ホセ・クーラは、レオンカヴァッロのオペラ、道化師のカニオを世界各地で歌ってきました。
今回は、その中でも、とてもめずらしい、回転劇場での道化師の公演を紹介したいと思います。2011年と翌12年、世界遺産にも登録され、世界で最も美しい街ともよばれる、チェコのチェスキー・クルムロフの国際音楽祭での公演です。
チェスキー・クルムロフには、美しい公園の中に、回転する劇場があるのです。舞台が回るのではなくて、観客約600人を乗せた観客席が回転するという、たいへんユニークなものです。
まずは、どんな劇場なのか、クーラが回転劇場を紹介した短い動画がありますので、ぜひご覧ください。
José Cura - Revolving Theatre 2011
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そして出演者たちは、回転する観客席の周りで、さまざまな演技を行います。
野外ですので、天候の影響も受けますし、森の中での公演、歌にはマイクを使わざるを得ないなど、さまざまな難しい条件もあったようです。
次の動画は、2011年の公演のダイジェストです。童話の中のような美しくかわいらしい街並み、公演の様子、またクーラのインタビューなどがコンパクトに紹介されています。
とてもカラフルな衣装や小道具、アクロバットの芸人も大勢登場して、魅力的なパフォーマンスとなったようです。
José Cura Český Krumlov 12. 8. 2011
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こちらは、2010年に同地でコンサートに出演した際に、回転劇場の下見をする様子がおさめられています。
好奇心旺盛で、あたらしいことにチャレンジするのが大好きなクーラだけに、このユニークな回転劇場とロケーションには大興奮で、大いに意欲をもったようです。
(動画の後半は、同じ場所での別の公演の様子です)
José Cura na Otáčivém hledišti 2010
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以下、画像とインタビューからのクーラの言葉を紹介したいと思います。
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――公演前、2011年7月のインタビューより
私たちは木々や植物に囲まれて歌う。 しかし、私はそれが、興味深く思い出深い経験になると確信している。 問題が発生した場合は、問題を解決することが挑戦であり、ルーティンを壊すので、チャレンジは楽しいものだ。
――同じく、公演前のインタビュー
Q、回転する観客席の前で演奏する気持ちは?
A、私はさまざまなアウトドアイベントで働いてきたが、観客が私の周りを回る状況は体験したことがない。
どのように動作するのか不思議に思っている。聴衆を見逃したり、自分が間違った方に行ったりしないことを願っている。
Q、道化師はイタリア南部の村が舞台。今回、ロマンチックな城の庭で、この作品をどう演じる?
カニオの物語はどこでも起こりうる。彼はドラマティックな俳優であり、彼自身の問題と疑念のためにアルコール依存症になった老人。彼は殺人犯だが、彼の恐ろしい行為のために、どこでも演じることができる悲しい物語だ。
Q、カニオの有名なアリア「衣装をつけろ」は俳優の運命の要約か?常に人々を楽しませなければならない?
A、私はもっと重要な場面は第2幕にあると考えている。
カニオは、劇中劇の間に、「私を見てくれ。マスクの後ろの男とその苦しみを見て」という。それは非常に重要なメッセージだ。
聴衆はしばしば、アーティストが機械ではないことを忘れる。そしてキャラクターと俳優を同一のものと考えてしまう。
映画では、アンソニー・ホプキンスは強い個性を演じているが、実際に彼に会うと、非常にシャイな人であることを知る。
Q、イタリアオペラの大きな役をたくさん歌っているが、他に試してみたい役柄は?
私はピーター・グライムズをやりたい。私があまり年をとりすぎる前に、誰かがオファーをくれることを願っている。
チャイコフスキーのスペードの女王のゲルマン役でオファーを何度も受けたし、いくつかワグナーの役でも受けた。しかし、私は言語のためにそれらを断った。私は覚えただけのオペラを歌いたくない。やることは可能だが、もし本当にそのキャラクターを描写したいのであれば、その言語をよく知らなければならない。私にはロシア語を学ぶ時間がない。
Q、今日の若い歌手の状況をどう見ている?
非常に複雑であり、若い歌手にとっては決して容易ではない。
しかし今日の世界は、ますます皮相なものに集中している。今日のオペラ・ビジネスは、とりわけ歌手のルックスに関心がある。
もし彼に声があるならば良いが、もし、そうでなければ・・。また、その反対のタイプの現象もある。これらの人々は、商業目的で利用されている。芸術的な職業の本質は才能でなければならない。
――2011年8月、公演後のインタビュー
Q、回転劇場を経験してみて?
A、これは普通の劇場ではない。それが回転するからではなく、それは楽しい部分だが、自然の中で歌うということ。
ここでは全く別の状況にあり、もし密閉された劇場や録音と同じ音を期待する人は、失望するかもしれない。
私はカニオをこれまで何度も歌ってきて、これは言い訳でも正当化でもないが、大事なことは、観客が期待するものを調整し、いつもとは異なる体験に備える必要があるということだ。
Q、それはまた体力的な要求も?
A、イエス、私たちは非常に素早く動かなければならない。
私はシルヴィオに向かって走っていき、ついに後ろの茂みで彼をつかまえた時には、呼吸が荒くなっている。
アクロバットのように、要求が厳しい。
Q、ここの天候は?
A、私はラテン系なので、この天候には慣れていない。私にとっての問題は寒さと湿気。リハーサルの時、私が歌うと、口から白い息が出た。 その夜は疲れた。
Q、チェコのアーティストは?
A、彼らは非常に勤勉だ。私のキャリアの30年間で、雨の中でリハーサルをし、不平を言うことのない一群の人々を初めて見た。
彼らは、プロフェッショナリズムと演出家への尊敬について、多くのことを教えてくれる。
Q、演出家との関係は?
A、最初の日、彼が私のところに来て、何か変えたいことはと尋ねたが、唯一、椅子を1メートル動かすことだけだった。
私は、彼が庭園のスペース全体をうまく利用していることに驚いた。例えば、プロローグでは、私は回転劇場から非常に離れて歌い始める。
Q、マイクで歌うことは?
A、オペラはマイクなしで歌うため、その点については私たちは満足していない。
しかし、私たちは講堂の隣に立たなければならず、庭を使うことができないので、必要となる。
Q、リスクはあるが、こういう劇場での公演は?
特に観客にとって、パフォーマンスはチャレンジングだ。スタンダードなオペラが見たい人は、回転式オーディトリアムには行かず、オペラハウスで見るべきだろう。
ここでは、私たちは巨大な空間の真中にいる。観客は、完璧な音、完璧な声、オペラハウスで提供される芸術的なパフォーマンスを聞くことはできない。
ここでは、それはまさにショーだ。視覚的に魅力的だ。
馬や牛、鶏がいる農場にいて、歌を待っていると想像してみてほしい。それ以上でもそれ以下でもない。
さらに、この作品は多くのスペースを使用するので、木々の後ろ、茂みの後ろで歌う。音響の欠陥を補うために使用できる特別な装置はない。我々は劇場で歌うように歌うが、同じようには聞こえない。
しかし、ショーとしてそれをとらえるなら、他のすべてのショーと同様に、私たちは楽しむことができる。
なぜオペラをそのような条件で演じるのかという人もいるかもしれない。それに対しては、私は、このオペラは、人々とともに素敵な時間を過ごすために書かれたものだと言う。それは、音楽だけでなく、すべての芸術における感覚。
純粋主義者にとっては、ノートに書かれているとおりに純粋な形で音楽を聴く機会が、他に無数にある。今日の芸術は、それとはまったく異なる何かを意味している。
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唯一のフリーの時間に訪れたという、サイドゥル・フォトスタジオ・ミュージアムで、共演のトニオ役マルコ・ダニエリと。
充実して楽しそうなリハーサルの様子。
野外のために、雨で場所を講堂内に移した日もあったようです。天候の他にも、クーラが述べていたように、音響の問題、出演者が移動で体力的に負担が大きいことなど、さまざまなリスクもあり、大変ではあったようです。
しかし2年連続して出演して、大好評を得ました。
そしてクーラ自身も、このユニークな公演を大いに楽しみ、さまざまな条件を乗り越えて良いパフォーマンスにするために力をつくしたようにみえます。チェコの演出家や出演者、パフォーマーとの協力もうまくゆき、連帯感が生まれ、その結果、この公演が、その後のチェコ、南ボヘミアでのクーラのさまざまな活動の発展にもつながっていったようです。
*画像は、現地の報道などからお借りしました。