穴にハマったアリスたち

生きてれば楽しい事がいっぱいある!の証明の為のページ。ぴちぴちピッチを大応援。第三期をぜひ!
→新章開始!ありがとう!

しあわせの理由 - グレッグ・イーガン

2007年08月25日 | 小説・本
リアル友人から「最近、普通の日記は書かないのか」と言われました。
馬鹿な。いつも日常に直結したことを書いてるのに。
不条理ですが、たまには目先を変えて読んだ本の話でも書いてみる。


 
『しあわせの理由』
グレッグ イーガン (著), Greg Egan (原著), 山岸 真 (翻訳)
(ハヤカワ文庫SF) (文庫)
12歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはいつもしあわせな気分でいるようになった…脳内の化学物質によって感情を左右されてしまうことの意味を探る表題作をはじめ、仮想ボールを使って量子サッカーに興ずる人々と未来社会を描く、ローカス賞受賞作「ボーダー・ガード」、事故に遭遇して脳だけが助かった夫を復活させようと妻が必死で努力する「適切な愛」など、本邦初訳三篇を含む九篇を収録する日本版オリジナル短篇集。

【収録】
 適切な愛
 闇の中へ
 愛撫
 道徳的ウイルス学者
 移相夢
 チェルノブイリの聖母
 ボーダー・ガード
 血をわけた姉妹
 しあわせの理由

まぁ初めて読んだのは相当に前ですが、引越しの過程で出てきたので。
ジャンル的にはSF短編集です。
私は短いスパンでオチがつく話が好きなので、本を読むとどうしてもそっち系ばかりに。

で、SF短編は面白さを紹介するとオチ晴らしになってしまい、途端に読む意味が消滅するのが困るのですが、お気に入りを2本紹介。


【適切な愛】
近未来にて、事故で身体を著しく損傷した夫のために心力を注ぐ妻の話。
劇中社会では既に全身クローンが実用化されており、そこに脳を移植するのですが、クローンが完成するまでの数年間、脳を生かし続けないといけません。
そのためにとった手段が「脳を仮死状態にして妻の子宮内に配置する」。

直感的に忌避したくなる手段ですが、技術的には何の問題もなし。
愛する夫を救うため、妻はその方法を受諾します。
しかし、当然ながら様々な精神的苦悩と直面することに。

他人の脳が胎内にあることからくる、精神的な恐怖、嫌悪。
別の独立した生き物が胎内にある異常事態に、一種の寄生虫に侵入されたような拒否反応が沸き起こります。
でも体の中にいるのはあくまで愛する夫。化け物を抱えてるわけではない。そんな感情論には負けません。

逆に、子宮内の脳を肉体が自分の子供と誤認してしまい、本能的に発生してしまう不適切な親子感情。
子宮に生物を抱えてるのですから、本能は全力で体を妊娠状態に自覚させ、負担の軽減を図ろうとします。
でも体の中にいるのはあくまで愛する夫。子供を抱えてるわけではない。そんな感情論には負けません。

あるいは胎内の夫の脳は、既に死亡しており、蘇生は成功しないのではないかという危惧。
仮死状態にしたとは言っても、長期間「脳」だけで本当に元のままなのか?自分はただの肉の塊を抱え込んでるだけではないのか?
でも体の中にいるのはあくまで愛する夫。死体を抱えてるわけではない。そんな感情論には負けません。

そういった感情を、妻はことごとく理屈でねじ伏せます。
結果、夫は何の問題もなく蘇生。
後遺症もなし。親子の情を抱いてしまうこともなし。
グロテスクな方法ではあったものの、それに付随する感情的な問題は全て理屈で乗り越えることができていたので、一切引きずることはありません。
愛のため、種々の不条理な感情を理詰めで克服した彼女の勝利です。めでたしめでたし。

…でも、そこまで感情をコントロールできたとき、果たして「愛」などという単なる繁栄本能に基づく感情はどうなるのか…。


【しあわせの理由】
主人公の少年は、あるとき脳を悪性腫瘍に冒されます。
体は生命の危機に晒されるのですが、少年自身はとても幸せな気持ちに。
というのも、その腫瘍で狂わされた脳組織が、脳内に「幸せ」を認識する際に発する脳内物質を大量に分泌しまくったため。

そのため死に掛けているというのに、少年は(劇中の言葉を借りれば)「物理的に不幸な気分になれない」。
所詮、人間は有機物と化学反応でしかないのですから、脳を制圧されてはどうにもなりません。

重症ではあったものの、手術は無事に成功し、少年は一命を取り留めます。
が、今度はその治療の副作用で脳内の幸せを感じる組織(前述の脳内物質を受容する組織)が破壊されてしまいました。
こうなると、今度は「幸せ」を認識することができません。物理的に。

人間が「幸せ」を感じるのは、決してハートだか魂だかがそれを知覚しているからではなく、あくまで脳の一部位が認識しているからにすぎません。
これは紛れもない事実であって、例えば酒を飲んで楽しい気分になるのも、アルコールが脳に作用しているからなだけ。
もっと言えば、楽しい趣味や友人との交流で「幸せ」を感じるのも、その状況に脳内物質が「幸せ」状態になるのを許してるからなだけで、そこには真理も特別性も神秘性も普遍性もありません。
あるのはあくまで、「脳が幸せを感知しているから幸せである」という純然たる事実のみ。

最終的にこの少年は、手術によって脳に幸せを認識する一種の機械を埋め込み、意図的に感情を動かせるようになります。
ただその機械は、「何が幸せなのか」を判断することができないので、一つ一つ自分の意思で設定しないといけません。
僕はりんごを好物にしよう。赤は好きで青は嫌いに設定しよう。健康に悪い習慣には、とりあえずマイナス感情を抱くようにしておくかetcetc。

結局、人間のその手の好みや幸せは千差万別。
明確な基準なんてないし、他の人にとっては何でもないことが好きだったりする。その逆もある。
何か絶対的な美しいものや正しいものがあるわけではなく、単に脳がどう認識してどういう状態になるかだけの話なわけです。
この話の主人公は通常とは違う状態に置かれてしまっては居ますが、現実の我々もやってることはほとんど変わりません。
「しあわせ」の理由は何なのか。それを描いた、短いけれど良い話だと思います。


……で、この手の話だと誤解が生まれかねないので強調しないといけないのですが。

紹介したどちらの話も「人間は有機物の塊であり、感情の類に神秘性は無い」という話なのですが、
作者は(そして私も)、「『だから人間はくだらない』と言いたい訳ではない」のです。
むしろ「だから人間は素晴らしい」。

「しあわせの理由」のラストシーンは最高に好きです。
件の「しあわせ判定装置」を埋め込んだ少年は、その後、薄汚いドブ川の近くのボロアパートを住まいにします。
そこに訪れた彼の父親は彼に問います。「こんな所に住んでてお前はしあわせなのか?」。

少年の答えは、「いいんだ。僕はここが気に入っている」。

何が「幸せ」で何に価値があるのか。
それを決定するのは個人の自由です。
みんなが良いというから好きになる必要はない。みんなが否定するから嫌いになる必要も無い。
健康に良いだとか、芸術性が高いとか、世間で評価されてるからとか、関係ありません。
そもそもどんな基準を採用するか自体も個人の問題であって、何が正しいかなんてないのです。
唯一の例外は犯罪行為に属するような事柄ですが、そういった人に迷惑をかける類のもの以外は全て個人の自由で、貴賎はない。

以前、冒頭のリアル友人と、趣味の良し悪しのような話をしました。
詳細は省きますが、その友人は「その行為が自然かどうかが判定基準」というのに異常に拘っていたのですが、私からするとその判定基準自体が恣意的だし、「何が自然か」というのも個人差が大きいんですよね。
友人は例えとして「ゴキブリを食べるのは不自然でしょ?」というのを言っていたのですが、それだって場所・時代じゃ自然なことですし。
(日本でも食用の文化はあるし、昔の商家では縁起の良い生き物として大事にされてました)

何が好きで、何が嫌いかなんて特段の理由なしで決定していい。
だって所詮、脳が物理的に「幸せ」を認識してるだけの話なんだし。
(まぁ個人的には、「嫌い」という感情は否定要素が入るので、「人に積極的に迷惑かけるな」という理由で表に出すときは注意すべきだと思いますけどね)


この手の娯楽小説って、作者さんの思考とマッチするかどうかが全てだと思うんですけど、私はこの人の話は大好き。(といっても、この1冊しか知りませんが)
人間心理も全て理詰めで扱って、でもだからこその人間賛歌。他の作者でいうなら、アシモフやホーガンもお気に入りです。
「SFを読んだことがない人にこそ、お勧め」というのが売り文句らしく、分量的にも短編で読みやすいんで、興味のある人はどうぞ……と書きたいところだけど、ネタを割ってるんで微妙にお勧めはできないなぁ。。


(左画像)
しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン,Greg Egan,山岸 真 早川書房



(右画像)
ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン,Greg Egan,山岸 真 早川書房


…で、こんだけぐだぐだ書いて、締めは「だから僕は美翔さんが好きって言ってもいいんだ!玩具が売れないとか、視聴率悪いとか、そんな理屈は関係ナイ!」と繋げたいのですが、説得力はありますかね?
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファンタージエン 秘密の図書館

2006年06月12日 | 小説・本
ミヒャエル・エンデ作「はてしない物語」。
映画(邦題「ネバーエンディングストーリー」)でも有名な、ファンタジー小説の金字塔です。
で、昨年、その続編と称してラルフ・イーザウなる人から「ファンタージエン 秘密の図書館」という本が発売されました。

まぁ、「はてしない物語」はかなりのお気に入りだったこともあり、
一応、発売直後に購入して読みはしたのですが、あまりのつまらなさに途中でぶん投げ。
長々と存在を忘れていたのですが、なんとなく気が向いたので最後まで読んでみた。


■「はてしない物語」
とりあえず大前提として、本家本元「はてしない物語」の話から。

(あらすじ)
【第1部】
引きこもりがちの根暗な少年バスチアンは、偶然『はてしない物語』という名の小説を手に入れる。
本の舞台となるのは、『虚無』に侵食され滅亡の危機に瀕しているファンタジー世界・ファンタージェン。
女王『幼ごころの君』の命の下、ファンタージェンを救う方法を求めて旅に出た英雄アトレーユの物語。

様々な冒険の末、やがてファンタージェンを救う方法が判明する。
ファンタージェンが滅亡しかけているのは、人間が空想することをやめてしまったから。
人々が物語を語らなくなれば、物語の世界であるファンタージェンは消滅してしまう。
それを救うためには人間にファンタージェンへと来てもらい、物語を紡いでもらうしかない。

本の中の世界が実在することを知り、怯え、困惑するバスチアン。
が、やがて意を決したバスチアンは、女王『幼ごころの君』の求めに応じて本の世界へと…。

【第2部】
『幼ごころの君』の願いにこたえ、ファンタージェンへと渡ったバスチアン。
その見返りとして彼に与えられたのは、『物語をファンタージェンに反映させる力(=あらゆる願いをかなえる力)』。
その力でバスチアンは次々と自分の願いを叶えていく。
同時に、現実化した空想により、多彩に豊かに変化していくファンタージェン。

が、バスチアンには知らされていなかったトラップがあった。
実は願いを叶える代償として、人間としての記憶を失っていっていたのだ。
しかも、『なんでも願いがかなう』とは真っ赤な嘘。
幾つかの「願い」は決して叶わないように設定されていた。

その代表的な禁則が『幼ごころの君に再会する』願い。
そうとは知らず、『幼ごころの君』に恋したバスチアンは、もう一度彼女に出会うために手を尽くす。
かくして「決して叶わない願い」を叶えるため、次々と浪費されていく願い事。
それに伴いファンタージェンはさらに豊かになっていくが、代償としてバスチアンの記憶は容赦なく奪われていく。

そして全てが手遅れになった頃、ようやく判明するファンタージェンの実態。
かつてファンタージェンを訪れた他の人間達の存在と、その哀れな末路(人間としての全ての記憶を失い、廃人・狂人化)を知ったバスチアンは人間世界に戻る決意をする。
しかし、『人間世界に帰る』という願いを叶えるのにも記憶が代償として必要で…。

果たしてバスチアンは、ファンタージェンから生還することが出来るのか?

この話の最大の肝は、「想像力」だの「魔法の世界」だのを全肯定していないところ。
なにせ純真無垢で可憐なお姫様然とした「幼ごころの君」の正体は凶悪なサキュバス。
「なんでも願いが叶う」「素敵なファンタジー世界」「可愛いお姫様」を餌に、純粋な少年を釣り上げ捕食する、えげつないキャラです。

幼ごころの君:
 「ここでは貴方の願いはなんでも叶うし、私達も大歓迎。
  だからバンバン願いを実現させてね♪
 (でも、願いを叶えると記憶を失くしちゃうの!
  それと私と再会したいという願いは不許可!教えてあげないけど♪)」

酷すぎる。

つうか、そんなデストラップ、回避できるわけがないじゃないか。
自分が仕掛けられたら100%引っかかる自信があるだけに、翻弄されるバスチアンの姿は見ていて泣けてきます。
頑張れバスチアン。せめて骨くらいは拾ってやる。

そんなわけで、この「はてしない物語」のテーマとしては、

 1.想像力は大切だ
 2.でもいつまでもそれだけじゃダメだ。ちゃんと現実に向き合え

こんな感じ。

(ちなみに映画「ネバーエンディングストーリー」では、1.しか再現されておらず、エンデからは訴訟まで起こされています。
特に問題となったのは「ファンタージェンに渡ったバスチアンが、現実世界に物語の力を持ち込む」というオリジナルのラストシーン。
2.と完全に相反する内容です)


以上、本家「はてしない物語」の内容。
で、ようやく本題。
ここから先は続編を名乗ってる「秘密の図書館」の感想。

■ファンタージエン 秘密の図書館
大雑把に言うと「虚無に侵食されたファンタージェンを救うため、主人公が大冒険をする」話。

ええ、前作を知ってる人間なら誰もが即行で突っ込むはずです。

 「虚無をなんとかしたい?幼ごころの君に新しい名前をつけろ」
 「つうか、迂闊にファンタージェンに行くな。死ぬぞ、お前」

なんていうか、どんでん返しの要素が既に全て判明してしまっています。
こんなんでどうやって話としてまとめるのか。
逆に言えば、そこが上手く出来れば小説として大成功…と思ってたのですが。

全部無視しやがった。

その辺のダークな要素は全削除。
ただひたすら「素敵なファンタジー世界」を描いて終わってしまいました。
恐怖世界ファンタージェンは単なる夢いっぱいの国だし、凶悪なサキュバス・幼ごころの君も普通の可愛いお姫様。
なにこの駄作。いいところが全部スポイルされてる。

特に幼ごころの君の描写が酷い。
この娘は、ファンタージェン世界において、善悪を超越したスーパークリティカルな存在なのですが、本作では普通に善の側に立って「悪の女王」と戦ったりしてる。
がっかりです。そんな彼女は見たくなかった。

その他、オールドファンへのサービスのつもりなのか、「はてしない物語」で出てきたキャラクターも多数登場します。
が、そのせいで、かつての設定がぶっ壊れまくり。
この作者は本当に前作を読んでるのか?

また、「ファンタジー世界」の描写が鬱陶しいことこの上なし。
作者としては素敵演出のつもりなのかもしれませんが、いまどき「不思議不思議ー♪」と乗ってくる読者なんているんでしょうか。
ゲームやアニメ、映画などで慣れ親しんでる世代が、「魔法の家」や「不思議図書館」、ドラゴンやグリフィン、不思議な精霊の一つや二つで感慨を受けるわけがない。

魔法やファンタジー世界なんて、もはや「常識」「日常」。
「ハリーポッター」を読んだときにも思ったのですが、読者のレベルに作者の方がついてこれてない気がする。
そもそもその手の情景描写の分野で、視覚に直接訴えてくる映像ものに勝てるわけがないのだし、もっと文章表現ならではの部分に力を入れて欲しかった。

総じて超駄作、というのが感想。
先にこの話を読んでから、「はてしない物語」を読んでればまた違った感想になったかもしれませんが…。
結局、「幼ごころの君の凶悪なデストラップ」というオチ以上の衝撃を用意できなかった時点で、どうしようもない気がする。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

封仙娘娘追宝録9「刃を砕く復讐者(下)」

2006年03月03日 | 小説・本
前に記事に書いた「封仙娘娘追宝録」の5年ぶりの新刊をようやく読みました。
ネタにはしたものの、今まで何となく保留にして手をつけていませんでした。
だって、次の封仙分がいつ補充されるか分からないし!

でも、いい加減読まないと勿体無いのでひとまず読了。
とりあえず「ビビった」というのが第一感想。
以下、ネタバレなので嫌な方は飛ばしてください。


○感想1:
 理渦記さん…(つ∀`)

理渦記さん基本データ
 形態:本、および、人間体
 機能:作戦立案、他、軍師役
 欠陥:大事なところを読み違える

「大事なところを読み違える」「軍師」の宝貝!

今までにもいろんな宝貝や欠陥の組み合わせがありましたが、ここまで身も蓋もないのは初めてです。
単にダメな欠陥があるだけなら、欠陥を自覚してさえ居れば使いようもありますが、
「どこを読み違えるか分からない」以上、全く使い道がありません。なんて素敵。惚れてしまいそうです。


○感想2:
 深霜!深霜!深霜!

みんな大好き深霜さんが、とうとう本編に登場してしまいました。
元々、番外編の短編集のみで登場していて、まさか本編に出るとは思わなかったので心底びっくり。
思わず手を叩いて踊り狂ってしまいました。深霜!深霜!深霜!

ちなみに、番外編の方とは完全なパラレルのようです。
まぁ、元々、「パラレルワールドが存在する」というのが物語の設定として組み込まれている話ではあったのですが、
ここまで大っぴらに話に絡めてくるなんて。

それに、再登場の仕方が惨すぎます。
こんなに意表を突かれたのは久しぶり。
この作者はつくづく、自分の持ってるネタという武器の使い方をよく分かってる。


○感想3:
 設定の補完

第1巻が発売されて、早10余年。
期せずして長期シリーズとなってしまったのですが、
初期の話には今にして読み返すと、若干筋の通らない描写があったりします。

ファンの間では「設定が固まってなかった頃には、そういうこともある」と、
にこやかに受け入れられていたのですが、ここに来て新設定としてうまく消化しやがりました。
作者の逃げない姿勢がすごすぎる。


○感想4:
 ネタの回収
 
前述のとおり、10年以上続いている本編。
今回は5年ぶりの新刊だったのですが、待たせたファンへのサービスか、歴代のネタが惜しげもなく登場しています。
「言われてみれば居たな、そんなの」的なキャラやアイテムの連発が熱いです。


○感想5:
 殷雷、壊れる

頼れる(ほぼ唯一の)宝貝・殷雷くんがとうとう壊れてしまいました。
「壊れそう」→「やっぱり壊れないのか」→「あ、ダメだ。壊れそう」→「いやフェイクだった」→「壊れた」
一連の流れの気の持たせ方が素晴らしすぎる。


○感想6:
 氷の和穂さん

「殷雷が壊れた後」の和穂さんの話は、番外編では何度か出てはいます。
その場合、それまでの温厚な性格が一変。
ファンの間では、その冷酷・凶悪・強靭ぶりに「氷の和穂」さんの愛称で親しまれていました。

が、余りといえば余りの設定破壊ぶりなので、「あくまで番外編」との認識でしかなかったのですが、
まさかそれを本編で見ることになるなんて。
ラストシーンでは、この上、愚断剣取り出して装備までしたらどうしようかと、はらはらどぎまぎ。


○感想6:
 次回以降どうするの?

破壊された殷雷刀。
「壊れたなら直せばいい」という考えもありますが、この話はわざわざその選択肢を潰しています。
それも最新作の番外編で。

「実は壊れてなかった」という逃げ道しかなさそうですが、本作を読む限り、それは苦しすぎます。
作者は、一体どうするつもりなんでしょう。
思い切ってレギュラー交代なんでしょうか。

…とも思ったのですが、「直せばいい」という選択肢は3巻で出してますね。
「設定の不備」という気もしますが、一応穴は残ってるんでしょうか。
いずれにせよ、シビアであることには変わりませんけど。


○感想7:
 しかも伏線未回収

お腹いっぱいになるほど豪華な展開を見せたものの、それでも単なる続きものの下巻。
あくまで上巻の内容が完結しただけで、全体を通しての伏線はまだまだ大量に生きています。
これでまた5年とか待たされたら発狂しそう。

(でも、今作の神懸かった出来は、「5年ぶりの新刊だからこそ出来る飛び道具のオンパレード」による部分もあるのだろうけど)


○感想8:
 結局、深霜

現状、和穂さん側にはロクな武装が存在せず。
このままでは生存すら危ういです。
で、今回、わざわざ番外編に出ていた深霜刀が再登場。

…。
……。
………和穂さん with 深霜刀の夢タッグ再び?

なんか段々、作者が神に思えてきた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

封仙娘娘追宝録・奮闘編5「最後の宝貝」

2006年02月20日 | 小説・本
最後の宝貝(ぱおぺい)

先日の長編に引き続き、短編集も発売。
今後は継続的に供給されそうで嬉しい限りです。
頑張れ作者!

5冊目の短編集なのですが、今までと違って番外編の毛色がかなり強め。
「本編でのあのキャラ・エピソードが登場する別の話」が多彩です。
長編の連載断絶から6年経過した時点で、このラインナップでの書籍化!新規読者に真っ向から勝負を挑んでます。

でも、昔からの読者としては大興奮の一遍です。
本編では冷酷な悪の軍師として登場した理渦記の、あまりに使えない能天気ぶりや、
同じく頼れるお姉さん役の恵潤刀の、我侭お嬢様ぶりに、胸の高鳴りが止まりません。

さらに、日頃、酷すぎるディスアドバンテージを抱えての勝負を余儀なくされてる和穂さんの、鬱憤を晴らすかのような宝貝大決戦ぶりも愉快です。
本編にて、主に敵方が使用していた反則武器の数々で武装して猛進する和穂さんと、
それを日用雑貨の類で懸命に迎撃しようとする、ゲストキャラの必死ぶりに涙が…。

和穂さんの武装:
 ・最強クラスの剣
 ・最強クラスの鎧
 ・卑怯極まりない槍
 ・理不尽な加速装置
 ・対象の記憶、思考を読取&捏造可能なアイテム
 ・探査系アイテム×2
 ・受けた傷を相手に反射
 ・時間を巻き戻す砂時計

対するゲストキャラ:
 ・筆×2
 ・寝具
 ・算盤
 ・貧弱な剣×2

酷すぎる。

必死の策を巡らし、なんとか追い詰めても

ゲスト敵:
 「よし致命傷を与えたぞ。さあどうする!」
和穂さん:
 「再来砂w」(機能:時間を巻き戻す)

酷すぎる。

他にも、無限対有限を描いた一話がお気に入り。

宝貝所持者を追いつめた和穂と殷雷。
しかし、苦し紛れに発動された宝貝・甚来旗の前に事態は膠着してしまう。
使用された宝貝の機能は、『無限に存在するパラレルワールドから、指定した対象の召喚』。
召喚条件は『和穂と殷雷(ただし、事態を収拾する能力を持った二人を除く)』。

次々と呼び出される多次元世界の和穂と殷雷。
甚来旗を破壊すれば元の世界に戻れるが、その甚来旗は破壊した者と同じ世界に流れていってしまう。
すなわち、無限に存在する和穂と殷雷のうち、ただ一組の元々甚来旗と同じ世界にいたペアを探し当てなければいけない。

呼び出された和穂たちの大半が、それぞれの世界で今まさに甚来旗の回収中のため、
このままでは誰が、今、目の前にある甚来旗を破壊すべきか分からない。
けれど、ちょっとした綻びから問題は解決。
無事に正解の一組が判明し、呼び出された和穂たちは各々の世界へと戻っていった。

が、事態はそれにとどまらず。
無事に元の世界に戻った和穂だが、再び別の甚来旗により異世界に召喚されてしまう。
無限に存在するパラレルワールド。そして論理的必然として、甚来旗の所持者もまた無限。
かくして永遠に繰り返される無限の召喚の連鎖。
終わりのない停滞の前に、和穂たちの取った手段は…?


そんな大げさな話に対する回答を、わずか一行(それも上に書いた情報だけで可能な)で提示する作者。
これに限らず、そんな話ばかり。
つくづくファンタジーじゃなく、SFに分類すべきだと思う。


ちなみに、なんだかんだでまだ長編の新作は未読。
私の中で理渦記さんの株がものすごい勢いで上昇してるのですが、
そんな状況で本編読んで大丈夫なんでしょうか。不安で不安でしょうがありません。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「封仙娘娘追宝録」復活記念

2006年02月15日 | 小説・本
さあ今日も元気にブログを更新しよう!

と、思ったら用意していたネタが知人ともろに被りました。
ものすごく欝です。
自分の人生について考え直したいです。

でも、考えても無駄だったので、無視して書いてみる。

刃を砕く復讐者(下)

昨年末、富士見ファンタジア文庫から『封仙娘娘追宝録9 刃を砕く復讐者(下)』が発売。
上巻の発売から実に6年。
ファンの誰もが生存すら絶望視していた作者の華麗な復活。

稀に短編を発表してはいたので、多少の期待はあったのですが、まさか本当に続編が出るなんて。
切らずに待ってた出版社にも感謝。
感動したので、勢い任せに作品紹介なんぞやってみる。


あらすじ:
仙人の和穂は、封印されていた宝貝(マジックアイテムと思え)を誤って人間界にばら撒いてしまう。
その数726個。このままでは人間界に未曾有の混乱をもたらすことは必至。
責任を感じた和穂は人間界へと降りての回収作業を決心する。
ただし、さらなる混乱を防ぐため、和穂の仙人としての能力は全て封印。
和穂に与えられた力は、支給された宝貝・殷雷刀のみ。
人間形態も取る刀の宝貝・殷雷とともに、和穂は長い長い回収の旅を開始する。


ストーリー上のポイントは、以下の点。

・宝貝には欠陥がある
 ばら撒かれた宝貝は全て、何らかの欠陥のため封印されていたもの。
 その欠陥が何か、がストーリー上のキーになってます。ある種のミステリに近い。
 まぁ、『欠陥:強すぎる』とか判明してもどうしようもないのも多いですが。

・恋愛要素がない
 「元仙人の女の子・和穂」と「口は悪いが心優しい護衛役・殷雷」のペアの話なのですが、
 一切恋愛ネタを出してきません。素晴らしい。
 「とりあえずヒーローとヒロインはくっつくもの」という風潮に対する真っ向からの挑戦です。

 つうか、いくら人型が取れても、殷雷は所詮道具。
 作中でも盛んに強調されますが、道具は道具。
 「道具としての誇りがあるから人間扱いするな」といった主張が頻繁に出てきます。

 …そりゃそうだ。
 なんでもかんでも人間扱いすればいいというのは、人間の思い上がり。
 飼い犬に無理やり服を着せて人間用の食事をさせる行為と変わりません。

 ・奇跡にも根性に愛にも頼らない筋立て
 「登場人物全員が最善手を打つラブコメ」を書いたこともある作者。
 建前上、「中華風ファンタジー」と銘打たれていますが、
 本質的にはSFに分類される話です。
 昔、人に紹介するときは「中華風ジョジョ(4部)だ」と言ってたんですが、
 そのイメージで多分、そんなに間違ってない。

 ちなみに作者が言うには「(間違った)水滸伝」。
 水滸伝のストーリーを、「解放した英雄群をただの坊さんが捕まえて回る話」だと思っていたらしく、
 それをモチーフに作ったらしい。
 確かに、その「水滸伝」の方が絶対面白いと思う。


長編と短編があるのですが、内容はそれぞれちょっと違います。

○長編:

宝貝回収の本筋のストーリー。
見所は絶望的な戦力差。
例えば第1巻。

敵の所有宝貝:
 ・最強クラスの剣
 ・最強クラスの鎧
 ・致命傷も瞬時に自動回復する治癒アイテム
 ・未来予知アイテム
 ・千体以上の砂人形製作機
 ・空飛ぶ大戦艦(永久機関付き)

一方の和穂さん:
 ・相手のより劣る刀
 ・家内安全、無病息災その他のお守り
 ・なんでも吸い込む瓢箪(ただし、相手の同意が必要。相手の所有する道具等も不可) 

刀を手に、呆然と空飛ぶ大戦艦を見上げる和穂さん。
こちらの完全な射程圏外から、着弾間隔0ミリ以下で一里四方に降り注ぐ火力の雨。
最初に戦う相手じゃねぇ。

巻が進むにつれてその状況はさらに悪化。

一応、『道具を集める』話なので、相手を倒せばアイテム数は増えます。
が、たいていの場合『物騒すぎて使えない』『奪う余裕なんてないので即行で破壊』等々。
それどころか、こちらの道具が使用不能になっていく有様。

頼みの殷雷刀も無理がたたって、機能停止寸前。
ちょうど連載は「殷雷刀がとうとう壊れる」ところで中断していました。
おかげでファンの間では「次は(折れた刀を直すため)砥石の宝貝を探そう」と引きつった笑みとともに囁かれてた。

○短編:

番外編的なショートショート。
長編は戦闘がメインですが、こちらは宝貝が巻き起こす珍騒動を収めて回る話。
アイザック・アシモフ系統のワンアイデア勝負の短編集。

アシモフ作品や「星を継ぐもの」、「12人の怒れる男たち」が好きだという人になら、間違いなくお勧めできると思う。

なお、私のお気に入りは深霜刀。

機能:
 人間形態を取れる
 使用者の肉体を操れる
 冷気を操れる
欠陥:
 惚れやすい性格で、惚れた相手に使われると性能が激減
 一方、同性に使われると、心底どうでもいいため、使用者の身の安全を無視する

和穂 with 深霜刀という素敵回が一度だけあったのですが、もうお腹いっぱい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

そして世界は美しいなと思ったの

2005年12月02日 | 小説・本
唐突ですが、私の好きな小説に『アンの愛情』があります。
「赤毛のアン」シリーズ第三巻。
お気に入りのキャラはフィリパ・ゴードン。

そのフィリパのエピソードで以下のようなものがあります。

列車に乗り込んだ私(フィリパ)は席に落ち着くと乗車賃を取り出そうとしました。
けれど、ポケットに入ってると思った硬貨が見当たりません。
他のポケットも探してみましたが見つかりません。
慌ててあちこち探しますが、どこを探してもありません。
絶対にどこかに入れておいたはずなのに。
きっとこれは気がつかないうちに食べてしまったのに違いありません。
そうこうするうちに車掌さんが回ってきました。
もうダメです。絶体絶命です。
でも、そのときふと私は閃きました。
列車に乗るときに、ポケットにしまった手袋。
その手袋の奥に入り込んでいた硬貨を取り出すと、優雅につまんで車掌さんに支払いました。
そしてにっこり微笑んで、「世界は美しいな」と思ったの。

ラストの一行が最高です。『世界は美しいな』と思ったの。
不可抗力で突発的なトラブルが解決したさいに、毒づくわけでも勝ち誇るわけでもなく、
『世界は美しい』と微笑むことができる。そんな人に私もなりたいものです。


……そんなことを考えながら、今日もくだらないバグの対応に追われてみた。

くだらないバグ一例:
 ・存在しない関数を呼び出していてエラー
 ・脈絡なく重複宣言されている変数
 ・残されているコメントと、実際の処理内容が全く一致しないソースコード
 ・唐突に小数点以下を切り捨てている金額計算
 ・永久ループ
 ・完全に抜け落ちている機能多数

潰しても潰しても新たなネタで人を苦しめてきます。
これは何かの嫌がらせなんじゃなかろうか。
ちくしょう、最初の製作者を殴りてぇ!

ごめん、やっぱり私じゃ、フィリパにはなれない。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グルムグンシュと絶望の世界

2005年11月03日 | 小説・本
今さらですが、静岡の毒殺未遂事件の話。

加害者の女子高生がブログを公開してたことが話題になって、
そこでの内容がいろいろ言われてたりもしてますが…。

ハンドルネームが『岩本亮平』と知って、思わず吹いた。

なんで『絶望の世界』がこんなところに!

件のページをキャッシュで見ましたが、もろにそのまんまです。
テレビとかで『こんな淡々とした文章が書けるのは彼女の異常な心境が云々』等々言われたりもしてますが、なんのことはない、単に『絶望の世界』を真似して書いただけです。
リアルの事件なので不謹慎ですが、正直、妙に懐かしい気分に。

『絶望の世界』は今から6,7年前に話題になったネット小説で、『岩本亮平』はその主人公。
日記形式の小説で、主人公らが毎日ネットにアップしている、という設定。
当時はリアルタイムで一日ごとに更新されており、かなりの知名度がありました。

今になって読むと当時のネット文化の残骸が見て取れて、妙に懐かしいです。
『11時になったのでメールチェックしつつICQを立ち上げた』とか。
内容自体は荒唐無稽なところもあるのですが、ネット利用者にしか共有できないある種の文化をよく掴んでいて、異常なリアリティがあります。

(私は渚さんの正体が発覚したところで、なんかもう泣きたいくらい絶望した。
あの感覚はネット利用者にしか分からないと思う)

不謹慎なのは百も承知だけど、学生時代を思い出すと同時に、
当時と今の生活や社会の違いにしんみりしてしまいました。
気がつけば、ブログやメッセンジャー、2ちゃんねるや常時接続が常識になってるんだよなぁ…。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

はてしない物語 その後

2005年10月10日 | 小説・本
前に話題にした「はてしない物語」の続編を入手。
とりあえず読み始めてみました。
時間の都合上、途中までしか読んでいませんが、導入部を読んでの感想を軽く(ネタバレ注意)。

主人公は3Cことカール・コンラート・カレアンダー。
「はてしない物語」でバスチアン・バルタザール・ブックスに本を渡した人です。
まぁ、一応、「番外編」であると考えれば妥当な人選か。

まだ序盤しか読んでませんが、内容はいたって普通のファンタジー。
ちらほらと前作ファンへのサービスらしきものも出てくるんですが、ちょっと煩い感じ。
不思議世界を演出しようとして説明台詞が多くなってる気がするし、ちょいと説教くさい気がします。

今のところ、正直微妙な感じですが、『アウリンなしでファンタージェンに突入』ってのはちょっとびびった。
人間である利点が皆無の上、何の意味があるというのか。
『虚無』をなんとかしたいんだったら、とっとと『幼ごころの君』に謁見させて名前をつけさせろと。

その辺のオチのつけ方がこの話の肝になるのかな、と思いました。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

はてしない物語 とその続編

2005年10月05日 | 小説・本
はてしない物語に“続編” エンデの弟子らが出版


あの「はてしない物語」の続編が出る!?

本気でびっくりです。
あの話で続編なんて可能なんでしょうか。
さらにリンク先の『想像することの大切さを訴える本編の世界観』という説明文に二度びっくり。
あれってそういう話だったか?

というわけで、映画の方はかなり有名だと思うのですが、原作は意外と知られていないようなので、ちょっと解説してみます。


・あらすじ(前半)

引きこもりがちの根暗な少年バスチアンは偶然『はてしない物語』という名の小説を手に入れる。
本の舞台は、『虚無』に侵食され滅亡の危機に瀕しているファンタジー世界・ファンタージェン。
女王『幼ごころの君』の命の下、ファンタージェンを救う方法を求めて旅に出た英雄アトレーユと、その冒険譚に夢中になっていくバスチアン。

様々な冒険の末、やがてファンタージェンを救う方法が判明する。
ファンタージェンが滅亡しかけているのは、人間が空想することをやめてしまったから。
人々が物語を語らなくなれば、物語の世界であるファンタージェンは消滅してしまう。
それを救うためには人間にファンタージェンへと来てもらい、物語を紡いでもらうしかない。

本の中の世界が実在することを知り、怯え、困惑するバスチアン。
が、やがて意を決したバスチアンは、女王『幼ごころの君』の求めに応じて本の世界へと赴き、ファンタージェンを救う…。


以上までが、前半のあらすじ。
映画「ネバーエンディングストーリー」として有名なのも上記の部分ですね。
が、この話にとって上記部分は単なる前振りでしかありません。


・あらすじ(後半)

『幼ごころの君』の願いにこたえ、ファンタージェンへと渡ったバスチアン。
その見返りとしてバスチアンに与えられたのは、『物語をファンタージェンに反映させる力(=あらゆる願いをかなえる力)』。
それによって自分の願いを次々と叶えるバスチアン。
同時に、現実化した空想により、多彩に豊かに変化していくファンタージェン。

が、バスチアンには知らされていなかったトラップがあった。
実は願いを叶える代償として、人間としての記憶を失っていっていたのだ。
かつてファンタージェンを訪れ、救った他の『人間』達の存在と、その哀れな末路(人間としての全ての記憶を失い、廃人・狂人化)を知ったバスチアンは人間世界に戻る決意をする。
しかし、『人間世界に帰る』という願いを叶えるのにも記憶が代償として必要で…。

果たしてバスチアンは、ファンタージェンから生還することが出来るのか?


要は『ネットゲーに没入する社会不適合者と、そこからの社会復帰』を描いた物語です。
20年以上前にこんな本を書けたミヒャエル・エンデは化け物だ。

確かに『想像することの大切さを訴える本編の世界観』というのは間違いではないと思いますが、同時に『でもハマりすぎると死ぬよ?』というのも同じくらい大事なテーマなんじゃないでしょうか。
(なにせ、劇場版の「ファンタージェンの力で『現実世界の』いじめっ子に復讐をする」ラストは、原作者から裁判沙汰になるほど抗議されてますし。
そりゃ架空世界を現実世界に反映させてそれを全面的に肯定したら、テーマが崩壊するわ)
それに、『幼ごころの君』やファンタージェンの正体がネタバレしている状態で、いまさら続編なんてどうやるんだろう?
正直、駄作の匂いがかなりしますが、興味津々なので買ってみよう。


ところで余談ですが、『幼ごころの君』から与えられる『なんでも願いがかなう』力には悪質な落とし穴があり、特定の願いごとは叶わないように設定されています。
例えば、「『幼ごころの君』に再会する」。
多くの来訪者は、ファンタージェンに来た際に最初に出会うこの小娘に恋をし、もう一度会うことを目標に突き進むのですが、この願いは正攻法では決して叶いません。

かくして叶わない願いを叶える為に、願い事を浪費しまくり記憶を失いまくる来訪者たち。嗚呼、なんて酷い。
つうか、『儚げな美少女』と『願いを叶える力』の組み合わせで餌をちらつかされて我慢できる人なんているんでしょうか。
断言しますが、私は無理です。ノータイムです。むしろ最初に願う願望は『ソレ』です。

…なお、この悪質で性悪な『幼ごころの君』ですが、多分、幼き私の初恋の人です。
おかげでこんなに歪んだ性癖になってしまったじゃないか。
責任とってくれ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする