人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

(初日編) 2015年 ホセ・クーラ プッチーニのラ・ボエームを演出 Jose Cura / La Boheme / Puccini

2016-07-29 | 演出―ラ・ボエーム


ホセ・クーラが演出したストックホルム王立劇場のラ・ボエーム「スカンジナビアのボエーム」。
2015年11月21日の初演は、パリ、ベイルートなどの都市でのテロ犠牲者に捧げられました。

――クーラのカメオ出演
クーラは演出家として、また舞台デザイン、照明、衣装、メイクと、多面的にこの作品にかかわりましたが、出演の予定はありませんでした(指揮もしていません)。
しかし実は、初日だけ、ちょっぴり顔だし出演をしたのでした。

“ヒッチコックのカメオ出演”の誘惑に負けたと、フェイスブックに自らの扮装写真を掲載しました。哲学者、知識人で、ハンス・イエガー役ということです。
もちろんプッチーニのラ・ボエームにはない役柄ですが、クーラの演出コンセプト、「スカンジナビアのボエーム」の社会背景、モデルとなった、19世紀の北欧に実在した主人公たちの思想、運動に大きな影響を与えた人物だそうです。ハンス・イエガーについては、(構想編)でクーラが説明しています。
また興味のある方は、(演出メモ編)(舞台模型編)(リハーサル編)もぜひご覧ください。

この「スカンジナビアのボエーム」では、実在の北欧の文化人・芸術家のストリンドベリ、ムンク、グリーク、キルケゴールらが主人公です。舞台としたストックホルムのバーンズ・サロンゲールには、彼らに影響を与えた人物として、ハンス・イエガーや哲学者のニーチェが登場します。

左が、実在の人物ハンス・イエガーの肖像画、右がイエガーに扮してセリフなしの顔見せ出演したクーラ。


同じくハンス・イエガーに扮したクーラ、その右隣はニーチェ役です。ニーチェもムンクに影響を与えた1人。


クーラがこのように出演したのは、初日だけです。もちろん歌いません。初日に劇場に行った人だけが、探してみることができました。



――初日の反響
「完全に満足できるボエームのプロダクション」など、初日は、全体として好評だったようです。
ツイッター上にも、「初演後、総立ちの拍手喝采」「アメージング!ラ・ボエーム」「美しく、遊び心。そしてもちろん悲しい」「幻想的な夜!」「素晴らしいショー」「ムンク風セットに興奮」等の多くの声がありました。
ストックホルム王立劇場のフェイスブックには、「素晴らしいショー」「詩的で温かい」「また見たい」など好意的なコメントが寄せられています。



――ラジオ生中継、映画館ライブ放映、公開講座でも
このクーラ演出のプッチーニのラ・ボエーム、初日の2015年11月21日は、スウェーデンラジオP2で生中継され、日本でも聞くことができました。
11月28日には、スウェーデン全土の60か所の映画館でライブ放映されました。日本で考えたら、いったいどれくらいの規模になるのか、スウェーデンではいつもこうなのでしょうか?本当に驚きです。

また、劇場が、作品への理解を深めるために、ストックホルム大学と連携して無料の公開講座も開きました。
11月26日、内容は、クーラが舞台、人物を設定した19〜20世紀の北欧の芸術運動、男女平等や個人の尊重、社会変革などを求める運動の歴史や背景、北欧の芸術などについての解説とのことです。

このように、オペラを誰でも楽しめて、理解をより深めることができるように、さまざまな努力がされているのですね。
このスウェーデン王立歌劇場は、1773年創設。600人以上の正規職員を雇用しているとHPに記載されていました。文化行政の手厚さを感じます。



――初日を終えたクーラの思い
11月21日のラ・ボエーム初日を終えて、クーラは、自分のフェイスブックに写真と思いを掲載しました。



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●すべての努力は無駄ではなかった
演出家の最高の報酬の1つは、歌手が役柄になり切っているのを見ることだ。すべての努力は無駄ではなかったと思う。



 

日頃ほがらかなライナスが、不機嫌で内向的なムンクに変身したのは、素晴らしかった。
この画像は、ライナスとムンクの見事な類似性を示している。

●お気に入りの場面
ダニエルの課題はストリンドベリの心理に体を合わせること。彼は1・9mの巨体、作家は虚弱。またダニエルは内気、私は彼が甘く危険な男に見えるようにした。

好きな場面の1つは、第2幕、内気なストリンドベリが大勢の前でミミにセレナーデを歌う。ストリンドベリがギターを弾く写真に触発された。
幸いダニエルはギターが弾けたので、真実味のあるシーンになった。





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これまで紹介した内容からも、クーラが、自分のコンセプト「スカンジナビアのボエーム」を構想するうえでも、実際に舞台を形づくるうえでも、そして出演者たちに演技や衣装・メイクをつけるうえでも、北欧の歴史に学び、リアリズムにもとづいて人物造形をすすめ、ムンクを絵をつかって幻想的でロマンティックでありながら、心に迫るドラマを描く努力を重ねてきたことがわかると思います。

クーラの演出は、脚本と音楽の枠組みそのものをすべて破壊して組み換えるような大胆なやり方ではありませんが、日頃から発言しているように、現実に根ざして、リアルな人間ドラマを、脚本とスコアに誠実に向き合う中でつくりあげていると思います。

2017/18シーズンは、クーラがこけら落とし公演のアイーダに出演した新国立劇場の開場20周年です。この記念の機会に、クーラの出演、もしくは演出もふくめて、何らかの形で招聘されることを、切に願っています。

最後に、ストックホルム王立劇場の動画を紹介します。セットを組み立てる風景からはじまり、出演しての思いを語り合い、談笑する出演者たち、そしてクーラのインタビューです。クーラはリラックスして、ボエームのセットを背景に、演出の意図などを熱く語っています。(英語)
Boheme - Intervju med José Cura


この「スカンジナビアのボエーム」は、2015年11月21日から2016年の6月まで、27公演が行われました。
さらに再演が決定し、2017年の1/28,31, 2/4,7,10,16,19、6/ 3,7,9,12,14 とまた長期の公演が予定されています。
スウェーデンにご旅行予定の方は、ぜひご観賞を検討されてみてはいかがでしょうか。 → 王立劇場のHP


*写真はクーラのFB,劇場のHPなどからお借りしました。
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(リハーサル編) 2015年 ホセ・クーラ プッチーニのラ・ボエームを演出 Jose Cura / La Boheme / Puccini

2016-07-26 | 演出―ラ・ボエーム


ホセ・クーラが演出・舞台デザインなどを担当した、ストックホルム王立歌劇場でのプッチーニのラ・ボエーム。
テーマは、「スカンジナビアのボエーム」。これまで、(構想編)(演出メモ編)(舞台模型編)と紹介してきました。
ようやく今回は、実際の舞台の紹介にうつります。

2015年11月21日の初演を前にして、クーラは、自分のフェイスブックに舞台のハイライト写真をアップしました。
クーラ自身が書いた短い紹介文が、それぞれの写真についています。ひとことのセリフ、舞台の情景を説明するものとなっています。

これまで紹介したクーラの構想、演出メモ、そして前回紹介した舞台模型をふまえ、実際の設計・設営、リハーサルをつうじて、どんなふうに舞台に結実していったのでしょうか。

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●第1幕


デドルアルト・グリーグ(作曲家・ショナール役)がワインのボトルを開けている。
“飲むのはここで! だが食事は外だ ”


部屋に1人残ったアウグスト・ストリンドベリ(作家・ロドルフォ役)
“だめだ、乗ってこない。”


ストリンドベリとミミとのはじめての出会い
"Sì,Mi chiamano Mimì"
“はい、みんなは私をミミと呼びます。”


"Ma, quando vien lo sgelo, il primo sole è mio..."
“雪解けの季節がやって来る時、最初の太陽は私のものなのです。”


"Dammi il braccio, mia piccina..."
“腕を貸して、僕のかわいい人。”

●第2幕


ムンク(画家・マルチェロ役)は、彼の絵を仕上げる。
日没のガムラスタン(ストックホルムの旧市街)


旧市街ガムラスタンのストートリィ広場の市場。
背景には、私たちが“偽造”したムンクの絵が、有名な広場の建物と空の輪郭を描く。
 *偽造というわけは、こちらをお読みください → (演出メモ編)

●第3幕


”Early morning... (third act)”
早朝‥(第3幕)


後方ではトゥラとムンク(ムゼッタとマルチェロ)が争っている。
前方では、ミミとアウグスト・ストリンドベリ(ロドルフォ)が別れの歌を歌っている。


"The two friends grieving the loss of their lovers..."
“2人の友人同士は、恋人を失ったことを嘆いている”
心象風景としてムンクの「叫び」が背景に。

●第4幕


“私が来たとき​​のこと、あなたは覚えてるかしら? 初めて、ここに。”
ミミが歌う間、背景に掲示された絵から、女性の存在がなくなっている。


キルケゴール(哲学者・コルリーネ役)の“古いコートよ”のアリアの終りに、グリーグは彼の肩を抱く。
ミミとアウグスト(ロドルフォ)は、彼らの傍らのベッドに。


ミミとアウグスト(ロドルフォ)
“みんな行ってしまったのね?私は眠ったふりをしてたのよ。あなたと二人きりになりたかったから”


ラストシーン。
ミミの体はベッドに横たわり、彼女の魂はムンクの絵の中に戻っていく。
舞台中央で、画家は自分の絵を凝視し‥‥

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全てのシーンで、このようにムンクの絵を利用して、クーラの「スカンジナビアのボエーム」が表現されています。
ムンクと言うと、日本では「叫び」の絵だけが有名ですが、このようにさまざまな雰囲気とタッチの絵が残されていることを、私は初めて知りました。

クーラの目的は、有名人の伝記的な舞台にすることではなく、あくまで、普遍的な、若者たちの愛と喪失、模索と失敗、芸術や政治・社会への情熱、自己実現への努力など、青春群像を、スカンジナビアで実在した文化的、創造的な運動が繰り広げられた時代を借りて描くことでした。

実際の舞台の映像を見ることができないのが残念ですが、これらの写真をみると、とても抒情的で、少し幻想的、そしてとても美しい舞台になったように思われます。

クーラのスカンジナビアのボエームの紹介も、次回でようやく最後(笑)になります。次回、初日の舞台でのサプライズと、反響、演出家クーラの思いなどを紹介して、終りたいと思います。

劇場HPにリハーサルの写真が多く掲載されていました。






 

 

●劇場がアップした予告編です。これで舞台の雰囲気がだいぶつかめます。若い出演者たちが、役柄になりきった演技を見せています。
La Bohème - trailer


●おまけ
クーラ自身が歌う、第1幕の二重唱「愛らしい乙女よ」、2012年ロシアのクレムリンでのコンサートより。ディナーラ・アリエヴァとホセ・クーラ。
Dinara Alieva & Jose Cura. Duet from "La Boheme"(Kremlin)



*写真はクーラのFB、劇場のHPからお借りしました。
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(舞台模型編) 2015年 ホセ・クーラ プッチーニのラ・ボエームを演出 Jose Cura / La Boheme / Puccini

2016-07-24 | 演出―ラ・ボエーム


ホセ・クーラが演出、舞台設計、衣装・照明を担当した、ストックホルム王立歌劇場のオペラ、ラ・ボエーム。2015年11月に初演され、翌年16年の6月まで上演されました。
さらに王立歌劇場のホームページによると、2016/17シーズンも再演されるようです。日程は2017年1/28、31、2/4、7、10、16、19、6/3、7、9、12、14。 くわしくは → 劇場のHPへ

これまで、(構想編)(演出メモ編) の2回にわたって紹介してきました。
繰り返しになりますが、クーラの演出コンセプトは、「スカンジナビアのボエーム」。北欧に舞台を移し、登場人物も、ストリンドベリやムンク、グリーグなど、北欧の芸術・文化人に置き換えて、北欧の空の下、ボヘミアンたちの青春群像を描きます。ムンクの絵が、各シーンに登場します。

クーラは、初日開催の1年ほど前、スタッフに対して自分の「スカンジナビアのボエーム」の構想を説明する、プレゼンテーション用の資料として、ムンクの絵と模型、音楽で構成した動画を作成、フェイスブックでも発表していました。残念ながらこの動画は、クーラのYouTubeチャンネルが閉鎖されたために、現在は見ることができません。
しかし、とても丁寧につくられた模型がかわいらしく、画像も多く盛り込まれていましたので、ブログ上で再現、紹介したいと思います。次回は、実際の舞台を紹介したいと考えていますので、この模型と舞台を見くらべるのも楽しいかもしれません(ちょっとマニアック過ぎですが)。

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●第1幕
ムンクやストリンドベリなど、主役のボヘミアンたちの暮らしの様子、ミミとの出会い、ミミとロドルフォ(ストリンドベリ)とのキス‥‥主なシーンが模型で紹介されています。
背景には、ムンクの絵。







●第2幕

ボヘミアンたちが繰り出すクリスマスの街、ストックホルム中心街が舞台。
政治や哲学、文学、芸術を語り合うボヘミアンたちの日常‥。





●第3幕
ミミの病気を心配するロドルフォ(ストリンドベリ)の苦悩と、2人の別れ。
恋人と別れた孤独のボヘミアン、心象風景はムンクの「叫び」。





●第4幕
ラストのミミの死。
元の動画では、この場面に、クーラ自身が歌う、ロドルフォの慟哭が流れていました。





これらのかわいらしい舞台模型は、クーラが自分でつくったのでしょうか?
説明されてはいませんが、2010年にカールスルーエでサムソンとデリラを演出した際も、舞台模型を、自分で金属の溶接までして作成していましたので、可能性はないとはいえませんね(笑)

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2015年11月21日が初演、11月28日の舞台は、スウェーデン全国の映画館でライブ放映されました。下の画像は、その宣伝ポスターです。



また、そのための宣伝の動画も、YouTubeにアップされています。ボエームのおなじみのメロディにのせて、クーラが舞台としたストックホルム旧市街のおもちゃのようにかわいらしい町並みを、上空からとらえた、シンプルな映像です。
La Bohème - Live på bio från Kungliga Operan - 28 nov 2015
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(演出メモ編) 2015年 ホセ・クーラ プッチーニのラ・ボエームを演出 Jose Cura / La Boheme / Puccini

2016-07-21 | 演出―ラ・ボエーム


ホセ・クーラが演出、舞台設計、衣装照明を担当した、ストックホルム王立劇場のプッチーニのオペラ、ラ・ボエーム(2015年11月初演)。

前回の(構想編)でも紹介しましたが、クーラの演出コンセプトは、「スカンジナビアのボエーム」。
北欧に舞台を移して、登場人物も、ロドルフォのモデルはストリンドベリ、マルチェロはムンク、ショナールはグリーク、コリーネはキルケゴール‥など、北欧の芸術・文化人におきかえました。ムンクの絵が、各シーンに登場します。

今回は、クーラが自身のフェイスブックに掲載した、演出メモを紹介したいと思います。オペラの物語のそれぞれの幕、それぞれのシーンと舞台回しのカギとなる部分について、解説しています。
原文は英文ですが、不十分ながらざっくり訳してみました。いつものとおり、誤訳直訳、お許しください。

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●第1幕
クリスマスイブ、それは冷たく凍りついた屋根裏部屋。
若い作家のストリンドベリと彼の友人で画家のムンクが住んでいる。グリーグという将来有望な作曲家が、ピアノの前に座り、メロディをつくっている。

ムンクは、彼の有名な絵の1つ、ヴァンパイアを描き上げるために苦闘している。ムンクの赤い髪の女性に関する強迫観念のために、扮装しているモデルは、筆のすすまない画家に疲れ、突然、モデル料の支払いを求める。

しかしムンクは一文無し。モデルはカツラを投げつけ、怒って部屋を出ていく。
残されたストリンドベリとムンクが寒さに文句を言い合っている時、コリーネ=哲学者キルケゴールが、面白い恰好で部屋に入ってくる。

3人が人生と天候についてもっともらしく語り合っている時、富豪の息子に英語のプライベートレッスンをして報酬を得たグリーグが、料理とワインをもってきた。4人が楽しく乾杯でグラスをあげたその時‥‥家主が来て家賃を要求する。何とか逃れて、クリスマスの狂乱を楽しむために出発する。

依頼作を仕上げるためにストリンドベリは部屋に残るが、筆はすすまない。ドアのノックの音が、見たことのない女性の到着を告げる。



愛のデュエットに関連する絵を探して、「孤独な人たち」と出会った。この絵は、ミミとロドルフォの苦しみ、一緒にいたい思いの必死さ、しかし離れて暮らすしかない、絶望的な決意を表している。素晴らしい発見だった。

私のライトモチーフとして、この絵を使う。金髪の天使の帰還の図は、ミミの使命を示す。それは、ボヘミアンに、愛すること愛されることが、彼らが犠牲を払って得る成功やお金、名声、孤独より大切だと教えること。

しかし幻想を働かせるために、魔法の女性は、キャンバスから踏み出す必要があった。
第1幕は、ムンクの絵「キス」の青い光の下、窓の側でのカップルのキスで終わる。



●第2幕
旧市街の広場のクリスマスイブ、ムンクは夕暮れのガムラスタンの絵を描き上げた。店は家族連れと売り子の声であふれる。



画家ムンクは、全てを観察する。生きて動く人々を見て、彼は感動し、興奮している。

バーンズホテルでは、ムンクの友人たちが席を確保している。アウグスト・ストリンドベリは、ギターで伴奏しながら、ミミを讃える歌を歌う。ストリンドベリがギターを弾いている有名な写真に触発された。



そこへ、ムゼッタ(ムンクの恋人トゥラ・ラーセン)が、金持ちの銀行家の腕にぶら下がりながら到着する。アルチンドロの姿は、ムンクが描いたアルベルト・カルマンの肖像画に触発された。



ムンクは友人たちと議論していた。ムゼッタの計画は、彼を嫉妬で爆発させることだ。それがうまくいき、金持ちの男をからかった後、カップルは情熱的な再会をする。

第2幕のために、ムンクのキャンバスに見える街並みの絵を描く必要があった。私は、画家のJan Edlunに写真を送った。数週間後、夕暮れのガムラスタンの素晴らしいムンク風の絵と一緒に戻ってきた。





●第3幕

1年が経過した。
エドアルド・ムンクとトゥラは、売春宿の経営者のもとで働いている。彼は肖像画を描き、彼女は顧客を楽しませ...。
ムンクは、眠っているストリンドベリをモデルにして、その背景にトゥラの姿を描く。

そこへ、ムンクのアドバイスを求めて、ミミが到着する。彼女は、なぜストリンドベリが彼女に攻撃的なのか、理解できない。
ムンクに強いられて、彼は告白する。地球上で誰よりミミを愛しているが、彼女は致命的な病気で、自分はあまりにも無力だと。

ミミは、ピアノの後ろに隠れて、ストリンドベリの告白を聞いた。ミミは、2人が別れれば、彼は元の生活に戻れることを示唆する。
彼は悲しみで崩れ落ちる。2人の甘い別れの間、ムンクとトゥラは、暴力的な喧嘩を始めた。

ボエームの気分に合った散歩道を描いた絵を探すのは、簡単ではなかった。最終的に「カール・ヨハン通りの夕べ」を使うことにした。
疎外された人びとの群のような、クリスチャニアの中産階級を扱う、そのあいまいさゆえに。
このキャンバスの憂鬱な気分は、非常によく合った。群衆は、自分たちが金持ちに見えるように期待して装っているが、実際には明らかに労働者階級の人々だ。



その後「憂鬱」を使い、ミミと別れるストリンドベリの気持ちを伝える。



●第4幕
数ヵ月後の屋根裏部屋。
ムンクの「叫び」が、みんなのムードを表している。エドアルド・ムンクは元恋人のトゥラがいないことを、アウグスト・ストリンドベリはミミがいないことを嘆いている。



画家ムンクが作家ストリンドベリの肖像画を描いている。
その間に、1斤のパンを運んで、グリーグとキルケゴールが入ってくる。彼らは、貧しい食事が、とても豊かなものであるかのふりをする。



その絶望に対処するために、彼らは、上流社会のランチ風景をコメディにして演じる。それは、彼らがしばしば批判を加える対象だが、しかし正直なところ、彼らはその一員になりたいと思っている。

誰かの発言でメンバーが怒り、喜劇は偽りの悲劇に暴走する。決闘を挑む。戦いのテンションがあがってきた時、トゥラが走り込んできた。ミミがひどい病気で、階段を登ることもできないと。

ミミの存在は、グループを現実に引き戻す。彼らは何も持たない自暴自棄な集団だ。死にゆく女性を助ける何の手立ても彼らはもたない。ミミはもっとも無垢なやり方で、グループにカタルシスをもたらす。

キルケゴールは狂気を装うのをやめ、かつての良きコリオーネとなり、外套のアリアを歌う。ミミの肉体が死んだ後、ムンクの夢の精神は、彼女が属するキャンバスに戻る。







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――以下はクーラのFBに掲載された演出メモです




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クーラは、単に舞台を北欧に移しただけでなく、ムンクの絵を巧みに使い、彼らの心象風景を描き出すことに努めました。
また(構想編)で紹介しましたが、ただ舞台を北欧に移して、ムンクの絵をはめ込んで伝記的なものを作る、というのが目的ではありません。
クーラは、根底に流れる共通したもの――人生、文学、芸術、社会変革へのこころざしをもちつつ、未熟さ、貧しさや挫折、愛と別れ、苦闘し、模索しながら、自分の生き方を探し求める青春群像を、詩情豊かに、北欧に実在した人物を借りて、リアリティをもって描き出そうとしたのだと思います。

ぜひとも映像でみたいのですが、残念ながら、ネットラジオで放送されただけで、DVD化などの予定はないようです。
実際の舞台設定などについては、ひきつづき、紹介していきたいと思います。まだ続きます。

●おまけ
やはり聞きたいクーラのロドルフォ、今回は、2013年パリのコンサートでの「愛らしい乙女よ」を。ミミは、Camilla Nylund。熟年の魅力あふれるデュエットです。

José Cura / Camilla Nylund - O soave fanciulla (La Bohême - Puccini)




*画像などはクーラのFBに掲載されたものをお借りしました。
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(構想編) 2015年 ホセ・クーラ プッチーニのラ・ボエームを演出 Jose Cura / La Boheme / Puccini

2016-07-18 | 演出―ラ・ボエーム

  *画像はクーラのFBに掲載された告知です

2015年の11月21日、ホセ・クーラが演出、舞台設計、衣装、照明を担当したプッチーニのオペラ、ラ・ボエームが、スウェーデンのストックホルム王立劇場で初日を迎えました。2016年6月までの長期の上演でした。クーラは歌いません。

クーラは、自らの演出の構想や舞台の様子など、膨大な情報を、フェイスブックなどで発信してくれました。ユニークで、演出のうえで、こんな風に発想し、構想を肉づけしていったのかと、私のような素人には、とても興味深い話でした。しかし残念なことに、DVDなど映像の発売予定はなく、ラジオ放送はありましたが、日本ではその舞台を見る機会はありません。
ということで、クーラの演出プランと舞台の様子を、数回にわけて、紹介したいと思います。まずは(構想編)です。



クーラの演出コンセプトは、「スカンジナビアのボエーム」――プッチーニの傑作オペラを、北欧の光の輝きのなかで浮かび上がらせるというもの。舞台を、原作の1800年代のパリのボヘミアンの物語から、北欧に移すという構想です。ムンクのカラフルな絵、ストリンドベリの小説などに触発され、ムンクの絵を舞台デザインの中心にすえて、各シーンを描き出しました。

大胆でユニークなのは人物設定です。主役たちも、北欧の実在の芸術・文化人におきかえて演出しました。
ロドルフォは、作家のストリンドベリ、マルチェロは画家のムンク。コッリーネは哲学者のキルケゴール、音楽家ショナールはグリーグ。ムゼッタはムンクの恋人だったトゥラ・ラールセン‥。
同じ貧しく情熱的な若い夢想家たちの、時代を超えた物語として、スカンジナビアのボエームを描きだそうというものです。

初日にむけて、当時リハーサル中だったクーラが、フェイスブックに、今回の演出コンセプト「スカンジナビアのボエーム」の発想の発端を語りました。

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●19Cスカンジナビアは創造性の黄金時代
19世紀にスカンジナビアは、最も偉大な文化的成果を生みだした。グリーグ、シベリウス、ストリンドベリ、イプセン、アンデルセン、キルケゴール、クローグ、ムンクなど、多くの才能が活躍した。創造性の黄金時代だった。

●ハンス・イエガーとその仲間たち
1885年、ハンス・イエガーという、当時非常に知的影響力をもった人物が、「クリスチャニア・ボエーム」を出版した。クリスチャニアとは、初期の時代のオスロのことだ。この小説の舞台となった。
ハンス・イエガーの小説「クリスチャニア・ボエーム」は、宿舎に住み、哲学、文学、社会改革を議論し、カフェでその日を過ごす、2人の友人たちの日常生活を物語っている。

当時この小説はスキャンダルとなり、イエガーは刑務所で生涯を終えた。その後、イエガーのラディカルな仲間、アナキストたちが、クリスチャニア・ボエームというグループを結成した。ムンクはその一員だった。



●発想はストックホルムの旧市街で
2012年6月に、2015-16シーズンにおけるラ・ボエーム演出・設計の招待を受けた。ストックホルムの旧市街ガムラスタンを歩いていて、上を見上げた時、美しい赤い建物の上の窓にあたる光を見た。

その時、もしかしたらこの部屋は、ボヘミアンの屋根裏部屋だったかもしれない、と思った。ガムラスタンにラ・ボエームの舞台を設定してはいけないだろうか?――しかしそれにはもっと強い根拠が必要だ。

●ストリンドベリの家を訪ねて
ほぼ25年前に、オペラ「ミス・ジュリー」に出演して以来、私はストリンドベリの崇拝者となった。自分のロドルフォを作りあげるために、彼を使うことは、悪い考えではないと考え始めた。
しかし、それを正当化するには?
私は手がかりを探すために、ストックホルム中心部のストリンドベリの家に行ってきた。



ストリンドベリの部屋で、私は彼のベッドに座ってみた。
部屋の向かい側にガラスで保護された、“À Boheme Suedoise”(スウェーデンのボエーム)とカバーに書かれた本を見た。その時の私の衝撃を想像してほしい‥。それは大きな偶然だった。たぶん、ストリンドベリが私に何かを伝えようとしたのだ。

●ストリンドベリの小説「赤い部屋」から
ストリンドベリとボヘミアンの関連を調査して、1879年出版の「赤い部屋」を知った。ストックホルムの社会を風刺した小説だ。

小説「赤い部屋」は、若い理想主義的​​な主人公、アルビード・ファルクの冒険を物語る。彼は、ジャーナリスト・作家になるために、公務員の仕事をやめた。双子の魂を求めて、ボヘミアンのグループを発見する。

ボヘミアンのグループの会合で、彼らは、バーンズ・サロンゲール(複合娯楽施設)の赤いダイニングルームに陣取って、政治について、社会変革、演劇、慈善活動や事業について、議論した。

●ラ・ボエームのコンセプトの発見
ストリンドベリの小説の主人公アルビード・ファルクと、プッチーニのラ・ボエームの主人公ロドルフォとの間の類似点は、単なる偶然であるかもしれない。しかし私は、私のラ・ボエームのためのコンセプトを発見したことを確信した。

ハンス・イエガーの小説の名であり、彼の思想に影響を受けて創られたグループである、クリスチャニア・ボエーム。その主要な人物の一人であった、ノルウェーの画家ムンクが、マルチェロを。そして作家ストリンドベリが、ロドルフォの描写のためのインスピレーションとなる。





●ドラマ作りのうえで
スコアの内の名前を変更する...私がさらに踏み込むことを決めたのは、ずっと後のことだ。
しかし私の目的は、伝記的なプロダクションをつくることではない。

プッチーニの傑作の台本と音楽は、ムンクとストリンドベリの本来のキャラクターに合ってはいない。しかしドラマツルギーを刺激するために、19世紀のスカンジナビアに実在した自由奔放な運動にアイデアを借りる。

●キャラクターをリアルにつかむために
リハーサルの開始直後、私は、キャラクターの存在がリアルでないボエームにはしたくないということを、キャストに理解してもらいたかった。ムンクやストリンドベリの気分をつかむために、一緒に、美術館やストリンドベリの家を訪問した。



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写真は、ストックホルムで新生産のプレゼンテーションを終え、小道具のテーブルを選んでいる様子


クーラは、ラ・ボエームのリハーサル開始にあたって、演出への理解を深めてもらうために、キャストを連れて、ティール・ギャラリー(ムンクのコレクションで有名な美術館)やストリンドベリの家を訪問したそうです。全体にとても若いキャストのようです。



具体的な舞台の様子などについては、ひきつづき次回以降に紹介したいと思います。

●おまけ
やはり演出もいいけれど、クーラのロドルフォが聞きたい、というのがファンとしては率直な思いです。
ホセ・クーラ自身の、ラ・ボエームのロドルフォのロールデビューは、2010年のチューリッヒ、47歳の時でした。
普通、若いテノールの役柄というイメージですが、クーラはオテロよりも10年以上後という、意外なロドルフォ・デビューです。
その際、クーラは、「ドラマティックな役だけでなく、時に、叙情的な役を歌うのは良い。年と共に声は重くなったが、高音はより楽にでるようになった」と述べていました。

オペラの舞台ではチューリッヒだけですが、コンサートでは、ミミとの二重唱「愛らしい乙女よ」をよく歌っています。
今回は、2002年頃ワルシャワのコンサートでの動画を。とてもセクシーな演技つき‥

La Boheme, Ewa Malas-Godlewska and Jose Cura, Concert




*画像などはクーラのFB、HPからお借りしました。
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