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火器統制システムルーム〜USS「エドソン」

2023-10-27 | 軍艦

ヒューロン湖に流れるサギノー川沿いに係留されている、
ベトナム戦争のベテラン駆逐艦USS 「エドソン」。



前回はその艦歴についてお話ししました。



サギノー川には艦艇を係留するような施設がないので、
「エドソン」は喫水の関係で河岸から少し離れたところに浮かび、
乗艦のためには長い桟橋を渡っていかなくてはなりません。



Googleマップで上空から見るとこのようになっています。


後甲板から見学することになります。



博物艦の場合、たいてい艦尾には普通に国籍旗が掲揚されています。



それでは艦首旗は?とあらためて見たところ、
一見アメリカ海軍の正式な国籍旗に見えますが、
よくよく見るとブルーに星が円形にあしらわれているものでした。

わかりませんが、正規の海軍籍にはない艦船は、
国籍旗を揚げてはいけないという規則があるのかもしれません。


艦尾にある装備の説明を見てちょっと驚きました。
説明の書かれたボードがとにかく立派です。

この展示には気合が入っている・・・わたしはここで確信しました。


「ファンファーレ」トルピードデコイ
T-Mk 6 Fanfare

「ファンファーレ」は初期のパッシブ音響ホーミング魚雷を混乱させるため
騒音を発生させる装置です(なるほどそれでファンファーレ・・)。
一応日本語では「ファンフェア」と英語的名称が正式のようです。

1950年代から60年代にかけてこれが標準的な対魚雷デコイとなりました。

アメリカではこの形式のデコイのことを「ノイズメーカー」といいますが、
その通り、船の後ろに長く曳航して通電させると、
魚雷はターゲットを見誤り、デコイに向かうという仕組みです。

同じシステムのデコイとしては、先代に「フォクサー」がありましたが、
同型はそれよりも効果的で、広域のノイズではなく、
船のスクリューに似た音を発生させるものでした。

ここにはデコイ2本に、それを曳航する索具2セットが装備されています。


後甲板に装備された艦砲は、

Mk.42 5インチ単装速射砲
5"/54 caliber Mark 42 gun

直径5インチ(127.0mm)の弾丸を発射する砲であり、
砲身は54口径(砲身長は5インチ×54=270インチ、6.9メートル)。

艦砲についても、第二次世界大戦時の反省に鑑み、
5インチ/38口径砲よりも射程が長く、発射速度もある砲を求めた結果、
航空・水上両用であるものタイプが開発されました。



かつて敵地に向かってネジが擦り切れるほどに火を噴いた主砲も、
今や永遠に沈黙して、その砲身の軌道には看板が固定されています。



さて、次は・・・あの階段を上っていくべきでしょうか?



なぜか大型冷蔵庫と・・何だろう。バーベキューグリル?
艦上を貸し切って行うパーティのための装備かな。


上の階の艦砲はサビが目立ちます。


上に上がってみた。



AFT FUELING TRUNKS
後部給油トランク


ここは艦が必要な燃料をすべて受け取ることができる場所です。


説明の置いてある場所が微妙なせいでわかりにくいですが、
これが給油口だと思います。(違っていたらすまん)


右側の器具に相当する形のものがこれしか見当たらないという理由。
 
USS「エドソン」は は蒸気動力で推進しますが、
タービン・エンジンを動かすの蒸気を生成するために、
ディーゼル燃料を燃焼させてボイラー内で熱を発生させていました。

そして「エドソン」はSTREAM(標準張力同時補充方式)
を採用することで、大量の燃料を迅速に移送することが可能でした。

通常のCONREP (Connected Replenishment、補給) 速度は、
距離140~ 180フィートで 12 ~ 14ノットです。

燃料バンカーは 227,000 ガロンまたは 750 トンを収容できます。

同時代の給油、「インディペンデンス」から「イングリッシュ」へ



モーターホエールボート26フィート
Motor Whale Boat


モーターホエールボートは、搭載されている船がゆっくりと前進しているとき、

あるいは停止しているときも、即座に発進することが可能です。

「エドソン」搭載ボートの重要な用途のひとつは、
墜落した飛行士や船外に流された人員を救助することと、
そして艦が停泊しているときに乗組員を陸上に輸送することでした。

今見えているのはボートの船尾です。



たぶんこれとおなじ26フィートのホエールボート。


「エドソン」のホエールボート、前から

■火器統制システム室


上部構造物の内部に入ってみます。



手前のパイプチェアの足は溝にいれて固定しています。
床の凸は、いざという時に椅子が滑らないためのものかと。


現地に貼られていたのと同じシステム図です。







これらがガン・ディレクターという部分。



右側のロッカーみたいなのが、



それぞれの機器のコントロールパネルとなります。




Mk4コンソールと下部にはプライマリーコンピュータが位置しています。

Mark 56 Gun Fire Control System (Mk.56 GFCS) 
は、
AN/SPG-35レーダー・トラッカーとMark 42弾道コンピューター
からなる砲火管制システムです。

方向板は機動性があり、XバンドレーダーMk.35と光学照準器を装備し、
2名のオペレーターが搭乗して操作を行います。

オペレーターによる光学照準器による目標追尾も可能ですが、
完全自動追尾が基本動作であり、米海軍の導入したシリーズで
初めてブラインドファイアも可能となったという優れもの。

マーク42弾道(バリスティック)コンピュータ



中が見えるようにパネルを外して展示しているこれは、



Mk 42弾道コンピュータです。

まず、「スパイラルスキャン」と呼ばれる方法
(ビームを6度の角度で振って空間をゆっくりスキャンする)
で目標を捉え、次に「コニカルスキャン」
(ビームの振り角を0.5度に狭めて素早く距離を測定する)
を行い、これで目標を追尾するシステムです。

追尾目標の速度と方向は、方向ボードのジャイロスコープと、
距離追尾サーボシステムのタコジェネレータによって求められます。


ステーブルエレメント・ジャイロユニット

ユニット内の 2 つのジャイロが船のロールとピッチを補正します。
このユニットは5インチ砲の方向を変えるために使用されます。

弾道計算はこのMk.42弾道計算機によって行われ、
増設することで同一目標に2種類の砲を照準することも可能となりました。

戦時中は高速で突進してくる攻撃機をレーダー追尾できないケースが多く、
海軍作戦部長アーネスト・キング提督は光学機器を追加装備しています。

AN/SPG-35レーダートラッカー


USS「ホーネット」のAN/SPG-35

初号機完成は、なんと日米戦終戦の1945年8月だったそうですが、
運用されるようになったのは1950年代からです。

戦後も性能向上は続き、亜音速機に対して、
追尾開始から2秒で射撃開始が可能となりました。

ちなみに我が海上自衛隊は、戦後初の国産護衛艦となった
「はるかぜ」型護衛艦で本機を装備することをアメリカに要求したのですが、
承認は得られず、実際の装備は第二次防衛力整備計画に持ち越され、
結論として、「やまぐも」型護衛艦以降、「みねぐも」型
そして「たかつき」型に搭載されることになりました。

続く。



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3 Comments

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洋上給油 (お節介船屋)
2023-10-27 11:12:24
エリス中尉の添付された絵はプローブ・レシーバー方式の給油法で給油艦側の給油ホースの先にプローブがあり、受給艦側がレシーバーを装備して嵌合により、素早く受給油できる現在の方式です。

この時代はフランジ接続方式で給油艦も受給艦もフランジ接手でボルト止めであり、給油側と受給側のフランジの径が違う場合はレジューサーという両端のフランジ径が違う短管接手が必要で通常数種類のレジューサーを受給艦が搭載していました。
ややこしいし、時間がかかるので現在はプローブ・レシーバー方式となっています。

なお両艦の間隔が急に開く等緊急事態にもプローブ・レシーバー方式は素早く離脱できますがフランジ方式はボルト止めであり、レジューサーと給油艦のフランジの間にブレーカースプールと言う鋳鋼製の短管を入れ給油管離脱の時間がない場合はこの短管を切断します。

なお写真のL字型のライザー管には圧力計が付いているようにみえますが雑用空気ホース接手が見えませんが給油終了後外す前に雑用空気でこの部分の油を吹いて取り除いておかねば、甲板に燃料がこぼれることとなります。この時代のボイラー艦は重油でこぼすと汚れがひどくあとが大変です。

ライザー管の下に仕切弁がありませんが給油後盲フランジのみでの閉鎖では問題ですので甲板下にあるのでしょうか?

参照海人社岡田幸和著「艦艇工学入門」
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米国籍旗 (お節介船屋)
2023-10-27 10:30:09
艦首に国籍旗、艦尾に軍艦旗が停泊時標準で、艦尾は米軍艦旗、国旗と同じ、国籍旗については下にウイキペディアを張り付けましたが「世界の艦船」等では13本のストライブにがらがらへびのファーストネービージャックが国籍旗で艦首旗と記載しています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E8%BB%8D%E3%81%AE%E5%9B%BD%E7%B1%8D%E6%97%97
上記にはまた青地に州の数の星に戻ったと記載されています。

さてご指摘の青地に円形で星の旗は星が金色となればEUの旗になってしまいますが、白の星は?
建国時の州を表しているのでしょうか?
艦首旗はイギリスのことではなく、ユニオン・ジャックと呼ばれ州の数が表されますのでファーストネイビージャックもストライブは13本、白い星は13個でしょうか?
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海上自衛隊の涙の歴史 (Unknown)
2023-10-27 07:03:09
>わかりませんが、正規の海軍籍にはない艦船は、国籍旗を揚げてはいけないという規則があるのかもしれません。

米海軍の艦艇では、艦尾(海軍旗)が国旗と同じ意匠で、艦首は星の部分だけです。海軍旗や艦首旗の意匠は国によってまちまちで、ご存じのように我が国では、海軍旗は旭日旗で、艦首旗は日章旗ですが、強大な海軍を保有した四大都市国家(ベネツィア、アマルフィ、ジェノバ、ピサ)の海軍旗をかたどったイタリアや聖アンドリュース旗を用いたロシア等、国旗と全く違った意匠の国もあります。

魚雷用デコイは、自衛隊では曳航具と呼んでいますが、このT-Mk.6 Fanfareの後継のAN/SLQ-25 Nixieまでは、米軍と同じものを使っていましたが、その後は国内で開発したもの(曳航具3型や4型)を使ってはいるものの、大体同じです。

考え方としては、Fanfareの時代、魚雷自身は音を出さず、音源(目標艦のプロペラ音)に食い付くパッシブ方式だったので、Fanfareはプロペラ音に似た音を出し、魚雷がそちらに食い付くようになっていました。

Nixieの時代になると、魚雷は自ら音を発して、目標艦を捜索出来るようになったので、その音を増幅して、打ち返すことにより、魚雷を誘引しています。

5インチMk-42単装速射砲は、それまでの5インチ砲のほぼ倍の発射速度の高性能砲ですが、機構が複雑なので、自衛隊では今に至るも練習艦「はたかぜ」型に残っていますが、米海軍では1980年代から先祖返りしたMk-45(機構が簡単で、発射速度がMk-42の半分程度)に取って代わられています。

>説明の置いてある場所が微妙なせいでわかりにくいですが、これが給油口だと思います。

Bell MouthとReceiving Bellと書かれている部分は、自衛隊では合わせてプローブレシーバと呼んでいますが「エドソン」では、丸々なくなっていて、写真で見る限り、残っているパイプの先端のフランジに、このイラストで言う「Hose connecting probe to receive ship fuel system」が付きます。

洋上給油ですが、第二次世界大戦当時は縦引き(給油艦と受給艦が縦に列を作り、給油艦から給油ホースを流して、受給艦はそれを拾って、結合、給油する)と横引き(給油艦と受給艦が横に列を作って並び、給油艦からホースを渡して、受給艦に結合、給油する)方式があり、この横引きが進化したものが「STREAM」方式です。

元々、米海軍が開発した方式ですが「月月火水木金金」で訓練して来た日本人は、お家元のアメリカ人より、遥かに上手に出来る様になり、自衛隊同士だと米海軍と繋ぐ時、切り離す時の半分以下の時間で出来てしまいます(笑)

駆逐艦と空母の間の洋上給油の写真がありますが、給油艦と受給艦の間は50メートルと決められていますが、船と船の間で吸引力が働き、グーっと引き寄せられることがあるので、操艦(針路の指示)は0.5度単位で出します。給油艦は一定針路で、受給艦が常に給油艦と50メートルを保つように操艦しますが、非常に緊張します。

Mk-56射撃指揮装置ですが、看板は「自動追尾」ですが、ゼロ戦程度なら出来ますが、ジェット戦闘機なら追随出来ません。船の対空レーダーから追尾する目標の位置情報を入手し、その方向に人が乗っている方位盤(Gun Director)を手動で向け、目視でアンテナを向けて電波を発射して、目標を捕捉します。

一発できちんと捕捉出来れば、自動追尾に入れますが、目標を目視して、方位盤を向けるところはオペレータに依存しているので、ヤツメウナギを一杯食わせて、とてつもない視力を持つ射手を育てないと、うまく追尾出来ません。

スパイラルスキャンとコニカルスキャンと、経験者が聞いたら涙が出そうな解説ありがとうございます。目標が真っすぐ突っ込んで来る場合には、見た目の方位は変わらないので、追尾は簡単ですが、実際には左右上下どこに行くのかわからないので、それを把握するために、わざと目標から一定の角度をずらせてレーダーを回し、どの角度でも利得(目標からの反射)が同じであれば、目標はレーダーの回転半径の中心にいると仮定して目標を追尾します。

これが問題で、ゼロ戦程度の速さなら、レーダーがスパイラルスキャンしている半径に収まるのですが、ジェット機なら速いので、その半径には収まりません。そうなると、連続追尾は出来ず、すぐに逃げられるので、方位盤のオペレータが手動でレーダーを動かして、目標に追い付き、ちょっとの間は、またスパイラルスキャンで捕捉出来ますが、また逃げられて・・・の連続で、看板の「自動追尾」には入れないというのが、実際のところです。

自衛隊では、この次の世代の射撃指揮装置一型(まだ有人。1970年代)で、だいぶ、ジェット機に付いて行けるようになり、その次の二型(今のほとんどの護衛艦に乗っている艦橋トップの丸い白いアンテナ。無人。1980年代)でついに完全自動追尾を実現しました。

>「やまぐも」型護衛艦以降「みねぐも」型そして「たかつき」型に搭載されることになりました。

「やまぐも」型(DD113~115)と「みねぐも」型は「みねぐも」(DD116)のみがMk-56で「なつぐも」(DD117)以降は国産の射撃指揮装置一型。「たかつき」型は「たかつき」(DD164)から「もちづき」(DD166)までがMk-56で「ながつき」(DD167)は射撃指揮装置一型が搭載されています。

「たかつき」(DD164)と「きくづき」(DD165)は、後年、近代化改修で後部の射撃指揮装置一型を二型に換装し、後部の5インチ砲は撤去され、短SAMに換装されました。前部のMk-56は残されていますが、二世代後でついに自動追尾を達成した二型が付いたので、その後はMk-56での射撃はしなくなりました。海上自衛隊の涙の歴史です。
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