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怪獣映画的な、余りに怪獣映画的な  ~映画『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』~  資料編

2014年11月06日 23時42分52秒 | 特撮あたり
映画『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年3月公開 87分 大映)

 映画『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』は、大映が製作し1967年3月公開された日本の特撮映画作品。「ガメラシリーズ」第3作。

 本作の制作当時、「ゴジラシリーズ」で知られる東宝は世界的に有名なモンスターキャラクターのうち、「フランケンシュタインの人造人間」と「巨大猿キングコング」を題材にして特撮映画化していた。「ガメラシリーズ」の大映はこれに対抗して、世界市場に通用するモンスターとして「吸血鬼ドラキュラ」を題材に選び、その翻案怪獣映画として『大怪獣空中戦 ガメラ対バンパイヤー』の企画を立てた。この「吸血怪獣バンパイヤー」が光を嫌う夜行性の吸血コウモリの怪獣「ギャオス」となり、本作として完成した。
 シリーズ第1作『大怪獣ガメラ』(1965年)でガメラが灯台を襲った際に、子どもを掌に乗せて助けたシーンが、観客の子どもたちに大反響を呼んだことから、大映の永田秀雅プロデューサーの意向で、「ガメラシリーズ」は子どもを主な対象とした娯楽映画へと路線変更された。ただし、現場の制作スタッフは急激な変更は採らず、山奥を開発する道路公団と土地の値上げを狙って開発に反対する村の人々のエゴが描かれる点において、前作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年)の人間ドラマ路線を引き継いだ作劇が行われていて、脚本を担当した高橋二三(にいさん)も、「『ガメラ対ギャオス』までは子ども向けではなかった。」と語っている。とはいえ、湯浅監督と永田プロデューサーの志向する「子どもの味方」というガメラの性格は本作で決定づけられることとなった。
 前作『ガメラ対バルゴン』よりは製作予算が縮小されたとは言え、通常映画における予算の約3倍の「A級予算」を組んで作られたガメラ映画は、本作が最後である。この予算縮小のため、本作からは湯浅監督が本編と特撮の両方を監督することとなり、この体制は以後のシリーズに続いていった。
 この映画においては、空は飛べるものの陸上戦と水中戦を得意とするガメラに対して、空中戦を得意とし地上と水中は不得手なギャオスという運動性能面の対比、また「硬い甲羅に覆われて接近戦に優れたガメラ」と、「防御力は弱いが何でも切れる遠距離武器を持つギャオス」という戦闘能力の対比で2大怪獣の能力の違いがはっきりしており、それが印象的に描かれ、闘いに強い緊張感を見せた。

演出
 前作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』では特撮監督を務めた湯浅憲明は、予算の縮小された本作では本編と特撮を兼任している。「怪獣映画が大好き」という湯浅監督は、「できれば全編怪獣だけが出てくる映画をやりたかった。」と述べるほどで、本作でも観客である子どもたちを飽きさせない、様々なアイディアを脚本の高橋二三とともに組み込み、サービス満点の怪獣映画に仕上げている。
 湯浅監督によると、前作『対バルゴン』のあとスタッフで反省会があり、「怪獣が出てこないと観客の子どもたちが画面に集中しない。」との意見から、本作では冒頭からスピーディーにギャオス出現につなぐ演出となっている。また、劇中で英一少年がガメラに乗る場面での、劇場での子どもたちの歓声はすさまじいものだったそうで、以降の作品が、より子どもの視点にあわせた作風となるきっかけとなった。ガメラが海底で傷を癒すシーンと、囲炉裏端で英一が眠るシーンがダブる演出があるが、これも湯浅監督によれば、英一とガメラの心のつながりを描写したものだった。ギャオスが新聞記者を食べるショッキングなシーンがあるが、記者は英一を見捨てて逃げた「悪い人」として描かれており、明確に因果応報を描くことで子どもを必要以上に怖がらせないように配慮しており、『対バルゴン』との違いがあるという。
 ギャオスなど、ガメラシリーズの敵怪獣は身体に様々な武器を備えているが、こうしたアイディアを凝らした怪獣同士の戦いに注力し、自衛隊の活躍場面などは意図的に短くしたという。また怪獣の登場シーンではカットを多用し、このカット割りの多さが大映特撮の特徴となっている。
 劇中ではギャオスの性質について、対策本部で科学者たちによる科学的な解説が入るが、湯浅監督は「怪獣が出現する時点で理屈ではない。怪獣映画に理屈を持ち込むべきでない。」として、本来はこういったシーンは大嫌いだと語っている。このため、本作に登場する青木博士は、東宝特撮映画に登場する博士たちのようには活躍しないのだという。ギャオスが脚を再生させるシーンが対策会議の途中に挿入されるが、これも湯浅監督によれば、大嫌いな会議シーンで間延びさせないための工夫だったという。
 英一少年が大人たちの対策本部に割り込んでアイディアを連発するが、これも脚本の高橋二三と「全部、子どもに考えさせることにしよう。」と打ち合わせたことによるもので、監督自身の「真実はすべて純粋な子どもの目に映るものだ。」という考えから、劇中の「大人たち」には、あえてあまり活躍の場を与えていない。これはシリーズ全作に共通するメッセージであるということで、湯浅監督は「夢というのは無茶苦茶の中にあると思う。」と語っている。

特撮
 前作に続いて、特撮シーンの撮影には特殊造形スタッフのエキスプロダクションが全面協力しており、怪獣の電飾やミニチュア操演などを担当している。
 大映は現像所を持っていなかった。このため、ギャオスの発射する超音波メスの光学合成には莫大な経費がかかり、前作『ガメラ対バルゴン』に比べて予算が縮小された本作ではまず、予算に直結するこの超音波メスをギャオスに何発吐かせるかが問題になったという。
 このギャオスの超音波メスで車を左右に両断されながらもなおもこれを走らせ、特ダネに拘る中日新報記者のギャグシーンがあるが、この「真っ二つになった自動車」は、東京モーターショーに出展されていたトヨタ自動車の内部展示用の車両を、脚本の高橋二三が見つけてきて借りたものであり、左右それぞれの切断車体を戸板に載せ、補助輪を付けて走らせた。
 題名に『大怪獣空中戦』と謳っているだけあって、湯浅監督はガメラとギャオスの空中戦描写に力を入れたという。両怪獣の空中戦は、主に移動背景を使って行われた。調布の大映東京撮影所内に京王電鉄から借りた線路のレールを敷き、トロッコに約10メートルの長いホリゾント板を載せて滑らせ、両怪獣のミニチュアの操演と絡ませてスピーディーな空中カットの撮影を実現している。新聞記者がギャオスに掴まれて持ち上げられるカットもこの手法だった。
 シリーズで初めて、ガメラが足だけのジェット噴射で飛行する場面が登場する。回数は一度だけで、飛行というよりギャオスに跳びかかるような形であったが、以降のシリーズ作品では回転ジェットと並ぶ飛行スタイルとして定着していくことになる。

 本作は名古屋近辺を舞台とするが、撮影は調布の大映東京撮影所で行われ、名古屋弁を話す登場人物はひとりもいない。本作の主演俳優は本郷功次郎だが、湯浅監督は「怪獣映画での立ち役は怪獣。ガメラが立ち役であって、本郷功次郎さんはどんなに二枚目でも『もたれ役』なんですね。怪獣を目立たせる役目なんだ。ですから、あまり印象に残る演技はできない。蛍雪太朗さんとか、上田吉二郎さんの方が目立つんですよ。」と語っている。


あらすじ
 富士火山帯に属する太平洋伊豆諸島の明神礁や三宅島雄山が噴火(1952年9月の実際の明神礁噴火のニュース映像を使用している)し、さらには富士山が噴火。噴火のエネルギーにおびき寄せられてガメラが飛来し、火山の炎を食い始める。ガメラ調査のために記者会見が行われ、取材陣や科学者たちを乗せたヘリコプターが飛び立ったが、山梨県八代郡(架空の地名)の二子山上空で地中から放出される緑色の光を目撃した直後に、突如として黄色い怪光線に襲われ、真っ二つにされて墜落した。
 一方、東名高速道路建設予定地である二子山そばの山村では、金丸村長の旗振りのもと、用地賠償金の吊り上げを狙った反対同盟の激しい着工妨害が続いており、早期決着を迫る道路公団開発局との間で、工事責任者の堤主任は頭を悩ませていた。金丸村長の孫・英一は二子山を遊び場にしていたが、怪光現象の取材にやってきた新聞記者に案内を頼まれて共に二子山に向かい、不気味な洞窟に入ったところで突然の地震に見舞われた。英一を見捨てて逃げ出した記者は、地中から現れた超音波怪獣ギャオスに喰われてしまい、続いて英一が捕まえられる。二子山の怪光現象は、富士火山帯の異常活動によって目覚めた怪獣ギャオスの巣穴から放たれたものだったのだ。
 駆けつけた堤たちの目の前で、今まさにギャオスに喰われそうになる絶体絶命の英一。そこへ間一髪でガメラが飛来し、2大怪獣の熾烈な対決が幕を開けた。


登場する怪獣
大怪獣ガメラ
年齢     …… 8,000歳
身長     …… 60メートル
飛行速度   …… マッハ3
水中潜航速度 …… 150ノット(時速およそ300キロメートル)
エネルギー源 …… 熱エネルギー
主な武器   …… 火炎噴射、怪力、回転ジェット

 北極の氷の中で眠っていた古代怪獣。一説にはアトランティス大陸に生息していたとされる。国籍不明の原爆搭載機の墜落爆発により、閉じ込められていた氷が割れて覚醒。南下して最終的には日本に上陸し、破壊の限りを尽くす。当初は凶暴な怪獣として描かれていたが、人間の子どもに対しては友好的な面を見せていた。一度は「Z計画」と呼ばれる作戦により巨大ロケット内に閉じ込められ地球から火星に追放されたが、ロケットが小惑星との衝突により大破したことで解放され、地球に再来する。
 その後は人間に対して具体的な敵意を示すことは無く、エネルギーの摂取時以外にはほとんど出現しなくなるが、宇宙からの侵略者や怪獣によって子どもが危機に陥るような事態が起こると、何処からともなく現れて子どもたちを救っていく「正義の怪獣」、「子どもたちのヒーロー」として描かれる。
 口からの火炎放射以外に、外観に似合わぬ俊敏な運動能力と怪力を誇るが、特筆すべきはその生命力で、大きな傷を負った際も、海中で休息をとることによって傷を癒す。
 弱点は低温で、北極の氷の下に長い間閉じ込められていた他、自衛隊の冷凍爆弾でも短時間活動を停止している。
 甲羅は頑強で、たいていの攻撃は跳ね返せる。実際のカメと同じく、敵に攻撃されると甲羅に引っこんで防御を図ることも多い。
 熱をエネルギー源とするため体内に火力発電所のような組織を持ち、マグマ、高圧電気、石炭、石油、ウランを常食とする。炎そのものも吸い込むようにして食べることもでき、発電所や火山活動が活発な地域に出没することが多かった。熱エネルギー目当てに噴火している火山の火口に自ら飛び込むこともある。火器を用いた攻撃などは逆に吸収してしまう。

 着ぐるみの造型はエキスプロダクションが担当し、前作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』のぬいぐるみ(2代目)の、顔つきを修正したものが使用された。これまで鋭かった目つきが、子どもの味方らしく優しくなっている。
 前作までは、着ぐるみ役者が入ったままガメラに本物の火を吹かせることがあったが、さすがに危険過ぎるという意見により、第1作で作られた上半身のみのぬいぐるみに炎を吐く仕掛けを仕込み、撮影に使用した。
 「英一少年がガメラの甲羅に乗る」というシーンのために、20メートル四方の巨大な実物大のガメラの甲羅が作られた。また本作では、機電を組み込んだ回転ジェット形態の等身大ミニチュアが用意され、着ぐるみのギャオスとぶつかり合っている。


超音波怪獣ギャオス
身長   …… 65メートル
翼長   …… 172メートル
飛行速度 …… マッハ3.5
出身地  …… 日本列島中部大断層地帯(フォッサマグナ)

 コウモリをモチーフにした飛行怪獣。日本のフォッサマグナ付近の地下空洞で眠っていたらしく、富士山の噴火によって復活した。当初は地下空洞から超音波レーザーメスを発射してヘリコプターを切断して撃墜、搭乗員を捕食し、やがて夜間に空洞から外へ出て人や家畜を襲うようになった。尾は短く、ジェット戦闘機の垂直尾翼に似ている。首は太く短く、この部分で背骨が二又しているため、首が回らない(この首の骨が超音波の発振源である)。頭部からは光のシグナルを発し空腹時は頭部の後ろが緑に、身体に危険が迫ると頭頂部が赤く発光する。光の他に炎も苦手であるが、胸から黄色い霧を噴射して鎮火できる。また、太陽の紫外線を浴びると体細胞が破壊される性質がある。しかし肉体の再生能力が非常に高く、切り落とされた部位も時が経てば再生される。
 主に空を活動域にしており、地上では動きが比較的緩慢である。復活後に英一少年を襲おうとした際にガメラと対決。後半で遂に都市部へ進出し、名古屋城や新幹線などを襲った。

 劇中では英一少年の「鳴き声がギャオーって聞こえるもん。」という発言から「ギャオス」と命名されたが、これは永田秀雅プロデューサーの発案だった。映画公開時のポスターや宣伝では「人喰いギャオス」と謳われ、「人を喰う」というキャラクターが強調された。
 デザインは井上章、造型はエキスプロダクション。人の入るタイプの着ぐるみは、翼を拡げたタイプと折りたたんだタイプの2体が造形された。腹まわりに蛇腹状の段差がある。目と耳に電飾が仕込まれている。
 飛行操演用には6尺、3尺、1尺サイズのミニチュアが使われた。ポーズの違うものや、実物大の足の指などといったパーツ別のものを合わせ、合計30種ほど作られたという。ギャオスが人工血液の噴霧装置の周りを飛ぶシーンでは、画面手前を6尺、画面奥を3尺サイズのミニチュアが飛ぶという演出で、空の遠近感を出している。また、3人がかりで指を動かす実物大の手も造られた。
 翼を広げたタイプの着ぐるみは、のちにシリーズ第5作『ガメラ対大悪獣ギロン』(1969年)に登場した「宇宙ギャオス」に流用された。
 シリーズ第8作『宇宙怪獣ガメラ』(1980年)では、新たな個体が宇宙海賊船ザノン号にコントロールされて名古屋を襲撃した(登場シーンは全て『ガメラ対ギャオス』の流用)。


主なキャスティング
堤 志郎      …… 本郷 功次郎(29歳 2013年没)
金丸 辰右衛門   …… 上田 吉二郎(64歳 1972年没)
 ※村長
金丸 すみ子    …… 笠原 玲子(21歳)
 ※金丸村長の孫娘
金丸 英一     …… 阿部 尚之(子役)
 ※金丸村長の孫ですみ子の弟
マイトの熊     …… 丸井 太郎(31歳 公開年の9月に死去)
八公        …… 蛍 雪太朗
青木博士      …… 北原 義郎(38歳)
自衛隊中央部司令官 …… 夏木 章(39歳)


主なスタッフ
監督(本編・特撮兼任)…… 湯浅 憲明(33歳 2004年没)
製作         …… 永田 秀雅
脚本         …… 高橋 二三(41歳)
音楽         …… 山内 正(39歳 1980年没)
特撮美術       …… 井上 章(38歳)
怪獣造形・操演    …… エキスプロダクション

エンディング主題歌
『ガメラの歌』(作詞・永田秀雅、唄・ひばり児童合唱団)
 ※予告編と本編のエンディングに使用された。バックにシリーズ3作のハイライトシーンが流れるが、これは海外輸出の際に上映時間の規定を満たすための大映の意向による処置で、以後の定番形式となった。

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