トランプ氏㊨はゼレンスキー氏に早期停戦の準備を迫る=ロイター
【ワシントン=坂口幸裕】
トランプ次期米大統領はウクライナに対する巨額支援の縮小を探る。ロシアの侵略を受けて以来、バイデン現政権はウクライナを資金面でも手厚く支えてきた。
この方針を転換して米国内に予算を回すだけでなく、最大の脅威と位置づける中国を封じ込める抑止戦略の原資に一部を振り向ける案が浮上する。
米国、侵略後に1060億ドルを供与
米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)の推計では、ロシアがウクライナ侵略を始めた2022年2月から24年9月までに米国が決めた支援額は計1750億ドル(27兆円)にのぼる。
米軍の活動などを含む総額で、そのうちウクライナ政府への直接供与は1060億ドルになる。
トランプ氏は12月8日放送の米メディアのインタビューで「ウクライナは新政権の発足後、米国の支援減額を覚悟すべきか」と問われ「おそらくそうだ」と答えた。
「なぜ欧州は我々と同様に負担しないのか。(ウクライナ戦争は)我々より欧州にとってより重要だ」と語った。
CFRによると、欧州連合(EU)や加盟国が約束した合計額は1060億ドルを上回る。トランプ氏がどの数字を根拠に発言したか判然としないものの、地理的にロシアと近い欧州がより大きな負担をすべきだとの不満が根っこにある。
11月5日の大統領選で、トランプ氏はバイデン政権下でインフレや不法移民などに不満をためる有権者をすくい取って勝利した。
米国から遠く、同盟国でもないウクライナに回す予算があるなら、国内対策に投じるべきだと唱える支持層の声を意識する。
バンス次期副大統領「中国に集中」
一方、次期政権内には限られた米国の軍事資源を中国抑止に重点投入する必要があるとの声がある。その筆頭であるJ・D・バンス次期副大統領はウクライナ和平を実現すれば「米国の真の問題、中国に集中できる」と話す。
バイデン政権はロシアを「差し迫った脅威」としつつ「中国のような全般的な能力を備えていない」と評価する。中国は現在の国際秩序をつくり替える意思と能力を持つ「最も重大な地政学的な挑戦」と位置づける。
こうした認識は超党派で共通するものの、ウクライナ紛争の影響で思うように形にできていない。米国による対台湾の武器供与に遅れが生じている事態を受け「(中国の脅威から)完全に目をそらしている」(バンス氏)との危機感が広がる。
トランプ氏が22日に次期政権の国防次官(政策担当)にエルブリッジ・コルビー元国防副次官補を指名したのは、そうした懸念に目配りする姿勢を映す。
コルビー氏は日本経済新聞のインタビューで「米国が欧州に気をとられ、アジア太平洋に集中できていない」と警鐘を鳴らした。
27年度に防衛費を国内総生産(GDP)比で2%に引き上げる日本の目標は悠長で「中国が台湾侵攻を終えているかもしれない」と警告する。
台湾に防衛負担増を要求
バイデン政権は21年の政権発足当初、対中シフトに軍事資源を割こうとロシアとの緊張緩和を探った。
ウクライナ侵略で状況は一変し、欧州の駐留米軍を増員した。中東での緊張拡大も加わり、2正面の対処に注力せざるを得ない。
米情報機関は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が27年までに台湾侵攻を可能にする準備を軍に指示したと分析する。
米国防総省と日米の防衛協力を協議する日本政府関係者は「インド太平洋に関する米国の政策は起点となる27年から逆算して検討されている」と明かす。
トランプ氏が台湾有事の際に米軍を送るかは現時点では見通しにくい。
7月配信のインタビューでは世界最大の半導体の生産拠点である台湾が「米国の半導体ビジネスをすべて奪った」と指摘。「台湾が防衛費を負担すべきだ」と求めた。
12月には中国が台湾侵攻に踏み切った場合の米軍の対応を問われ「決して言わない。
物事を交渉しなければならないからだ」と言及した。台湾問題を中国とのディール(取引)に使おうとするトランプ外交の余波は日本にもおよぶ。
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