1996年 ホセ・クーラの若き歌声 ― メイキング動画『グレート・コンポーザー プッチーニ』 / Jose Cura, Making of Great Composers, Puccini, 1996
ホセ・クーラが、若い頃の素晴らしい動画をアップしてくれました。今回は、そのご紹介です。
内容は、1996年にBBCが制作したDVDシリーズ『Great Composers』プッチーニ編に、クーラが出演した際の「メイキング動画」です。
こちらは発売されているDVDの方↓
Great Composers Puccini
from the BBC TV series
Music performed by Jose Cura , Julia Migenes , Leontina Vaduva
The BBC Philharmonic
Conducted by Richard Buckley
DVDの内容は、プッチーニの生涯と業績を、現地ロケや関係者、専門家のインタビュー、実際のプッチーニの作品を紹介しながらたどるというものです。
今回クーラがアップしたメイキング動画は約1時間もあり、そのほとんどは、これも約1時間の本編DVDには採用されなかった部分です。
収録したが使わなかった曲、または部分だけしか収録されなかった曲の全体、または別ヴァージョンが収録されているものなど、カットされた録画ですが、その画質音質とともに、音楽的なレベルは非常に高く、これまで公開されてこず、今回無料で公開しているというのが、もったいなく思うほどです。
当時33歳、若くて力づよい、みずみずしいクーラの歌声、姿がたっぷりと聴けるようになっています。
動画はクーラがVimeo上に作っている「ホセ・クーラTV」で無料公開されています。
*2018/1/7 残念なことにクーラはホセ・クーラTVを閉鎖してしまいました。Vimeoから無断ダウンロードされてしまっていることが原因のようです。ファンがYoutubeにこの動画をアップしていて、クーラも今後はそちらをみてねとため息交じりに(苦笑)言っていましたのであげておきます。
➡ こちらも見られなくなりました。正規の映像をリリースしてほしいものです。
JOSE CURA MAKING OF GREAT COMPOSERS PUCCINI
クーラはフェイスブックでこの動画を掲載した際に、ちょっとしたエピソードも紹介していました。
ジュリア・ミゲネスとマノン・レスコーの二重唱を歌っている場面がありますが、その最後のキスシーンで、「カット!」の声が聞こえなかったために、誰かが近づいて「キス、ストップ!!」と言うまで続けていて、ジュリアが笑い出してしまったとか。たしかにそんな感じのシーンもありました。
また、この収録の後、実はクーラは、あのサラ・ブライトマンのアルバムで共演したヒット曲「Just Show Me How To Love You」の録音があったそうですが、この録画の前半で来ているグーフィーのTシャツ(笑)のまま行って、ブライトマン夫妻やプロデューサーからちょっとからかわれたそうです。
こちらは有名なプロモーション動画。画像をクリックすると動画ページにリンクしています。
もちろん出演時はグーフィーTシャツではありません。
―― 以下、メイキング動画から、収録されている曲目を紹介したいと思います。
≪前半 約30分≫
前半は、オーケストラと一緒の録音風景です。
①《外套》より、「お前の言うとおりだ」/ Hai ben ragione (Il Tabarro)
②《トゥーランドット》より、「誰も寝てはならぬ」/ Nessun dorma (Turandot)
これはクーラが今もコンサートで必ず歌う曲ですが、この当時のみずみずしさはまた格別な魅力があります。
③《トゥーランドット》より、「死の姫よ!」/ Principessa di morte! (Turandot)
トゥーランドット役の歌手とデュエットですが、映像はクーラメインでとっています。クーラが出演したこのオペラ全曲の正規録画はありませんので、これが、このラストの二重唱をきれいな音質画質で見聴きできる数少ないものです。
④《西部の娘》より、「やがて来る自由の日」/ Ch'ella mi creda (La Fanciulla del West)
1994年にオペラリアで優勝した際の最終選考で歌った曲でもあります。現在も、歌い続けています。
⑤《ラ・ボエーム》より、「冷たい手を」/ Che gelida manina (La Bohéme)
とても甘くやさしい歌声にちょっとびっくりするほどです。顔の表情も、それまでの曲とは違って柔らかい印象。
⑥《ラ・ボエーム》より、ラストのミミとロドルフォの二重唱、「ああ、ミミ、ぼくの美しいミミ!」 / Last duet (La Bohéme)
ミミ役のソプラノとの二重唱で、最後にミミがなくなる悲しいシーンです。クーラのボエームの全曲録音、録画は皆無なので、貴重です。
⑦《妖精ヴィッリ》より、「全能の神よ」/ O sommo Iddio (Le Villi)
本編にも一部収録されています。とても美しい歌唱です。
⑧《マノン・レスコー》より、「あなた あなたなの?」/ Tu, tu, amore tu! (Manon Lescaut)
第2幕のマノンとデ・グリューの甘く切ない二重唱。
⑨《トスカ》より、「星は光りぬ」/ E lucevan le stelle (Tosca)
銃殺刑を前にしたカヴァラドッシの辞世の歌。美しくドラマティックなアリアで、最後は感情があふれ泣き崩れる演技も。
OKが出た後の笑顔と声が、まだ幼い印象があるくらい若いです。
≪後半 約30分≫
後半は、衣装をつけて演技をして、プッチーニのオペラの一部分をスタジオで再現したものです。
①《西部の娘》より、「やがて来る自由の日」/ Ch'ella mi creda (La Fanciulla del West)
②《マノン・レスコー》より、「あなた あなたなの?」/ Tu, tu, amore tu! (Manon Lescaut)
③《ラ・ボエーム》より、ラストのミミとロドルフォの二重唱、「ああ、ミミ、ぼくの美しいミミ!」 / Last duet (La Bohéme)
④《トゥーランドット》より、「誰も寝てはならぬ」/ Nessun dorma (Turandot)
⑤《トゥーランドット》より、「死の姫よ!」/ Principessa di morte! (Turandot)
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以上、約1時間の内容の濃い動画でした。とにかく美しい声、美しい歌唱が満載です。
クーラの初めてのCDは1997年の「プッチーニアリア集」でしたが、それはこの動画の翌年。収録されている曲目もほぼ重なっています。
聴き比べてみると、プッチーニ集のCDよりもさらに、この動画の歌の方が軽く柔らかく、瑞々しい印象がします。
ファンの私にすれば、本当に宝物のような動画です。
そして、この時から20年以上、さまざまな努力と経験を積み、困難を乗り越えて、円熟の境地に達しつつある現在のクーラ。声と歌唱、解釈と演技が高いレベルで統一された現在のパフォーマンスと、この若く瑞々しい声と歌唱、それぞれにまた、違う魅力があります。
クーラはこの「クーラTV」に様々な動画を、自分のキャリアをたどれるような形でアップしていく構想を持っているようです。今回の動画をはじめ、他にも、ベートーヴェンの「第9」やドヴォルザークの「新世界より」、マーラー「復活」、バッハ「ミサ曲」など、大曲を指揮している動画や、初期のコンサートなど、とても珍しく興味深いものがアップされています。