長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

スウェーデン風「おら、こんな村ァいやだぁ~♪」物語 ~映画『ミッドサマー』~

2020年06月21日 18時05分34秒 | ホラー映画関係
 みなさん、どうもこんばんは! そうだいでございます~。
 いや~、今日の山形はとってもいいお天気でした。湿度もなくカラッとして、もう暑いくらいの陽気で。公園を散歩するにも最適な休日でしたね。また、公園にも徐々に家族連れが戻ってきました。年明けすぐからコロナで大変なことになってしまった今年も、ようやく普通の日々が戻ってくるんでしょうかねぇ。
 今日はわたくし、そうとう久しぶりに映画を観に行ってきました。いや、ほんとに久しぶり! 確か、今年に入っていくつか映画を観てはいたのですが、最後は2月に観た『1917 命をかけた伝令』(サム=メンデス監督)でした。それ以降はもう、ご存知の通りの自粛騒ぎで映画興行自体がストップしてしまいましたからね。
 私が今日行ったの映画館も、しばらく前から営業は再開していたのですが、上映本数もかなり抑えられていたし、飲食の売店も開いていないようで、見た目はかなり寂しい様子になっていました。それでも、少しずつ日常に戻りつつあるわけで、娯楽が増えてくるのは素晴らしいことですよね! ファントミラージュの映画、いつやんのかなぁ。
 そういえば、映画館が休業していた時に、地元の映画チェーン「フォーラム」グループが始めたネット販売のオリジナル Tシャツと冊子を購入しました。がんばれ、娯楽業界!! 演劇や音楽で生きる皆さま、なんとか生き延びてほしいですね。

 さて、実は今日、この映画を観ると決めてから聞かされてビックリしたのですが、本日6月21日は、今年の夏至なんですって! しかも、ななんとなんとの部分日食の当日なんだとさ!! 山形、雲ひとつない晴天で良かった~。確かに太陽、ちょっとだけ欠けていました。直接見ちゃダメよ!
 夏至に日食とは、こりゃあ驚いた……だって、これから観る映画、なんだか夏至をテーマにした内容らしいんですよ。しかも、ホラー映画! ミステリアスだな~。絶好のタイミング。今日をおいて他に観る手はありませんでしたね!
 そんなわけで、意気揚々と観たのですが……いや~これはとんでもない作品だった!!


映画『ミッドサマー』(2019年7月アメリカおよびスウェーデンにて公開 147分)

 『ミッドサマー(Midsommar)』は、2019年公開のアメリカ合衆国・スウェーデン合作のホラー映画である。
 原題の「Midsommar」は、スウェーデン語で夏至祭(ミィドソンマル)を意味する。
 本作の登場人物のうち、ホルガ村の住人たちは主にスウェーデン人俳優が演じており、スウェーデン語が話される場面もある。また、本作の主要場面の撮影はハンガリーのブダペストで行われており、ダニーの家族などの脇役数名はハンガリー人俳優が演じている。
 なお、アリ=アスター監督は自身の好きな映画として、イギリス・スコットランド地方の民間伝承を題材にしたホラー映画『ウィッカーマン』(1973年 イギリス)を挙げている。『ウィッカーマン』は、異教が信仰される村の祭によそから招かれた主人公が巻き込まれてゆく物語であり、劇中の要素やプロットに『ミッドサマー』と共通する部分が多いが、アスター監督は本作の脚本執筆中は『ウィッカーマン』を観返さなかったという。

 当初、本作はアメリカ映画協会からNC-17指定(17歳以下鑑賞禁止)を受けたが、6週間にも及ぶ再編集の末に、R指定(17歳未満の観賞は保護者同伴が必要)へと引き下げられることになった。なお、本作のファースト・カットは3時間45分にも及ぶ長大なものであった。2019年8月17日、アスター監督の編集による本作のディレクターズ・カット版(上映時間171分)がアメリカ本国で上映された。
 日本では2020年2月21日からR15+指定で上映されたのち、ディレクターズ・カット版が同年3月13日からR18+指定で上映された。
 本作は批評家から絶賛されている。映画批評集積サイト「Rotten Tomatoes」の批評家支持率は89%、平均点は10点満点中7.93点となっている。批評の要約は「野心的で、見事に作り込まれており、観客の心を大いに揺さぶってくる。『ミッドサマー』によって、アリ=アスター監督はホラー映画の巨匠と見なされるべき人物であるとまたしても証明された。」となっている。
 本作の製作費は約900万アメリカドル。世界公開による興行収入は約4100万アメリカドルを超えた。

あらすじ
 アメリカの大学生のダニー=アーダーは精神的な疾患を抱えていた。ある冬の日、同じく精神疾患だった妹が両親を道連れに一酸化炭素中毒で無理心中してしまう。自身の疾患と家族を失ったトラウマに苦しみ続け、恐怖の底に追い詰められているダニーを、恋人のクリスチャンは内心重荷に感じながらも別れを切り出せずにいた。
 翌年の夏、6月。ダニーはクリスチャンが友人のマーク、ジョシュと一緒に、同じく友人であるスウェーデンからの留学生ペレの故郷であるホルガ村に旅行する予定であることを知った。クリスチャンはペレから、故郷で90年に1度しか開催されない夏至祭が開催されるので、見に来てはどうかと誘われたのである。大学で文化人類学を専攻するクリスチャンは、学問的関心もあってホルガ行きを決めたのであった。クリスチャンは、ダニーの精神状態を危惧しながらも仕方なく旅行に誘い、ダニーはそれに応じた。
 クリスチャンとダニーらはスウェーデンへ渡り、ペレの案内でヘルシングランド地方にあるホルガ村を訪れた。一行は、森に囲まれた草原という幻想的な風景と、白い服を着た親切な村人たちに初めは魅了される。一行は同じくよそ者で、ペレの幼馴染のイングマールに誘われてロンドンからやってきたサイモンとコニーのカップルと合流するが、その翌日から始まる夏至祭はただの村祭りではなく、自然を強く信仰する土着の原始宗教(ペイガニズム)に基づく祝祭であった。そうとは知らずに参加したダニーたちは、次第に得体の知れない不安と恐怖に苛まれていく。

主なスタッフ(年齢は劇場公開当時のもの)
監督・脚本 …… アリ=アスター(33歳)
音楽   …… ボビー=クルリック(34歳)
撮影   …… パヴェウ=ポゴジェルスキ
編集   …… ルシアン=ジョンストン

主なキャスティング(年齢は劇場公開当時のもの)
ダニー=アーダー …… フローレンス=ピュー(23歳)
 アメリカの大学で心理学を学ぶ女子学生。パニック障害を抱えており、彼氏のクリスチャンも含めて自分の不安や焦燥感を共有してくれる友人が少ないことに苦悩している。
クリスチャン=ヒューズ …… ジャック=レイナー(27歳)
 ダニーと同じ大学に通う大学生。院試を控えていて、論文作成の題材を模索中。交際しているダニーを愛してはいるが、彼女の苦悩を受け止め切れず、その関係は微妙なものになりつつある。
ジョシュ …… ウィリアム=ジャクソン・ハーパー(39歳)
 ダニーと同じ大学に通うクリスチャンの友人。今回のスウェーデン旅行のほか、文化人類学の研究のためにドイツやイギリスも巡る予定でいる。
マーク …… ウィル=ポールター(26歳)
 ダニーと同じ大学に通うクリスチャンの友人。学問よりもセックスとドラッグのことしか頭になく、仲間の中でも特に軽薄な行動が多い。
ペレ …… ヴィルヘルム=ブロングレン(28歳)
 ダニーたちと同じ大学に留学しているホルガ村出身の青年。ダニーたちをホルガ村の夏至祭に誘う。
サイモン …… アーチー=マデクウィ(24歳)
 イギリスの農園で知り合ったイングマールの招待をうけホルガ村へ来た青年。コニーと婚約している。
コニー …… エローラ=トルキア
 サイモンの婚約者。イギリスの農園で知り合ったイングマールの招待をうけホルガ村へ来た。
ダン …… ビョルン=アンドレセン(64歳)
 ホルガ村の老人。夏至祭の初日にアッテストゥパンの儀式に選ばれる。
マヤ …… イザベル=グリル(22歳)
 ホルガ村の娘。夏至祭に際してある重大な役割を担っている。
インガ …… ジュリア=ラグナルスン(27歳)
 ホルガ村の女性。夏至祭の実行を取り仕切っている。


 うわぁ、えらいもん観ても~た……なんか、ものすごい作品でしたね。
 ものすごかったんだけど、少なくとも私は「すごかったな~オイ!」と、観た後にテンションが上がる感じじゃなかったです。でも、なんだか作品について話がしたくなるというか、誰かと作品の内容がどういうものだったのか、結局なにを言いたかったのかを確認しないと気が済まない衝動にはかなりさいなまれました。いや~、ひとりで観に行かなくてよかった! 話せたおかげで、観た後のフワフワした気分がだいぶ落ち着きました。実にタチの悪い映画だなぁ……
 そう、「タチが悪い」っていう表現がぴったり! 私の感想としましては、「観て損はしないけど、絶対に人には薦めない。」ということで!! これにつきますでしょうか。
 どっちかというと、ネガティヴな印象が強いかな……ただそれは、私が男性だからなのかもしんない。

 この作品、実は日本では2月から上映が始まっていたので、皮肉なことですがコロナ騒ぎが無かったら私が映画館で観ることはなかったと思います。上映期間が異例に長くなったおかげで今日観られたわけなのですが、2月に観ていた人から、相当とんでもない作品だと聞かされてはいたので、ちょっと気になってはいたのですが……まぁ~予想をはるかに超えて、とんでもない作品でしたね。でも、映画館で観られて本当にラッキーではありました。
 気になってはいたので、事前に、結末にあんまり触れていないネット上での感想をのぞいてみると、いわく「女性向け」、いわく「デートに観るべきではない」、いわく「途中退席した」、いわく「ホラー映画らしくない怖さ」……なんだか、かなり人を選ぶクセの強い作品であるなんですよ。う~ん、相手にして不足はなし!
 あと、私はこの映画のあらすじだけを読んでみて、私の選ぶ名画ベスト10の常連である、イギリスのホラー映画『ウィッカーマン』を即座に連想していたので、あの『ウィッカーマン』の後続フォロワーだとしたら点は辛くなるぞ~、とたかをくくっていたのでした。
 そしたら、ど~だい! 良い意味でもそうでない意味でも、この『ミッドサマー』は何か特定の先行作品の「直系の子孫」などという、おさまりのいい単純なタマではなかったのです。『ウィッカーマン』とは、むしろ似ても似つかないという印象を持ちました。なんか、作品の「粘着度」が違いすぎるよ!

 結局この『ミッドサマー』は、ホラー映画の皮をかぶったアート映画。ただし、主たる作者であるアリ=アスター監督の趣味というか、力の入れどころがあまりにもエグすぎるので、アートとは言いたくないタチの悪さに満ちている作品なんじゃなかろうか、と私は感じました。途中退席するのは、千ウン百円払った手前もあるしなんか負けたような気もするので最後までちゃんと観ましたが、ヤな感じだったな~!

 私自身は、まったくそういったジャンルというか、需要が存在している理由がさっぱり理解できないのですが、昔から『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)とか『ブラック・スワン』(2010年)みたいに、主人公がとことん理不尽でひどい状況に追い込まれてムチャクチャになってしまう映画って、ありますよね。そういうジャンルの新たなホープとしては、それなりに歴史に残るイイ作品だったのではないでしょうか。ほめてんのか……?
 ほぼ10年に1作品の割合でこういう作品がヒットするのって、おもしろいですね。私も昔、千葉でひとり暮らしをしていた時に、「1回食べたら半年は店の前も通りたくなくなるんだけど、必ずまた行きたくなる味のラーメン屋さん」ってあったんですよ。そういう感じのジャンルなんですかねぇ。映像ソフトを買って何回も観たくなるもんじゃないという。

 たぶん、アスター監督はホラー映画に対する造詣がそうとうに深いし、今回の『ミッドサマー』に100%全力を注いで真剣に作っているはずです。少なくとも、配給元の注文に従ってやっつけで作っているかのような粗い出来のハリウッドものとは一線を画す、ワンカットワンカットに込められた計算や情報密度の濃さには驚きました。
 でもさぁ……あまりにも精巧に作られた「損壊した肉体」とか、「いちいちうにょうにょする背景とか草花」にそんなに予算をかけるのって、私は好きじゃなかったなぁ~! おそらくアスター監督の構想の実現には絶対に必要なのでしょうが、そこはさぁ! もっとこう……控え目に、さぁ!! 直接そんなに長い時間かけて見せつけなくたっていいだろうがよう!!

 そうなんですよ~。この映画、観ているとびっくりするくらいに、先達たるいくたの名作ホラー映画のイメージが連想されて、アスター監督の嗜好や深い敬意がありありと伝わってきます。それでいて、単にディティールや小道具だけをつまんだという手軽さじゃないのが、芸がこまかいというか、頭おかしいというか。
 『ウィッカーマン』を引き合いに出すまでもなく、この『ミッドサマー』は、映画を観たたくさんの方々による考察・感想サイトで、「あの映画と似ている!」、「この映画が元ネタか?」という指摘がなされているようです。
 カブるのを覚悟のうえで、私も観ている最中に気づいた、『ミッドサマー』の構造にインスピレーションを与えたのではないかと思われる作品を挙げてみましょう。

・軽率な若者たちがヒドい目に遭う …… 王道中の王道『13日の金曜日』シリーズ ←ホラー映画伝統の様式美……
・主人公の精神状態があまりよろしくない …… 『呪われたジェシカ』(1971年 アメリカ)
・主人公と恋人との関係があまりよろしくない …… 『ポゼッション』(1981年 フランス・西ドイツ)
・マーク青年のなれのはて …… 『悪魔のいけにえ』(1974年 アメリカ)
・恐怖の儀式アッテストゥパンの撮り方 …… 『回路』(2001年 日本)
・村の美少女マヤがパイにまぜたもの …… 『カンゾー先生』(1998年 日本)

 なんということでしょうか、6作品のうち2作に、麻生久美子さんが関係している!! アスター監督は麻生さんのファンなのか!? 武運長久、武運長久……
 『13日の金曜日』の文法は、もはや私が申しあげるまでもなく、観る人のうちのほぼ全員が「あ、こいつら絶対ひどい目に遭うな。」と直感してしまう安心と信頼のパターンですよね。
 あ! そういえば最近、近所のショッピングモールのガチャガチャコーナーで、なんと『13日の金曜日』シリーズの各タイトルごとのジェイソンマスク(主にホッケーのあれ)コレクションが売っていてたまげました! すばらしいですね、この、思わず需要を疑ってしまうけど少なくとも私は迷わず買ってしまうセンス!! 200円は安いなぁ。私は都合2回チャレンジして、『 PART2』(1981年)と『 PART7 新しい恐怖』(1988年)のバージョンが当たりました。いいですねぇ、ちゃんと『 PART2』も入れてくれてるのが! そして、なにごとも無かったかのように2009年のリブート版がしれっと黙殺されているのもステキですね。でも、こうズララ~っとジェイソンマスクが並びますと、タイトルの中のある作品のネタバレになっているようで、ちょっぴりハラハラしてしまいます。でも、そういうオチ、私は大好き!!

 私が連想した以上の6作品は、みんなみんな、私が大好きな作品です。もしもアスター監督が本当にそのあたりから要素を拾っていたとするのならば、「あんたも好きねぇ!」と申し上げたい。
 でも、逆に言うと、それらの要素を『ミッドサマー』からさっぴいていって残るものこそがアスター監督オリジナルの「やりたいこと」、「見せたいこと」ということになるのでしょうが……となると、「エグい肉体損壊」とか、「ゆがんだ価値観を疑いなく受容する集団の不気味さ」、そして「個人を軽くプチっと押しつぶす同調圧力の恐怖」になっちゃうんじゃないでしょうか。
 いや~、それ……わざわざ映画館に行ってお金払ってまで観たいもんじゃないよねぇ。充分に怖いは怖いんだけど、「畏怖」からは最も遠い場所に位置する、忌まわしいにも程のある怖さですよね。映画にせずとも、現実の人間社会やネットの中でいくらでも見られるイヤ~なやつです。
 それを、あんなにしつこくお金をかけて作り込んでお客さんに見せつけるとは……アスター監督、ちょっと私にはキツいかなぁ。前作の映画もけっこういい評判のようなんですが、西洋の悪魔ものらしいし、アスター監督の「家族観」も炸裂している作品のようなので、まぁたぶん見ることはないかと思います。次回作も、見ることはないかなあ。

 クライマックスに近づくにつれて、イケメン彼氏のクリスチャンがどんどんヒドい目に遭わされていくのも、男としてけっこう見ていられなエグさを感じましたが、もうクリスチャンが前かがみになっていようがすっぱだかで広場を走り回ろうが、客である私がもうぜんぜん笑える精神状態になっていないのが残念でした。アスター監督としても、そこは笑って欲しいところなのかも知れないんだけど、他ならぬあなたのおかげで笑えなくなっているわけですし……合間に悪趣味マックスの「男のいけづくり」も入れてくるしさぁ。どうしてほしいのよ、ホントに!?
 クリスチャンの受難の中でいちばんヒドかったのは、なんといってもマヤとのあのシーンなのですが、ふつう男だったら「うるせぇ!! みんな出てけ!!」とか、「顔を近づけて熱唱すんな!!」と叫びたくなるところですよね。でも、江戸時代の徳川将軍家って、夜はだいたいあんな感じだったんでしょ? 殿様って、大変だったんだなぁ……
 ただ、遠目に観ただけですが、さんざんあんなに汗まみれで前かがみになっておきながら、肝心の裸になったショットでクリスチャンのあの部分がああなっているのは、さすがにいかがなものかと思いました。いや、そこはデューク東郷のような漢を見せて欲しかったなぁ、クリスチャン。いや、そうなってたら映画として公開できなかったでしょうけど。

 とまぁ、今回も色々ぐだぐだ言わせていただきましたが、この作品でほぼ一点だけ「いいな。」と思ったのは、やっぱり主人公ダニーの笑顔で物語が終わっている、というところでしょうか。まぁこういう映画って、客観的に見ればとてもじゃないけど幸せとは言えない結末に主人公がおかれて終わるわけなんですが、それでもせめて主人公の「心」だけは確かに幸せになりましたとさ、という部分をしっかりと描いたのは、まぁいいかなと思いました。
 つまるところ、ダニーがほんとうに欲しかったのは、内心「めんどくせぇな……」と当惑している恋人による背中さすりなどではなく、事情なんか知らないしそもそも言語さえ通じてなくても、とにかく自分と一緒に絶叫し慟哭してくれる人の存在だったのねと。そこらへん、宗教団体の人心掌握の手管を見たような気がして非常に怖かったのですが、冒頭のニューヨークとクライマックスのホルガ村との、ダニーから見た「あたたかみ」の対比は見事というしかありませんでした。そして、その慈愛に満ちたホルガ村にも、短いミッドサマーが終われば、冒頭にあったような「死の冬」が近づいてくるという……アスター監督は、つくづくシニカルで意地悪なお人だ!
 ただ、例の三角形の家がボンボン燃えるシーンが、上映時間の制約もあるのか、かなりのぶつ切りカットでさっさか処理されているのはもったいなかったなぁ。実物大の家が燃えるのって、ものすごいスペクタクルなのに! しつこい死体の描写なんかどうでもいいから、こっちに時間を割いてじっくり見せて欲しかったですよ~。死の描写なんか、みんなイギリスから来た女の子の方くらいのにおわせ程度でいいんですって! 想像で補えるんだから。
 さすがに聖タルコフスキー監督の『サクリファイス』(1986年)までとは言いませんが、なるべくノーカットで流してほしかったなぁ。あ! そういえば『サクリファイス』って、ソ連のタルコフスキー監督の作品だけど、スウェーデン映画だよ!! アスター監督、真似るのそうとう大変なとこだぞ~、そこは!

 ぜんぜん関係無いのですが、この映画を観て、私はいろいろと、大学生時代に学科ゼミの見学実習で静岡県の山奥で年に一度だけ行われる伝統の祭を0泊2日(寝ちゃいけないんです)で観に行ったり、演劇フェスティバルに参加するために、これまた山奥の村で世界各国から来た劇団関係者とともに約1ヶ月過ごしたという(お客さんが来る前から長く泊まり込むわけです)、非常に得がたい経験の日々を思い出しました。
 もちろん、映画のようなヒドい目に遭うこともそんなにはなく、当時10~20代だった私も無事に人里に帰ってきて生き延びたわけなのですが、こういった「異世界」にまぎれこむ時のウキウキ感。そして、「あ~、現実の世界に帰るのやだな~。バイト生活に戻るのやだな~。」という心理が働いたのを、ありありと思い出しました。異世界とて、それが日常になったらつまんなくなるに決まってるんですけどね。ダニーの幸福も、うたかたの夢なんでしょうなぁ。あの宿泊所みたいなところに飾ってあった無数の歴代メイ・クイーンの色あせた写真が哀しいですね。

 そういえば思い出したよ。静岡の山奥の祭を見に行った時、さすがに映画みたいな気持ち悪い謎の飲み物や謎肉はふるまわれなかったんですけど、村はずれの自動販売機でジョージアコーヒーを買って、ゼミの友達とくっちゃべりながらプルトップを開けてなにげに中身を口に入れたら、何とも言いようのない、普通のコーヒーとはまったく異なる不気味な味が……うげっ、これは!?
 思わず缶コーヒーの底を確かめてみたら、賞味期限が半年過ぎてました……これ、なかなかないことですよね!? 賞味期限まであと半年を切った時点で、だいぶ味がおかしくなってきますからね。
 ま、マヤみたいな美少女はいなかったし、せいぜい山から駆け下りてきた鬼に熱湯のしぶきをかけられた程度で済みましたが。

 この映画の、撮影中のオフショットのような写真も、ちょっと検索してみるとけっこうあるんですが、いかにもやんちゃな若者たちが、1ヶ月くらい山奥に泊まり込んで、ワイワイガヤガヤ言いながら、楽しく一生懸命作品を作り込んでいるという感じのなごやかな雰囲気を感じました。
 映画本編よりも、むしろそっちのほうにしみじみ感動したわ!! 私もつくづく、歳をとったなぁ~。
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