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「存在と無」〜映画「青島要塞爆撃命令」

2020-07-04 | 映画

1964年東宝映画、「青島要塞爆撃命令」、二日目です。
史上初の航空母艦となった「若宮」(このころは『若宮丸』)から
飛び立った海軍水上機は、ビスマルク要塞の偵察に向かいました。

写真を撮り損ねたのですが、コクピットの高度計には
「JAEGER PARIS」とメーカー名が刻まれています。
モーリス・ファルマンに装備されていた高度計のメーカー、
イェーガーは当時フランス海軍専門の時計製造会社でした。

その後高級時計メーカールクルトとコラボし、現在の高級時計メーカー、
ジャガー・ルクルト(Jaeger-LeCoultre)となっています。

それにしてもこの頃の飛行機は吹き曝しにろくな風防もなく、
皮のスーツは着ていても頭部は毛糸?の被り物だけ。
さぞかし搭乗員は辛かっただろうと思われます、

ドイツ軍の塹壕上空に到着しました。

「イェーガー!イェーガー!」(敵機だ)

「フォイヤー!フォイヤー!」(撃て!)

ちゃんとドイツ人(に見える外人)を配役しているのがえらい。

以前観たときにはなんとも思わなかったシーンですが、
第一次世界大戦が始まって2ヶ月後、ヨーロッパではない青島で
戦争が「深化」するにしたがって洗練されていったというこの
「塹壕文化」がここまで発展していたとはちょっと思えません。

青島攻略の写真を見ても、塹壕というより土嚢を積んだ基地、
と言う感じなので、おそらくこれは映画的演出でしょう。

ここで映画的には大変斬新な?手法で字幕が現れます。

敵地上空で機体の調子が悪くなり、隊長の池部良が翼の上に立って
それを修復しているのを見たドイツ兵たちは、

「敵は勇敢だ!」「底抜けに勇敢だ!」

と攻撃しながら褒め称えるのでした。
第一次世界大戦の頃にはまだ生きていた「騎士道精神」ちうか、
まあのんびりした部分を表しているといえましょうか。

ちなみに字幕はニュース画像にかぶせるように飛び出してきます。

機体の高度が下がってきたので軽くするために煉瓦と釘を落としたところ、
ドイツ兵、それを見ていわく。

「火の玉だ!逃げろ」

ヨーロッパ人がレンガと爆弾を見間違えることはないと思うがどうか。

ドイツ兵、あわててレンガに水をかけております。
これ、やらされているエキストラのドイツ人(役の外人)たち、
「んなあほな」と思いながら演技してたんだろうな。

実際には青島で陸軍機が70mの高度からドイツ艦船2隻に
爆弾を投下し、爆発はしなかったものの、初めてのことで
びっくりした敵艦は逃げ惑ったという記録があるそうです。

「おい、あれだ!化物の正体は」

「ビスマルク砲台だ!」

加山、急いで写真を撮りますが、手ブレ防止機能のない当時のカメラでは
現像してもブレブレで何も写っていなかったのでした(´・ω・`)

そこに迎撃のためのドイツ戦闘機、ルンブラー-エトリッヒ・タウべ登場。
砲台を守備するために配置されていたのです。

Rumpler Taube monoplane.jpgwiki

タウべ=鳩と言うネーミングそのままのシェイプですね。

操縦するのはランゲ大尉ベルゲ中尉です。
機関銃を搭載したタウベは余裕をかまして空中旋回をし、
性能の良さを鈍重な水上機に見せびらかして挑発します。

「こっちもやってやりましょうか」

「馬鹿、そんなことをしたら地獄へ真っ逆さまだ」

これはかなわんと大杉・国井チームは逃げ出しました。

戻って作戦会議の結果、1機がタウべをおびき出し、その間に
2機目が砲台を攻撃することにし、我が航空部隊は
前線基地のある島に移動することになりました。

霊山島基地の司令官は戸田大尉(柳谷寛)。
まるで村の駐在さんのような雰囲気の特務士官です。

目下の問題は砲撃の音で鶏が卵を産まなくなり、
住民が卵の値段をつりあげて困るということ(笑)

上陸するなり真木中尉は警備隊の水兵が現地の娘の服を取り上げ、
セクハラしている場面に遭遇し、助けてやります。

おや、科学特捜隊の「イデ隊員」二瓶正也がいるではありませんか。
このころは二瓶正典が芸名だったようです。

娘の名前は楊白麗。
彼女の美貌に思わず心奪われる真木中尉ですが・・・。

一方、加山雄三の国井中尉は悪いものでも食べたのか、
腹痛で苦しんでいました。

飛行機に乗りたくてたまらない庄司候補生、
代わりに自分が出撃を命じられるかも、と気色満面です。

はりきって甲板掃除の指導をしますが、
海水を汲み上げた桶のなかから手紙の入った瓶を発見。

「猛虎」から「飛龍」に当てて、
日本の飛行機が二機(両架)来たと伝えるメモでした。

「スパイだ!」

戸田大尉のもとに日本語の話せる白麗が村人を率いてやってきました。
村の廟の祭りを開催させてくれというのです。

というわけで賑やかな祭が始まった夜。

飛行隊のメンバーは村人の中にスパイがいるのではと
怪しい動きをする人物をチェックすることに。

スパイはなんと楊白麗でした。
踊りを抜け出して男に現在の日本軍の状況を伝えています。

趙英俊というこの男、飛行機を「若宮丸」を爆破するつもりです。

白麗の兄と言う設定ですがこれっぽっちも似ていません。

火をつけた小舟を若宮丸にぶつけるつもりです。
動力が風だけ、しかも操舵なしでうまくぶつかるかなあ。

そのころ、何も知らない庄司候補生は、いよいよ明日
飛行機に乗れることが嬉しくて、コクピットに座り
喜びを噛み締めていました。

そこに石油缶を積んで炎上した小舟が向かってきました。
庄司候補生、飛び込んで船の進行方向を変え、激突は防ぎましたが、
その瞬間石油の爆発に巻き込まれて爆死してしまいます。

このとき見ている水兵たちがさかんに

「少尉どの〜!」

と叫んでいますが、海軍では階級の後に「殿」はつけません。

この頃は兵学校を卒業したら候補生として遠洋航海等行い、
その後任官となったので、庄司が任官しているとしたら
彼がなぜ兵学校の制服を着ているのかが謎です。

須崎氏も古澤監督もその辺よくわかっていたはずなのですが・・。

白麗の様子を怪しんで後をつけてきた真木中尉、
彼女を捕らえ(思いっきりビンタあり)

彼女が逃がそうとした英俊は、格闘の末
二宮中尉(夏木陽介)が射殺してしまいました。

さて、女性だろうが子供だろうが、スパイは国際法で処刑です。
まさか平和なこの島で処刑執行を命令されるとは・・・。

気の良い戸田大尉、明らかにテンパっております。

そこで上官の権限でしゃしゃり出てくる大杉少佐。

なんと白麗の処刑を飛行隊のメンバーにさせるというのです。

スパイを霊廟の正門の前に立たせて銃殺って、んなあほな。

号令をかけさせられる戸田大尉、緊張マックス。

「撃ち方よーい!」

「てー!」

三人の撃った銃弾は石像の首を落としただけ。

「知ってるか、海軍刑法第123条」

「はっ?海軍刑法は105条までしかありませんが」

「そうか・・しょうがないな。女は大陸に追放するか」

「・・・はっ!海軍刑法第123条により銃殺刑の執行を終了する!」

そして尋問もせずに彼女を釈放してしまいます。
こいつのせいで庄司候補生は死んだというのにずいぶん寛大なことです。

ナチスドイツはSOEのエージェントを女性だからあえて処刑しましたが、
彼女が女性であるというだけで許し、野に放つと言う彼らの大甘ぶり、
これは後で凶と出るのか吉と出るのか?

ビスマルク砲台攻略作戦決行の日がやってきました。
航空隊総員四人が二機の飛行機で総出撃です。

今回は武器も調達しました。
爆弾を紐でたくさんぶら下げておいて・・・、

敵地上空に来ると包丁で紐をトンと叩いて切ることで
投下するという超原始的な方法です。

何発か落としたところで、砲台を守るためにタウベが現れました。

しばらく空戦を繰り広げますが、前回はなかった機関銃で
二宮中尉が銃撃をすると・・・・

弾丸はタウべの銃手ランゲ大尉に当たりました。

しかし、真木・二宮機もエンジンに弾を受け、
煙を吐きながら急降下していきます。

「あっ、隊長!」2号機が・・・!

この後墜落して戦死となるかもわかりません。
二人は悲痛な敬礼で2号機を見送ります。

果たして、ドイツ軍の兵隊が軍歌を歌いながら行進するその近くに、

機を不時着させた二人は潜んでいました。

敵の歩哨の目を逃れて這いずり回っていると、そこに
ビスマルク砲台に弾薬を運ぶ汽車がやってきました。

真木中尉はそれを見て弾薬庫を爆破すれば砲台を破壊できるのでは、
と思いつきます。

弾薬庫の防弾設備はドイツ軍に限らず堅牢であるはずだから、
複葉機に搭載できる程度の爆弾で爆破できるとは思わないけどな。

生きる希望が出てきた二人が山中を彷徨っていると、なぜか
ポツンと民家があり、前に仁丹と福助足袋の看板が立っています。

「雑貨屋だ」

いやいやいやいや、ドイツ軍が進駐しているこの土地に、
なぜ日本人相手の雑貨屋が営業していると思うのか。

しかしここでも人の善意を疑うことを知らない甘ちゃんの日本人二人、
このいかにも怪しげな店で中国人スターターキットを購入。

「この老人、我々に好意を持っていてよかったな」

ほーらいわんこっちゃない。

おっさんは子供に凧揚げで遊ぶように言いつけていましたが、
実は凧をあげることが予め決められていた
ドイツ軍への合図だったのです。

「日本人がいる」

おっさん、報奨金五万元のために網を張っていたのでした。

捕らえられた二人はドイツ軍基地に引っ立てられてきました。
そこでベルゲ中尉を先頭に葬式に向かうランゲ大尉の棺とすれ違います。

涙を浮かべて無言で敵を見つめ、しかし黙って通り過ぎるベルゲ中尉。
軍人として棺に敬礼せずにいられない二人でした。

軍隊では無帽で敬礼はしない習慣なので、とりあえず
帽子らしきものでも被っていて良かったですね。

隣同士の牢獄に入れられた二人は、さっそく壁越しにツートンを始めます。

「キボウナシ」

「キボウアリ」

「ナシ」「アリ」「ナシ」

ここでキレた二宮、壁を叩いて大声で

「ある!」

真木、負けずに大声で

「無い!」

そこに司令官っぽい将校がやってきて、

「捕虜は何を喚いている」

「はい、こいつ(二宮)が”アル”といったら、
こいつ(真木)が”ナイ”といいました」

「それは日本語で”存在”と”非存在”の意味だ」

いやー、わたし須崎脚本で本当におかしくて笑ったの、
これが初めてかもしれない。

「ザイン・ウント・ニヒト・ザイン」

とセリフでは簡単に言っていますが、

「Das sein und das nicht sein」

で、「存在と無」ですよ。ジャン・ポール・サルトルの。

まあ、こういう自分の笑いのツボを客観視すると、あらためて
笑いとは他者から自己を選別する衒学的な面を持つものでもある、
などとその本質を哲学的に論じたくなりますな(嘘だけど)

獄房の番兵は

「はあ、哲学論でありますか」

そのとき真木の房の前に仁王立ちになった人影がありました。

なんと、三文芝居までして命を救ってやった楊白麗が
目を三角にし金切り声で二人を罵り嘲るためにやってきたのです。

「私の兄を殺した!お前死刑!お前も死刑!」

「俺たちは軍人だ!」

「軍服着てない!だからスパイおんなじ!死刑当たり前!」

ちょっとお待ちください。
スパイであるあなたを死刑にしなかった目の前の二人の立場はいったい。

「ドイツ軍命令死刑!アタシの願い、死刑!あはははは!
(中国語で)馬鹿な男たち!」

要するにスパイの自分を死刑にしておかなかったことを
「馬鹿」といっているってこと?

「日本海軍は1ヶ月の間一体何をしている!」

さて、こちらは日本海軍の青島攻略の進捗が遅い、と
会議で日本軍関係者に文句を言うイギリス軍司令。

イギリス軍の隷下で戦争してるわけでもないのに
こんなことを言われる筋合いはみじんもないわけですが、
まあ映画ですから多少はね?

幻の艦隊エムデン号率いるドイツ艦隊が太平洋を暴れ回り、
膠州湾に向かいつつある!」(図参照)

しかし、実際の「エムデン」は膠州湾にいたことはあっても、
第一次世界大戦の時の航海図は上の通りで、
インド湾で通商破壊作戦をしていたらしいので、
イギリス軍司令官の言っていることは何かの間違いだと思われます。

海軍では早速それを受けて会議が始まりますが、
その中でビスマルク砲台を航空機に任せたのは失敗だった、
という意見が大勢を占めました。

個人的に航空機賛成派で自分が作戦を主導しただけに、
加藤定吉中将(この人だけ実名)は苦境に立たされることになってしまったのです。

このシーンで沖に見えているのは江ノ島じゃなくて「霊山」です。

 

さて、一方囚われの身となった真木と二宮は、処刑になるのか
移送されるのかはわからないままトラックに乗せられています。

同じトラックになぜか楊白麗が乗り込んでるんですが・・。
この人いったいドイツ軍の何?

そして「馬鹿な男たち」二人の運命は。
恩を仇で返すのか、楊白麗?

続く。