前回の記事でも紹介しましたが、その後も(1/15現在)まだ、ホセ・クーラのカレンダーは更新されていません。バーリ歌劇場来日公演のアイーダにクーラが本当に出演するのか、本当だとしたら日程、場所は・・と、カレンダーの更新が待ち遠しいですが、HPリニューアル中ということですので、まだしばらく待つ必要があるようです。
今回は、アイーダと同様に、人気のオペラ、ビゼーのカルメンについての話題です。昨年2019年の9月にクーラは、中東オマーンで、王立歌劇場マスカットのシーズン開幕公演のカルメンに出演(「告知編」はこちらを)しました。その際のインタビューで、オペラ・カルメンの解釈、ドン・ジョゼ(ドン・ホセ)の人物論、解釈、作品論についてクーラが語っていましたので、内容を抜粋して紹介したいと思います。
またインタビューの最後に、今後の予定について、とても興味深いスケジュールを紹介していました。ぜひ最後までお読みいただけるとうれしいです。
≪ホセ・クーラが「カルメン」のドン・ホセとしてマスカット王立歌劇場に戻る≫
Q、ドン・ホセのキャラクターについてどう思う?また、ロールデビューで覚えていることは?
A(ホセ・クーラ)、オペラ・カルメンとの関係は80年代にさかのぼる。当時私は、若い作曲家として、スペイン楽器とシンフォニックのグループが上演するために、作品の主要部分を1時間半にアレンジした。
1996年にサンフランシスコでドン・ホセの役でデビューし、パートナーのオルガ・ボロディナもまたカルメンの役でデビューした。私たちは皆とても若かった。
Q、キャラクターは長年の間にどのように成熟してきた?ドン・ホセについては?
A、ドン・ホセ・リザラベンゴア(原作であるメリメの小説『カルメン』のホセの本名)との基本的な混乱があり、スペインに関するテーマの、美しい、しかし非現実的なフランスの読解から生まれた。カルメンでは、内向的なバスク人と、屈託のないアンダルシア人との根本的に正反対の性格が、文化的な衝突に直面する。それは今日でもテレビシリーズのテーマであり、たとえば「Ocho apellidos vascos」(「8つのバスクの姓」という意味)のような映画(2014年)もある。こうした事実にもかかわらず、カルメンに代表される女性主人公のアンダルシア人の性格は、ほとんどコミックのように誇張され、ドン・ホセの、幼稚な行動、気まぐれな半ば愚か者の典型のようなドン・ホセの解釈を確認する。
A、マスカットは高層ビルのない穏やかな街で、家の中の太陽の影響を最小限に抑えるために建物は白い。永遠に青い空と素晴らしい海を背景に、新しい、しかし伝統的な建築物と柔らかな砂の色のコントラストは、大きな平和をもたらす。その暑さに耐えさえすれば・・。
また一方で、オマーンは異文化間および宗教間の寛容の明瞭な例だ。常に慎重な謙虚さを持つ人々は、恐れることなくヨーロッパで服を着て回ることができ、首に十字架をかけることさえできる。他宗教の教会もある。そして王立歌劇場はこのすべての鏡だ。非常に効果的な劇場であり、素晴らしい芸術的およびロジスティックな落ち着きで機能する美しい建築だ。
Q、あなたの国であるアルゼンチンのオーケストラと合唱団と一緒にオマーンへ旅行することは?
A、道化師の成功の後、どの劇場とオマーンに戻りたいかを尋ねられたとき、少しもためらわなかった。私は両政権間の連絡役および交渉役を務めている。合意とプロフェッショナリズムにより、海外で私たちの国の大使を務める際に、アルゼンチンの劇場の模範性について疑う余地のない先例を設定する合意が設定されている。
A、イエス、私がこれまで最も多く指揮したのはベートーベンの作品。人生の法則により、歌手としてのパフォーマンスを減らし、オーケストラの指揮と作曲へ復帰することは、私のキャリアの中で自然なことだ。プラハ交響楽団との契約(レジデントアーティスト、2015~18年、紹介記事まとめ①、②)を終え、ハンガリー放送のメイン・ゲストアーティストとして契約した。彼らと一緒に、まずは、オラトリオ「Ecce Homo」(クーラ作曲)の録音、オペラ「モンテズマと赤毛の司祭」(クーラ脚本・作曲)のコンサート形式での世界初演(2020年1月29日)を行う。そして2022年には、アルゼンチンのレクイエム(クーラ作曲)の世界初演で、テアトロコロンの合唱団を迎えたいと思っている。
Q、舞台監督・演出家としてはどのように?
A、2018年、ボンとモンテカルロ歌劇場でのブリテンのピーター・グライムズ(主演も)、プラハでのヴェルディ・ナブッコ、エストニアのタリンでのプッチーニ・西部の娘で監督をした。2020年にオテロの新しいプロダクションで舞台演出を再開する。
(「operaactual.com」)
いつものようにクーラは、作品、登場人物のキャラクターについて、原作や社会背景、民族的背景などを含めて研究、分析し、深めた独自の解釈に立って語っています。ただ美しく歌うのではなく、また心情的な解釈や思い入れで演じるのではなく、あくまでも、脚本と音楽にもとづきドラマとキャラクターの心理を深め、解釈し、歌い演じることこそ、現代のオペラをつくることだというのがクーラの確信です。こうした研究と分析に支えられて、クーラのドラマティックな演技力と舞台上の存在感が生きるのだと思います。
今後の活動については、すでに紹介してきた、クーラ作のオラトリオの録音、オペラ「モンテズマと赤毛の司祭」初演に加えて、2022年には、アルゼンチンとイギリスの間に戦われたマルビナス戦争(フォークランド紛争)の犠牲者追悼のためのレクイエムの初演がついに実現するようです。
そして今年、ヴェルディのオテロの新演出に挑戦するということも報告されていました。クーラは2013年にテアトロコロンでオテロの演出・主演をしていますが、次のオテロは、いったいどの劇場で、主演は誰なのでしょうか。クーラがまた主演もするのなら、ぜひとも行きたいものです。ますますカレンダーの更新が楽しみです。