今年2020年11月に予定されているバーリ歌劇場のアイーダへの出演がどうなるのか、ホセ・クーラの公式カレンダー更新を今か今かと待っていましたが、1/9現在、まだ更新されていません。1/3にクーラがFBで、公式HPをチェックするよう告知し、HPがリニューアル中だということが知らされました。カレンダー発表は、もう少し待つ必要があるようです。
そしてHPには、新年の大きなニュースとして、3つが紹介されていました。
①1月29日、ブダペストのリストアカデミーで、クーラ作コミックオペラ「モンテズマと赤毛の司祭」の世界初演
②クーラ作曲オラトリオ「Ecce Homo」録音、イースターにむけてリリース。 詳細については、Facebookページですぐにお知らせ予定
③3月29日、4月1日、4日、7日、サムソン(オペラ「サムソンとデリラ」)で、ウィーン国立歌劇場へ戻る → 告知とライブ放送紹介記事
そこで今回は、世界初演が間近に迫ったクーラの初オペラ作品について、公開されている情報を、クーラのSNSやインタビュー、オケや劇場のHPなどからまとめて紹介したいと思います。
なお、この世界初演の場を提供したハンガリー放送芸術協会は、今シーズンからクーラを主席客員アーティストとして迎え入れ、歌、作曲、指揮など、多面的な活動でのパートナーシップを結んでいます。当面する今シーズンプログラムやこれまでの活動についてもブログ記事で紹介しています。
●クーラの公式HPより
●クーラ FBでオペラ初演の告知とメッセージ
”私のオペラ「モンテズマと赤毛の司祭」の世界初演まであと20日。誰もがそれを楽しむことを望んでいるが、人々がそれを好む、好まないは、正当な選択肢だ。しかし、何が起こっても、そこに参加した人たちは常に、「私はそこにいた」と言うことができる...。お見逃しなく!”
≪ハンガリー放送芸術協会HPの告知≫
José Cura: MONTEZUMA AND THE RED PRIEST – comic opera (world première)
Hungarian Radio Symphony Orchestra and Choir (choirmaster: Zoltán Pad)
Conductor: José Cura
Music Academy, Great Hall 2020-01-29 szerda 19:30
(Cast)
The Baron/Motezuma: Matias Tosi
Francisquillo: János Alagi The Lover/Mitrena: Katalin Károlyi Filomeno: Zoltán Megyesi
Vivaldi: Donát Varga Scarlatti: József Gál Händel: Domonkos Blazsó
The Nun: Borbála László The Innkeeper/The Gondolier/The Friar: Róbert Rezsnyák Teutile/Quintet 1/Woman 2: Nóra Ducza
Fernando/Quintet 2/Woman 4: Bernadett Nagy Ramiro /Quintet 3/Woman 1: Kornélia Bakos
Pignatta/Quintet 4/Man 1: József Csapó Quintet 5,/Man 3: Szabolcs Hámori
Woman 3: Katalin Süveges Man 2: Gábor Pivarcsi
Woman voice: Gabriella Sallay Man voice/A spectator: Péter Tóth Stage Manager: Pál Kálmán Könyves
The Orphans:
Bianca Maria: Fruzsina Varga (flute) Claudia: Melinda Kozár (oboe) Cattarina: Yoshie Toyonaga (clarinet)
Lucietta: Dóra Béres (trumpet) Pierina: Ildikó Fazekas (violin) Margherita: Rita Keresztes (violincello)
Giuseppina: Gerda Kocsis (contrabass)
Organ, harpsichord continuo: Soma Dinyés
「モンテズマと赤毛の司祭」 コミックオペラ(世界初演)
2020年1月29日 19時30分~22時
ホセ・クーラ 脚本・作曲
マティアス・トッシ(バリトン) 他
ハンガリー放送交響楽団、合唱団(合唱指導:ゾルタンパッド)
指揮者:ホセ・クーラ
リスト音楽院大ホール ブダペスト
”ホセ・クーラ自身が、オペラブッファ「モンテズマと赤毛の司祭」の台本を書いた。その出発点は、アレホ・カルペンティエールの幻想的な小説『バロック協奏曲(”Concierto barroco”)』(1974年)であるが、これは明らかに、ヴィヴァルディのオペラ『モンテズマ』の誕生に関するものであり、文学的、そして当然、音楽的な想像力の両方に巨大な想像力を提供している。”
≪リスト音楽院HPの告知より≫
”ここ数年、私は歌のリクエストをあまり受け入れてこなかった。そしてようやく、最初の決断、私が実際にプロのミュージシャンになるために勉強した職業に戻ることができた。これは作曲と指揮に他ならない。”
(上記の告知記事で紹介されたクーラの言葉)
≪ハンガリーでのインタビューより≫
Q、来年1月(記事は2019年公表。2020年1月に初演)、あなたのオペラ「モンテズマと赤毛の司祭」の世界初演が、ハンガリーのブダペストにあるフランツ・リスト音楽アカデミーで開催される。あなたはオペラを指揮する。そのオペラを作曲するのに何年かかった?
A(クーラ)、込み入った答えになるだろう。1987年、私の友人が最初のページに献辞を記した小説をくれた。「この小説にはとても良い台本を見出すことができる」と。当時、私は非常に若く、オペラの経験がなかった。どこから始めればいいのかわからず、あきらめた。
30年後、2017年に、娘が私に尋ねたーー「パパ、図書室を整理しようか?乱雑だから、本を探す必要があるたびに、それを見つけることができない」。蔵書の全体を並べ替えている間に、小さな本が再び出てきた。私はそれを開いて、ある午後、台本の草案を書いた。
私は妻に言ったーー「おお、私は天才じゃないか!午後だけで台本全体を書きあげた」。妻は答えたーー「あなたは間違っている。午後だけでそれを書いたのではなく、30年かかって書いた」。彼女は正しかった。ある午後にその台本を書きおろすには、30年の経験が必要だった。
しかし、私は2017年の夏に2ヶ月でその音楽を作曲した。それを1年半の間、熟成するために落ち着かせてから、オーケストレーションするために2019年に再び取りだした。これで準備は完了したが、初演後にまた調整すべきことがでてくるのは確かだ。こうするのは日常的なことだ。
Q、バロック、古典派、ロマン派、20世紀のどの音楽の時代があなた自身の音楽に影響を与えている?
A、私たちの時代の人々は、500年から600年の音楽の偉大な財産を受け継いでおり、幸運だ。ただひとつの時代に影響されていると言うのは非常につまらないことだ。
今日の作曲家の秘密は、過去から受け継いだすべての要素を使用し、それらを組み合わせて、そこから何かを作りだすことだ。オリジナルになる唯一の方法は、すでに発明されたものを発明しようとすることではなく、その経験をすべて大きなカクテルグラスに注ぎ込んでシェイクし、素敵な飲み物を作ろうとすること、そしてあなた自身の他とは違う個性を通してそれを引き出すことだ。それが、結果として作品をユニークにするのに十分だ。
ヨハン・セバスチャン・バッハの後、この世で新しいものは何もない、とモーツァルトと呼ばれる男は言ったが…。
インタビューでもふれていましたが、クーラは、50歳になって以降、徐々に歌の公演を減らし、本来の志望であった指揮者、作曲家、そして演出家としての活動の比重を高めてきました。もちろんオペラやコンサート出演など、歌を続けてきましたし、またワーグナーの仏語版タンホイザーへの挑戦や、ブリテンのピーター・グライムズの演出・主演など、歌手としても新たなチャレンジをしながらですが、指揮、演出・舞台デザイン、衣装・照明、作曲作品の上演など、多面的な芸術活動を発展させてきました。今回の新作オペラの世界初演は、こうした多面的な活動のひとつの結晶であり、あらたな大きなチャレンジです。
クーラのオペラ「モンテズマと赤毛の司祭」の原作、アレホ・カルペンティエールの小説『バロック協奏曲』は、日本でも翻訳・出版されていました。現在は入手しにくくなっているようですが、私はサンリオSF文庫の中古本を入手して、読んでみました。決して長くはないのですが、なかなか突拍子もない物語で、時代を超えて話が展開していきます。旅する主人公がイタリアで、ヴィヴァルディとヘンデル、スカルラッティという3人の巨匠と出会い、ヴィヴァルディのオペラ「モンテズマ」が誕生していく様子が描かれています。そこにワーグナーの話がでてきたり、ルイ・アームストロングのトランペットが音楽を奏でたりと、意表を突くドタバタ喜劇のような展開をしながら、南アメリカのアステカの王モンテズマと、アステカを征服し滅ぼしたスペイン、植民地宗主国の存在、こうした歴史的な構造も示されていきます。作者カルペンティエールはキューバ出身、音楽の素養が深く、音楽学者でもあり、作家、評論家だったそうです。このような複雑で少し難解、幻想的で魅力的、そして不思議な物語を、クーラはどのような脚本に仕上げ、どのような音楽をつけたのでしょうか。放送や映像化を期待せずにはいられません。
これらの題材となったヴィヴァルディのオペラ「モンテズマ」は、楽譜が行方不明になって幻の作品となっていたのが、最近になって2002年発見されるという、ドラマティックな経過をもっているようです。ネットに、上演された「モンテズマ」の録画がありましたのでリンクを掲載しておきます。
Motezuma - Vivaldi 1-2
Motezuma - Vivaldi 2-2
*画像はハンガリー放送文化協会のHP、クーラのFBなどからお借りしました。