の最初の三文字がRAT(ねずみ)である、という諧謔が台無しじゃないですか。
何故原題のままでは駄目だったのか?
いまどきラタトゥイユなんて、だれでも知っていると思いません?
あまり日本人を見くびったような題をつけないでほしい)

六本木ヒルズのロビュションの全粒粉バゲットも美味しいです。

でも、クロワッサンがねえ。

中国に行ったとき、一流ホテルにもかかわらずパンが妙な味なのに驚いたものですが、何が違うと言って、多分バターなのでしょう。
クロワッサンはバターが命。分量も問題ですが、質はうまみを決定します。
美味しいバターといえば、バター専門店「エシレ」が数量限定でクロワッサンを焼いていて、これはかなり美味しい。丸の内にあります。

でも、いいバターを使っているのでしょうが、カイザーのも、ロビュションのも、クロワッサンに限り「なんか違う」のです。
ましてやサンフランシスコのブーランジェリは問題外。
いや、あれを美味しくないなんて言ったら罰が当たるってもんですが、エリス中尉、何しろパリの朝6時に食べたクロワッサンの味を基準にしてしまっているのでねえ。

特に名店というわけでなくても、角のパンやですら、気合の入ったクロワッサンが食べられるのがパリ。
美味しくないパン屋などパリでは瞬時に潰れてしまうそうです。


少なくともできて30分以内に温かみの残る美味しいバターをたっぷり使ったクロワッサンが食べられない限り、日本であのレベルのクロワッサンは無理だろうなあ。