ニチコンは住宅とEVの電気を融通する「V2H」をいち早く市場投入した(京都府亀岡市)
ニチコンが電気自動車(EV)の市場拡大を受け、国内外で増産投資を進めている。主力のコンデンサーはEVに搭載する部品として旺盛な需要が続く見通しだ。
EVと自宅の電気を融通するシステムなどのエネルギー関連は、大規模な企業の参入が相次ぐ。生産体制を増強し、需要増と競合とのシェア争いに備える。
2024年3月期は、直近数年では最高の150億円を設備投資に投じる。6月に就任した森克彦社長は「25〜26年に作り切れないほどの引き合いが来ている。早期に投資回収して、次の投資に充てる」と説明した。
売上高の6割を占める祖業のコンデンサー事業は、EV部品として好調だ。コンデンサーは電気をためたり出したりする電子部品だが、多種な部品に搭載される小さな「アルミ電解コンデンサー」と、比較的大きくインバーターと組み合わせて使う「フィルムコンデンサー」の2種類を製品に持つ。いずれも日欧米の企業からの引き合いが強い。
フィルムコンデンサーはEVの駆動装置「イーアクスル」などに使用される
フィルムコンデンサーでは、6月に長野県のグループ会社の拠点で新棟を建てて竣工式を開いた。24年3月期中に設備を導入し、月産能力を現在の40万台からまずは5万台分引き上げる。
森社長は「生産拠点での人材確保も課題の一つ」と話し、省人化ラインを導入する。アルミ電解コンデンサーでは、約36億円を投じてマレーシア工場に新棟を建設中のほか、岩手県の工場でも投資を進めている。
残りの売上高の4割弱を占め、急速充電器などエネルギー関連事業をまとめた「NECST(ネクスト)」と呼ぶセグメントも市場が伸びる。
ENEOSと連携して商業施設や給油所に設置している急速充電器は今期の出荷数量を前期の倍と見込み、「目標のシェア30%の達成も見えている」(森社長)。さらに小型の製品開発を急ぐ。
EVと自宅の電気を融通するシステム「ビークル・ツー・ホーム(V2H)」は、今期の売り上げ規模が前期から倍増。
NECST事業の製品は京都府亀岡市の工場の新棟が12月に稼働すると、生産規模が2倍になる見込みだ。ただそれでも足りない可能性があり、生産の協力企業を探していく。
ニチコンは12年に業界に先駆けてV2Hを市場投入し、足元ではシェア9割を占める。ただ、EVの増加とともに競合が増え、今年に入りパナソニックホールディングスとオムロンが製品を発売した。
規模の大きい後発企業に追い越されないためにも積極投資は欠かせない。
森克彦社長は「経営判断の速さもニチコンの強み」と語る
設備投資額が100億円台に乗るのは、22年3月期から3期連続となる。森社長は「EV関連事業にようやく時代が追いついてきた」と積極投資を続ける構えだが、PBR(株価純資産倍率)は1倍を切り、市場からの成長への期待は低水準にとどまる。
市場の信頼を獲得するために、投資と回収、再投資の好サイクルを生み出していく必要がある。
(大平祐嗣)
日経記事 2023.08.23より引用