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前線のクリスマスキャロル~映画「戦場のアリア」

2010-12-24 | 映画

ヨーロッパには戦史には載らない、このような話が人々の口から口へ伝わっているそうです。

第一次世界大戦下の1914年。
前線でにらみ合っていた独仏英(スコットランド)の兵隊が、12月24日の夜、
停戦したうえ、一緒に歌を歌い、ミサを聴き、互いに歓談した・・・。


この映画は、あちこちに伝わるその伝承を綴って一つのストーリーにまとめたものです。
互いの壕でにらみ合ううち、スコットランド軍がバグパイプの演奏で自国の民謡を演奏し始め、兵がそれに和します。

(バグパイプ軍楽兵というのがいたんですね。喇叭隊のように突撃のときも演奏したのでしょうか。
因みにこの軍楽兵、氷点下の戦線でキルトスカート姿。さぞ寒かったのでは)

それを聞いて、ドイツ軍のオペラ歌手が「清しこの夜」を―もちろんドイツ語で―唄いながら、ツリーを持って中間地点まで歩み始めます。

それに答えるバグパイプ兵。
曲は「神の御子は今宵しも」に代わり、全員の合唱になり、皆はおずおずと壕から出て、
いつの間にか手を取り合い、酒を酌み交わしているのでした。


なんて感動的な話でしょうか。


・・・・と、書くからには、今までの例から言ってもこのひねくれものは絶対にこの後ケチをつける気だな、
とピンときたあなた、あなたは正しい。

事実は小説より奇なり、事実に勝る感動なし。
この言葉の通り、この「敵国軍と共にクリスマスを祝った話」は、限りなく感動的で、戦争の虚しさを
―あまつさえ、同じキリスト教国同士で行われる殺戮の愚かさとやりきれなさを、
どんな反戦物語より強く訴える逸話です。

その、おそらくヨーロッパ各地の親から子へ、祖父から孫へと伝えられた美しい話を、
この映画ははっきり言ってむちゃくちゃにしてしまいました。

そりゃ言い過ぎだ、って?

いや、言わせてもらいますが、この映画の失敗の原因は、よくある話ですが
「華添え女優の起用」です。

戦争映画に流行りの女優を使うな!
客を呼ぶためにしょーも無い絡みをさせるな!

と、いつもいつも腹立たしく思っていることが、この映画ではピンポイントで行われます。

この映画の画像なり、トレーラーなり、そういうものを見た人は

「にらみ合う前線で美人の歌うアリアが兵士のこころを結び付けた奇跡と感動の映画」

と思ってしまうのではないでしょうか。
この美人がダイアン・クルーガー。
今人気のドイツ人美人女優です。

しかし、はっきり言ってこの美人は余計。
そもそも兵士が歩み寄るきっかけになったのは、彼女の歌ではなく、彼女の夫(やはり歌手)の歌。
だってそうでしょうとも、最前線になんで美人歌手が?

これは、実にうざいことに、美人歌手が
「アナタとはなれたくないの。私は(有名歌手だから)国境を超えられるわ」
とかなんとかいって、無理やり夫にくっついて壕に押しかけて来たんです。
誰か一人くらい言ってやれ!足手まといだから帰れ。


彼女はこの夫の唄をきっかけに、敵味方を超えて美しく交流している最中、ちゃらちゃらと姿を現し
「なんでこんなところに女が?」
と驚く皆を尻目に、得意になってアリアを聴かせるのです。(悪意入ってます)
さらにこの女、
「皆のために歌わなければ」と崇高な覚悟を決めて前線に就いた夫をあろうことか
「逃げましょう!」(何故って死んだら怖いから?)
とそそのかし、またこの夫も情けないことにこの悪妻の尻に敷かれているらしく、
クリスマスに仲良くなったフランス軍の中隊長のところにのこのことついて行って言うのよ。
「捕虜にして下さい!」<(_ _)>(なぜなら、ドイツ軍にいると妻だけ帰らされてしまうから)

・・・・・勝手についてきて夫を一人だけ投降さすんかいっ。

いやまったく、男たちの美しい話の中で、この美人歌手の身勝手さがひときわ目立ってますよ。
自分のことしか考えとらんのかこのバカ女は?


と、「商業目的戦争映画の目論みキャスティングを撲滅する会」の会長であるところのエリス中尉は厳しくこの部分を断罪するものですが、この美人女優の出てくる部分以外は、さすがに実話をもとにしているだけあって、重みのある話ばかりです。


しかし、クリスマスイブに楽しく酒を酌み交わしているときから観ているエリス中尉の胸には激しい不安が。

「明日になったらどうなるのこの人たち?」

次の日になっても、どの軍も自分から攻撃しようなどという気になれず、三すくみ状態が続きます。
そして、ドイツ軍中隊長(画像真ん中)が
「そうだ!今日はクリスマスだから、散らばっている皆の遺体を埋葬しよう!」
とコーヒーを飲みながら(画像)提案し、ほっとした全軍はいそいそと?作業にかかります。
そして、国対抗でサッカーなぞ始めたりするのです。

おお、そういや三カ国とも強豪国ばかりじゃ。

しかし、このシーンを見ながら
「サッカーで決着をつけるわけにはいかんかったのか」
と思ったのはわたしだけでしょうか。

この後、申し訳のように戦闘が始まるのですが、兄を殺されて復讐に燃えるスコッチ兵以外はみんな腰引けまくり。
戦争になりません。
おまけに、この楽しかったクリスマスの一夜について、フランス兵も、スコットランド兵も、ドイツ兵も、みんなが故郷への手紙に書いてしまうのです。

おいおい・・・。

「大晦日にまた招待された。一緒に酒を飲むんだ。スコットランド兵は写真を見せてくれると・・・」
「あっという間に6点入れられた。何人かはバイエルンというチームにいたそうだ」
「司令部の馬鹿どもにみんなで乾杯だ」

そして、手紙を検閲されその夜のことがばれた彼らはそれぞれが「お仕置き」を受けます。

なかでもドイツ軍の一隊は、貨車でドイツ本土を通り抜け、別の前線に送られるのですが、故郷に立ち寄ることを許されません。
兵の持っていたハーモニカを踏みつぶし、あの日の罰であることを思い知らせる上層部。

しかし、貨車が動き出したときに彼らはハミングを始めます。
唄を封じることはできないからです。


あの日敵軍が唄っていた民謡を。
歌詞も知らないあの曲を。




繰り返しますが、ダイアン・クリューガーは余計。
この人の出演部分だけ無くせばいい映画と言ってもいいかと思います。

だいたい、同じ勝手なやつの話を入れるのなら、フランス側でネストール、ドイツ側でフェリックスと呼ばれて、両軍を行き来してごはんをもらっていたネコの話で十分じゃ。



それでは取ってつけたように「ジョワイエ・ノエル」
(この映画の原題。フランス語でメリークリスマス)