アラン・ドロンという俳優をご存知でしょうか。
「太陽がいっぱい」でデビュー後、
一流スターに駆けあがった伝説の美青年です。
有る程度の年齢層なら、かつて日本に「アラン・ドロンブーム」があって、
若い女性が夢中になった時期があるのをご存知かもしれません。
パリに行ったとき、スタンドで売られている新聞の話題に
いまだにドロンの名前が大きくあるのに驚いたものです。
フランスでももう芸能活動はせず、実業家として、
悠々自適の老後を営んでいるらしいドロンは
そのとき半生を振り返る自伝を出したもののようでした。
そのアラン・ドロンがまだ駆け出しのころの話です。
その頃、ドロンは映画監督ヴィスコンティの付き人をしていました。
これは文字通りそうだったのか、
有名な男色家であった監督の恋人であったのかはわかりませんが、
おそらくどちらも兼任していたのでしょう。
耽美的なヨーロッパ貴族出身のヴィスコンティにかかっては、
何でもあり、と思えてしまいますね。
さてそのヴィスコンティの持ちものや立ち居振る舞いは、
ドロンに大いなる影響を与えたもののようです。
なかでもヴィスコンティ監督のトランクはドロンにとって憧れでした。
船旅が主流だったころ、貴族階級は旅にまるで箪笥のような大きなトランクを使い、
ホテルの部屋にその引き出しのついたそれを
そのまま家具のように置いて使用しました。
貴族ヴィスコンティ監督も、その優雅なトランクを
ふんだんに撮影旅行に持って移動していました。
それらのトランクは全て同じ模様。
「ようし、僕も今に大スターになって、
監督のように自分のイニシャルを特別注文したトランクを作らせるぞ。
そのときはもちろんA・Dのモノグラムで」
彼は老舗ブランドルイ・ヴィトンを知らず、
トランクに刻印されたL・Vというモノグラムのイニシャルを
ルキノ・ヴィスコンティを意味するのだと思っていたということです。
その後「太陽がいっぱい」で大スターとなり、実業家としても成功をおさめ
自分のファッションブランドを持っているドロンですが、
いまだにA・Dというモノグラムのトランクは見たことがありません。
おそらくドロンは自社ブランドではなく、
このルイ・ヴィトンを愛用しているのではないでしょうか。
”LOUIS VUITTON”
余談ですが、アメリカではこれを「ルイス・ヴィトン」とよみます。
フランス語の語尾のSは発音しないので、Hermesの「エルメス」を
「エルメ」と呼ばない日本表記は間違いなのですが、こちらに関しては
アメリカが間違っていることになります。
アメリカ人には実際にそういう名前の人もいるので、
「Louis」を「ルイ」とはどうしても読めないのでしょう。
さて、そのルイ・ヴィトンです。
若い時は「何がいいんだろう」と、あのモノグラムを見て思ったものです。
ヴィスコンティならいざ知らず、貧乏臭いファッションに猫も杓子もあの柄。
ショルダーや小さいバッグ、エリス中尉は一つも持っていません。
だいたい合わせにくくないですか?
花柄のワンピースなどと合せているようなセンスの悪い人は
さすがに最近めったに見ませんが、わたしには
あれを無地扱いして服と合わせることはとてもできません。
ここに限らずブランド臭を前面に出すモノグラムが苦手なのです。
しかし、旅行用トランクは80×60一つ、クルーズ用とやら一つ、
何やら軽くてやたらでかいたためるボストン2つと、
大量に持っています。
帰りにモノが増えたときにバッグを買って帰ってくる、
という旅を毎年しているうちに、だんだんと増えてしまいました。
日頃身につけるように持つバッグとしてのヴィトンではなく、
・・・・・それこそヴィスコンティのように、
旅行という非日常的イベントの小道具としてのあのモノグラムは好きなのです。
最近はもうこのラインナップにリモワの大型トランクで万全。
リモワの丈夫なことは折り紙つきですし、ヴィトンも「航空事故でも壊れない」
と言われるくらい丈夫と言う噂を信じていたのですが、
今回、アメリカに行ったとき悲劇が起こりました。
取っ手がーーーー!('A`)
トランジットで荷物のピックアップのときに気付いたのですが、
すぐに乗継だったのでそのまますぐに預けてしまいました。
それが、その後チェックインのたびに係員が
「これはこのフライトで壊れたんじゃないから責任はねーよ」
と言う意味のタグを付け替えるわけですよ。
壊されたときすぐに言わないといけなかったのかなあ?
と思いつつ日本に帰ってきて聞いてみたら、
傷害保険で修理代が出るそうです。
さっそくルイ・ヴィトン・ジャパンに修理を依頼。
こういうとき、老舗ブランドのありがたみを感じます。
たとえ日本で買ったものでなくてもちゃんと修理してくれるのですからね。
ハンドルを交換し、犬のリーシュのような付属品を付けてもらうことにしました。
見積もり報告の電話で係の女性が
「大変貴重なものをお預けくださいまして」
と言ったので自社ブランド製品を「貴重」とは?と一瞬違和感を感じたのですが、
次の瞬間
「長い間使い続けた思い出の詰まったトランク」
という意味合いなのだと気付きました。
破損の理由ですが、なまじプライオリティタグが付いていたのが災いして、
他の荷物の下から取っ手を持って引きずり出された結果だろうと思います。
ヴィスコンティのように優雅な船旅をするならともかく、
世界最強のアメリカ航空局地上職員に
投げられたり引っ張られたりする飛行機の旅では、
やはり丈夫なリモワやゼロなんかの方が安心なのかもしれませんねえ。
まあ、気持ちだけは優雅に旅行したいので、これからもヴィトン使いますが。
それに、修理されて返ってきたら、今までより愛着がわきそうです。