ホセ・クーラは9月5日、前回の記事で告知した、ルーマニアのブカレストを中心に開催中のジョルジェ・エネスクフェスティバルでのコンサートで、イギリスのフィルハーモニー管弦楽団を指揮して、自作の3曲を演奏しました。
長引くパンデミック下でさまざまな困難な条件があったと思いますが、コンサートは無事終了、フェスティバルの公式サイトで生中継、終了後12時間のオンデマンドということで、世界中で視聴することができました。オンデマンド視聴はすでに終了していますが、今回は報道やSNSなどの情報から、当日の公演の様子などをお伝えしたいと思います。
また、クーラが作曲した3曲は、音楽の美しさやドラマティックな展開が感動的ですが、聖書のなかのキリストをめぐる物語を題材としているために、宗教の素養のない私には言葉やその意味がわからないという問題がありました。フェスティバルの公式サイトに、曲の内容と場面に関する簡単な解説が掲載されましたので、それも紹介したいと思います。
PHILHARMONIA ORCHESTRA, LONDON
George Enescu Festival
Sunday, September 5, 2021 19:30 - 20:40
≪Artists≫
José Cura – conductor
Polina Pasztircsák – soprano
Elisa Balbo – soprano
Roxana Constantinescu – alto
Ramón Vargas – tenor
Marius Vlad Budoiu – tenor
Nicolas Testé – bass
Ciprian Ţuţu – choirmaster
Radio Romania Academic Choir
Răzvan Rădos – choirmaster
Radio Romania Children’s Choir
≪Programme≫
JOSÉ CURA Modus (from Argentinian Requiem)
JOSÉ CURA Te Deum
— Interval —
JOSÉ CURA Ecce Homo
≪出演者≫
フィルハーモニア管弦楽団、ロンドン
ラジオアカデミック合唱団
ルーマニア放送子ども合唱団
ホセ・クーラ作曲家&指揮者
≪プログラム≫
ホセ・クーラ作 「Modus」(「アルゼンチンのレクイエム」よりキリエ)
ホセ・クーラ作 「テ・デウム」 フェスティバル25周年記念ヴァージョン(世界初演)
POLINA PASTIRCHAK ソプラノ
ホセ・クーラ作 「この人を見よ」 (3曲構成=マニフィカト、ゴルゴダ、スターバト・マーテル)
エリーザ・バルボ (マリア役・ソプラノ)
ラモン・バルガス(キリスト役・テノール)
ロクサナ・コンスタンティネスク(アルト)
MARIUS VLAD BUDOIU (テノール)
二コラ・テステ (バス)
VLAD IVANOV (ナレーター)
≪ クーラのFBより ≫
●無事成功し、満足そうな表情のクーラと出演者、オケ。合唱団の子どもたちに囲まれるクーラの姿も
"ミッション達成! コロナ禍の影響で困難を極めたが、やり遂げることができた。ミュージシャン、合唱団、ソリスト、カルメン・ヴィドゥ率いるビデオクルー、ロベルト・ガブリエル率いるラジオクルー、そして気配りのできる控えめな警備員を含むバックステージチーム、全員の努力に感謝する。スタンディングオベーションは皆さんのためにある。皆さん、ありがとう”
≪ 多彩な映像によって表現されたステージの様子 ≫
●クーラのFBで紹介されたカメラマンのアルバム
今回のコンサートでは、カルメン・ヴィドゥさんを中心とした映像チームによって、クーラとの打ち合わせをふまえ、舞台背景に様々な画像が投影され、曲のイメージをふくらませ、メッセージをより鮮明にするうえで効果を発揮していました。
前回の記事で紹介しましたが、クーラは映像チームに対し、”聖書の場面を使うのではなく、今を語ってほしい”と依頼したのだそうです。上記のカメラマンのFBに掲載された多数の舞台写真を見ていただければわかるように、基本的にはそのクーラの要望どおり、多くの、現代の世界をめぐる困難、紛争、難民、差別、貧困と格差の実態を示す画像がありました。苦しみと悲しみ、苦悩、絶望、怒り、そしてそれに抗して立ち上がる人々の姿、「人間の優しさを求めて」というプラカードにもあったように、祈り、善意、行動と連帯、愛と人間の温かさ、子どもたちの姿に託された未来への希望などを象徴するような画像もたくさん表示されていました。
クーラが3曲のキリストと聖書を題材にした曲を書いたのも、単に聖書の物語やキリスト教の世界観を表現したかったというより、現在の世界の困難を見すえ、それを変えていく方向で困難に打ち勝とうとする努力と行動、人間性、ドラマを描き出したのだと思います。
≪ 曲の解説ーーフェスティバル公式サイトより抜粋 ≫
フェスティバルの公式サイトに掲載された公演後の記事に、曲目の理解を助けてくれると思われる内容がありましたので、抜粋して紹介されていただきます。
●「Modus」について
” 最初の曲「Modus」(「アルゼンチンのレクイエム」からの抜粋の「キリエ」と表記)は、コラールボーカルによる聖歌で、ピアニッシモからクレッシェンドを経て、最後は破壊的なフォルテで終わり、宇宙に散るように退く。ヴォーカルはシンプルなメロディーラインだが、神を崇める賛美歌のようなイメージを持っている。”
●「テ・デウム」について
” 2021年の25周年に向けて、多面的な芸術性をもつクーラが作曲した、ソリスト、合唱団、児童合唱団のための「テ・デウム」が、伝説的なロンドン・フィルハーモニア管弦楽団の演奏によって、ブカレストの人々に初めて披露された。この作品は、合唱団(ルーマニア・ラジオ放送局のラジオ・アカデミック合唱団と児童合唱団の演奏で始まり、ソプラノのポリーナ・パスティルチャク(Polina Pastirchak)が加わった。会場は温かい拍手に包まれた。”
●「この人を見よ」について
” 最後はオラトリオ「この人を見よ Ecce Homo」で、1988年に作曲をスタート(Magnificat)、数年後に継続されて(Calvarium)、その後(Stabat Mater)で終結ーー聖書の場面、キリストの生涯の始まりの第1部と、受難と十字架にかけられたイエスのそばでの聖母マリアの祈りである残りの2部で構成された重厚な3部作が生まれた。
合唱団に加え、ソリストとしてエリーザ・バルボ(ソプラノ:マリア)、ラモン・ヴァルガス(テノール:キリスト)、ロクサナ・コンスタンティネスク(メゾソプラノ:マグダレーナ)、マリウス・ヴラド・ブドイウ(テノール:ユダ、トリビューネ、イオアネス)、ニコラ・テステ(バス:ヴォックス・クリューラエ、カイファ、ピラトゥス)、ナレーターのヴラド・イワノフが参加した。
オラトリオの構成は、プロローグ(「昔々、あるところに王がいた...予測不可能な王が...」)が語られた後、救世主イエスを讃えるソプラノの歌声が、澄んだ声色で、高音のアクセントがしっかりと支えられたデクラメーション(「私の魂は主を讃える...慈しみは世代を超えてとどまる」)で構成されていた。Calvariumへの準備にはほとんど光がなく、その後、テノールの宣言が特徴的であった(「父よ、私の魂を叱らないで。私の骨は傷つき、私の魂は悩んでいる」)。よく知られている「あなたたちの1人が私を売るであろう」は、「彼を十字架につけろ!」というシーンの前にイエスが発した予兆であり、コーラスの叫び声とオーケストラの効果が交互に繰り返され、ドラマを盛りあげている。子どもたちの声は求められる純粋さをもたらす。しかし、「父よ、彼らをお許しください。彼らは自分が何をしているのかわかっていないのだ」という答えが返ってくると、「彼らを十字架から降ろして」という猛烈な叫び声が聞こえてくる。
最後の「Stabat Mater dolorosa」(泣いている十字架のそばで)では、ソプラノが素晴らしい嘆きを歌い、メゾソプラノが「通り過ぎる人たち、私のような悲しみがあるかどうか見に来てください」と告げる。フィナーレは、イエス・キリストが「あなたの手に私の魂を委ねる」と言う。ECCE HOMO。アーメン。
作曲家はここで止めた。なぜか?主の復活の奇跡は現実から遠すぎるということかもしれない。
指揮者であるホセ・クーラは、慎重で規律正しい歌手としての生涯の経験から、劇場のピッチやコンサートのステージからヒントを得ずにはいられなかった。彼は正確に、入口を与え、ニュアンスを高め、快適に、大げさでなく。卓越した器楽奏者と素晴らしい合唱団が、ソリストたちとともに見事に応えてくれた。… "
≪ 視聴可能な録音と録画 ≫
●クーラの公式YouTubeチャンネル「José Cura MUSIC」より
クーラが公式に提供している動画チャンネルのなかで、これまで数回、「この人を見よ」の録音の抜粋をアップしています。
音声のみですが、2つリンクを紹介します。
Ecce Homo - Antiphona
●オペラ動画チャンネルにアップされた抜粋
こちらはオペラ動画チャンネルに今回演奏された「この人を見よ」の動画の一部がアップされ、そのリンクを紹介したツイートです。
いつまで視聴可能なのかわかりません。
Jose Cura conducts his own works Bucharest 2021 Vargas Testé Vlad Pastirchák
— Opera on Video (@on_opera) September 6, 2021
..Concerts,.all other composers
PLEASE RETWEET https://t.co/QxbBRBqz1P #operaonvideo website with 17000 #opera...
≪ 出演者のSNSより ≫
多くの出演者、舞台、放送関係者、合唱団関係者などの方々が、たくさんSNSで発信していました。
●合唱団関係者のコメントから
なかでも印象的だったのは、合唱団の指導者、関係者の方たちのコメントです。子ども合唱団もふくめて、クーラの今回の作品には合唱の役割がとても大きかったのですが、本当に素晴らしく、ドラマを盛り上げ、展開させ、希望の光をもたらす役割を果たしてくれました。
” リハーサルは終了した。私たちは皆、アーティストであるホセ・クーラの個性に魅了されている...このコンサートがさらに数日後であれば、リハーサルの独特の雰囲気をもう少し長く楽しむことができたのにと、本当に思った。なんて美しい時間だったことか。しかしコンサートは今夜なので、合唱団、オーケストラ...みんなの努力の集大成にしたいと思う。”
また別の方からは、こういうコメントも。
” 何千もの感情。一生に一度のコンサートで一日が終わる。ホセ・クーラは芸術の魔術師であり、私たちを人間としての優しさ、つまり感謝に満ちた愛の状態に戻すために生まれてきた魂だ。… このような貴重な体験ができたことは、この上ない喜びだ。”
●アルトのロクサナさんのFB
その他、出演者の投稿のなかから1つだけ、アルトのロクサナさんがFBにアップしてくれた写真を紹介させていただきます。
今回の曲は、いずれも女声の役割はとても大きかったのですが、マリア役のエリーザさんをはじめ、みなさん本当に美しく、素晴らしいドラマティックな歌唱を披露してくださいました。もちろん、男声のラモン・ヴァルガスさん、二コラ・テステさん他、またナレーター役のルーマニアの俳優さんなど、全ての出演者の方々とオケの力が発揮されての成功だったと思います。
*画像などは動画や出演者、関係者のSNSなどからお借りしました。