『移動祝祭日』 アーネスト・ヘミングウェイ
この本の中にシェイクスピア書店についての記述があります。
この段にふれたくて仕方ありませんでした。
《抜粋》
その頃は本を買う金にも事欠いていた。
本は、オデオン通り12番地でシルビア・ビーチの営む書店兼図書館、
シェイクスピア書店の貸し出し文庫から借りていたのである。
冷たい風の吹き渡る通りに面したその店は、冬には大きなストーヴに
火がたかれて、暖かく活気に満ちた場所だった。
店内にはテーブルが配され、書棚が並び、ウィンドウには新刊の
書物が展示されていた。壁には故人や現在の著名な作家たちの写真が
かかっていたが、どれもみなスナップ写真のようで、物故した作家たちで
すらいまも生きているように見えた。
シルビアは生き生きとした、彫りの深い顔立ちをしていた。
茶色の目は小動物のようによく動き、少女のそれのように活気があった。
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初めてあの店に足を踏み入れたとき、私はとてもおどおどしていた。
貸し出し文庫に入会するための金も、持ち合わせていなかった。
ところが、シルビアは、入会金はいつでもお金があるときに払ってくれれば
いいと言ってくれたうえ、貸し出しカードをその場で作ってくれて、
何冊でも読みたいだけ持ち出してかまわない、と言ってくれたのである。
このように好意的に接したシルビアにたいし、
のちのちまで敬意を持ち続けたのです。
1920年代、パリに夫人と共に住んで、修行を積んだヘミングウェイでした。