2~3月に、初めてのワーグナーに挑戦し、タンホイザーのパリ版仏語上演を成功させた、ホセ・クーラ。
そして現在は、2つめの大きな挑戦である、イギリスの作曲家ブリテンの英語オペラ、ピーター・グライムズの演出と主演のため、ドイツのボンでリハーサルを続けています。5月7日が初日です。
現時点での公演の告知と、クーラがFBやインスタグラムなどにアップしたリハーサル画像などをお借りして掲載するとともに、長年の念願でもあったオペラ、ピーター・グライムズに対するクーラの思いを、インタビューなどから抜粋して紹介したいと思います。
→ ボン劇場の
案内ページ
クーラは、初役のピーター・グライムズで出演するとともに、演出と舞台デザインを担当しています。
5,6,7月にわたり9公演が予定されていますが、6月はクーラは出演しないようです。
☆クーラの出演日
07 May 18:00, 10 May 19:30, 13 May 19:30, 26 May 19:30
08 Jul 19:30, 15 Jul 19:30
☆Johannes Mertesがグライムズ役
11 Jun 18:00, 22 Jun 19:30, 30 Jun 19:30
≪キャスト・スタッフ≫
Peter Grimes - José Cura / Johannes Mertes [11th, 22nd, 30th June]
Ellen Orford - Yannick-Muriel Noah
Balstrode - Mark Morouse , Auntie - Ceri Williams , 1st niece - Marie Heeschen , 2nd niece - Panagiota Sofroniadou / Rosemarie White Gerber * , Bob Boles - Christian Georg , Swallow - Leonard Bernad
Mrs. Sedley - Anjara I. Bartz / Susanne Blattert , Pastor Adams - David Fischer
Ned Keene - Fabio Lesuisse * / Ivan Krutikov , Hobson - Daniel Pannermayr
fisherwoman - Asta Zubaite / Marianne Freiburg , A lawyer - Dong-Wook Lee / Georg Zingerle
Choir / Extrachor of the Theater Bonn , Beethoven Orchester Bonn
Musical director: Jacques Lacombe
Staging and equipment: José Cura
Lighting: Thomas Roscher , Chore study: Marco Medved , Direction and co-equipment: Silvia Collazuol
Director: Christian Raschke , Stage assistants: Ansgar Baradoy , Musical assistant: Stephan Zilia's ,inspiration: Karsten Sandleben
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ボン劇場のリハーサル室でしょうか。
クーラがFBやインスタグラムに投稿した写真です。
ひとこと、コメントが付けられていますが、まだ全体の演出構想が語られていないので、禅問答のような感じ・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/69/f7a806c2decf5f22773ffbdf3d4600c3.jpg)
"Today afternoon rehearsing Grimes 3rd act monologue. The boat is his burden..."
「今日の午後、グライムズの第3幕のモノローグをリハーサル中。ボートは彼の重荷・・」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/d4/7613177384e24a61763a9c8e12b4bfdc.jpg)
"Grimes surrounded by the spirits of the dead kids..."
「グライムズは、亡くなった子どもたちの霊に囲まれた・・」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/2c/b536c82035e4819ed4518db3fa8a7414.jpg)
"Grimes Prologue... Is it all in his head?"
「グライムズのプロローグ・・すべては彼の頭の中?」
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その後まだ、クーラのFBには演出構想などが掲載されていませんので、どんな舞台になるのか、クーラの解釈の中身はまだよくわかりません。
そのため、クーラのこの作品にかける思いの一端を知る材料として、この間の、クーラのインタビューから、ピーター・グライムズに関する主な発言を抜粋(再掲も含む)して紹介します。
――2017年ドイツの雑誌インタビューより
Q、タンホイザーから3か月後、次の大役、ピーター・グライムズでデビューする。今回、ボン・オペラでは、演出と舞台デザインもやる。新しい役柄を準備しているアーティストにとって、これはかなり難しいことでは?
A、これは巨大な挑戦であり、大きなリスク。挑戦は、私の肩にかかっている仕事の量に関係し、演出と同じということで、私の解釈を最良の方法で作り上げるということについて、自分自身に甘やかすリスクも・・。
冗談はおいて、それは仕事の地獄だが、それはまた、非常に報われるもの。芸術的な楽しみの縮図だ!
もしそれがより頻繁にあるオペラだったなら、おそらく私は演出して歌うことはなかっただろう。しかし、そう頻繁に演奏されない素晴らしい作品を、私が演出する可能性がいつ再びあるだろうか? 私はこの1つのチャンスを失うことはできなかった!
Q、ピーター・グライムズはあなたの「夢の役柄」の1つ。どこに興味をもっている?そして何が挑戦?
A、私にとって、ワグナーの音楽的レトリックと、密度の濃い自由奔放な台本を扱うことの難しさに対して、ピーター・グライムズは正反対――音楽、テキスト、アクションの完璧な共生。私にようなパフォーマーにとっての夢だ。この作品において、すべての瞬間が挑戦だが、しかしリスクを伴うそれぞれのステップが、また喜びとともにある、そういうおもしろい挑戦だ。
Q、2つの新しい役柄、タンホイザーとピーター・グライムズとの違いと類似点は?
A、両方ともつまはじきにされた男だが、理由は異なる。タンホイザーは彼の運命に挑むが、ピーター・グライムスはその結果に苦しんでいる。
声楽的には、タンホイザーは素晴らしい音楽に非常に依存しているが、グライムスは精神の状態を伝えるために、声を使うことに依存している。時には単独の声だけに。たとえば第3幕の長い独白のように。
Q、今あなたの代表的な役柄といえるのは?
A、オテロとディック・ジョンソン(西部の娘)は、カニオ(道化師)、サムソン(サムソンとデリラ)と同様に、私の重要な役割だと言うことができる。数年後には、グライムスもそうなることを希望する。
『Das Opernglas』
――2016年フェイスブックで、フォロワーの質問に答えて(再掲)
Q、2017年に、初のワーグナーに挑戦、ブリテンのピーター・グライムズにデビューするが?
A、タンホイザーの音楽、一般にワーグナーは、私のように、音楽と演技とのリアルな結びつきを求める者にとっては、理想的とはいえない。しかしこれはスタイルの問題であり、私が解決すべき問題だ。
それには関係なく、ワーグナーの音楽は、信じがたいほどの音のモニュメントだ。残念なことに、台本は愚かしいけれど...。
とにかく私は、タンホイザーをやってみたかった。
なぜなら、私は少なくとも一生に一度は、ワーグナーのオペラを演じたかったからだ。ドイツ語は私には手が出せないので、この「フランス語上演」のチャンスを手放すことはできなかった。
ピーター・グライムズについては、私の“深い思い”を伝えるにはまだ早すぎる。いま進行中だからだ。しかしそれは、私にとって、理想的なオペラだ。次のような理由によって。
ピーター・グライムズは、音楽とドラマの完全な結合だ。もし仮にそこから音楽を削除し、台詞だけを語ったとしても、それらは完璧に意味をなしているだろう・・。
――2016年9月のリエージュでのインタビューより(再掲)
Q、2016-17シーズン中のもう一つの冒険、20世紀の英語のオペラで歌い、演出する?
A、ピーター・グライムズは、私のキャリアにおける最大のチャレンジ。
私はいつも、これを歌うことが夢だと言い続けてきたが、ボン劇場の人々が、私のインタビューでそれを読み、私を雇った。そしてまた、私は誘惑に抵抗できなかったために、演出もおこなう。
ブリテンにおいて、私はほとんどゼロからスタートする必要があり、特に美学、言語、音楽、30年の歌のキャリアの後に、これは非常にリフレッシュになる。
台本は本当に信じられないすごさ、素晴らしいスコア、音楽とアクションとの間の結びつきは総合的で、私自身にとっては、ワーグナーよりも、はるかに快適な方法だ。このプロジェクトは、私の情熱を大いに鼓舞してくれる。
Q、ホセ・クーラにとって、残っている探求は?
A、私のキャリアにおいては、私を魅了し、最も喜びを与えてくれるキャラクターにアプローチし、そして、私が快適に感じ、人びとに何らかのおもしろいものを提供できる場所で過ごすことができた。アーティストとして幸運である場合、期待にこたえ、妥協を受け入れず、自分自身に対して厳しくあることが不可欠だ。
私は、歌手として夢見たすべてをやることができた。まだピーター・グライムズが残っていたが、今シーズン、歌えることになった。成熟した役柄のためには、何年もかかる。明らかに、成熟度の点では、最初のピーター・グライムズは、250回演じたオテロのようにはいかない。だから私は、かなりの時間をかけて、ブリテンの英雄を解釈することができるよう願っている。
――2013年ニューヨークでのインタビューより(再掲)
●現代のオペラを
オペラ的な演劇を行う別の方法があるとをつよく信じる。繊細さとニュアンスにもとづいた方法が。それは現代のオペラ。俳優が自分自身を、本当の深さと特徴づけで役柄に投入する。それは近代的なオペラだ。
将来やりたいのはピーター・グライムズ。私が愛するのはオペラの舞台に流動性を創造するという夢を助けてくれるオペラ。舞台演劇のように。素晴らしい誘惑だ
――2011年リエージュでのインタビューより(再掲)
Q、イタリアオペラの大きな役をたくさん歌っているが、他に試してみたい役柄は?
私はピーター・グライムズをやりたい。私があまり年をとりすぎる前に、誰かがオファーをくれることを願っている。
チャイコフスキーのスペードの女王のゲルマン役でオファーを何度も受けたし、いくつかワグナーの役でも受けた。しかし、私は言語のためにそれらを断った。私は覚えただけのオペラを歌いたくない。やることは可能だが、もし本当にそのキャラクターを描写したいのであれば、その言語をよく知らなければならない。私にはロシア語を学ぶ時間がない。
――2007年ロンドンでのインタビュー(再掲)
私の夢の一つは、ピーター・グライムズをやること、そして私はここ、ロンドンでそれをやってみたい。ここロンドンよりも、それを学び、演じるのに良い場所があるだろうか。
一方で、それは非常に危険なことだ。もしあなたがイギリス人やドイツ人でなくて、英語やドイツ語のオペラをやるとき、正確なアクセントを身につけていないと、死ぬほど批判される。しかしあなたがイギリス人で、イタリアオペラを完璧なアクセントでなく歌っても、誰も何も言わない。なぜそうなるのか、私にはわからない。私は、イタリア的なアプローチが最も健康的だと思う。なぜなら、外国語で完璧なアクセントを持つのは不可能だから。
重要なことは、キャラクターをつくるために最適なアプローチをすることだ。私はピーターグライムズをやれると思う。しかし私がイギリスでそれを提案するたびに、彼らは「イエス、でも他のどこかで最初にやって、それからここに持ってきて」という。なぜだろうか。私は最初からそれをよく学びたい。再びやるときに、ゼロからスタートしなければならないよりも。誰かがこれを読んで、私がそれを行うことができるようになることを願う。
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こうしていくつか抜粋しただけでも、かなり前から、ピーター・グライムズの魅力とそれへの挑戦の意向を、機会あるごとに語っていたことがわかります。ドラマと歌・音楽を一体としてとらえ演じるオペラパフォーマーとしてのクーラにとって、「夢」の作品ということですね。
実は、一度、2011年に、クーラの居住地のテアトロ・レアルで予定されていましたが、劇場監督の交代にともなってキャンセルになったという不幸な経過もありました。今回、いよいよ、ボンで実現します。
長年の願いがついにかない、さらにこの先も自分の代表的な役柄にしたいという、高い意気込みで臨んでいるクーラ。
このチャレンジが成功することを心から願っています。
*写真はクーラのHP,FBなどからお借りしました。