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総員起こし

2010-12-23 | 海軍


海軍生活の朝は「総員起こし」で始まります。

海軍兵学校の朝について何度か書きました。
カメラマンは就寝中の部屋に入らず、リモコンで生徒の寝顔と、
総員起こしの瞬間を撮影したと、
「メイキング・オブ・勝利の礎」の日に書きました。

起きるなり猛スピードで起床動作をおこなう、というのは
もちろんのこと兵学校に限ったことではなく、海軍生活において
朝は「総員起こし」で総員が飛び起きるのがきまり。

しかしこの言葉そのものは「起床」というだけの意味ではありません。
総員起こし(そういんおこし)そのものの意味は、
組織の構成員を一気に総動員させること。

朝起床の意味での「総員起こし」は現在も海上自衛隊、
海上保安学校で行われています。

海上自衛隊幹部候補生の生活のドキュメントDVDを見た話をしましたが、
こちらでも同じようにその瞬間飛び起きるやいなや、
パンツ一枚であたふた(と見えた)と用意を始め、
毛布を畳んだりしてなんと起床後五分でグラウンドに整列しているんですわ。

うーん、兵学校のように顔洗いと歯磨きを先にさせた方がいいんではないか?
その方が体によさそう。
余計なお世話ですか?

陸さんのことは知りませんが、およそ軍隊というものは
敵がやってきたときに起きてすぐ配置につかなければいけませんから、
日頃からこのような起床法をしていました。
しかも、総員起こしの15分前、および5分前にはそれぞれ
「総員起こし15分前」と「総員起こし5分前」の号令があったそうです。

ここで、寝床で心の準備をするんですね。

海兵団の実際でもう少し詳しく説明すると、起床十五分前になると
「総員起こし15分前」
という放送が流れます。
同時に電灯も点るので、それで目を覚まします。
といってもまだ服を着てはいけません。
襦袢と袴下だけで用便をすまし、吊床内の毛布を整頓したり括り綱を整えて、
次に襲ってくる吊床訓練の用意をしてから、
もう一度吊床に入って寝たふりをします。

「総員起こし、五分前」
全員吊床の中で息をころし、次の号令がスピーカーから発せられるのを、
全神経を集中して待機するのです。

・・・・それにしても、毎朝毎朝、こんな緊張が続くんでしょうか。
 
そしていよいよ「総員起こし、総員吊床おさめ」
ここで、一日の最初の戦闘が始まるわけです。


それにしても、朝に弱い方、よく寝坊する方、思いませんか?
海軍に「お寝坊」はなかったのだろうか?と。
海軍というものが生まれて、そういう「不祥事」は
一度もなかったんだろうか、と。

ご安心ください。それがあったのです。総員寝坊が。

本日画像は、実はちょっとした間違いがあります。
朝釣りをしていた艦長が停泊中の他艦で「総員起こし」が始まったので、
自分の艦が「お寝坊」したことに気づいたという「史実」を書いたのですが、
実際は駆逐艦(それも雪風にしてしまった)ではなく潜水艦でした。

絵を描いてから記事を確かめるのはやめよう。←自分に言っています

艦長が釣りをしている「寝坊艦」は伊○潜でした。
南洋の島に停泊中、前日は魚雷の実験発射で、
皆が寝たのはかなり遅かったそうです。

で、当番が寝坊。
総員起こしの号令をかける係も寝坊。
当然前夜寝るのが遅かった総員、寝坊。


他艦で総員起こしが始まったのに慌てた艦長、
自ら通信室に走り「総員起こし」アナウンスを行いました。

さすがに皆その声で飛び起きます。
「今のは艦長の声だっ!」

発射管室でも、兵員室でも、士官室でもアワをくって起きた先任将校も、
士官も、下士官も、兵もこそこそと上甲板に上がってきました。

この司令は、実験に立ち会わなかったのか、それとも
若いみんなより睡眠時間が短くても済んだのでしょうか。
なぜか一人で総員起こし前に釣りをしていたわけです。

しかしこの司令、謹厳で有名だった人物だったにもかかわらず、
この件で「総員お咎め」を課すことはなかったとか。

みんなが前夜頑張っていたのに免じてお目こぼしをしたのでしょうか。
いずれにしても、潜水艦ならではの温情のような気がします。