小学生の時分、鳥を飼っていた。
鳥と言っても、インコや文鳥でなく「紅雀」。
雌が鮮やかな紅色をしていて、雄が鶯色の綺麗な雀だ。
家の近所にあったペットショップから父が購入してきたそれは
ムクムクと体が丸く可愛らしい印象の雀のつがいだった。
天気の良いある日、庭に鳥籠ごと出していたら
モズが飛んで来た。
モズは肉食で、虫やヤモリを捕まえては木に突き刺して乾燥させて保存食を作り、
食べ物の少ない冬を越すクチバシの長い鳥だ。
紅雀は鳥籠の中から逃げることは出来ない。
モズの鋭いクチバシは、鳥籠の紅雀を狙っていた。
あっという間の出来事だった。
狭い鳥籠の中をバタバタと逃げ回っていたが、
激しい攻撃に耐え切れずに、弱っていた雌にモズは容赦なく
クチバシを向けた。
雄はその攻撃からかばおうと翼を広げ賢明に雌を守ろうとしていた。
ガッシャン!
家に居た母が鳥籠を揺らす黒い翼の音を聞きつけて駆けつけた時、
モズは慌てて飛び去った。
雄は羽の殆どをちぎられ、雌も同じ様に血だらけだった。
次の日、雄が死んだ。
雄のお陰で命拾いした雌は、羽も生えそろった後も何だか淋しそうだった。
その姿を見かねた父が、同じ紅雀の雄をペットショップから買ってきた。
ムクムクとした前の雄とは違い、スマートで都会的な印象の雄で
同じ鳥籠に入れたが、あまり仲良くなれない様子だった。
その後、すぐに雌も死んでしまった。
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「前の雄が忘れられんかったのやろうね」
不思議な桜のある我が家の庭の
雄を埋めた隣に、雌を埋葬する事にした。
二羽の小さな命が天国で出会える事を祈った。
決して、モズに襲わせようとして庭に出したのではないし
元気になって欲しくて雄の紅雀を入れてみたが、
結局、死に急がせるような結末になってしまった。
これは雀の災難だけれど、
こんな事って人生にはいくつもあるのかもしれない。
モズは百の舌で「百舌」と書く。
言葉は多過ぎても、害になる。
言葉足らずでは、心は届かない。
その日一日が無事であれと、送り出す。
元気に「行ってきます」という言葉を残し、二度と還らない人もいる。
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