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高度25000フィートの戦い〜B-17酸素供給システム 国立アメリカ空軍博物館

2024-02-23 | 航空機

「メンフィス・ベル」の搭乗員を紹介し終わったところから、
博物館の展示はB-17爆撃機についての説明が始まります。



冒頭のB-17ガンナー(おそらく胴部砲撃手)の上にあったこのパネル、
華氏マイナス50度は-45°C、高度25,000フィートは7620mです。

一応自分で単純計算したら、高度が7500mで気圧は400hPa超え、
気温は-20℃となるはずですが、どこかで計算間違ってますかねわたし。

ヨーロッパにおける米陸軍航空隊の重爆撃機は、
対空砲火に対する脆弱性を軽減するため、
通常2万フィートから3万フィートで飛行していた。
しかし、与圧されていない機体で高高度を何時間も飛行することは、
乗組員にとって別の危険をもたらすことになった。

冒頭の写真の胴部砲塔のガンナーは、クルーの中でも最も過酷な状態で
その高度と温度の外気にさらされていたことになります。



最低気温は華氏零下50度(摂氏マイナス45度)。
高高度では、厳しい寒さによる凍傷が常に危険であった。
B-17の暖房システムはコックピットこそ暖かく保ったが、

他の乗組員配置では、全く効果がなかった。
B-24の暖房システムも同様だった。


というわけで、このコーナーは搭乗員の防寒装備各種です。
三体のスーツが紹介されていますが、


初期の爆撃機搭乗員用



アメリカ陸軍の爆撃機乗り、というと思い浮かぶのがこのスタイル。
分厚い羊の皮(ムートン)でできています。


ブーツの中も毛皮付き

メンフィス・ベル搭乗員、ターレットガンナー、セシル・スコット着用


中:「ブルーバニー」電熱スーツ

電気式温暖装置搭載のスーツや手袋もありました。
内部に電気コードを通して温めるパッドが仕込んであります。


袖にもソケット差し込み口が

この初期タイプ「F-1スーツ」の愛称は「ブルーバニー」。
深い意味はなく、青いから、誰ともなくそう呼ばれるようになりました。

「青いうさぎ」って・・なんかそんな感じの歌が昔あったな。

現代でこそダウンに温め装置がついている服が誰でも安く買えますが、
この頃は何しろ原始的な仕組み(単一回路)だったので、
電線が使用中に断線するのはしょっちゅうだったということです。

熱が切れるだけならまだしも、その際着用者に衝撃を与え、
しばしば発火することもあったため、乗組員はこれを嫌がって、
わざわざ装置を外して着用するにようになりました。

横腹部分に昔々のこたつについてたみたいな布巻きのコードが見えますが、
この先が何につながっているかというと・・・、

エレクトリックスーツ用手袋とコントロールボックス

上の小さな機械が各ステーションに置いてあり、これにつながっていました。

これってさ・・・ボックスが固定されていてもいなくても、
体からワイヤが直接どこかにつながっていたらそりゃ切れますがな。


エレクトリック・ブーツ

しかも、ブーツにも右左一本ずつワイヤが仕込んであるという・・・。
こんなの小さなボックスに繋いでたら歩けないよね多分。

機内持ち込みなので、小さく軽いものを、と思ったんでしょうが、
さすがのアメリカの技術でも当時は意余って力足りずだったわけだ。

そういえば、メンフィス・ベルの上部砲手が窓の外に手を出して、
砲身に被せてあったカバーを外したわずか2分間で凍傷にかかり、
あやうく右手切断になりそうになったという話がありましたが、
彼はヒート式といかずとも、普通の手袋すらしてなかったんですかね。

左:対戦後期の爆撃機搭乗員用フライトスーツ

しかし、そんな不具合のあるものをいつまでも陸軍が放置するわけもなく、
爆撃機乗組員の服装は戦時中に劇的に改善されることになりました。
より軽量でアルパカの裏地が付いたもの、
改良された電気ヒーター付きの下着により、
より快適でより機動性の高いものへと進化を遂げていきます。


大戦後期のB-17搭乗員

後期には機内の暖房システムも向上します。
B-17の左舷内エンジンから発生する熱を
機体中央と前方の乗員ステーションに送ることでスーツも薄くなりました。

この頃は、スーツにではなく、内部に電熱式下着を着るまでになりました。

■ 酸素(オキシジェン)



高度25,000フィートでは、人は補助酸素を用いなければ、
3~5分で気を失い、その後すぐに死亡に至ります。

実際にも、ホースの詰まりや酸素マスクの凍結などの不具合で
何人かの飛行士が死亡しています。


オキシジェンマスクとレギュレータ



展示されている酸素マスクは1944年に使用された典型的なタイプで、
当時はマイクも内蔵されていました。

一緒に展示されているのはオキシジェン・レギュレーターで、
各乗員ステーションに設置されており、
マスクを航空機の酸素システムに接続するためのものです。


ウォークアラウンド・ボトル(Walkaround bottle)


ウォークアラウンド=歩き回るという意味そのままで、
乗組員は酸素マスクをこの「ウォークアラウンドボトル」に差し込んで、
酸素を必要な時にはこれを携帯して移動していました。

基本いざというときのためのものなので、
ボトルに入っている酸素はわずか12分間分だけです。


ポータブルシリンダー、通称「ウォークアラウンド」

ポータブル・ユニットは、1回の充電で
6~12分の酸素供給が可能な小型シリンダーで構成されています。
デマンドレギュレーターが装備され、サスペンションクランプ、
リチャージバルブ、圧力ゲージ、
マスクホースのカップリングが取り付けられています。

左には「再装填口に油を近づけないこと」とあります。

装着方法

遅れるな
圧力計の指針が赤い部分に達したら、シリンダーを再充填せよ
このシリンダーを再充填するには、エアプレーンにある供給ホースの

フィラーバルブに再充填口を接続する


ポータブルユニットを使用するには
第1に、ポータブル・ユニットの圧力計をチェックする;
第2に、息を深く吸い込んだ後、
レギュレータホースからマスクを外し、

素早くレギュレータ接続のネジカバーを外し、
マスクホースの端の雄金具をはめ込み、
携帯用クランプユニットを衣服に固定する

5分ごとに、波形のチューブを絞って息を吸い込み、
マスクに漏れがないかを確認すること

ベイルアウトボトル(Bailout Bottle)
ベイルアウトの際使用するもので、
パラシュートのハーネスに取り付けるか、足に括り付ける
安全な高度まで達するまで十分な酸素を供給する

 ■ 航空機用酸素タンク



航空機用酸素タンク

重爆撃機には、機体システムに酸素を供給するため、

複数の酸素タンクが搭載されていました。



ボンベの配置図です。

ちょっと見えにくいですが、黄色が酸素ボンベ、
緑色がウォークアラウンドボンベです。

各配置に置かれているわけですが、上の図を見ると、
コクピット両側に5個ずつ、中央にまとめて置かれたボンベは
後方の砲手たちに供給できるようになっています。

供給口は各ポジションにひとつずつあるほか、
通信室に予備が2口、ボムベイ近くに1口置かれています。

一つの酸素ボンベは一人が使用して4時間分ですが、
ボール・ターレットの酸素タンクだけは小さく、2時間分しかありません。

タンクはボールの床上(つまりボールの外)に設置されているのですが、
なぜ狭くもないのに半分の大きさなのかわかりません。

高高度を飛行する爆撃機には必須の酸素ボンベですが、
破損した場合、放出される加圧酸素は深刻な火災を引き起こしました。

メンフィス・ベルの実際のミッションでもこんなことがありました。

テール・ガンナーがボンベ被弾による火災発生を知らせました。
機内に走る極度の緊張。
しかししばらくしてインターコムが「消えた」と伝えてきました。
モーガン機長は、その時の気持ちを、

「その報告はどんな音楽よりも美しく聞こえた」

と後に語っています。


続く。





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1 Comments

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立派! (Unknown)
2024-02-23 07:48:58
B-17は与圧構造ではなかったのに、高度25,000フィートを飛んでいたんですね。さすが身体強いアメリカ人です。昔、海上自衛隊にP-2Jという哨戒機がいましたが、やはり、与圧構造ではなく、さすがに亡くなった人はいませんが、高高度で酸素マスクが外れていて、うつらうつらしているところを起こされて、なんとか助かった人はぞろぞろいます。

酸素ボンベは危険物(可燃物)です。爆弾なら安全解除がありますが、酸素ボンベにはありません。撃たれたら、ソッコー着火。こんなものをたくさん抱えて、敵地を飛ぶ。ドイツ爆撃のB-17は損耗率が40%になったと聞いたことがありますが、さもありなんだと思います。搭乗員達は精神的に追い詰められたことでしょう。立派でした。
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