経済産業省は先端技術の研究開発を支援する補助金制度で、目標を達成した場合のみ給付する「懸賞金型」を2024年度に本格導入する。これまでは研究結果にかかわらず、国が経費を補助するのが主流だ。人工知能(AI)などの先端分野で成果重視に切り替える。
24年度予算の概算要求に「新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム」の拡充を盛り込む。懸賞金型の予算を10億円程度とし、試験導入した23年度の2倍超に増やす。
懸賞金型は事前に研究開発の明確な目標や達成基準、報酬水準などを設定する。達成した場合のみに報酬を支払うので、政策としては費用に対する効果が高い。多くの企業や研究者が参加して競い合う状況をつくることで、技術革新(イノベーション)が生まれる効果も期待する。
経産省は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とともに、衛星画像を使って供給網を最適化する技術や、大規模な自然災害による供給網への影響分析の技術開発案件などに試験的に採用してきた。補助額にあたる懸賞金額は最高で1000万円だった。
AIなど技術の移り変わりが速い最先端分野で懸賞金型の開発事業を実施する方針だ。有力な技術開発を促すために、懸賞金額の引き上げが検討課題となる。23年度は「研究にかかったコストを上限とする」という制約があるという。
民法の懸賞広告制度にもとづく仕組みで、会計法や補助金適正化法の対象外になる。これまで主流だった委託・補助型では、採択したプロジェクトの経費が適正に使われているのか検査や管理が必要だった。懸賞金型ではこうした事務的な負担も軽減できる。
研究開発で懸賞金型をより重視するのは、従来の「プロセス」を支援する枠組みに限界が来ているためだ。
課題に対して開発すべき技術が明確になっていたり、開発可能性が高い企業や主体が見通せていたりする場合には、従来の委託・補助型は有効だった。しかし、AIなどは有望な技術が多数あり、有力な担い手はまだ見えない。スタートアップや個人も含めて開発を促したい場合には向いていなかった。
海外では、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が2004年から実施した自動運転の賞金レースが知られている。参加チームが大手IT企業に買収されたほか、自動運転技術の向上につながるなどした。
カナダでは社会問題となっている薬物中毒の有効な治療法の開発に向け、18年から懸賞金型の事業を実施した。
狙い通りに有望な技術開発につながるかどうかは、制度設計がカギになる。課題設定が的外れだったり、懸賞金額が不十分だったりすると、企業や研究者が集まらない懸念もある。
技術開発の勝ち筋が見えている場合など従来型の手法が有効なケースもあり、懸賞金型と組み合わせるなどして成果が出やすい運用をできるかが課題になる。