ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングやメールカウンセリングなどをやっています

加藤周一『言葉と戦車を見すえて-加藤周一が考えつづけてきたこと』2009・ちくま学芸文庫

2024年08月12日 | 加藤周一さんを読む

 2022年8月のブログです

     *

 加藤周一さんの論文集『言葉と戦車を見すえて-加藤周一が考えつづけてきたこと』(2009・ちくま学芸文庫)を久しぶりに再読する。

 やはりすごいな、と思う。

 本書には、1946年の「天皇制を論ず」(「大学新聞」)という論文から、表題になった1968年の「言葉と戦車」(「世界」)、そして、2005年の「60年前東京の夜」(「朝日新聞」夕陽妄語)までの60年間の論文、27本を収録する。

 その間、論旨が一貫していて、少しもぶれていないところがすごい。

 天皇制、敗戦と終戦、憲法9条、民主化と圧政、官僚制、教科書検定、再軍備、などなど、ふだんはなかなか見えにくい政治の動きが、とてもクリアに見えるところが本当にすごいと思う。

 そして、それを書く勇気。かなり大変なことではないかと想像するが、その勇気もすごいと思う。

 1968年の論文「言葉と戦車」はソ連のチェコスロヴァキアへの軍事介入を論ず。

 現在、進行中のロシアのウクライナ侵略と似たような構図だが、いずれも大国の横暴が露わだ。

 同じ時期、アメリカはベトナム介入を続けており、加藤さんは東西の大国を分け隔てなく批判する。

 アメリカ、ソ連はその後もあちこちで介入や戦争を続けているが、両国政府の言い分とその国民感情への加藤さんの視線は鋭い。

 そして、それは、翻って、戦前、日本が朝鮮や中国、東南アジアの国々を侵略し、それを日本国民が支持し、知識人がきちんと抵抗できなかったことへの反省に繋がる。

 目の前の問題をきちんと見て、小さいうちに対処していくことの大切さ。

 官僚制、教科書検定、君が代・日の丸、などなど。

 権力は、一見、スマートな装いで、じわじわと国民の自由を奪う。

 戦前と同じことを繰り返してはいけないと思う。

 加藤さんの本は、問題をクリアに見ることを可能にしてくれると思う。     (2022.8 記)

 

コメント

加藤周一『夕陽妄語1 1984-1991』2016・ちくま文庫-ベルリンの壁と湾岸戦争を視る

2024年07月14日 | 加藤周一さんを読む

 2019年のブログです

     *

 加藤周一『夕陽妄語1 1984-1991』(2016・ちくま文庫)を再読。

 「夕日妄語」は加藤さんが朝日新聞に月1回、連載をしていた社会時評で、当時、じーじはライヴで毎月、楽しみに読んでいた。

 加藤さんは『羊の歌』以来、冷静な社会分析が魅力的だが、「夕陽妄語」でも、その冷静さはすごい。

 いろんな事件が起こり、加藤さんの分析に学ぶところが多かったが、その加藤さんが、予想できなかった、少なくともこんなに早くは、と語らせたのが、ベルリンの壁の崩壊。

 そういうことを隠さずに正直に書く加藤さんもすごいと思う。

 湾岸戦争前夜の加藤さんの筆も冴える。

 戦争前、イラクとアメリカの軍事行動がエスカレートする中、それでも戦争までは、戦争だけは避けるのでは?という祈りに似た語りをよそに戦争に突入、加藤さんはアメリカを止められなかった国連のあり方を検証する。

 その流れに流されずに、とことん冷静に分析をする姿はやはりすごい。

 そして、アメリカ追従の日本を分析し、行く末を懸念し、さまざまなことがらに話が及ぶ姿は、考えることの大切さを伝えてくれる。

 読んでいて、勇気をくれる本である。      (2019.3 記)

     *

 2022年春の追記です

 ベトナムとイラク、アフガニスタンでの失敗が、今回のウクライナでのアメリカの慎重さにつながっているのかもしれない。 

 戦争に慎重なことはとてもいいことだと思う。

 民主的な国々と連帯をして頑張ってほしいとせつに願うところだ。       (2022.4 記)

 

コメント (2)

加藤周一『私にとっての20世紀』2000・岩波書店-「いま,ここで」起こっていることを冷静に把握すること

2024年06月12日 | 加藤周一さんを読む

 2016年のブログです

     * 

 加藤周一さんの『私にとっての20世紀』(2000・岩波書店)を久しぶりに読みました。

 2000年に書かれた本ですが,16年後の今年の状況をほぼ正確に予測しています。

 日米軍事同盟,安保法制,自衛隊の海外派兵,法律の拡大解釈,憲法改悪の動き,沖縄の基地問題の固定化,日の丸・君が代の強制,死刑存続,マスコミ統制,などなど。

 すごい読みだと思います。

 国家と権力の目指すところがよく見えていたのだと思います。

 時代は急速に悪化の方向をたどっているように見えます。

 つぎは徴兵制でしょうか。

 政府は徴兵制は苦役で憲法違反と今はいっていますが,その憲法が危うい状況です。

 ちなみに,じーじが加藤周一さんを初めて読んだのは大学2年の時。

 ある先生から夏休みの課題として加藤さんの『羊の歌』(岩波新書)を読むようにいわれて読みました。

 読んでびっくりしました。

 戦時中に日本の敗戦を確信していたということ。

 その明晰な分析と明晰な文章に感激をしました。

 以来,40数年,加藤さんを読み続けています。

 そういえば,司馬遼太郎さんも戦争中に戦車に乗っていて,指揮官が,国家を守るためには国民をひき殺してもいい,と述べたのを聞いて,国家に絶望をしたと書いています(沖縄戦では泣いている赤ちゃんが敵にみつかるからと殺されました。戦争は本当に人を冷酷に変えてしまいます。殺し合いですものね)。

 お二人とも,敗戦後の日本の中で,国民を戦争に追いやった国家と権力を冷静に分析した文章をお書きになりました。

 お二人とも本当に日本の人たちのことを考えていたのだと思います。

 フロイトさんはご存知のように,状況をきちんと分析をしないと事態を反復する,と述べています。

 今,じーじたちに求められているのは,精神分析が大切にしているように,「今,ここで」何が起こっているのかを冷静に把握し,冷静に理解をし,冷静に対応していくことのように思います。

 さらに勉強を深めたいと思います。     (2016 記)

     *

 2020年10月の追記です

 学術会議の問題、また、きな臭くなってきました。     (2020.10 記)

 

コメント

加藤周一『夕陽妄語2 1992-2000』2016・ちくま文庫-ドイツと日本の戦争責任のあり方を考える

2024年05月04日 | 加藤周一さんを読む

 2022年5月のブログです

     *

 加藤周一さんの『夕陽妄語2 1992-2000』(2016・ちくま文庫)を再読する。

 加藤さんの『夕陽妄語』の感想文は、なぜか、『1』と『3』だけがあって(よかったら読んでみてください)、『2』がなかったので、再読してみた。

 1992年から2000年にかけて、『朝日新聞』に月1回ずつ連載されたエッセイをまとめたもの。

 この間、日本では、戦後50年問題、阪神淡路大震災、オウムサリン事件などがあり、海外ではユーゴスラビア紛争その他が起きた。

 加藤さんはそれぞれの出来事を冷静に、時に熱く述べるが、じーじの見るところ、その通底には日本の戦争責任のあり方の不十分さを問うているものがあるように感じられた(加藤さん、間違っていたら、ごめんなさい)。

 ドイツが、ナチスの戦争責任とそれへの協力者に対して長年にわたって厳しく糾弾していることは、歴史を学ぶと明白である。

 イタリアも同様。

 しかし、日本だけは、あいまいである。

 一応の反省は表明しているが、教科書検定で中国侵略が進出になったり、南京大虐殺がなかったことになったりする。

 慰安婦や徴用も強制ではなかったかのようになる。

 そして、日の丸・君が代の強制。

 まるで今のロシアを見ているようだ。

 そう、ロシアのウクライナ侵略をみていると、昔の日本がやってきたことを思い出さざるをえない。

 日本民族を守るため、アジア民族を解放するためと称して、日本はアジア各国を侵略した。

 その結果が無残な敗戦と混乱である。

 おそらくロシアも結果的には同じことになるのではないか。停戦が実現しても、経済破綻はまぬがれそうもない。

 戦争は勝っても負けても民衆を苦しめる。それがわからないような政府や国家は必要ない。

 日本も今からでもきちんと戦争責任を反省し、責任を取り、アジアの国々に信頼されるようになってほしいと思う。     (2022.5 記)

 

コメント

加藤周一『頭の回転をよくする読書術』1962・光文社-加藤周一さんの読書論です

2024年02月09日 | 加藤周一さんを読む

 2023年2月のブログです

     *

 またまたなつかしい本を読んでしまった。

 加藤周一さんの『頭の回転をよくする読書術』(1962・光文社)。

 じーじが持っているのは1975年発行の57版。

 大学3年の時に購入したのかな?

 ちなみに価格は500円。

 加藤さんに魅かれて買ったのだと思うが、加藤さんのようにたくさんの本を読めるようになりたいと思ったのかもしれない。

 じーじは加藤さんの本は繰り返して読む本が多いが(いくつかブログを書いているので、よかったら読んでみてください)、この本はカッパ・ブックスということもあって(カッパ・ブックスのみなさん、ごめんなさい)、なんとなく再読をしないできた。

 しかーし、なぜか最近、本棚にあるこの本が気になり、ちょっと読んでみたところ、予想以上に面白く、最後まで読んでしまった。

 ほぼ50年ぶり。

 しかし、内容は豊かで、深い。

 読書術というよりは読書論。

 読書についてさまざまなことを論じている。

 例えば、わかりにくいかもしれないが、目次を見ると、急がば回れ、マルクスとマルクス主義者の違い、文学は進歩するか、その他もろもろ。

 びっくりしたのは、加藤さんもシェイクスピアのハムレットから、どうせ世の中には、哲学でわからぬことがたくさんある、を引かれていること。

 わからないことにすぐに結論を出さずに耐えて考え続けることの大切さを表す重要な言葉なんだなと再認識してしまう。

 とてもよい本で、今度は50年といわず、5年後にも再読してみたい。   (2023.2 記)

     *

 同日の追記です

 どうでもいいことなのだが、本書の題名、頭の回転をよくする読書術、は単に、読書術、あるいは、読書論、のほうが加藤さんらしいのではないかとじーじなどは思う。

 カッパ・ブックスだから、売り上げを狙ったのかもしれないとも思うが(カッパ・ブックスのみなさん、再びごめんなさい)、もう少し格調高いほうがよかったような気がする。

     *

 2024年冬の追記です

 宮本輝さんの『ひとたびはポプラに臥す4』(2002・講談社文庫)を読んでいたら、手塚治虫さんの大切な言葉の一つとして、ハムレットの上記の言葉が挙げられている。

 いろいろな人たちにとって、とても大切な言葉なんだな、と改めて思う。   (2024.1 記)

 

コメント

加藤周一『『羊の歌』余聞』2011・ちくま文庫-「今、ここで」を冷静に視ること

2024年02月07日 | 加藤周一さんを読む

 2019年のブログです

     *

 加藤周一さんの『『羊の歌』余聞』(2011・ちくま文庫)を再読しました。

 いい本なのに、久しぶりになってしまいました(加藤さん、ごめんなさい)。

 しかし、やはりすごい本です。

 加藤さんの本は結構読んでいるのですが、ご紹介はこれがたぶん2回目。

 『羊の歌』『続羊の歌』(1968・岩波新書)の思い出については、前回のブログにも書きましたが、わたしが大学2年生の時に授業の宿題で読んだのが最初で、もうかれこれ45年のつきあいになります(うちの奥さんより長いつきあいですね)。

 その時の衝撃は強烈で、戦争中にこんなに冷静に状況を分析している人がいたんだ、とびっくりしたのを覚えています。

 以来、加藤さんはじーじの思想の「灯台」のような大切な存在です。

 本書は、『羊の歌』の頃の思い出とそれ以後の加藤さんの歩みについて書かれています。

 これを読みますと、戦争中に冷静な状況分析ができたのは、大学の教師の存在が大きかったことがわかります。

 特に、フランス文学の渡辺一夫さん。

 渡辺さんは戦争中、特高に読まれないようにと、外国語で日記を書いていたそうで、それもすごいことです。

 そういう冷静な教師のもとで、加藤さんら自由な学生も思想をていねいに育てていたんだと思います。 

 若者にとって、いかにきちんとしたおとなが大切かということがわかります。

 その時の経験と蓄積をもとに戦後の加藤さんは大活躍をします。

 しかし、その時でもあくまでも冷静に、謙虚に発言をされる姿が印象に残っています。

 加藤さんも語学力が抜群です。

 世界で活躍し、広い視野を持って冷静な判断ができるために、語学が大切なようです。

 若いみなさんへの教訓になるのではないでしょうか(語学が苦手だと、じーじのようになってしまいます(?))。

 こんな世の中の時にこそ、本書のような本が多くの人に読まれてほしいな、と思います。     (2019.1 記)

     *

 2021年4月の追記

 その後、渡辺一夫さんの本を読んでいたら、戦争中の日記はラテン語で書いていた、といいます。

 ラテン語!

 語学だけは苦手な(?)じーじには夢のようなお話。

 若者よ!語学はやはり大切ですよ。     (2021.4 記)

     *

 2023年1月の追記です

 すみません、ラテン語は引用部分で、日記はフランス語でした。

 それにしてもすごいです。     (2023.1 記)

 

コメント (2)

加藤周一『夕陽妄語3 2001-2008』2016・ちくま文庫-「今、ここで」を冷静に視る

2023年10月10日 | 加藤周一さんを読む

 2020年3月のブログです

     *

 加藤周一さんの『夕陽妄語3 2001-2008』(2016・ちくま文庫)を再読しました。

 加藤さんが朝日新聞に連載していたエッセイ「夕陽妄語」最後の8年分。

 世界は激動の時代で、しかし、加藤さんは冷静に批評します。

 2001年は9・11の同時多発テロ。

 ブッシュ大統領が報復を宣言します。

 2003年はイラク戦争。

 日本はアメリカに追従をしますが、大量破壊兵器は見つかりません。

 その後、アメリカは戦争を反省し、2008年にはオバマ大統領が誕生します。

 ところが、日本は右傾化を強めたまま、今日に至ります(もっとも、アメリカも、その後、最悪のトランプ大統領の誕生となるのですが…)。

 こういう目まぐるしい戦争状態の継続の中でも、加藤さんの反戦、反核の姿勢はぶれません。

 さらに、「夕陽妄語」の魅力は政治のお話だけではなく、芸術や文化のお話も素敵なところ。

 その的確な批評と格調高い文章は類を見ません。

 加藤さんの思索は深く、感動的ですが、読者をも深い思索や感動に導いてくれます。

 そこが魅力です。

 一般大衆紙でこういうことができたのは加藤さんくらいかもしれません。

 何度読んでも、その深い思索に感動させられます。

 また、数年内に再読をしたいな、と思います。 (2020.3 記)

      *

 2022年春の追記です

 加藤さんが今もご健在でしたら、ロシアのウクライナへの侵略をどう評されたでしょうか。

 加藤さんの反戦、反核に立脚したウクライナの自由を護るための論陣、提言をお聞きしたかったとつくづく思います。 (2022.4 記)

 

コメント