ホセ・クーラの新プロダクション、ヴェルディのナブッコ。6月28日の初日に向けて、ドレスリハーサルの写真が劇場や出演者のフェイスブックにアップされました。ちょうど今、現地では、初演の舞台が始まっています。
26日のドレスリハーサルには、プラシド・ドミンゴの息子で、プロデューサーや映画監督などをされているアルヴァロ・ドミンゴ氏が訪れ、クーラらと交流したようです。トップの写真がその時のもので、劇場のFBからお借りしました。
今回のクーラのプロダクションは、抽象的なデザインのセット、画家のワシリー・カンディンスキーの絵と理論からインスピレーションを得て、色彩と心理の関係を重視した演出構想ということで、どんな舞台になるのかとても謎めいています。大変興味深いです。本当はプラハに行って生の舞台を見たいのですが、諸事情からそうもいかず・・最新の写真や発言などから、できるだけ手掛かりを得たいと思っています。そのため何度も同じような記事になっていますが、お許しください。
先日の記事で取り上げた記者会見の続報も掲載されましたので、合わせて紹介したいと思います。
→ これまでのプラハのナブッコの記事一覧はこちらへ
Musical preparation: Andreas Sebastian Weiser
Direction, set and light design: José Cura
Costumes and co-stage designer: Silvia Collazuol
Co-lighting designer: Pavel Dautovský
Chorus master: Adolf Melichar
Dramaturgy: Jitka Slavíková
The State Opera Chorus and Orchestra
Nabucco: Martin Bárta , Miguelangelo Cavalcanti
Abigaille: Anda-Louise Bogza , Kristina Kolar
Fenena: Veronika Hajnová , Ester Pavlů , Jana Sýkorová
Ismaele: Jaroslav Březina , Josef Moravec , Martin Šrejma
Zaccaria: Oleg Korotkov , Jiří Sulženko , Roman Vocel
≪公演予定≫
2018年――6月28、29日、7月1、3日、9月13、15日、10月30日、11月20日
2019年――3月4、18日、4月15日、5月14日、6月11、22、25、29日
≪リハーサルの画像より≫
●舞台全景と群衆
これまでのリハーサルの写真では、幾何学的な神殿の柱を思わせるメインのセットだけが映っていましたが、本番では、歴史的背景である紀元前のバビロニアで使われていた楔形文字の文様が照明で投影されるようです。
また主役たちの衣装のカラフルで強烈な色使いと対比的に、コーラス=群衆はシンプルでシックな色調に統一されています。
こうして舞台全体を見ると、とても美しいです。
●主役たち
主要なキャラクターには、それぞれの色が割り当てられ、それらによる心理的効果が期待されているようです。
黄金色(?)の衣装は、このオペラのタイトルロール、バビロニアの王ナブッコです。
赤と黒が、激しい気性と野心をもつドラマティックなアビガイッレ、ナブッコの長女であり、実は奴隷の子。
青い衣装の男女が、アビガイッレの妹で正妻の娘であるフェネーナと、ナブッコが征服をもくろむエルサレムの王の甥イズマエーレ。2人は愛し合っている。
●さまざまなシーン
赤い衣装の一群は兵士たちのようです。
幾何学的な形のセットが場面で回転し、照明がそれぞれのシーンに合わせて色彩を変えるとともに、時には人物の影を大きく投影するなどして効果を出しています。
劇場のアシスタントディレクターのパブロビッチさんのFB掲載の写真です。
楔形文字が彫り込まれた粘土板(?)が投影された壁の前で、もう1人のアビガイッレ役アンダ - ルイーズ・ボグザさんと、副ディレクターのシルヴィアさん。
≪記者会見の詳報記事より≫
――ホセ・クーラはプラハで、非常に心理的で、オリジナルに忠実なナブッコの新プロダクションを開く
プラハ、6月27日 - アルゼンチンのテノールであり演出家のホセ・クーラは、明日プラハでジュゼッペ・ヴェルディのナブッコの新バージョンを初演する。
クーラは、王ナブッコの養子になった娘、主人公のアビガイッレの心理ドラマを強調した。
「アビガイッレのドラマは、心理学的には劣等感に分類される。彼女は巨大なコンプレックスを抱く女性であり、なぜなら彼女は自分の血統について何かが納得できないと感じていたからだ。"私の母はどこ?" "なぜ私は父に似ていないの?"―― それは、彼女がその訳が書かれた手紙を発見するまでつづく」
クーラは説明する。
4つの部分からなる叙情的なドラマは、旧約聖書のバビロニアの王、紀元前586年にエルサレムを征服したネブカドネザルに触発されている。一方、その娘のフェネーナは、エルサレム王の甥イズマエーレと恋をして、姉のアビガエッレと対峙して奴隷のヘブライ人を解放しようとしている。
スペイン国籍を持つアルゼンチン・ロサリオ出身のアーティスト、クーラは、プラハ国立歌劇場から委託されたヴェルディのオペラのこの新プロダクションを作った。1年半の準備を経て、明日6月28日、国立歌劇場が補修工事中であることから、カーリン・ミュージック シアターで初演される。
クーラは、物語の主人公が「コンプレックスを攻撃性に変え、他者への虐待的行為に変え、常に一種の戦争状態にある」と指摘する。
ここでは、ルーマニアのAnda-Louise BogzaとクロアチアのKristina Kolarが、ソプラノにとって様々な役柄の中でも最も難しいと考えられているこの役を担う。
「彼女たち(アビガエッレ)の歌における挑戦は、音の強さ=デシベルのための戦いではなく、彼女の巨大な心理的外傷を伝達するための方法だ」とクーラは言う。
「アビガエッレは、スタイルの意味でのワルキューレではなく、それは常にコロラトゥーラだが、それはまた常に、ヴェルディの発展方向であるベルカントとメロドラマの始まりとの境界の上にある」と彼は付け加えた。
したがって、クーラは、アビガエッレは「悲鳴をあげる歌手」ではなく、音楽を通じて多くの異なるカラーを伝えなければならず、一般に言われてる「声が大きくて騒々しい」キャラクターとは反対であると語る。
クーラによると、「ナブッコはまだ若いヴェルディによって作られた"図像オペラ"であり、オテロのような、作曲家がますますシンフォニックな歌唱に近づいていった後のオペラと比べて、まだ多くのオーケストラの仕事がある」。
作品としては、55歳のアーティストであるクーラの意見によれば、「基本的に、メロドラマの歴史の中で、またヴェルディ自身にとって、もしナブッコが最も重要な作品ではないとしても、ナブッコが成功したという事実が、非常に危険な心理的な状態からヴェルディを抜け出させることとなった」。これ以前の作品の失敗と、妻と2人の子どもを失うという悲劇の後、このオペラの成功は彼のキャリアを継続するために彼を立ち上がらせた。
「ナブッコは、オテロとファウストと結びつけるメロドラマの発展のためのキックオフだった」とクーラは語る。
プラハのステージングでは、クーラは"台本を礼儀正しく尊重する"忠実さを選択した。
ステージングに関しては、クーラの協力者であるSilvia Collazuolがサブを務めた。それについてクーラは、人間の魂の色の影響に関するヴァシリ・カンディンスキーの理論に基づいて、「それは非常に純粋主義的で、線、光、色のみ」であると語る。抽象化の先駆者であるロシアの画家の影響は、「各キャラクターの心理学にもとづいて」幾何学的な形や色で示されている。
ヴェルディはまた、作品自体に社会的または政治的意味合いを求めてはいないが、1842年の初演は、イタリア国家の創設に関連したナショナリズムの成長という文脈の中で行われた。
「私は自分のプロダクションでは常にニュートラルでありたいと思う。聴衆自身がその結論を引き出すのであり、私は私の精神的妄想を満足させるために、劇的な手段や納税者の税金を使うつもりはない。それでは敬意を欠くからだ」とクーラは言う。
プラハでは、2019年6月までにこのナブッコの公演が17回予定されている。準備が整ったら、国立歌劇場で上演されることになる。
(「lavanguardia.com」)
≪リハーサルの様子を伝えるスペイン語のニュース映像≫
現在のところ、映像として舞台の様子を知ることができるのは、このニュース動画だけです。
短いですが、いくつかのシーン、記者会見でクーラが語る様子のカットも。
José Cura estrena en Praga un Nabucco muy psicológico y fiel al original
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リハーサルも順調にすすんだのでしょうか。リラックスした様子のクーラの写真も、共演者のFBに掲載されています。
今のところ中継や録画放送などの情報は入ってきていません。初日の成功を願うとともに、このプロダクションが何らかの形で映像化されることを願っています。
*写真は劇場や共演者のFBなどからお借りしました。