米テキサス州ブラウンズビルで、スペースXのロケットの打ち上げを見守る中、
トランプ氏㊧と話すマスク氏=ロイター
【シリコンバレー=于逸凡】
トランプ次期米政権で外国人労働者の出入国や就労ビザ取得が難しくなる懸念がIT(情報技術)業界に広がっている。
米アマゾン・ドット・コムや米アップルなど大手企業は外国人のITエンジニアを多数雇用しており、就労ビザが認可されなければ人材確保の障害となる可能性もある。
「リスクは取りたくない」。ハイテク企業大手に勤めるソフトウエアエンジニアのビクトリア・チェンさん(31)はこう話す。1月下旬に中国の実家を訪れる予定だったが、トランプ次期米大統領の返り咲きを受け、急きょ前倒しにした。
航空券を変更する費用は高くついたが、早期の一時帰国を決意した。「今後4年で家族に会える最後の機会かもしれない。(旅行後)トランプ氏就任中は米国にとどまるつもりだ」という。
トランプ氏の大統領就任前に旅行を終えるよう、新たに計画したり変更したりする外国人労働者はチェンさんにとどまらない。
強硬な移民政策への懸念が増すなか、ITエンジニアなど専門技能を持つ人材が使う「H-1B」ビザやグリーンカード(永住権)に申請が殺到しているようだ。
米IT業界は海外からの労働者に依存している。米国務省のデータによると、H-1Bビザ保持者の大半はアジア系が占め、2023会計年度(22年10月〜23年9月)はインド(約72%)や中国(同12%)出身の技術者が多い。
米国土安全保障省(DHS)傘下の市民権・移民局によると、アマゾンは24会計年度で9265件分のH-1Bビザのスポンサーになった。
アマゾンや韓国半導体大手サムスン電子などハイテク大手は、11月の米大統領選でトランプ氏の返り咲きが確実になった後、海外渡航のリスクについて外国人社員に警告している。
サムスンの広報担当者は「旅行や移民政策の変更によって影響を受ける可能性のある従業員と定期的に連絡を取っている」と述べた。
移民問題は24年の米大統領選の争点だった。トランプ氏は不法移民を取り締まる意向を示している。
実際、トランプ氏の1期目にH-1Bビザ新規申請の却下率は急上昇した。米国政策財団(NFAP)の分析によると、18会計年度には却下率が24%に達した。
一方、バイデン政権下で却下率は2〜4%程度だったと推定されている。
米国での就労継続に不安が広まるなか、アジア系労働者の一部は今、ある人物に望みを託している。米起業家のイーロン・マスク氏だ。
自身が南アフリカからの移民であるマスク氏は、高度技術者の移民プロセスの合理化を声高に主張してきた。マスク氏率いる電気自動車(EV)大手の米テスラは今年、22番目に多い1767件のH-1B申請のスポンサーとなっている。
だが、トランプ氏の側近として存在感を強めたマスク氏は、政府で正式な役職に任命されたわけではない。移民に関するスタンスは、トランプ氏の他の側近たちや共和党内のメンバーと対立する可能性もある。
移民政策において「今、2つの対抗する見方がある」と、米マサチューセッツ州在住で移民を専門とする弁護士モニーク・コーンフェルド氏は言う。
「仮にマスク氏が『私やハイテク大富豪の友人たちはSTEM(科学・技術・工学・数学)労働者を増やしたい。
グリーンカード発給を増やしてほしい』とトランプ氏にささやいたとしても、対岸には(トランプ政権1期目で移民政策を主導した強硬派の)スティーブン・ミラー氏や米議会共和党がいる。彼らはきっと『移民は制限したい』と反対するだろう」とコーンフェルド氏は述べた。
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日経記事2024.12.26より引用