積水化学工業が開発を進める、折り曲げられる「ペロブスカイト型太陽電池」
積水化学工業は薄くて曲げられる次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」の量産に約3100億円を投じ、堺市に新工場を建設する。
2030年までに稼働し、生産能力は電池の発電容量で年100万キロワット分程度とみられる。原子力発電所1基分の発電容量に相当する。政府は投資の5割にあたる約1600億円を補助する。
同社はシャープの堺工場(堺市)の一部取得を検討しており、ペロブスカイト型太陽電池の新工場は堺工場の跡地に建設するとみられる。
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ペロブスカイト型の太陽電池は現在主流のシリコン型に比べ重さが10分の1以下。フィルム状で薄いため曲げることもできる。これまで設置が難しかった壁面や体育館の屋上などにも設置できる。軽くて設置が簡単なため工事のコストも抑えられる。
積水化学は液晶向け封止材などの技術を応用し、液体や気体が内部に入り込まないように工夫。10年程度の耐久性を実現している。すでに30センチメートル幅のフィルムでエネルギー変換効率15%を達成している。シリコン型の20%以上に及ばないが、技術開発を進めて変換効率をさらに高めていく。
同社は既存の生産設備を活用し、25年春から30センチメートル幅の太陽電池の販売を始める。25年後半には、生産や設置の効率がよい1メートル幅の電池を販売する予定だ。新工場はさらに先の大規模な量産を想定している。
経済産業省はペロブスカイト型について、40年度に2000万キロワット分を導入する目標を策定している。およそ550万世帯分の電力使用量に相当する。主な原料であるヨウ素の世界シェアは日本が2位で国内で調達しやすく、供給網が寸断された場合に備えることもできる。
日本は山間部が多いなど従来型太陽電池に適した立地が少ないため、ペロブスカイト型の市場性は大きいといわれている。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。
ペロブスカイト型太陽電池を巡っては中国企業も量産を急いでいる。既に少なくとも新興6社が工場建設の計画を打ち出しており、極電光能は23年4月に、30億元(約600億円)を投じた工場の建設に着手した。
シリコン型の太陽電池では、日本メーカーが先行していたものの、今では低価格を武器に中国勢が市場を席巻している。
日本発の技術であるペロブスカイト型では商用化で後れを取らないよう積水化学を始め日本勢も量産を急ぐ。
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積水化学のペロブスカイト型太陽電池の特徴は、電池セルをロール・ツー・ロール(RtoR)方式で製造する点です。ロール状に巻かれたフィルム基材に対し、真空成膜、切削加工、塗工を流れ作業のように実施して生産性を高めます。
「軽量で曲げられる太陽電池」として、建物の壁面などへの設置を検討しています。
一方、中国勢はガラス基板上にペロブスカイト型と結晶シリコン型を積層して変換効率を高めたタンデム型の開発が進んでいます。高いシェアをてこにリプレース需要を狙うものです。
新市場を狙う日本勢と、既存市場を狙う中国勢。この開発競争を勝ち抜くには、技術だけでなく用途や事業モデルを含めた革新性が求められそうです。