6月28日に初日を迎えた、ホセ・クーラ演出のプラハのナブッコ。プルミエ公演は観客から喝采を受け、大成功したようです。
劇場や出演者、クーラのSNSで、喜びの報告があがっていますので紹介します。
また、いくつかレビューがでています。レビューの方は、高く評価しているものもある一方で、「美しい、しかし活気が不足」など、舞台上の動きが静的すぎることなどへ批判的な意見もみられました。現地の観客の反応も、出演者の手ごたえもとても良いようですので、今後、上演を重ねていくなかで、さらに良い舞台になるのではないかと思います。
今回、演出家としてのクーラの姿に焦点をあてた記事もいくつかありました。
主演のナブッコを歌っているバリトンのマルティン・バルタさんがクーラの演出について語っているインタビューと、インターネットのオペラ情報サイトの記事などから抜粋して紹介したいと思います。
(*舞台の写真は、ニュース動画より)
Musical preparation: Andreas Sebastian Weiser
Direction, set and light design: José Cura
Costumes and co-stage designer: Silvia Collazuol
Co-lighting designer: Pavel Dautovský
Chorus master: Adolf Melichar
Dramaturgy: Jitka Slavíková
The State Opera Chorus and Orchestra
Nabucco: Martin Bárta , Miguelangelo Cavalcanti
Abigaille: Anda-Louise Bogza , Kristina Kolar
Fenena: Veronika Hajnová , Ester Pavlů , Jana Sýkorová
Ismaele: Jaroslav Březina , Josef Moravec , Martin Šrejma
Zaccaria: Oleg Korotkov , Jiří Sulženko , Roman Vocel
≪公演予定≫
2018年――6月28、29日、7月1、3日、9月13、15日、10月30日、11月20日
2019年――3月4、18日、4月15日、5月14日、6月11、22、25、29日
*追加 劇場がYouTube公式チャンネルに予告編を掲載していました。美しい舞台と衣装、印象的な照明、最後にカーテンコールの様子もあります。
Nabucco v režii Josého Cury
≪初演成功の喜びを報告――SNSより≫
●プラハ国民劇場のFBにアップされたカーテンコールの画像。晴れやかな出演者の笑顔、喝さいを受けるクーラの写真も。
右上のFマークをクリックすると、直接、劇場のFBページで多くの写真を見ることができます。
●初日の舞台終了後に、祝賀レセプションがもたれたようです。その時の写真も、劇場のFBにたくさんアップされました。
●初日後にクーラがFBにアップした写真です。
――クーラのメッセージ
「ナブッコは終わった。 大成功!!! 国民劇場のすべての人たちの努力と献身に感謝!また近いうちに会いしましょう!
(何人かのエキストラと一緒に写真:素晴らしいプロフェッショナルで素敵なみんな)」
●こちらもクーラのFBから。
――クーラのメッセージ
「舞台を清掃する女性と。私が彼女に、舞台セットをきれいに保ってくれていることへの感謝を伝えた時、彼女には信じられなかった。
すべての人たちが公演の成功に貢献している!」
この他にも、出演者、コーラス、劇場スタッフ、関係者やエージェントなど、いろんな人たちが初演の成功を喜び、インスタにクーラとのツーショットを投稿していました。
≪レビューより≫
●表現力豊かなビジュアル、独像的な作品
全体的としては、ホセ・クーラのナブッコに感謝しなければならない。
彼は非常に具体的かつ独創的な作品を制作しており、想像力豊かな快適なビジュアルと従来の一切を含めたコンセプトを非常にうまく組み合わさせている。
一方で、クーラはナブッコに敬意を表し、それを阻害する演出を行わなかった。かなり断片的に構築された静的な物語で、刺激的なシーンはなく、クーラがあまり指示していないことは事実だった。
(「casopisharmonie.cz」)
●美しいナブッコ、しかし活気が不足
カラフルな歌、衣装、セットによる壮大なキャンバス。しかしステージを越えた言及やインパクトには欠ける。
その点で、それは壮観だった。クーラがこのセットを設計した。遠近法による台形のセットで、アクションをフレーム化し、観客の視点を引き込む。
それを回転させ、屋外の設定を示すために表面をあらわにし、大胆なテーマにもとづくバックライトによって強化される。
衣装担当のCollazuolはロシアの画家ワシリー・カンディンスキーを衣装のインスピレーションとして引用した。また、ストーリーやキャラクターを強調する明るい原色が使われた。それらは、アビガイッレが緋色の魔女のように見える彼女の最初の登場の際のように、息を呑むかもしれない。または、控えめな青/善良な男、赤人/悪者、マゼンタ/軍事構成のように・・。
それらはすべて一緒になり、セット、照明、衣装の思慮深く統合された融合として、華麗である。
しかしそれでは、静的なプレゼンテーションはなぜだろうか?時には歌手には全く指示が与えられていないように見えた。
(「bachtrack.com」)
≪出演者からみた演出家クーラ――ナブッコ役マルティン・バルタ氏インタビューより≫
Q、ホセ・クーラとのコラボレーションは?ほとんどの音楽愛好家が彼を著名なテノールとして知っているが、彼はここで演出家とステージデザイナーだ。
A、(バルタ氏)もちろん、彼は歌手、作曲家、指揮者であるだけでなく、あらゆる分野におけるアーティストだ。彼は音楽から舞台・劇場に関してまで、あらゆることができる。クーラは経験豊かな人で、あらゆる面で私たちをサポートすることができた。彼は私たちにとってロール・モデルであり、私たちにアドバイスを与えてくれた。
演出家として、彼は非常に良い。彼は個々にそれぞれのところに来て、私はそれが本当にスマートだと思う。
このことは彼への信頼を強め、私たちは彼に最高のものを与えることができると感じている。彼は私たちをすべて自然に連れていく。
アンサンブルは共通の目的に取り組んでおり、彼の提案やアイデアは論理的であるため、彼の考えを行動に移したいと考えている。ホセ・クーラは、まさにアーティストとして私たちを引っ張って行く。ミュージシャン、歌手、指揮者のいずれであろうと。
コラボレーションは素晴らしかった。私は言わなければならない――本当に残念だ、私のキャリアの中で初めて、リハーサルが終わったことが悲しかった、と。
(「radio.cz」)
≪演出家クーラが得てきた高い評価――オペラ情報サイトの記事より≫
――今週のアーティスト:ホセ・クーラ、プラハで「ナブッコ」をマークする
長年にわたり、ホセ・クーラは、 "オテロ=Otello"、 "タンホイザー=Tannhauser"、 "ピーター・グライムズ=Peter Grimes"、 "サムソンとデリラ=Samson et Dalila"のサムソンのタイトルロールのような役柄を歌う、彼の世代のドラマティックなテノールの1人として際立った存在だ。演技と一体となった彼の優れた歌唱能力は、いくつかの忘れられないパフォーマンスを作りあげた。
しかし、クーラは著名なパフォーマーになっただけでなく、 "オテロ"、 "道化師 / カヴァレリア・ルスティカーナ=Pagliacci / Cavalleria Rusticana"、 "ラ・ボエーム=La Rondine"、 "つばめ=La Rondine" "トゥーランドット=Turandot"など、レパートリーで最も愛されている作品のいくつかを手がけ、世界でトップのオペラ演出家にもなった。
今週、彼はプラハ国立歌劇場で初めての "ナブッコ"を演出し、彼の履歴書にもうひとつの作品を加える。
この何年もの間に、クーラの舞台芸術は、批評家に注目され称賛されてきた。彼らは、「クーラは、パフォーマンスを構成するさまざまな機能のすべてを独力でコントロールしている」、「クーラは演出家の技能を習得した」、また「統合された総合的な芸術作品を創作し手がけるアーティスト」と指摘した。
このような高い評価を得て、彼の今後のプロダクションが聴衆と批評家を喜ばせるのは間違いないことだろう。
そして、プラハに行けない人々のために、クーラはタリン・オペラで演出と指揮を行い(9月、エストニア)、サンフランシスコ・オペラで「Cavalleria Rusticana」と「Pagliacci」のプロダクションを復活させる。
また、夏の間、ヨーロッパを回ってコンサートツアーを続ける。
(「operawire.com」)
●初演の舞台を鑑賞した方がインスタに投稿したもの。
これによると、開幕前の舞台には、緞帳がない代わりに、薄い幕がかかっているようです。
そしてそこに、バビロニアの楔形文字の石板が投影されていたようですね。
プラハのTVニュースで紹介されたナブッコのプロダクション。
主なシーンの様子、クーラのインタビューなどがあります。画像をクリックすると動画のページにリンクしています。
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クーラが初めて手がけたナブッコの演出。初期のヴェルディの作品、クーラも以前のインタビューで、このナブッコは難しい作品だと語っていました。
私がインタビューや記者会見などの報道を読んで理解したのは、今回、クーラは、台本を忠実に解釈し、あえて、大胆な読み替えや観客を驚かせる舞台演出などをおこなわず、ヴェルディが新たな挑戦を始めた人間ドラマに焦点をあて、それを浮き彫りにすることをめざしたのだということです。そのためセットや衣装は、特定の歴史や地域を示さず、抽象的で、ストーリーやドラマに直接的に介入したり説明するものではなく、色彩によって感性に訴えるという手段をとったのだと思います。これは、これまでのクーラのアプローチとは違った新しい挑戦でもあったのではないでしょうか。
独創的で想像力豊か、特別な美意識に貫かれている・・など、どのレビューも舞台の美しさについては高く評価していました。一方で、ドラマの迫力、インパクトなどについては、いくつかのレビューが弱点を指摘していたのも事実です。
クーラ自身は、セットのないコンサート形式であろうと、どのような演出、セットであっても、演技と歌唱の力で、キャラクターの存在感とドラマを描き出す圧倒的な力量をもつパフォーマーです。もしこのナブッコにも、クーラ自身が出演していたら、レビューの評価も大きく変わっていたのかもしれません。また演出家クーラは今回、脚本と音楽に内在するドラマを描くために、あえて「静的」で動きの少ない演出方法を選択し、歌手の歌と歌詞そのものをストレートに伝えたいと願ったとも考えられます。
これが好きか、嫌いか、説得力をもって成功したか、否かは、実際に生の舞台を見て、観客それぞれが感じとり、判断する以外にありません。
紹介したナブッコ役のバルタ氏が語っている中身はとても大事だと思いました。クーラはまさにアーティストとして、論理的な指示、アドバイス、リーダーシップによって、出演者、スタッフたちから信頼を得て、素晴らしいコラボレーションをつくり、リハーサルが終わるのが悲しいと思わせるほどの、芸術的に実り豊かな時間をともに作り出していました。
今回紹介したSNSの写真も、クーラを中心とした、出演者、プラハの劇場関係者、スタッフの団結、パートナーシップのつよさを示しています。劇場の出演者だけでなく、オケ、合唱、エキストラ、スタッフ、さらには舞台清掃の係の人にまで、クーラは目を配り、みんなで舞台を作りあげるリーダーシップを発揮していたことがうかがわれます。こういう人間関係、連帯関係をつくり、それぞれが力を発揮できる場をつくるというのは、クーラの多面的な能力のうちでも、抜群にユニークなものの1つではないでしょうか。これからもクーラがどんな挑戦をしていくのか、楽しみです。
*写真は劇場や関係者などのSNSよりお借りしました。