長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

警部殿は、最期まで無茶であらせられたかったのだろうか……最敬礼!!

2015年08月03日 21時37分39秒 | すきなひとたち
俳優の加藤武さん、サウナで倒れ急死 86歳 前日まで元気だったのに……
 (スポニチアネックス 2015年8月2日付け記事より)

 劇団文学座の代表で、市川崑監督の映画「金田一耕助シリーズ」の警察官役など、名脇役として活躍した俳優の加藤武(かとう・たけし)さんが7月31日夜、東京都内の病院で死去した。86歳。死因は不明。東京都出身。葬儀・告別式は親族だけで行う予定。持病はなく、最近も多忙な日々を過ごしていたが、トレーニングに訪れたスポーツジムのサウナで倒れ、帰らぬ人となった。

 文学座によると、加藤さんは大きな病気をした経験がなく、最近も元気だった。時間があればスポーツジムに通い、エアロビクスなどで汗を流していた。31日はジムのサウナで汗を流していた際に倒れた。都内の病院に搬送され、死亡が確認された。詳しい死因は分からないという。
 亡くなる前日の30日には、東京・信濃町の文学座で、月次定例会に出席。普段と変わらぬ様子だったといい、関係者は「全くもって元気だった。」と驚きを隠さない。17日には俳句の会に出席、19日には朗読会を上演していた。
 9月26日から岐阜県可児市で主演舞台『すててこてこてこ』が上演される予定で、今月後半から始まる稽古に向けて準備していた矢先の訃報だった。

 加藤さんは、1929年5月24日、東京都・築地小田原町(現・中央区)生まれ。早稲田大学英文科卒業後、中学校教諭を経て、1952年に文学座に入団。こわもての風貌と愛きょうのある演技で、悪役や個性の強い役どころを務め、2007年に亡くなった北村和夫さんとともに、文学座の中核俳優として活躍した。
 市川崑監督の映画『犬神家の一族』(1976年)や『八つ墓村』(1996年)などの、横溝正史原作の「金田一耕助シリーズ」で演じた警察官役では、「よーし、分かった!」の決めゼリフで作品に欠かせない存在だった。その他、『隠し砦の三悪人』(1958年)などの黒澤明監督作品にもたびたび出演。『悪い奴ほどよく眠る』(1960年)では、同じシーンを30回以上撮り直し、強烈な照明の熱さに耐えかねて倒れそうになったことも。「三船敏郎さんがひゅっと差し出した水を飲んだら、はっと我に返り、それで OKが出た。」とスターから受けた恩を忘れず、半世紀以上たってもうれしそうにこのエピソードを語っていた。
 『仁義なき戦い』、『釣りバカ日誌』といった人気映画シリーズや、『風林火山』(2007年)などの NHK大河ドラマでも、印象的な脇役を演じた。今年2月、演劇界への長年の貢献が認められ、読売演劇大賞の芸術栄誉賞を受賞した。

 加藤さんは、演技以外の活動にも精力的だった。太鼓打ちの名手としても知られ、低音の声で朗読劇や海外ドラマ、アニメの吹き替えでも活躍。今年1月に都内で行った朗読独演会では、「舞台でも何でもやりたい。いつも意欲を持ってないと駄目。命ある限りやってやりたい。」と熱く語っていた。

 夫人を1995年に亡くしてからは一人暮らし。2人の娘がいる。
 東京都杉並区内にある加藤さんの自宅は、電気がついておらずひっそりとしていた。訃報を知り自宅前に来た女性は、「よくセリフの練習をされていて、声が外に漏れ聞こえていました。」と語り、別の女性は、「よく自転車で買い物に出掛けられてました。先月お見掛けした時はお元気そうだったのに……」と、突然の悲報に驚いていた。
 葬儀・告別式は親族のみで行う。文学座が、お別れの会か劇団葬を開くことを検討している。



 ……無茶をするのは、捜査だけにしてほしかった。

 2代目・橘警察署長(『犬神家の一族』)にして8代目・等々力大志警部にして、11代目・磯川常次郎警部たる加藤武さん、逝く……って、刑事役やりすぎだろ!! おまけに『天河伝説殺人事件』でもセルフパロディやっちゃってるし。

 しかし、悲しむべき訃報であることは当然なのですが、齢86にして、「事故死」なわけでしょ? これは、たぶん。
 すごいですよね……まだまだ現役で生きていく気マンマンだったんじゃないですか!! そのご高齢でまだ「寿命」じゃなかったって、あなた! 松永弾正久秀じゃないんですから……

 個人的には、作品がおもしろかったかどうかは別にしても、市川版『獄門島』(1977年)のころの絞り込まれたスタイルがいちばん好きだったなぁ。その後はじょじょ~に丸くなってきてましたからね。あのキャラクターは太ってると、どうもねぇ。胃薬のんで捜査してるくらいなんだから。
 でも、歳を重ねてつけ眉毛もカドも取れた、「片岡金田一シリーズ」の磯川警部役もステキだったなぁ。いや、俳優として活き活きとしてらっしゃったのは、むしろこっちのほうだったのかも知れませんよね。

 なんか、ただの訃報に終わらず、「えっ!?」と唖然としてしまうような、どことなく陽性な去り際になってしまっているのが、いかにも加藤武さんらしい、みたいな。

 まぁなんにしても、体調管理は大事ですよ、ホント! いや、ご本人は確信的に体調管理のつもりでやってらっしゃったんでしょうが、過度なトレーニングが逆にあだとなってしまった感は、どうにもいなめず。
 80代で一人暮らし……いまどき珍しくない話ではあるんだろうけど、天下の文学座の代表ですし。損失ははかり知れないやね。


 あ~、加藤さんの「ダメ刑事」パターンを一新してくれる新星が活躍する、ちゃんと横溝原作をもとにしている金田一耕助シリーズ、出てきてくんないかなぁ。
 でも、そもそも原作小説に出てくる刑事さんがたって、あれほどダメじゃないんですよね……やっぱり、演じる俳優の個性が直接の動力源になって生まれるオリジナルキャラクターって、単純なだけ強いよなぁ。しかもただ陰険なだけじゃなくて、実は節度のあるいい人だしね。ズルい!

 とにもかくにも、合掌。
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在りし日の名曲アルバム  鬼束ちひろ『僕等 バラ色の日々』

2015年08月01日 22時05分01秒 | すきなひとたち
鬼束ちひろ『僕等 バラ色の日々』(2007年9月19日リリース UNIVERSAL SIGMA )

時間 9分18秒

 『僕等 バラ色の日々(ぼくらバラいろのひび)』は、鬼束ちひろ(当時26歳)の13thシングル。
 4thアルバム『 LAS VEGAS 』(2007年10月リリース)に先駆けてリリースされた、小林武史のプロデュースによるシングルの第2弾。
 オリコンウィークリーチャートでは最高13位と、3rdシングル『 Cage 』(2000年11月リリース 最高15位)以来、6年10ヶ月振りにオリコントップ10位割れとなり、初動売上枚数も前作『 everyhome 』を下回った。

収録曲
作詞・作曲  …… 鬼束 ちひろ
プロデュース …… 小林 武史

1、『僕等 バラ色の日々』(5分07秒)
 ピアノとストリングスを基調としたロックバラードで、ピアノの重低音を重視したり打ち込みのドラムスを使用するなど、活動休止以前にはなされなかった方法が試みられている。リリース当時のインタビュー記事によれば、楽曲そのものは2004年6月の所属音楽事務所の移籍前に制作されたものであり、レコーディングは活動休止中の2005年に済ませたものであるという。
 タイトルの『バラ色の日々』とは、本人曰く「字面で見れば楽しいイメージであるも、(そのイメージを)繰り返し求めることに対する皮肉を込めている。」ということであり、楽曲の世界観を、「その何度も何度も繰り返す行為が表す人生観を絶望的にぼんやり見ている」、「絶望と手をつないで歩いている」と説明している。楽曲は、バラの花びらがくるくると旋回しているイメージで書き上げたという。ちなみに本人は、黒に近い真紅のバラが好きであるという。

2、『 NOW 』(4分11秒)
 2004年10月にリリースした11thシングル『育つ雑草』のカップリング曲『 Rainman 』以来の英語詞による楽曲。リリース当時のインタビュー記事によれば、『僕等 バラ色の日々』と同時期(2004年の移籍前)に制作されたもので、本人曰く「このメロディだったら英語。」という理由で英語詞で書き上げられた。
 復帰作『 everyhome 』や4thアルバム『 LAS VEGAS 』の収録曲『 Angelina 』と同様に、2007年2月の鬼束ちひろ復帰の発表と共に曲名のみが明らかにされていたもので、2007年の復帰後の楽曲の中では、最も早く存在が告知されていた曲のひとつだった。


 というわけで、2007年から始まった小林武史プロデュース体制によるシングルの第2弾でございます。
 この作品がリリースされた当時、CD屋さんでタイトルを見て「バラ色って……そんなハイテンションなタイトル、どうした鬼束さん!?」と色めき立って購入したのですが、家で聴いてみたら驚くほど通常運転な鬼束さん過ぎて拍子抜けしたという思い出があります。名曲ですけどね。

 このシングルの2作は、どちらも2004年にすでに制作されていたという話の作品なのですが……なぜ? この翌月に満を持してリリースされるファン超待望の4thオリジナルアルバム(3rdから4~5年ぶりですよ!)の先行シングルという重要な立ち位置なのに、なぜに最新作でなく古~いやつを押し出すのか? レコード会社の移籍前に制作されていたって、つまり、あの11thシングル『育つ雑草』よりも昔の作品ってこと!?

 当時のファンからしてみれば、レコード会社がどうこうという「すったもんだ期の鬼束さん」よりも、今現在小林プロデュース体制の中で彼女が創出した最新アップデート版の音楽世界に触れたいという気持ちが強いのではないかと思うのですが、そこをなぜあえて、羽毛田時代の影響色濃い2004年の2作で押し通って行こうとしたのでしょうか。

 実際に、タイトル曲の『僕等 バラ色の日々』の歌詞世界は、もう何度かこれまでにも聴いてきた「生きることの不自由さ、愚かさ」を訴えるもので、タイトルの陽気な印象とは全く逆にせつなく、悲壮感たっぷりに繰り返される出逢いと別れの悲しみを唄い上げるものとなっています。皮肉がきいてますねぇ!
 いつものように、「どうぞ手を離して」や「消えて行く まるでいなかったように」と言ったそばから「ああ僕等バラ色の日々」とつながり合う輪舞のような人間関係、「この闇は光だと言い聞かせた」、「君が泣くように笑うから」、「凍えては火傷しながらも」、「噓をつき過ぎて本当になったこの世界」などと、矛盾しまくる僕等や世界を、肯定するでもなく否定するでもなく受け入れていく諦念がつづられている作品なのですが、「楽園は遥か向こうで」に象徴されるように、かつて神の子だったはずの人間たちが、エデンの園を追放されてなぜこれほどまでに苦しみながら生きていかねばならないのかと問い続ける、鬼束さんの内面に渦巻く自問自答がありありと感じられます。
 そういえば、サビのとっかかりの「人は迷子に」と「人は飛べずに」の部分で、「に」のところだけ一瞬高くなるというか、まるで頭上の天使から耳を引っ張られたかのように「にぃい~!」と引きつってしまうところが、幸せにひたっているところで冷水をぶっかけられるごとき意地悪さに満ちていますよね。ここ、鬼束さんが自分で作っていながら、自分に思いもかけない負荷をかけているようで地味にすごい作曲センスだと思います。

 鬼束さんにはキリスト教的な考え方があるのでしょうが、私は生まれてこのかた100% 禅宗ストレートの人間なので、これを「鬼束式禅問答ソング」と表現してしまいますが、この「生きている限り永久に続く苦しみとよろこび」をテーマにしている曲をアルバムの先行シングルの A面に持ってくるあたり、荒涼とした灰色の大地に一輪の花を見いだす奇跡を信じ続けようとする人々へ勇気を与えるまなざしが生まれているような気がします。
 聴いた感じは、確かにさほど羽毛田時代の鬼束さんとは変わっていないような気がするのですが、歌を誰に対して唄っているのかという方向性の見方で言うのならば、鬼束さんは「過去の自分」に対して唄っていた時期から、明らかに「今なお苦しんでいる自分に似た人々」に対象をシフトしたような気がするんですね。
 これ、まさに菩薩なり! どっちかというとマリア観音か。いかにも、鬼束さんを信奉する人々は現代の隠れキリシタンと言えるかも。生きづら~!!

 もう一つ、この古めの時期に制作された作品を最新アルバムの先触れに抜擢した理由としては、逆にそういった曲でも、小林プロデュースでここまで新しくアップデートできるんだぞという、新体制としての自負と手ごたえがあったからなのではないでしょうか。
 確かに、よくよく聴いてみるとこの曲は後半でのドラムスによる盛り上がりが非常に印象的で、「あぁ、今はすっごく幸せだけど、きっとまたあの地獄に戻るんだろうなぁ神様よう!!」という哀しすぎる予感をビンビンに感じさせる無常観を引き立てていますね。ヤだな~ヤだな~!!
 ただ、ここで特筆すべきなのは、バンドもそうとう音を主張しているはずなのに、あくまでも楽曲の中心にいるのは鬼束さんの歌声である、というところだと思うんです。ここが小林体制のオリジナリティなのではないかと。
 つまり、羽毛田体制では、鬼束さんの歌声ありきではありつつも、ピアノや弦楽器、アイリッシュホイッスルといった伴奏の主張もなかなか強く、ともすれば鬼束さんの歌詞世界に合ってるのか?とも思えてしまう対等、ともすれば対立の力関係が見られたのですが、小林体制はよわい25も過ぎて十二分に成長した鬼束さんのプロとしての歌声を全面的にバックアップする関係を、今回の13thシングルで表明しているわけなんですね。
 2004年制作の作品ということもあってか、前作の12thシングル『 everyhome』で宣言していた「自分以外の人物や作品をモチーフにする」というスタイルが、その直後の今作で思いッきりなかったことにされているのが剛毅すぎるのですが、それもまぁいつも通り、人間の矛盾をありのままに謳い上げる鬼束さんの真骨頂といったところでしょう。朝令暮改を恥ずることなかれェエイ。

 その一方で、カップリング曲の『 NOW』に関してなのですが、これ、歌詞の内容でいくともっとロック調でハイテンションな盛り上げ曲になるのが常道なはずなのに、「今よ、今よ!」と言いながらも、どことなく後ろ髪引かれるというか、立ち上がる腰がめっちゃくちゃ重いことを表すかのようにねっとりしたバラードになっているのが特色だと思います。ここでも、「今だ」という決心と、それでも未練なく歩きだすことに踏み切れないでいる迷いとの両面を皮肉に浮き彫りにする姿勢が見てとれるんですね。
 最後の最後の「♪いっつ、なぁあ~ぅう……」という消え入るような絶唱を聴いて、この世界の主人公が本当に歩きだしている姿をイメージできる人はどのくらいいるのでしょうか。う~ん、いくのは明日かナ!? でもそれでいいじゃねぇかという、海よりも広いふところの深さよ。

 今回の13thシングルと前回の12thシングルは、確かに誰が見てもわかるような鬼束さんの新時代をあらわすものにはなっておらず、むしろ変わらず彼女の作品世界を貫いている「矛盾こそ自然、矛盾こそ人間。」という強固な人生観をさらに強化させるものになっていると思います。でも、10thシングル『私とワルツを』以来4年にも及ぶ漂泊の旅を続けてきた末に、つかの間かも知れないにせよ腰を落ち着ける安住の地をついに見いだした鬼束さん。

 さぁいよいよ、新たな地平に築き上げた4thアルバムが生まれる素地は整いました! 一体どんな世界が、そこには広がっているのかな!?
 そこは、まことの薔薇が咲き乱れる理想郷か、それとも~!?
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在りし日の名曲アルバム  鬼束ちひろ『 everyhome 』

2015年07月28日 22時51分16秒 | すきなひとたち
鬼束ちひろ『 everyhome 』(2007年5月30日リリース UNIVERSAL SIGMA )

時間 15分1秒

 『 everyhome(エヴリホーム)』は、鬼束ちひろ(当時26歳)の12thシングル。
 前作シングル『育つ雑草』(2004年10月リリース)から、実に2年7ヶ月におよんだ活動休止期間からの復帰シングル。。本作から、音楽プロデューサーに小林武史(当時47歳)を迎えている。また、この作品からは鬼束の個人事務所である NAPOLEON RECORDS(2007年4月1日設立)と、マネジメントを一部請け負う烏龍舎との共同マネジメントで作品をリリースすることとなる。
 かねてから小林の音楽性や創作スタイルに共感し、特に彼のプロデュースした YEN TOWN BAND(1996年~)の音楽性に強く惹かれていた鬼束が小林に会うことを切望し、2005年の夏に初対面を果たす。2006年春にスタジオに入り小林とデモセッションをして、タイトル曲である『 everyhome 』が生み出された。小林は、鬼束の楽曲のクオリティの高さとアーティスト性を高く評価して彼女のサポートを決めたと語るが、当時まだ楽曲のストックが少なかったため、鬼束は2006年いっぱいを楽曲制作にあてたという。本格的なレコーディングがスタートしたのは翌2007年2月であり、翌3月17日に開催された小林主催のライブフェスティバル『 AP BANG! 東京環境会議 vol.1』出演の直前までレコーディングが行われたという。
 楽曲は全て、鬼束のボーカルと小林のピアノ(『秘密』はキーボード)が同時録音されている。また小林は、鬼束のアーティストとしての個性を重視した上で、あくまでアレンジャーとしての作業を中心として行い、詞曲はほとんど修正していないという。
 歌唱と伴奏を同時収録した作品であるため、本作にはインストゥルメンタルが収録されていないが、本作以降、鬼束のシングル作品にはインストゥルメンタルは収録されなくなる。
 オリコンウィークリーチャート最高9位を記録した。

 鬼束の作詞法は、『 everyhome 』を契機に変化が生じたという。それまでは感情をぶちまけるように歌詞を書くという手法が主であったが、本作以降は、「自分が他の歌手だったらこういう書き方をする。」というように自分を客観的に見て歌詞を書いたり、映画の映像から受けた印象をモチーフとして歌詞を書くようにもなってきていると語っており、例えば『 everyhome 』は『フォレスト・ガンプ』(1994年)、『 Sweet Rosemary 』(4thアルバム『 LAS VEGAS 』収録曲)は『ギルバート・グレイプ』(1993年)、『 bad trip 』(『 LAS VEGAS 』収録曲)は『スパン』(2002年)からインスピレーションを受けているという。


収録曲
作詞・作曲  …… 鬼束 ちひろ
プロデュース …… 小林 武史
1、『 everyhome 』
 ピアノのみというシンプルな伴奏で制作されたバラード。2007年3月17日に開催された小林主催のライブフェスティバル『 AP BANG! 東京環境会議 vol.1』で初披露された。2007年5月のインタビューによれば、鬼束曰く、「風が大きなテーマになっている」、「映画『フォレスト・ガンプ』を観ていたら曲が出来た」。また鬼束は、通常ならば数時間で楽曲を書き上げるが、この曲は「3日かかった」と、それまでにはない長時間を要したことを語っている。

2、『 MAGICAL WORLD 』
 ピアノとチェロのみの伴奏で制作されたバラード。『 everyhome 』と同様に、『 AP BANG! 東京環境会議 vol.1』にて初披露された。鬼束曰く、「小林武史のイメージをもってして曲を作った」、「寂しい部分も持っている人なのではないかと想像して書いた」。

3、『秘密』
 本作のリリースまで未発表となっていた新曲。バンドサウンドで制作された。


 ……ということでありまして、我が超零細ブログ『長岡京エイリアン』の中でもひときわ屈指の「問はず語り企画」といえる、この鬼束さんの音楽作品を時系列順にたどりブツブツつぶやくくわだても、いよいよここまでやって来ました。
 とは言いましても、単純に時間だけで見ますと、鬼束さんのプロデビューは2000年の19歳のときですから、今回の『 everyhome』のリリースされた2007年までは、たかだか10年もかかっていません。鬼束さんも27歳だし、まだまだ若いですよね。

 でも、こと鬼束さんに関しては、この「羽毛田丈史プロデュース時代」が終わり、新たな「小林武史プロデュース時代」が始まるというタイミングは、かなり大きな転換点であり、鬼束さんのキャリアの「中期」の起点となっていると思うのです。
 いや~、前作の11thシングル『育つ雑草』(2004年)の爆発(暴発?)から3年でございます。まさにアニメ版『風の谷のナウシカ』のドロドロ巨神兵のごとき存在となってしまった(この例え使うの何回目だろ……)『育つ雑草』は残念ながら鬼束さんの新時代の幕開けを飾るものとはならず、小林武史さんという名プロデューサーとの出逢いによって、本当の第2期が始まった、という感じでしょうか。
 鬼束さんとほぼ同い年のわたくしも、この待ちわびた12thシングルがリリースされたと知った時は、期待半分、こわさ半分で近所の CDショップへ自転車たちこぎで馳せ参じたものでした。なつかしい……

 とはいうものの、正直言って当時このシングルをワクワクしながら聴いた私の第一印象は、「こんな感じか……? まぁ、思ってたよりも変わってなくてうれしいけど……」という、なんだか肩透かしのような、妙に手ごたえのなさを感じるものだったのです。
 その理由は、まず歌詞の内容などを抜きにしてこのシングルに収録されている3曲をざっと聴いてみると、ピアノやチェロによる静かな伴奏という演奏形式が、かつての羽毛田時代を想起せずにはいられないスタイルですし、3曲目の『秘密』のバンドサウンドも珍しいといえば珍しいのですが、前作『育つ雑草』ほどのインパクトがあるのかと言えば、そうでもない気がしたからなのでした。
 小林プロデュースによる新時代が始まったというよりは、鬼束さん案外そんなに変わってないな、という第一印象だったのですね。

 実際に、上の記事にもあるように、プロデュースした小林さんは楽曲の制作には積極的には関わらずに裏方に徹していたということですので、本作は鬼束さんの意向がだいぶ大きく反映された作品になっているようで、そうなるとやっぱり、それまでのキャリアのほぼ全てを占めている羽毛田時代の文法を踏襲するのは当然、ということなのでしょうか。

 ただ、確かに2年半の沈黙を破った活動再開第1弾としては、少々静かすぎる印象もある本作なのですが、まだまだ20代ではあるものの、プロの歌手としての鬼束ちひろさんの健在ぶりと、さらなる成長をしっかり感じさせるものになっていることは、聴けば聴くほどわかるようになっています。
 私が聴いた印象として、このシングルから鬼束さんは、唄っている作品との間にある一定の「距離を置くこと」を意識するようになっている気がします。
 それは、本作から鬼束さんが、作品づくりのモチーフを自分自身の経験に基づかずに、鬼束さんが観た映画の登場人物や他人に仮託するようになったという、楽曲作成のスタイル変更にも関係があるのかも知れません。
 『月光』しかり『 infection』しかり、かつての鬼束さんは、なにかと「憑依的」な鬼気迫る唄い方がトレードマークになっていたところがあったかと思うのですが、27歳になって再スタートをきった新しい鬼束さんは、本作ではあくまでも歌に込めた想いをストレートに、最も聴きやすい形で人々に伝える「プロ」になることを目指しているような気がするんですね。
 言い方を変えれば「醒めている」ということになってしまうのですが、前作とはうって変わってかなり冷静な、自分の喉を世界にたった一つしかない楽器として誰よりも上手に使いこなす歌唱。これをプロと言わずしてなんと言うでしょうか。

 本作はセンセーショナルな驚きこそありませんが、『 everyhome』のサビ「goin' on……」の絶唱といい、『 MAGICAL WORLD』のサビ「涙だけが 雨のように なぜ溢れるの」の切ない響きといい、鬼束さんの過去以上の成熟をはっきり宣言するものになっていると思います。早く次の作品を出して~!といった渇望感も気持ちいいくらいですね。
 あと、『秘密』のミョ~に唄いやすいリズム感も、思えば今までの鬼束さんの作品群には無いポップさがあるような気がします。なんか、昭和の歌謡曲みたいに異様に平易な曲調なんですよね。「♪ひみっつなっど なぁにもぉなァ~いィ~」って、三味線もった芸者さんが唄っててもおかしくないような時代不明、国籍不明な陽気さがあるんですよね……民謡!? ここにきて民謡テイストを開拓!?

 なるほど、ということは、今後の鬼束さんの作品は、必ずしも主人公が同一人物(鬼束さん本人)ではないという感じになるのか。
 う~ん、でも結局、映画を観て登場人物の精神的履歴を想像するのも鬼束さんですし、小林武史さんを元にしたって言ったって、そんな松本清張ばりに詳細にインタビュー取材を行ったってわけでもないでしょうし……まぁ、歌詞世界にそんなに違いはないような気もします。

 タイトルにもなっている「 everyhome」というのは鬼束さんによる造語なのだそうで、「どこでも家」みたいな意味なのだとか。要するに、一つ所にとどまらない放浪のひとの歌、ということなのか。
 私の大好きなことわざに、「人間(じんかん)至る所に青山(せいざん)あり」というものがありまして、この意味は、「この世はどこにだって骨を埋める場所くらいはあるんだから、故郷だ家だとこだわらずにどんどん外に出ていこう!」みたいなものです。ポジティブね~。
 「 home」と「お墓」はまさしく真逆のものなのですが、だいたい言いたいことは同じなのがおもしろいですね。そう考えると、聴きざわりは確かにおとなしめなのですが、この『 everyhome』が他でもなく鬼束さん復活を高らかに世に告げる第1曲目に選ばれているのは、ちゃんとした理由があるんですな。これぞ、新生鬼束さんの長い長い旅立ちのはじまり!

 私個人としましては、3曲の中でいちばん好きなのは『秘密』なのですが、愛する人と一緒にいることがなんでそんなに「暴かれる」とか「降伏」とか「覚悟」などと、緊張感ありありでしゃっちょこばった物言いになるのか、まったく不思議でしょうがないところが実に鬼束さんらしくて素晴らしいと思います。前の2曲は確かにいいのですが、静かだし内容もすぐにはわかりづらいしで、少々とっつきにくいところがあるので、このシングルは確かに、無理やりでも『秘密』を入れておいてよかったような気がします。ちょっと滑稽なくらいに、人を愛することに七転八倒している姿がチャーミングなんですよね。
 あ~、めんどくさい鬼束さんは健在なんだな、まだ私達の近くにいてくれているんだな、という安心感が湧くんですよね、『秘密』って。秘密にするほどのことなんて、なんにもないのにねぇ。でも、そういうふうに周囲の人々にとってはとことんどうでもいいことにプライドを懸けているのが、人間なのよねぇ。

 さてさて、歌手としてはまごうことなき円熟の域に入りつつある、小林プロデュース体制による鬼束さん第2期のはじまり。他人との距離感の取り方や、世の中を生きていくことへの苦悩、矛盾を吐露する不完全さをうたい上げる鬼束さんは、これからどういった道行きをたどっていくのでありましょうか!?
 次なる作品が待ち遠しいですね! また2年半後なんてのは、なしよ~!?


 ……余談なんですが、小林武史さんって、いちおう私と同郷の有名人ということになるんだそうです。でも、小林さんの生まれ育った山形県新庄市って、私の住んでいる地域からは車で2時間くらいかかる距離のあるほぼ別文化の世界なんで、同郷っていう感覚はまるでありません。だだっ広い田舎あるあるですよね! 新庄市といえば、冨樫義博さんもご出身ですか。ピンとこねぇ~!

 九州人の鬼束さんと東北人の小林さんとの一種異様な二人三脚から、まったく目が離せませんな!!
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在りし日の名曲アルバム  鬼束ちひろ『 SINGLES 2000-2003』

2015年07月25日 22時57分26秒 | すきなひとたち
鬼束ちひろ『 SINGLES 2000-2003』(2005年9月7日リリース 東芝EMI )

74分15秒(CD)+26分(初回盤DVD)

 『 SINGLES 2000-2003』は、鬼束ちひろ(当時24歳)の2ndベストアルバム。
 初回限定生産盤のみ、2003年8月に行われたライブ『 UNPLUGGED SHOW '03』の模様を一部収録した DVDが付属する。初回盤と通常盤ではジャケットの配色が違う。
 すでに所属を離れた東芝EMI からリリースされた2枚目のベストアルバム。前作『 the ultimate collection 』と同様に、鬼束本人は作品には全く関与していない。そのため、鬼束の公式サイトのディスコグラフィーにおいても本作は記載されておらず、非公式扱いとなっている。アルバム初収録となる『いい日旅立ち・西へ』を含む全シングル曲に加え、アルバム『インソムニア』収録曲『 We can go 』の別バージョン『 We can go summer radio mix 』や、アルバム『Sugar High』初回限定生産盤のボーナスCD として発表されていた『 Castle・imitation(オリジナルバージョン)』、松任谷由実のトリビュートコンピレーションアルバム『 Queen's Fellow yuming 30th anniversary cover album 』で鬼束がカヴァーした『守ってあげたい』なども収録されている。
 オリコンウィークリーチャートで最高7位を記録した。

収録曲
全作詞・作曲 …… 鬼束 ちひろ
プロデュース …… 羽毛田 丈史(『シャイン』編曲は土屋望、『 Cage 』編曲は土屋望と羽毛田丈史の共同)

1、『シャイン』(2000年2月 1stシングル)
 ※シングルバージョンのアルバム収録は初である。
2、『月光』(2000年8月 2ndシングル)
3、『 Cage 』(2000年12月 3rdシングル)
4、『眩暈』(2001年2月 4thシングル)
5、『 edge 』(2001年2月 4thシングル 両 A面)
6、『 infection 』(2001年9月 5thシングル)
7、『 LITTLE BEAT RIFLE 』(2001年9月 5thシングル 両 A面)
 ※シングルバージョンのアルバム収録は初である。
8、『流星群』(2002年2月 6thシングル)
9、『 Sign 』(2003年5月 7thシングル)
10、『 Beautiful Fighter 』(2003年8月 8thシングル)
 ※アルバム初収録。
11、『いい日旅立ち・西へ』(2003年10月 9thシングル)
 ※アルバム初収録。
12、『私とワルツを』(2003年11月 10thシングル)
13、『 We can go summer radio mix 』(2001年3月)
 ※1stアルバム『インソムニア』収録曲『 We can go 』のラジオオンエア限定バージョン。アルバム初収録。
14、『 Castle・imitation(オリジナルバージョン)』(2002年12月 3rdアルバム『 Sugar High 』初回限定生産盤特典ディスク)
15、『守ってあげたい』(2002年12月 トリビュートアルバム『 Queen's Fellows 』収録曲)
 ※松任谷由実の17thシングル『守ってあげたい』(1981年6月)のカヴァー。

初回限定生産盤特典DVD『 UNPLUGGED SHOW at The Symphony Hall 2003.8.5 OSAKA 』
 2003年8月29日に朝日放送で放送された番組『 The Symphony Hall Sound Renaissance Vol.1 鬼束ちひろ』から、ライブ映像のみを抜粋して収録している。
1、『嵐ヶ丘』(2003年8月 8thシングル『 Beautiful Fighter 』カップリング曲)
2、『眩暈』
3、『 infection 』
4、『 CROW 』(2002年3月 2ndアルバム『 This Armor 』収録曲)
5、『 Beautiful Fighter 』


 な、なんで昨年に1st ベストアルバムがリリースされたばっかなのに、またベストを出すのか……なぜベストを出し尽くすんだ、上田!

 何も知らない消費者の側から見れば、なんとも売り手の苦心惨憺というか、「やむやまれず……」みたいな裏事情が透けて見えるような手なのですが、なまじクオリティが保障されているので困っちゃうんですよね。完全な二番煎じだったら気楽にスルーできるのですが、前作のベストアルバムとは、ちょっと趣向が違うんですよね。

 前作『 the ultimate collection 』と同様に「本人不在」という、普通じゃないけど音楽業界ではよくありそうな事情でリリースされた今作なのですが、前作はおそらくプロデュースの羽毛田さんによる「鬼束さんにそうあってほしかった音楽スタイル」を再構築した選曲になっていたかと思うのですが、今作はタイトルの示す通り、ただ粛々とシングルの A面曲を集成したという内容になっています。そして、それだと両 A面曲を含めても12曲だけになってしまうので、今まで通常盤のアルバムに収録されることのなかった3曲と、初回限定盤にライブの模様をおさめた DVDをつけるという、「東芝EMI 時代の鬼束さん総ざらえ」ともいうべきラインナップとなっているのです。なんか、春陽堂文庫で乱歩生誕100周年を迎えた1993、4年ごろにごろごろ刊行された『江川蘭子』とか『五階の窓』とかの合作探偵小説群を思い起こさせるような、「売れるもんならなんでも売る」という商魂を感じさせますね。東芝EMI さんにとっては、鬼束さんとこれでほんとのオサラバ、というわけなのでしょうか。

 ただ、シングル曲を集めましたっちゅうのは、これまた昨年に『シングルBOX 』というそのまんまの形で一度やってますからね……ま、再発売して並べただけじゃなくて、1枚のCD にまとめたという点では、ありがたいのか? う~ん。

 そんな感じなので、この記事で扱うべき内容は、シングル曲以外のボーナストラック的な3曲と、初回限定版の2003年8月のライブ映像ということになりますね。ちょっとそこらへんに触れますか。

 まず、聴けば元気になる初期の名曲『 We can go』の「summer radio mix 」というバージョンなのですが、これはタイトルの通り、ラジオ放送のために編集されたバージョンとのことで、サビ部分を冒頭に持ってきたりして約40秒ほど短くなっているものの、曲調は全く同じものとなっています。この曲は鬼束さんの1st アルバム『インソムニア』の目玉曲にもなっていたようですので、ラジオで聴取者の耳をキャッチするためにも、ダイレクトに鬼束さんの声を届ける構成になっています。じっくり前奏を流して始まるオリジナルバージョンもいいのですが、鬼束さんのパワーが伝わってくるこっちのバージョンもいいですよね。羽毛田さんの世界を優先するならオリジナル、鬼束さんの声を優先するなら summer radio mixというわけです。プロデューサーと歌い手さんの立場の違いが際立つのがおもしろいですね。

 次の『 Castle・imitation』のオリジナルバージョンなのですが、3rd アルバム『 Sugar High』の初回限定盤ディスクに収録されていたバージョンが今作でやっと通常盤に入りました。やっぱこれ、当初は普通にシングル曲としてリリースする予定だったのでしょうか。これは、いつもの羽毛田さんらしくピアノと弦楽器がメインになっていたおとなしいアルバムバージョンと違って、いかにも RPGゲームのテーマソングらしいフルバンド演奏を従えた壮大なバージョンとなっています。こちらもまた、サビ部分の鬼束さんによる「生きて」の連呼が非常にパワフルなので、それに耐えうる音の厚みを持ったオリジナルバージョンの方がふさわしいような気がしますね。やっぱ、羽毛田ワールドならアルバムバージョン、鬼束さんの声ならオリジナルなんだなぁ。ここでも、羽毛田さんのプロデュース力の、ただ一つ一つ作品を作るだけではない、一貫したコンセプトを持った計画性がうかがえます。まぁ、もう青い鳥は飛んでっちゃったんだけどね!

 最後の収録曲の『守ってあげたい』は言うまでもなくユーミンへのトリビュート曲なのですが、編曲は羽毛田さんなので、他の曲とまるで遜色のない「鬼束さん&羽毛田プロデュース」作品に仕上がっています。2002年の曲ですが、翌年の『いい日旅立ち・西へ』を予見させる、「何を唄っても鬼束さんの世界になる」強固な個性を証明するものになっていますね。
 それにしても、歌詞は他人の約20年前のものだったとしても、ここで「守ってあげたい あなたを苦しめるすべてのことから」と唄っている鬼束さんが、同じ月(2002年12月)にリリースされた自分のアルバムで「 I`m not your God」って唄ってるんですから、もはや笑ってしまう他ありませんね。どっちやねん! じゃなくて、どっちも同じ鬼束さん!! 多面的であればこそ、それが人というものなのです。頼みごとは、その人の機嫌を見てお願いしましょう。

 本作の初回限定版のライブ映像 DVDなのですが、常に猫背、左肩をやや上げて左手と五本の指をテルミン奏者か操り人形師のようにひらひらブンブン上下させながら熱唱する鬼束さんのお姿が堪能できる5曲となっております。私としましては、1st と2nd どちらのベストアルバムにも採用されなかった名曲『嵐ヶ丘』が拾われているのがうれしかったです。隊長、大阪ザ・シンフォニーホールに怪獣出現!!

 その内容でも充分に満足なのですが、この映像が、例の鬼束さんの声帯結節手術のほんとの直前(2003年8月)に収録されていることも史料的に非常に貴重だと思います。そう言われれば確かに、鬼束さんの声が全体的に低めで部分的にかすれが入る様子も見受けられるのですが、これもプロになった鬼束さんの生の「味」といいますか、曲のクオリティを下げる要素に全然なっていないのに、うなってしまいます。でも、あれはご本人としては違和感がありありで、だいぶ不自由だったのでしょう。

 やっぱね、超一流の歌手のライブって、多少音源版と唄い方が違っていたりトチったりすると逆にレアでうれしかったりするって聞くんですけど、鬼束さんの声の多少のかすれも、そういう世界の才能であることの証拠なのではないでしょうか。ライブの時点で、若干22歳……恐ろしいほどの早熟さ!!


 こんな感じで、2005年の鬼束さんのリリース状況は、ベスト盤で過去の東芝EMI 時代の遺物をおがむという、いちおう商品として成立してはいつつも、実に寂しい結果に終わってしまいます。これでいいわけねぇじゃねぇかよう、これほどのお人が!!

 新しい、今を生きている鬼束さんの声が、新作が聴きたい!

 しかし、ご本人が『育つ雑草』という一発大噴火を経て休眠に入ってのち、ふたたび重い重い天の岩戸を開けてお出ましになられたのは、実にその「2年後」のことなのでありました……

 女神さま~、帰ってきてくだせぇ! アマテラスさま、鬼子母神さま、カーリー神さま!!
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在りし日の名曲アルバム  鬼束ちひろ『 the ultimate collection 』

2015年07月15日 23時39分20秒 | すきなひとたち
鬼束ちひろ『 the ultimate collection 』(2004年12月1日リリース 東芝EMI )

時間 77分13秒

 『 the ultimate collection 』(ジ・アルティメット・コレクション)は、鬼束ちひろ(当時24歳)の1stベストアルバム。
 全曲のプロモーションビデオを収録した DVD『 the complete clips 』との同時発売となった。ジャケットやブックレット内の写真は、同年3月にリリース予定だったが発売中止となったオリジナルアルバムのために撮影されていたものを使用している。
 すでに2004年6月に所属を離れていた東芝EMI からリリースされた初のベストアルバムである。選曲は音楽プロデュースを手掛けた羽毛田丈史によるもので、鬼束本人は本作にいっさい関与していない。そのため、鬼束の公式サイトのディスコグラフィーにも本作は記載されておらず、非公式扱いとなっている。本作への再収録に当たって、世界的なエンジニアであるテッド=ジェンセンによる、全曲24ビットデジタルリマスタリングが施されている。
 オリコンウィークリーチャートで最高3位を記録した。

収録曲
全作詞・作曲 …… 鬼束 ちひろ
プロデュース …… 羽毛田 丈史(『シャイン アルバムバージョン』と『 BACK DOOR アルバムバージョン』のプロデュースは土屋望と羽毛田丈史の共同)

1、『流星群』(6thシングル 2002年2月リリース)
2、『声』(3rdアルバム『 Sugar High 』収録曲 2002年12月リリース)
3、『眩暈』(4thシングル 2001年2月リリース)
4、『月光』(2ndシングル 2000年8月リリース)
5、『 infection 』(5thシングル 2001年9月リリース)
6、『 We can go 』(1stアルバム『インソムニア』収録曲 2001年3月リリース)
7、『 Fly to me 』(6thシングルカップリング曲 2002年2月リリース)
8、『シャイン アルバムバージョン』(1stアルバム『インソムニア』収録曲 2001年3月リリース)
9、『 BACK DOOR アルバムバージョン』(1stアルバム『インソムニア』収録曲 2001年3月リリース)
10、『 King of Solitude 』(3rdアルバム『 Sugar High 』収録曲 2002年12月リリース)
11、『 CROW 』(2ndアルバム『 This Armor 』収録曲 2002年3月リリース)
12、『茨の海』(2ndアルバム『 This Armor 』収録曲 2002年3月リリース)
13、『私とワルツを』(10thシングル 2003年10月リリース)
14、『 call 』(1stアルバム『インソムニア』収録曲 2001年3月リリース)
15、『 Sign 』(7thシングル 2003年5月リリース)


 はい、でました~。鬼束さんのデビューから5年目にしてついにリリースされた、1st にして「本人非公認」という、いわくつきのベストアルバムでございます。なんという、因縁に満ちた出生……
 でも、さすがは天にひとつの声と世界を持ち続ける鬼束さんといいますか、内容については全く文句のつけようのない聴きごたえ十分のベストアルバムとなっており、たった2ヶ月前に『育つ雑草』という新機軸を鬼束さんが打ち出していたにも関わらず、それ以前の「羽毛田プロデュース時代」のみに限定した本作でさえ、当時のヒットチャート3位という反響を得ていたのでした。やはり当時の世間では、いや、それから10年以上の歳月が経った2010年代の今でも、鬼束さんといえば2000年代前半の羽毛田時代というイメージが定着しているのでしょうか。

 本作の収録楽曲の内訳は、1st アルバム『インソムニア』から6曲、2nd アルバム『 This Armor 』から4曲、3rd アルバム『 Sugar High 』から2曲ということで、『 Fly to me 』『私とワルツを』『 Sign 』の3曲は、本作にてアルバム初収録ということになります。ですので、デビューからの羽毛田プロデュース時代の全容をまんべんなくフォローしていることは間違いないのですが、全曲がすでにアルバムかシングルいずれかの形で音盤化されている楽曲ということなので、全作品をすでに買ってるよというファンの方にとっては、目新しいのはジャケットとライナーノートに使用されている、黒い袖なしワンピースをまとった鬼束さんの写真3点だけということになります。
 う~ん……入門盤としてはこれ以上ないくらいの選曲とボリュームなのですが、できればボーナストラックみたいな初音盤化の作品が欲しかったような。でも、すでに鬼束さんご本人が音楽会社を移籍してしまっている以上、新曲を録音するわけにもいかず、そもそもそんな作曲環境がちゃんとあるんだったら、『 Sign 』とか『私とワルツを』といった超名曲を収録したフルアルバムがリリースされないとか、本作が本人非公認になるとかいう事態にもならなかったわけなのでありまして。覆水盆に返らず……

 さて、いちおうこの、我が『長岡京エイリアン』におけるとはずがたり企画「在りし日の名曲アルバム」シリーズは、いちおう鬼束さんの楽曲を聴いて雑感をくっちゃべるという記事なのですが、このベストアルバムに収録されている楽曲は、曲がりなりにもすでに過去記事で触れているものばかりですので、ちょっと違う視点にしてお茶をにごしましょうかね。

 すでに鬼束さんご本人が去っている状態でのベストアルバム作成ということで、じゃあ一体誰がこのアルバムの収録曲を選んだのかと考えれば、それはもちろんプロデュースを手掛けた羽毛田丈史さんだと思います。ちょっと、どういった理由で羽毛田さんがこのラインナップにしたのかを、しろうとなりに考えてみたいと思います。

 まず、アルバム収録の順番から観てみますと、各曲のリリース時期に関しては「02年→02年→01年→00年→01年……」となっているので、単純に時系列順に並べたわけではないようです。
 ならば世間的にヒットした人気作を特にチョイスしたのかといいますと、当然『月光』や『 infection』、『流星群』といった必聴の名曲は押さえているわけですが、その一方で『声』や『茨の海』といったアルバム収録のみの楽曲や、そもそもアルバムにさえ収録されていなかったシングルカップリング曲『 Fly to me 』といった、当時としては比較的知名度の低かった楽曲も拾われているのです。
 ベストアルバムにそこらへんの楽曲も収録されているということは、さてはシングルのタイトル曲をそろえるだけでは頭数がそろわなかったか? と勘ぐってしまうのですが、本作にはシングルタイトル曲だった『 Cage』(3rd 2000年)、『 edge』(4th 2001年 両A 面曲)、『 LITTLE BEAT RIFLE』(5th 2001年 両A 面曲)、『 Beautiful Fighter』(8th 2003年)、『いい日旅立ち・西へ』(9th 2003年)といった有名どころが収録されていないので、そんなわけでもなさそうなんですね。
 さて、だとするのならば、本作の選曲にはどういった意図、法則性があるのでしょうか。

 ではここで、完全に独自の勝手な解釈になってしまうのですが、それぞれの楽曲の性質を考えてみることにしましょう。

 すでに何回も触れてきたのですが、鬼束さんの作品世界の中で重要なのは、「あたし」と「あなた」の占有配分だと思います。
 すなはち、外部に全く左右されない「あたし」の心象風景を唄う「告白曲」か、あたしに大きな影響を与える「あなた」が登場することで確実にあたしが変わっていく「対話曲」か。この違いと、そのいずれかを「ポジティブ」に唄っているのか「ネガティブ」に唄っているのか。その4要素でもって、今回のベストアルバムに収録された楽曲のならびを観てみることにいたしましょう。どうなるかな!?

1、『流星群』  …… 対話・ポジティブ
2、『声』    …… 対話・ポジティブ
3、『眩暈』   …… 対話・ポジティブ
4、『月光』   …… 告白・ネガティブ
5、『 infection 』 …… 告白・ネガティブ
6、『 We can go 』…… 告白・ポジティブ
7、『 Fly to me 』…… 対話・ポジティブ
8、『シャイン アルバムバージョン』 …… 告白・ネガティブ
9、『 BACK DOOR アルバムバージョン』…… 告白・ポジティブ
10、『 King of Solitude 』…… 対話・ポジティブ
11、『 CROW 』 …… 対話・ポジティブ
12、『茨の海』  …… 対話・ネガティブ
13、『私とワルツを』…… 対話・ネガティブ
14、『 call 』   …… 対話・ポジティブ
15、『 Sign 』   …… 対話・ポジティブ

 こんな感じになりますか。でも、鬼束さんの世界がこんな「黒か白か」みたいにざっくりした基準4コだけでかっちり分けられるはずもなく、『 Fly to me 』や『 call 』がほんとにポジティブな曲かというとそうでもない気もするし、「告白曲」だとしても、語っている相手として「あなた」がちゃんといる場合もあります。ただ、告白曲における「あたし」と「あなた」の距離は相当遠く、まるで死んだ人か神様のように一方的に呼びかけることしかできない存在になっているようなせつなさはありますね。

 以上の結果を観てみますと、このベストアルバムの中で選者は、鬼束さんのまさしく鬼気迫る声の本領が発揮されるはずの『月光』や『 infection』に代表されるネガティブ曲が、かなり手厚くポジティブ曲で包まれていることがわかります。まず、選曲の中で最も新しい『私とワルツを』でなく、当時の時点での鬼束さん史上最ポジティブ曲である『 Sign』がオーラスになっていることから観ても、このアルバムを明るい印象のものにしたいという意図は明らかなのではないでしょうか。間違っても『 Beautiful Fighter』や『 Tiger in my Love』のようなひねくれたテンションの曲は入れないという、優等生ばかりをそろえた感じはありますよね。不良は帰ってよし!

 優等生というのならば、曲的に非常に耳ざわりがいいというか、なんとなく意味が分かるような気がする、平易な難易度の曲が選ばれているという点でも、本作は入門編と呼ぶにふさわしいと思います。つまり、『ダイニングチキン』や『嵐ヶ丘』、『 Castle・imitation』、『漂流の羽根』みたいな難解な曲は入らないと……そこらへん大好きなんだけどなぁ! でも、こんな中でもちゃんとベストアルバムに入った『 Fly to me』は、なかなかのもんですね。あれもけっこう難解なのですが、それだけ羽毛田さんがこの曲を評価していたということなのでしょうか。

 ただ、そういう選曲になっている以上、鬼束さんにそれほど深く入り込んでいない人が聴くと、「なんかおんなじ曲ばっかだな。」みたいな印象を与えてしまうという弊害も無視はできないのではないでしょうか。トンガリ具合がいいネガティブ曲がありつつも、大半は当たり障りなく聴く人に元気を与える曲なんですもんね。『 Rebel Luck』なんかもとってもいい曲だと思うのですが、それが本作に収録されていないのは、同じ内容の楽曲がもう入ってるから、ということなのでしょう。


 この1st ベストアルバムは、何度も言うように「すでに鬼束さんがいない」状況の中で作られた回顧作品集ということになります。なので、鬼束さんのこれからを予兆させるという未来性はなく、羽毛田時代が理想としていた、そして当時の世間が喜んで受け入れた「こうあってほしかった鬼束ちひろ像」をできるかぎり再現させようとした、悪く言えば後ろ向きな内容になっていると思います。それだけに、まるで高速道路のサービスエリアや、ホームセンターの隅っこのワゴンで売られている山口百恵さんとかテレサ・テンさんのベストアルバムみたいな無難な内容になっているという、デビューから5年くらいしか経っていない歌い手さんとは思えない枯れた作品になってるんだな、と再確認しました。

 そりゃね、今からまた頑張っていこうとする「生きている」鬼束さんが認めるわけがありませんよね。まるで勝手に遺影を売られるような気持になったのではないかと思うのですが……どうだったんでしょうかね。

 アルバム自体はほんとにいいと思うのですが。ま、生まれた事情が幸福なものではなかったということでしょうか。哀しいのう!!

 ところが、不幸はふたたび。
 こんな1st ベストアルバムがリリースされて舌の根も乾かない内に、またもや生きている鬼束さんの意思とは全く違う場所から、次作は生まれ来るのでありました。

 え! 1st から1年も経たないうちに2nd ベスト!? また!?
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