ホセ・クーラの新作オペラ「モンテズマと赤毛の司祭」の解説編、3回めになります。解説編としては、たぶんこれで最後と思われます。
前回の(解説編2)では、台本についてのクーラの解説を紹介しています。また(リハーサル編)では、オペラの一場面のリハーサル動画リンク(クーラのFBに掲載)も掲載していますので、ご覧いただけるとうれしいです。
今回は、クーラがFBに投稿した「作曲について」を中心に紹介しています。クーラがもうひとつのリハーサル動画をアップしてくれましたので、そのリンクも掲載しました。
また、ハンガリーでのインタビューで、同じく音楽についてクーラが語った部分を抜粋して和訳しています。いつものように、不確かな訳のため、ぜひ原文をご覧ください。
クーラがFBのコメントで、”オペラの主役は、マティアス・トシ(男爵・モンテズマ)、ドナト・ヴァルガ(赤毛の司祭・ヴィヴァルディ)。 リハーサルは順調に進んでいる!”と報告していました。初日は2020年1月29日、場所はブダペストのリスト音楽院大ホール、セミステージ形式で、1公演のみです。
なお、1月29日の初日がラジオでライブ放送されることについては(緊急告知・ラジオ生中継、オンデマンド放送編)でもお知らせしましたが、クーラがFBで告知しましたのでリンクを。
”明日(2020年1月29日)のラジオ放送へのリンクはこちら。アクションを見ずにオペラを聞くのは、少し当惑させるものだということを知っている。 ほとんどの場合、これまでに見たことのないオペラでは、頭のなかで絵をイメージすることはできないが、何もないよりはまし。 楽しんでもらえればうれしい!”
リアルタイム放送:1月29日19:30 ハンガリー時間。(日本時間1月30日3時30分頃~)
≪クーラのFBより≫
●作曲についてのクーラの説明
ーーモンテスマと赤司祭の物語の最後のエピソード
作曲について
いわゆる「現代的」なシステムのほとんどが激しくドラマティックであるとき、コミックオペラを作成するためにどのような音楽的な言語を使用すべきだろうか。
全くの不協和音、クラスター(密集和音)、セリエル音楽(音列主義)、電子機器・・等々は、作曲家がそれらを知的に使用するならば、猛烈なドラマを強調するために最適だ。しかし、それらをコミカルに使用する方法は?
私は各キャラクターの性格を定義するために、さまざまな音楽のモチーフを演奏してみたが、前の投稿で言及した音楽の引用を選んだ後、ついに「モンテズマと赤毛の司祭」のために、ネオバロック様式(「新古典主義」)の音楽言語で折り合いをつけることに決めた。
さらに、ヴィヴァルディ、ヘンデル、スカルラッティが、重く編曲された音楽の層(レイヤー)のもとで生き返るのをみるのは間違っているように感じた。それは彼らの時代にはあまりにも奇妙だっただろう。だから自分の作品には、小規模なオーケストラを使用することにした。
また、私が以前、作曲を試みたオペラ「マッチ売りの少女」(1992)のいくつかの曲は、新しい作品のいくつかの場面にぴったりすることがわかった。ガヴォット、メヌエット、ワルツなどのようなダンスの「香り」と結合させて、それらの音楽を蘇らせることができたのは非常にうれしかった。
ラテンアメリカのキャラクターを特徴づけるために、カリブ音楽のスウィングが存在する必要があり、オペラを開けたり閉じたりする簡潔だがキャッチーなルンバを書いた。
作品にバロック風の雰囲気を追加するために、私はある種類の対位法を使用し、カーペンティエ―ルの小説の一部である時間的な分離を強調するために、ジャムセッションも含めた...…。「ペスト」の時(*主人公が旅先で疫病の蔓延に遭遇し、従者を病で失う)の「ラクリモサ "Lacrymosa"」の瞬間は、私が1994年に書き、南大西洋戦争(マルビナス戦争・フォークランド紛争)40周年にあたる2022年に初公開される予定の「レクイエム・ミサ」から引用した。
●もうひとつのリハーサル動画
このリハーサルの場面では、ヴァイオリニストがヴィヴァルディの有名な「四季」の一節を弾いています。これはオケメンバーによる伴奏ではなく、主人公のひとりであるヴィヴァルディの役のテノールの方だそうです。これ自体がオペラの一場面。出演者の多くは、歌手であるとともに楽器を演奏することが求められ、またオーケストラのメンバーも、演技でドラマに参加することが求められているそうです。マルチタスクのクーラらしい発想、ドラマの作り方ですね。
”昨日のリハーサルのある瞬間...” by ホセ・クーラ
≪出演者とハンガリー放送芸術協会のFBより≫
●ヴィヴァルディ役の紹介
こちらの動画は、クーラの動画でヴァイオリンを弾いていた、ヴィヴァルディ役のドナト・ヴァルガさんが、同じ動画を短縮してアップしたものです。そしてそれをシェアした放送芸術協会が、彼についての紹介を書き込んでくれていました。
”ドナト・ヴァルガは、コメディオペラ「モンテズマと赤毛の司祭」では主人公の1人、ヴィヴァルディを演じている。この役では、ドナトは彼のバイオリンと歌のスキルを同時に磨くことができる! ドナト・ヴァルガは1976年にセゲドで生まれ、8歳の時にセゲド音楽学校で音楽の勉強を始めた。彼は後にリスト・フェレンツ音楽大学(リスト音楽院)とスイスで楽器のスキルを磨いた。2007年まで、彼はセゲド国立劇場のオーケストラのコンサートマスターだった。彼は2005年に歌い始め、それ以来、コンサート、オペラパフォーマンス、演劇の定期的なソリストを務めている。ビデオでは、彼はヴィヴァルディの四季のバイオリンを演奏しているーーオペラの一部として!”
≪クーラのインタビューよりーー作品に関する部分の抜粋≫
Q、役にミュージシャンを選んだ理由は?
A(クーラ)、それは私の仕事ではなく、オーケストラの芸術監督がそれを担当した。 彼らのほとんどは以前から知っていたし、2か月前にこの作品の最初のリハーサルの準備をしていた時から一緒に働いてきた。
キャラクターに多様性があるために、適切な人物を見つけることは困難だった。たとえばヴィヴァルディは、作曲家であるだけでなくバイオリニストでもあったため、この作品の上演には、楽器を演奏できるテノールが必要だった。私たちは、素晴らしいヴァイオリニストであり、同時にテノールであるドナト・ヴァルガを得て、非常に幸運だ。
Q、物語はメキシコの男爵がヴェネツィアへと旅立ち、そこでモンテズマはヴィヴァルディと出会う。ヴィヴァルディはアステカの王についてのオペラを書く。どのようにして視聴者を1700年代に押し戻す?
A、オペラの音楽的言語はバロック様式の美学に従うーーステージ上には40人だけの小さなオーケストラがいて、テキストがより致命的に重要になる。
対照的に、ロマン派の時代には、レチタチヴォや対話の最中にもオーケストラ全体が演奏し、時にはその連続性を中断する。ちなみに、バロックは音楽史上私のお気に入りの時代で、音楽の始めと終わりであるバッハの大ファンだが、ヴィヴァルディ、ヘンデル、スカルラッティも私の心に近いものだ。
Q、この喜劇オペラの観客は?
A、これはとても賢明で危険な質問だ!(笑)
モンテズマは幅広い聴衆向け。これは、他の作品への多くの言及を含む知的なコメディオペラだ。聴衆は事前に知識がなくても楽しむことができるが、ヒントを知っていれば舞台は最も楽しくなる。
同じことが他の芸術分野にも当てはまる。事前にモナリザについて何も聞かずにルーブル美術館に行くと、笑顔の女性を見るだけだが、誰かがその絵の背後にある根本的な意味、色、絵筆の使用、絵に込められた思慮の深さを説明してくれるなら、より多くの意味をもたらす。認識はより多くの楽しみに役立つ。
Q、オペラに引用されているものは?
A、カルペンティエール(原作「バロック協奏曲」の作者)は音楽史家でもあったので、多くの音楽作品を引用している。モンテズマでは、ヴィヴァルディ、ヘンデル、スカルラッティに加えて、ヴェルディのオテロ、イーゴリ・ストラヴィンスキーのサーカス・ポルカ、シェイクスピアのロミオとジュリエットの作品などを引用している。またジョークとして、ウォルト・ディズニーの物語を、ワーグナーの幻想的な世界と並べて参照した。
Q:モンテズマはあなたの最初のオペラ。作曲がキャリアでこれまで無視されてきた?
A、テノールとして、私は年間100回の公演をしてきたため、作曲する時間はとれなかった。
作曲はフルタイムの仕事。モンテズマの音楽をオーケストレーションしたとき、私はスタジオで誰とも話をしないで数週間を過ごした。その時、外の世界は私にとって消えていた。
Q、近い将来、より多くの曲を作曲する予定は?
A、別の台本を探しているが、見つけるのにまた30年もかからないことを望んでいる(笑)。今日、最大の挑戦は音楽ではなく、人々の興味を引く完璧な台本を見つけることだ。