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卑怯者

2010-08-02 | つれづれなるままに


拝啓 千葉景子法務大臣殿


千葉法務大臣殿。
遅くなりましたが、法務大臣の続投が決まられたとのこと、おめでとうございます。


あなたが先般の参議院選挙の落選において国民の信任を受けなかったという結果にもかかわらず、民間人の大臣登用を合法とする政府与党の屁理屈により大臣の席を立たずにすんだということ、おそらくこれが最後の国政参加になると思われるあなた様のキャリアにとってはきっと喜ばしいことなのだと存じます。

確かに民間人が入閣する例は少なくありませんが、それはあくまでも民間人としての知識と経験を大臣として生かしうる人材であると判断された場合であり、今まで落選した人間が法相に留まるなどということは前代未聞のこと。

しかし、学生時代過激派学生闘士として火炎瓶を投げていたというあなたの華々しい左翼歴に、これで「日本初」の「革命的な」肩書がつくわけです。
誠に慶賀に堪えぬこととお喜び申し上げる次第です。

さて、あなたが在任中に「何も仕事をしなかった」とは保守論陣の言ですが、そんなことはない、と私は異を唱えるものです。

あなたは法務大臣として
「日本に長年定着し、罪を犯したりすることなく一生懸命働き、家族も日本がふるさとのようになっている人に『帰りなさい』というのはねえ。日本社会もそういうみなさんの力で成り立っている。少子化などもあり、日本に寄与して地域の一員になっているみなさんに温かい目を向けていく方向にしていきたい」と産経新聞のインタビューに答え、不法入国やオーバースティは犯罪ではないとの考えを明らかにしておられます。

そして、2009年10月9日、最高裁判所から中国残留孤児と血縁関係がないと判断され、大阪入国管理局から国外退去を命じられていた姉妹に対して、法務大臣の権限で在留特別許可を認めています。

さすがは「日の丸、君が代法案」の成立に反対票を投じ、また、出入国・在留管理を強化し、テロリストや不法入国などのブラックリストに符合した外国人を直ちに強制退去させる出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に反対してこられた「信念の反日政治家」「日本人を除く全ての国民の生活を第一にする政治家」であります。

在任中、職務を放棄して死刑の執行命令書に一度も判を押さず、さらに国会での野党の様々な追及にものらりくらりと言を左右にしてごまかすことしかしなかったあなたですが、日本を解体させるというその一事に関しては実に熱心に職務を超えて働いておられたことを私は知っています。


しかし、千葉法務大臣殿。
あなたには全くがっかりさせられました。

あなたは議員権限の切れるぎりぎりの日付をもって死刑命令書にサインをし、その結果執行された死刑に立ち会われたそうですね。

か弱い女性の身でありながら、自分の命によって執行された刑に真っ向から向き合われた勇気と使命感には心から称賛をおくるものです。
しかし、問題は、あなたが選挙によってその任にあったときではなく、落選という結果を突き付けられてから死刑執行をした、という事実です。

さらに問題なのは、あなたがその政治家としての信念を党利党略と保身のために簡単に覆したことにあります。

あなたはもともと「死刑廃止を推進する議員連盟」に所属し、法相就任後の法務委員会にて「死刑制度がなくなることが好ましい」と死刑制度には強い反対の姿勢を表明しておられますね。

そのような考えの政治家を法相に任命する現在の政府与党の異常さはここではさておきますが、あなたの政治信念とは落選後も閣内にとどまるという批判をかわすためなら簡単に転向できる程度のものだったのですか?
さらに言えば、あなたが国民の信任を受けなかったのは「自分が死刑をしなかったから」とでも思っておられるのですか?

議員だったときには一切職責を放棄しておきながら、民間人になってから死刑執行、というこの異常事態を何とも思っておられないのなら、私はあなたの愚鈍さに驚きいるしかありません。

あの阪神大震災が、社会党政権下で起きたが故にいたずらに死者の数を増やしたように、あなた方左派の方々の方が、命というものを思想のためには誠に軽く切り捨てるものだということを、私はあのとき被災地に住んでいたものの一人として断言することができます。

あなた方の言う人権とか命の尊さとは、その価値を政治家の都合でいくらでも軽減できる程度のものなのですからね。


あなたをとどまらせ、一か八かで「キムヒョンヒ元死刑囚」を国賓待遇で日本に呼んだ政府は、もし批判が起きたときも9月になれば交代させるつもりのあなたに責任を押し付けるつもりだったのでしょうか。
総理大臣に何と言われたかは存じませんが、まさに使い捨てとはこのことですね。
まあ、結果はご存知の通り、国民の反感を買っただけで終わり、民主に優しいマスコミの庇護のお蔭であの愚行がそれほどの問題にならなかったことはあなたのためにも喜ばしいことであったと存じます。



あなたは一度辞意を表明されていますが、政府の思惑にかかわらずあのとき辞めておけば、晩節を必要以上に汚す結果にはならなかったのではないかと思うのですが、いまさら言っても詮ないことでしたね。お聞き流しください。


私はあなたとは全く思想を異にする保守思想の持ち主で、死刑制度の存続には賛成ですが、勿論全ての人間が同じ思想である必要は無いと思っています。あなたがあくまでその思想を貫けば、それはそれでひとつの生き方と言えましたのに、今回の変節ぶりは実に慙愧の念に堪えません。

死刑容認派からは、どうして今まで執行しなかったのかと批判されて、死刑反対派からは、今まで執行しなかったのにどうして今更と批判される。

左派から見ると保身のために思想を翻した裏切り者であり、右派から見ると不信任を突き付けられてから慌てて職務を果たしてみせる日和見主義者にしか見えない。

あなたのような人間を動物に例えるときっと「寓話における蝙蝠」なのでしょう。
そして、鳥からも獣からも糾弾される今となっては、あなたの居場所はどこにも無くなったことにあなたは気づいておられるのでしょうか。


あと一か月余りの任期を務め、恙無く引退された後は、悠々自適の著作生活にでも入られるおつもりでしょうか。
そのあかつきには死刑制度がいかに残酷なものか、ご自分の目で確かめた経験が著述の役に立つかもしれませんね。
そこまで見通して体験のために立会いをされたのでは?と言うのは、勿論下種の勘ぐりでしょう。

もしあなたのご著書、仮題「死刑制度の撤廃にかけた四半世紀~死刑囚(かれら)の声を忘れない」
などというご本がブックオフの店頭に並ぶ日には、真っ先に購入して読ませていただく所存です。

それでは残り少ない政治家人生を、御身大切にお過ごしください。
特に、暗い夜道の一人歩きの際には特に気をつけられんことを切にお願いしてこの手紙を終えさせていただきます。

敬具