人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

(告知編) 2017年 ホセ・クーラ トスカを演出 in ドゥブロヴニク・サマーフェスティバル / Jose Cura / Tosca / Dubrovnik Summer Festival 2017

2016-10-13 | 演出――その他



演出家としての活動の比重も高まりつつあるホセ・クーラ。つい先日、ベルギーのワロン王立劇場でのトゥーランドットの演出・舞台デザイン、カラフ出演を終えたところですが、来年もすでに2作品の演出予定があります。


*追加 2017/7/15現在、すでにフェスティバルは開幕、しかしカレンダーには掲載されず、情報もないままです。どうやらキャンセルまたは企画変更になったようで、残念ながら今年、クーラの演出・出演はないようです。
*追加 2017/4/25現在、クーラの公式HPのカレンダーには、この公演予定が記載されていません。
 キャンセルになったのか、あるいは、後から掲載されるのか、まったく情報はありません。
*追加 8/1 すでにフェスティバルは開幕し、クーラ演出のトスカの代わりに、別のオペラ公演があったとの報道がありました。クーラは演出しなかったようです。
 ただこういう計画があったということで、以下の記事は削除せず残しておきます。
 



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(注・以下の記事は事前の報道記事にもとづくものでしたが、ドゥブロヴニク・サマーフェスティバル2017では、最終的にクーラ演出は実現しなかったようです)

1つは、2017年5月のドイツ・ボン劇場での、初挑戦のブリテンの英語オペラ、ピーター・グライムズの演出・主演です。
もう1つは、来年8月のクロアチアのドゥブロヴニク・サマーフェスティバル2017で、プッチーニのオペラ、トスカの演出です。クーラの公式カレンダーには未掲載ですが、クーラが現地調査をしている様子なども報道されました。
今回は、このトスカの演出について、今ある情報をまとめてみました。

ドゥブロヴニク・サマーフェスティバルは、クロアチアの世界遺産に登録されている美しい街ドゥブロヴニクの伝統あるフェスティバルで、テーマは「自由」とのこと。1956年から開催されている歴史ある催しで、毎年7月から8月にかけて1か月余りにわたって、演劇やバレエ、オペラ、コンサートなどが、旧市街の広場や通りなど街のさまざまな場所で行われているのだそうです。すごいですね。

クーラは、今年の第67回のフェスティバルに招かれて、指揮者としてオープニング・コンサートで指揮、歌手としてガラ・コンサートに参加しました。さらに、フォトグラファーとして、写真展も開催しています。
その際の多くの写真や動画、クーラの興味深いインタビューがネット上にも掲載されましたので、いずれ、まとめて紹介したいと思います。(実のところ、クロアチア語からの翻訳がなかなかすすまないために、掲載が遅れています(>_<)...。)

そして来年の第68回は、演出家としての参加になるようです。カヴァラドッシを歌うかどうかは、報道からはわかりませんでした。 
 


来年の紹介の前に、少しだけ、今年の様子を。

オープニングコンサートで指揮をするホセ・クーラ




ガラ・コンサート アルゼンチンやラテン・アメリカの歌をメインにしたようです。




会場は、1715年に建てられた美しい聖ヴラホ教会とその前のルジャ広場。右奥の方の大通りまで人でびっしり埋め尽くされているようすがわかります。




こちらは今年の67回の総集編的なショートビデオ。多彩な内容が圧巻。ちらちらと、クーラの姿も見えます。歌声はありません。
Short video preview of the 67th Festival  Kratki video pregled 67. Igara


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――2017年ドブロヴニク・サマーフェスティバルについて、クロアチアのニュースより

「2017年8月、ドブロヴニク・サマーフェスティバルの一環として、素晴らしいプッチーニのオペラ『トスカ』を上演する。それは、聖ヴラホ教会の前で第67回ドゥブロヴニク・サマーフェスティバルの開会式とガラ・コンサートにおけるパフォーマンスで観客をワクワクさせた、著名なテノールであり、指揮者、演出家であるホセ・クーラによって演出される」(justdubrovnik.com

現地で図面を見ながら、関係者との打ち合わせ中のようです。








――会場は11世紀の修道院の史跡

場所は、何やら遺跡のようですが、実はここは、11世紀に建てられたベネディクト会修道院の跡地なのだそうです。
ここに800席の観客席が設置されるとのことです。




トスカの舞台となったのはローマのサンタンジェロ城。今度のクーラ演出では、このドブロヴニクの自然と歴史的建造物を利用して、クーラがどのように想像力、創造力を発揮して舞台をつくるのか、とても楽しみです。






――アドリア海に浮かぶ島で

しかもこのベネディクト会修道院は、ドゥブロヴニクの街の対岸、アドリア海に浮かぶ島にあるのです。
美しく、ロマンティックなロケーション、自然と文化遺跡、芸術が一体化した舞台、本当に魅力的で、ぜひ行ってみたいと思わされます。

会場のあるロクルム島 (フェスティバルのフェイスブックより)



――場所は理想的、絶対的な壮観に
●ロケーションの美しさ、雰囲気に魅了されたクーラ

ニュースによると、クーラは、ベネディクト修道院の美しさと雰囲気に魅了され、しばらく時間をとって遺跡のなかを見てまわったようです。
そしてつぎのように語ったと報道されていました。

「場所は、理想的。それはまさに、ドゥブロヴニクとドゥブロヴニク・サマーフェスティバルのための主要なステージとして求められるもの。
すべてのものを組織することが必要だが、そして、それは素晴らしい仕事。このオペラは絶対的な壮観になる。」



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クーラの演出の仕事は、これまでのカヴァレリア・ルスティカーナや、ラ・ボエームトゥーランドットなどを見ても、ドラマと人間の感情をリアルに、そして温かく描きだすものが多いように思います。この美しい史跡の風景のなかで、歌姫トスカと理想主義者カヴァラドッシをめぐる愛と死、革命を背景にしたドラマをどのようにつくりあげるのでしょうか。
今後また、この演出の構想に関する情報が集まったら、紹介したいと思います。

できれば、カヴァラドッシもまた、クーラに歌ってほしいものです。
ということで、おまけとして、クーラの歌を。

こちらはクーラ演出ではありませんが、2014年、ドイツ・ハノーファーの市庁舎前公園の特設野外ステージで。
Jose Cura "E lucevan le stelle"


同じ2014年、ハンガリーのブダペスト国立歌劇場のトスカに出演した際のニュースクリップ。インタビューと舞台映像あり。
Jose Cura 2014 Tosca in Budapest


なお、クーラのトスカに関する作品解釈や、舞台の紹介は、これまでも以下のような投稿があります。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
 「トスカ ホセ・クーラの“ヴィットリア!”と通行証の謎」
 「2014年ハノーファーのトスカ」



*画像はドゥブロヴニク・サマーフェスティバルのフェイスブック、報道記事などからお借りしました。
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カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出 / Jose Cura / Cavalleria Rusticana & Pagliacci

2016-05-18 | 演出――その他


ホセ・クーラは、マスカーニのカヴァレリア・ルスティカーナと、レオンカヴァッロの道化師の2つのオペラに長年、出演してきましたが、2012年には、ベルギー・リエージュのワロン王立歌劇場で、両作品をはじめて演出、舞台設計、照明と主演も担いました。
そして2015年7月、故郷アルゼンチンのテアトロ・コロンで再演を果たしました。この時は、クーラは道化師のみ出演しています。ネットラジオでも放送されました。上演は7月14、17、18、19、21日。
クーラの作品解釈と演出コンセプト、リハーサルや舞台の様子などを、インタビューと画像などで紹介します。



クーラは、舞台をイタリアのシチリアから、ブエノスアイレスのラ・ボカ地区カミニートに移しました。イタリア系移民の街です。舞台装置もカミニートのカラフルな町並みを再現。アルゼンチンタンゴの要素も取り入れた、とてもシックな演出です。

そして、この2つをオペラを、連続したドラマとして描こうとしました。カヴァレリアと道化師が、同じ小さな街で、つづいて起こる事件として、1つの流れのなかにおかれます。街に住む幼なじみの2人をめぐる悲恋、そしてそこにやってきた陽気な旅芸人一座と、彼らの抱える差別と偏見、人生の重荷と辛さ、悲しみ、そしてつきすすむ悲劇の結末。美しいセットで繰り広げられる切ない切ない物語です。

劇場HPには、「ホセ・クーラのステージングは、観客のすべてが魅力的なプロットで魅了されるまでその情熱を掘り下げることを約束します。誰も無傷で脱出できません」と紹介されていました。



いくつかのインタビューで、演出意図や解釈、作品の背景などを語っています。興味深い部分を抜粋してみました。

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●故郷のイタリア移民へのオマージュとして
2008年にサンディエゴで道化師を歌っていた時、2つのオペラの演出依頼を受けた。私はアルゼンチンのイタリア移民へのオマージュを設計する機会だと考えた。舞台はカミニート通りが理想的だと思った。 (*クーラの母方の祖母はイタリアからの移民です)
このプロジェクトは非常に私たちそのものだ。カミニートであり、バンドネオンがあり、ガルデルの声があるタンゴ‥。私は観客が誇りを感じてくれることを願う。古典的なアルゼンチンの風景の一つだからだ。

1つの場所と時間内に、2つのオペラのすべてのキャラクターを共存させることを想像した。2010年に小説を書いた。実現しなかったそのアイディアを2012年リエージュでの演出に使った。



●ワーグナー、ヴェルディとヴェリズモ
ヴェリズモオペラは、ワーグナーの素晴らしいレトリック、ヴェルディの英雄的人物像に対する、アレルギー反応のように誕生した。ヴェリズモは彼らの悲惨さを露出し、肉と血、過ちを犯す人々を描きだした。
言葉は、音楽のつけたしではない。リアリズムにおいて、言葉は、音楽と同様に重要だ。他のレパートリーとは大きく異なり、音楽によるプレッシャーを感じることなく、言葉を語ることができなければならない。

今2017年にタンホイザーを準備している。ワーグナーの美しさが印象的だ。しかし音楽的レトリックに基づいている。ワーグナーのアプローチは、音楽的に何が起こっているかを理解する努力が必要だ。

ワーグナーに対して、ヴェリズモの音楽的アプローチは即時的だ。もちろん危険性がある。即時性は下品と理解されかねない。憎悪や行動の意図を理解すること、トーンのバランスを見つけることが必要だ。

●主人公の名前の由来、復活祭の日曜日、血の儀式 ~ カヴァレリア・ルスティカーナ

   

カヴァレリア・ルスティカーナで何が起こるかを説明するためには、主人公の名前の由来を明らかにする必要がある。
トゥリッドウとサントッツァは、それぞれサルヴァトーレとサンタの愛称だ。
母親の名はマンマルチアではなく、Annunziataの愛称Nunzia、つまり受胎告知。ローラはスペイン語でAddolorata(=痛み)、ドロレスの略だ。

物語はイースターで起こる。マンマルチア(受胎告知)の息子、サルバトーレ("surrender" =降伏)は、ローラ(痛み)に裏切られ、Santuzza(聖)よって売られる。
すべては復活祭の日曜日に発生する。サルバトーレ=「降伏」は、赤ワインで乾杯する。それは血の儀式を意味する。

●トゥリッドウの愛と憎しみ、苦悩
兵役から戻ると、恋人ローラの裏切りを知ったトゥリッドウ。彼は村に戻って以来、死の影を背負った。人生を破壊したローラを憎むと同じ狂おしさで、ローラを心から愛した。なぜ結婚したの? 彼女に繰り返し聞いた。

トゥリッドウとサントッツァは憎しみ合っていない。彼らは幼なじみ。彼女は、彼がいつか自分の男になることを望んでいた。幼なじみの愛を利用した男の子の復讐は、サンタを傷つけ、ローラの嫉妬を招いた。

●道化師はショービジネスの縮図
道化師は、失敗したコメディアンのドラマ。彼のカンパニー全てに影響を与え、彼の妻も子も苦しめる。シルヴィオとネッダのロマンスは、人生とアルコールに敗れ、すでに半分死んでいる男に、とどめの一撃となる。

ショービジネスに共通する多くの側面がある。多くの「スター」がいずれ落ちる。貧しい村のピエロのカニオとはスケールは違うが、彼のドラマ、これは多くの兄弟たちの職業であり、ある日の私のことだ。



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クーラは、単なる浮気と嫉妬の痴話喧嘩ではなく、社会背景からこれらの悲劇を浮き彫りにしています。こうした演出コンセプトが、舞台上でどう表現されているのか、いくつかの場面を見てみたいと思います。 (*写真は、クーラが両方を演じた初演の舞台の映像から)

クーラが「最愛のトゥリッドウ」とよぶカヴァレリア・ルスティカーナの主人公。クーラの解釈は、「彼こそが最大の犠牲者」です。兵役が彼の人生すべてを狂わせてしまいました。軍隊帰りが分る衣装で登場します。

 

兵役によって愛するローラとの仲を裂かれたトゥリッドゥの怒りと悲しみ、諦めきれない愛。閉鎖的で保守的風土で未婚のまま妊娠したサントゥッツァ。若い2人の切なさ、つらさをリアルに描き出そうとします。
サントッツアの悲劇と苦悩を示す、マンマ・ルチアとの二重唱の場面。サントッツアはルチアの手を自分のふくらんだお腹に。じゃけんな母親に描かれがちな場面ですが、クーラは2人の女性のシーンに別の意味を持たせました。

   

広場を中心に、人々の喜怒哀楽が描かれます。イタリア移民たちの街の閉鎖的で人間関係が濃い雰囲気のなか、結婚前に妊娠したサントッツアの苦悩がいっそううきぼりになります。

   

トゥリッドウとサントッツアの二重唱でも、単なる痴話げんかやDVとは違う描き方をしています。トゥリッドウは、自分を裏切り結婚したローラを一度は諦め、サンタを愛そうとしました。すがりつくサンタへの憐れみ、愛しさが表現されています。

   

サントッツアに手を取られ、自分の子どもを身ごもったお腹に当てられ、事実を知り衝撃を受けるトゥリッドウ。サンタへの思いも込みあげます。

  

ローラとサントッツアへの思いに引き裂かれ、苦悩しながら、しかしローラをどうしても諦めきれないトゥリッドウ。彼に去られ絶望したサンタは、妊娠したお腹をたたき、苦しみ叫びます。

   

舞台とした広場とマンマルチアの店は、カラフルな昼、シックで照明が印象的な夜と、雰囲気を変えます。間奏曲の間には、広場にアルゼンチン・タンゴのダンサーが登場し、ドラマと悲劇の結末を象徴するダンスを踊ります。

   

トゥリッドウの死後もドラマは続きます。道化師の冒頭はトゥリッドウの葬列。そして6カ月後、道化師一座を拍手で迎えるサンタとルチア。サンタは大きなお腹で店を手伝いつつ、出産を待っています。新たな命を生む出す女性の強さを暗示しているのでしょうか。

     

そしてつづく道化師では、仮面をつけた道化師と、その仮面の下の傷ついた素顔‥。旅芸人一座の苦悩を、抱えてきた人生の重荷(障害や傷跡‥差別)をふくめ、描きだします。

     

テアトロ・コロンがFBに掲載したオペラ、カヴァレリア・ルスティカーナと道化師のリハーサル写真。演出とセットデザイン、カニオ役を兼ねるホセ・クーラ、立ち上がったセットで演技をつけたり、自分の出番をチェックしたりとマルチタスク。









カヴァレリアのリハーサルをする指揮者のロベルト・パーテルノストロと、演出のホセ・クーラ。


●ホセ・クーラ テアトロコロンでのインタビューより

私は誠実な態度と美しい演技の融合を愛する。私は信じる。ステージで歌手の顔を見ることをやめ、キャラクターの顔を見る。そうしてこそ現代のオペラ劇場になる。

演出作品の選択で私の唯一の要件は、台本を信じられることだ。知的誠実さは、歌手としても必要だが、演出・舞台監督として、自分が何をすべきか信じるだけでなく、人を説得するために、非常に重要だ。

Q、テアトロ・コロンをどう思う?
A、私はアルゼンチン人で、コロン劇場は私の最初の劇場だが、ゲストとして来ている。変化と努力をみた。巨大な劇場が抱えがちな問題を超えて、人々の力が物事を前進させる。
テアトロ・コロンでは、人々は、アーティストからエンジニアまで、劇場を愛し、彼らの仕事に多くのことを望んでいる。2013年と比べて、落ち着き、給与も改善され、皆に心理的に良い影響を及ぼしている。

Q、20年以上スペイン在住だが?
A、自分はアルゼンチンの子と思っており、世界のどこへ行っても必ず「アルゼンチンの芸術家」と呼ばれる。死ぬまで「アルゼンチン人」と呼ばれ続ける。誇りは常に変わらない。

Q、欧州の経済危機について?
A、私たちが直面する危機は、経済的危機だけでなく道徳的危機、またスペインだけでなく世界の問題。それは始まりだ。経済危機は、この危機の結果の一つである。経済危機はこれまでも多くあったが、現在直面している危機は、道徳的危機だ。それは、より長く、より多くの痛みと深刻な結果を及ぼす。そして、私はそれをより懸念する。

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クーラの故郷アルゼンチンのテアトロコロン。財政難や長期の改修が続いていましたが近年、壮麗な姿で復活。クーラはマルセロ・アルバレスとともに若い頃、劇場のコーラスにいたそうです。しかし当時、オーディション等で認められることはありませんでした。


人気ブログを書いていらした、プロフェッショナルでインターナショナルな看護師・看護教員、えぼりさんの「漂流生活的看護記録」第9回、「寄り添う人々」で、このテアトロコロンの公演について触れられています。アルゼンチンの人々とその誇りある生き方、人生へのあたたかく連帯の思いにあふれた、すばらしいレポートです。えぼりさんはクーラと直接会って、話したこともあるそうです。まだお読みになっていない方には、ぜひぜひ、おすすめします。


DVDの編集作業をしたようですが、残念ながら2作品のDVDはまだ公開されていません。ワロニー王立劇場の舞台が、しばらくの間、arteで公開されていました。Youtubeにもアップされているようです。
結局、ネット上で公開されることによって、DVDを出しても投入した資金が回収できなくなる、という「ネットと著作権」の問題が壁になっているとみられます。クーラは大手エージェントにも大手レーベルにも所属せず、自前のプロダクションですべてやっていますから、この問題はさらに深刻のようです。DVD発行を期待して、ここでは、劇場の公式動画だけ紹介しておきます。

初演されたワロン王立劇場での紹介動画 Youtubeより
Cavalleria Rusticana & Pagliacci (Pietro Mascagni) - Extraits


テアトロ・コロンのYouTube公式チャンネルから、ホセ・クーラ演出のオペラ、カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の紹介動画。
Cavalleria Rusticana 2015 - Teatro Colón


Pagliacci 2015 - Teatro Colón


初演のベルギー・リエージュのワロニー王立歌劇場でのリハーサルの様子とクーラのインタビュー動画。
Cavalleria Rusticana & Pagliacci (Pietro Mascagni) - Répétitions


共にカヴァレリアと道化師をつくったテアトロコロンの合唱団に寄せたホセ・クーラの言葉。
「2013年は(オテロ)古い友人との会合だった。2015年は兄弟として。そして次は‥。みんなにハグ!」


ホセ・クーラがFBで紹介した写真、テアトロ・コロンのカヴァレリア・ルスティカーナと道化師の出演者とともに、そしてスタッフの写真。達成感と連帯感が伝わる。
   




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2010年 カールスルーエのサムソンとデリラ Samson et Dalila / Saint-Saëns / José Cura

2016-03-02 | 演出――その他


ホセ・クーラは、2010年に、ドイツのカールスルーエ・バーデン州立劇場で、サンサーンスのオペラ「サムソンとデリラ」を演出しました。舞台セットのデザインとあわせて、タイトルロールのサムソンも歌いました。サムソンは1996年のロールデビュー以来、20年間演じてきた役柄ですが、サムソンの演出はこの時がはじめてです。
この舞台は、クーラ自らが編集してDVDも発売されています。客席やカーテンコールを写さず、アップも多用した映画のような美しい映像です。ただしどういうわけか日本語字幕はありません。このあたり、来日も10年間ないことと同様に、残念でなりません。

Samson: José Cura, Dalila: Julia Gertsheva
Stefan Stoll, Lukas Scmid, Ulrich Schneider
Conductor: Jochem Hochstenbach
Direction: José Cura
Badishes Staatstheater, 22 / 24 October 2010


 

この時のプロダクションへの思いや作品の解釈などについて、インタビューから抜粋してみました。また、主な場面がYoutubeに17に分割されてアップされています。そのいくつかも紹介します。

クーラのサムソンの解釈はまた独特で、「歴史上の自爆テロリストの1人」であり「負のヒーロー」であるというもの。
インタビューでは、演出するにあたっての、このオペラ独自の難しさについても語っています。

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●多く出演したので良い演出ができるのか?
そうは思わない。しかし、もちろん私は、自分のパートだけでなく、このオペラの全てのテキストとすべての音を知っている。そして何より、このオペラの固有の複雑さ、困難や課題を認識している。

●「サムソンとデリラ」の危険
大きな危険は、ヘブライの紛争との関わりだ。もちろん中東での戦争と関連している。
ある者は今日のイスラエルとパレスチナの状況を説明しようと試みる。一方、歴史的な演出は、まるで1950年代のハリウッド映画になってしまう。

第1幕サムソンが群衆の中から歩み出て「止めよ、兄弟たちよ!」と歌う場面
Samson et Dalila, con José Cura. Fragmento 2.


●セックスと権力、宗教の名による殺りく
セックスと権力との関係は、このオペラの心理的な構造だ。サムソンは全男性と同様に、本能に従い、動物のように行動する。これが全体を非常に普遍的にしている。彼がなんらかの内省を示す唯一の場所は、第3幕冒頭のアリアだけだ。

サムソンは内省するが、しかし回復した後、再び強くなる。そして彼は、自分が神の代理として行動していることを信じて、他の人々を殺す。この点において、世界は、残念ながら今日も何ら変わっていない。



第2幕第3場 デリラに誘惑されてしまうサムソン 「あなたの声に心は開く」
Samson et Dalila, con José Cura. Fragmento 11


第3幕 目をつぶされ拘束されたサムソンの自省のアリア
Samson et Dalila, con José Cura. Fragmento 12


●強欲さと富への渇望の象徴
演出にあたって、私は放棄された油田のキャンプに全体の舞台を置いた。現在は留置施設として使用されている。オイルは強欲さと富への渇望を示す。これらは現実に、民族間の紛争の背後にあるものだ。人々は特定せずに、単に2つの民族としてのみ示した。

サムソンは「旧新約聖書」の言葉によるために、台本にはいくつか仰々しい場所がある。また低予算のハリウッド映画で使用されてきたために、サン=サーンスの壮大な音楽が浅薄な作品に見なされる恐れがある。

●子どもたちに希望を
課題はメッセージをもたらすことだ。神の名による殺人――特定の宗教に関わりなく、野蛮な時代錯誤だ。
私は子どもたちに、愛と希望のメッセージを託す。紛争に関与する2つの民族の子どもたち。彼らは、民族や宗教に関係なく、一緒に遊び、そして友人を守る。



●好奇心と夢を実現
Q、カールスルーエでは演出、セット設計、主演をしたが指揮は?
実際には指揮も、私にオファーがあった。しかし必要なリハーサルのための時間を持てなかった。
すべてに関わっているように見えても、十分な準備なしにはそれはやれない。

もしある日あなたが、夢だと思っていたことを実現できる機会を提供されたら、ノーと拒否するだろうか。
私は人生でいつも、好奇心と、まだやったことのないことへの意欲を持っている。いつか映画監督をやりたいと望んでいた。そして機会を得た。サムソンとデリラを劇場で撮影して、DVDにした。



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このプロジェクトを演出中の魅力的なメイキング動画がクーラ自身によってアップされていたのですが、残念ながら、クーラの動画サイトの再編作業中のため、現在は削除されています。
最後に、その一部分、「あなたの声に心は開く」のサムソンとデリラのデュエットの部分をYoutubeから。
Jose Cura duo from Samson et Dalila : Saint-Saëns


映画監督がクーラの夢の1つだったのですね。だからこのサムソンのDVDはほとんど映画を見るような形になっていたわけです。
また指揮もオファーがあったとのことですが、主演しながら指揮をするのは、さすがのクーラも、この時は無理だと判断したようですね。とはいえ、この言い方だと、リハーサルの時間さえとれれば、チャレンジしないこともないような・・。
この先、そんなプロダクションが登場するのかどうか、あるとすればどこの劇場で、どの演目で実現するのか、興味深いです。

またクラシック音楽・オペラを、常に現代の社会とむすびつけて解釈し、演出、演奏するというクーラの立場はいっかんしたものです。
興味がおありの方には、クーラの社会への姿勢と発言をまとめたページ「ホセ・クーラ 平和への思い、公正な社会への発言」をご覧いただけるとうれしいです。



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